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第3章 波乱の幕開けとデスゲームの狼煙

13話 サルサ・ルーガス

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 アルバートから聞き出した情報によると、やはりといってこのラクスマリア城内に内通者は存在した。
 それが彼女、サルサ・ルーガスである。
 サルサ・ルーガスがこのラクスマリア王国にやってきたのは今より3年前に遡ると記憶している。そもそもが内通者としてこのラクスマリア王国にやってきたのか、はたまたラクスマリア王国にやってきた後に内通者となったのかは分からない。


 ただ現状サルサが歴史学者という肩書きを演じている裏で実は内通者としてこの国の重要な情報を国外に漏らしていることは事実だ。


 アルバートもそこについてサルサについてはあまりよく知らなかったようで、ただ内通者として潜伏していること、そして「ノブナガ」なるラクスマリア王国の転覆を狙う存在と繋がっていることだけを明かした。
 その「ノブナガ」が何者であるか分からない以上、サルサがどういうパイプを経て今「ノブナガ」と繋がっているのか、「ノブナガ」とはそもそもどこの誰で、それがラクスマリア王国の属国によるはからいなのか、または別の裏組織と関係しているのかは大凡おおよそ謎のままである。


 アルバートは自体は「ノブナガ」から直に依頼を受けたとのこと。それがアルバート・ジックレイが殺人鬼と化してしまったきっかけになってしまったのだろうか?
 仮にそうだとして、何とそそのかされれば血に手を染める外道へと身を落としてしまうのだろうか?


 アルバート亡き今、それらの事実を知るのは最早不可能である。
 ま、 別にアルバートがどうであろうと俺には全くと言って関係ないわけだしどうだっていい事である。
 今は目の前のことに集中、俺がこの場所書庫にやってきた本来の使命を果たさなければならない。


 俺は書庫にやってきた理由、それはーーー


「サルサ、実は君に相談したい事があってここに来たんだ」


「…相談?私に?」


「ああ、そうだ。できない相談だと思ってな。というのも、これはラクスマリア王国の今後に関係する機密事項なんだが…いわゆる、国家機密ってやつよ。サルサはそういったこと詳しいだろ?」


「国家機密ねぇ…」
 サルサはまるで興味など微塵もなさそうな様子で俺を見た。
 見て、「詳しいかどうかは内容次第ではあります…ですがそれって、私に話さない方が良いんじゃないのかな?」と、これまた素っ気ない口ぶりである。


 サルサの言っていることはひどく正しかった。
 正し過ぎて、俺の中で引っかかる。
 

『違う。俺の知っているサルサ・ルーガスという奴はそんな常識的な事を口にするような出来た人間ではないはずだ』

 
 変人。サルサを一言で言い表すならばその言葉が言い得て的をつくだろう。サルサは異常なまでの好奇心の持ち主であり、他人からすればどうでもいいと思えるような事柄にまで首を突っ込むような奴だ。
 それはサルサの知識欲求が常人よりも遥かに高いことを意味しており、俺の知っているサルサ・ルーガスであれば垂涎すいぜんものの情報な筈。


 更に言えば内通者であるサルサからすれば喉から手が出る欲しい情報なんじゃないのか?
 

 分からない。サルサ・ルーガス、お前は白か、黒か?
 

『お前は今…何を考えている?』











「…意外だよ、サルサでもそんな事気にするんだな」


「当たり前じゃないですか…だってですよ?国の重要な問題にたかだか歴史学者に過ぎない私が関わっていいはずがない、違いますか?」


「…全く、違いねぇ」


「まぁ確かに、私はこの書庫にずっと篭っているわけですし、私が様々な知識を持っていると考えてここにやってきたたけし君の判断は正しいんですけどね。だってほら、私天才じゃないですか?」


「天才って…お前それ自分で言うか?」


「…ふふ、冗談ですよ」
 サルサは笑っては言った。そして徐に立ち上がると、書庫の扉の前まで足を進めた。
 進めて、扉を開いては俺の方へと振り返る。


「さ、話が終わったのなら帰って下さいな。あと心配しなくても、たけし君が今日ここで言っていたことは秘密
にしといてあげますから。優しい優しい私に感謝して下さいね?」


 糞、やはり駄目か。情報をチラつかせてってのに全く動じないじゃんか。
 サルサが内通者とばかり