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第3章 波乱の幕開けとデスゲームの狼煙
16話 覚悟は固く
しおりを挟む次の日早朝、窓から見える薄暗い空の覗くのやめて俺は自室を出た。
自室を出て、誰にも見られないようには廊下を歩いていく。
そうして運良く誰にも遭遇しないままには、俺は一人城を後にした。
城から遠ざかる最中、ルコンドへ続く一本道の途中で俺は足を止めてラクスマリア城へと振り返った。
やはりと言って眼に映るラクスマリア城の外観は立派なもので、薄暗い空の元であってもそれは圧巻の一言に尽きる。
もしもだ、もしもこれから巻き起こる惨状次第では、数日後、このラクスマリア城が崩れ落ちていく日が訪れてしまうかもしれない。
そうなってしまった場合、このラクスマリア城に住まう人々も無事であるとは言えないだろう。
生き残る者もいれば、死んで命を落としてしまう者もいるかもしれない。それは分からない。分からないが、不幸な未来であることに変わりはなかった。
ただ別に俺からすればラクスマリア城の誰がどうなろうが関係ない。何故ならそれらの人々は俺のこれからの人生に於いて何ら関係する者たちではないからに、俺が胸を痛めるような場面でもないからだ。
『それでもーー』
全員が全員がそうであるわけではない。
俺には大切な繋がりがあった。
それがグイン・アルマーニ、そしてラクシャータ・ラクスマリアである。
もしもだ、ラクスマリア城が陥落してしまえば彼等とて無事では済まないだろう。またラクスマリア城で生きる彼等であればこそ、城の者たちが傷付く姿など見たくはない筈だった。
そんな彼等の悲しむ顔を見るのが、俺は堪らなく嫌だった。
自分の命だけ守ることができればそれでいいと思っていた俺が、それだけはどうしてもあってはならないと身を振るい立たせていた。
全く、どうしてしまったんだろうな、俺は…
こんな筈じゃなかった。
デスゲームで勝ち抜いて、自身が幸せになれればそれだけでいいと、そこに関して障害が生じるのであれば破壊し、略奪してしまえばいいと、ただそれだけを思っていた筈なのに…
いつしか俺の幸せの中には、グインとラクシャータの姿が紛れ込んでいた。
元々は俺との繋がりではなく、アルテマ・スコットスミスという青年が築いた繋がりであるのにも関わらず、俺はアルテマのようには彼等を心配し、彼等の笑顔を守りたいと思っていた。
そんな彼等を守る為なら俺はいくらでも外道を演じてやると、
俺は心に固く誓っていた。
つくづく思うよ。生きるってのは、どうもそんなに簡単なことでもないらしい。
どんなに振り払っても、無意識の内には人との繋がりを求めしてしまう俺がいるのは紛れもなく事実で、現実だ。
自分が一番、俺こそが幸せを掴めばいいと思っていた俺が、その実、本当に求めていたものとは、そんな人とのたわいも無い普通の関係だったり、繋がりだったのかもしれない。
俺が本当に欲しかったものはーーーたったのそれだけのものに過ぎなかったのだ。
「…ふふ、何でそんなにも未練そうな顔をしているのかな?」
唐突にそんな幼い少女の声を聞いた。いつの間にやら俺の隣には立つその少女ーー使い魔『バホメット』は、ニヤニヤとした不敵な笑みを浮かべては俺を見ていた。
「未練そうな顔か…はは、そうか…」
「今からでも遅くはないよ?戻って寝てしまえばまだ間に合う。たけし君の日常はそのまま続くし、まぁ今後何が起ころうがそれはその時になって考えればいいだけだしね」
「何かが起こった後じゃ駄目なんだよ、俺は…今のままがいいんだ」
そう、俺は今の状態が好きなんだ。
グインがいて、ラクシャータがいて、穏やかなラクスマリア城の日々が続いて、平和で、緩やかな、そんな日常が俺はいいんだ。そこに争い事があってはならない。
「…でも、今こうしてたけし君がここにいる事ってそれとは真逆の行為と思うけど?だってたけし君は全てを自分の力だけで解決しようとしてるんでしょ…もちろん私は別としてね。仮にそれが成功したとしても、今まで通りにはいかないはず、誰かがきっと言うと思うよ、『お前は何者』だって」
全くその通りだ。
俺のこれからやろうとしている事を、城の皆は知らない。
知るはずもない。
また城の内通者であった使い魔バホメットと協力関係を結んだ事実を話せるわけもない。
バホメットが言うように、仮に全てを俺だけで片付けたとしても、それは現実問題おかしな行為として、城の皆は不審がるだろう。
『どうしてそんな事が出来た?』
『お前どこからその情報を引っ張ってきたんだ?』
『お前は一体全体…何者なんだ?』
もしも脅威を排除したとて、そんな事を疑念の眼差しを向けては言ってくるだろう大臣達の顔が容易に想像できる。
「人間って不思議だよね。別に全てが丸く治ればそでいい筈なのに、それを簡単には認めてくれない。たけし君がいくら頑張ったところで、その頑張りを褒めるどころか、むしろ不信がるんだらからね。たけし君の今からやろうとしている事って、そんな事だよ?」
「そんな事、言われなくたって分かってるさ…」
「だったらーー」
バホメットがそう言いかけて、
「それでもだ」
と、俺はバホメットの言葉を上から重ねるようには言い切った。
言い切って、バホメットを見る。
「俺はなバホメット、それでもいいんだ。それが俺という人間であるならば、俺はそれでも構わない。誰が死のうが、誰を殺そうが、俺には全くと言って関係のないことだが…でも、俺が失いたくないものは、絶対に守りたいんだ。それがな…例え邪の道であっても、俺は…迷いたくはないんだよ」
「迷いたくない?」
「そう、迷いたくない。俺はもう二度と、あの時ああしとけば良かっただなんて、思いたくはないんだ…」
それは生前の不幸から学んだ戒め。
後悔しながら死ぬという、どこまでも報われない人生を歩んだ俺の答えだ。
バホメットは無表情のまま、ジッと俺を見ていた。
見て、プイッとは顔を逸らすと、「ふーん、あっそ…」とはまるで興味なさそうには呟いて、
「別にどっちだっていいや。人間のやる事なんて、いつも意味わかんないし」
そんな事を言って、ルコンドへと続く道を歩き出した。
俺はバホメットに続くように、その一本道を歩き出す。
「バホメット…お前はどうして俺に協力してくれたんだ?」
「はぁ?昨日言ったでしょ?ただたけし君が面白そうだったからって、それ以上でもそれ以下でもない」
「イマイチ意味が分からないんだが…俺の何が面白そうに見えたんだ?」
そう言った俺には対し、バホメットは俺に背を向けたままの状態ではボソリと呟いた。
「…たけし君が破滅していく様を、見て見たいなって、そう思っただけ」
可愛い顔して残酷な事を言うなこいつ。
まぁ使い魔だから仕方ねーか。
別に人間がどうなろうか知ったこっちゃねーだろうし。
俺だってどうこう言えた存在でもねーからな。
「…まぁ、協力してくれるだけ有難く思うよ」
「勝手にどうぞ」
別にどっちだっていいと言いたげにはバホメットは言った。
ほんとつれない奴。
「おお、じゃあ協力関係を結んだというところで、聞いていいか?」
「ん?何?」
「ノブナガって奴は、一体どんな奴なんだ?」
「あー、それか。正直私もノブナガについてあまりよく知らないんだよね。というのも、私はノブナガの行為には興味あるけど、あいつ自身には全く興味ないの」
何だよそれ。
どんだけ人に興味ないんだか…
「…じゃあ、分かってる範囲で頼む」
「んーと、そうだね…じゃあ能力についてでもいい?」
「能力?」
「そう、能力。[スキル]って言った方が分かりやすいかな?といっても、あいつのは[スキル]って呼べる程生易しいものじゃないけどね」
[スキル]、しかも生易しくないってのはどういうことを意味しているのか…
「あいつはね、死者を思いの儘に操ることができるの。一介の人間如きが何でそんな[スキル]を使えるのかは分からないけどね」
「死者を…操る?」
おいおい、何だよそれ…
「バホメット、お前は今『一介の人間如きが』と言ったよな?それって、やはり普通の人間ではあり得ないような力なのか?」
そう尋ねた俺には対し、バホメットは鼻で笑っては答えた。
「当たり前でしょ?人間だけじゃない、エルフだって獣人だって無理。またどんなに魔法に精通したものであっても、死者を蘇えさせるのが関の山かしら?まぁ、死者を蘇させる程の魔法使いも数百年は見てないけどね。それぐらいに桁外れた[スキル]、最早人外と言ってもおかしくはないレベル。それ程にノブナガはぶっ飛んだ野郎ってこと」
バホメットはそう言った直ぐ後、「ま、たけし君の[スキル]もノブナガには負けず劣らず常軌を逸してるけどね」と付け加えた。
「ねぇ、聞いていい?たけし君って、一体どこでそんな力を身につけたの?」
「……」
俺は無言を貫いた。
それはつまり、「言えない」という無言の返しである。
だって言えるわけないだろ。
異世界転生しましただなんて、口が裂けても言えない。
言いたくない。
「そう、言いたくないのね。別に言いたくないってんならいいけど…言えない事情があるってことだもんね…そりゃそうか、誰かに言えたような力じゃないもんね」
バホメットは何かを察したかのようには笑う。
笑って、それ以上を聞くつもりはないようだった。
再び静寂へと戻った一本道を、俺とバホメットはただ歩く。
そうした一本道の先に、俺はこれから出会うこととなるだろうノブナガはいる。
俺の考えが正しければ、奴はーー
『デスゲームの参加者…俺と同じく、異世界転生者である可能性が非常に高い』
それだったら「ノブナガ」という聞き馴染みのある名前にも納得がいくし、バホメットの言うような人知を超越した[スキル]ってのも合点がつく。
最早確信に近いぐらいに、俺はノブナガがデスゲームの参加者であるという可能性を睨んでいた。
まだ分からない。分からないが、もしもそうだった場合…
『まさかノブナガの狙いは…俺、なのか?』
もしかしたらデスゲームの狼煙は既に上がっていて、どうしてかは分からないが、ノブナガは俺がこのラクスマリア城にいるって事に気が付いていた?
でも待てよ、俺がアルテマに乗りかわったのはつい1週間ばかし前の出来事だし、それをノブナガを知ってるってのは些か話の運びが上手すぎやしないか?
仮にそうだとした場合…何かがおかしい。
このデスゲームに関して、まだ俺の知らない事情がたくさんある可能性があるってこと、なのかもしれない。
こうして考えたって埒があかない。
今はただ、前に進むことだけしか俺にはできない。
そこに何が待ち受けていようと俺はーーー
もう、迷ったりしない。
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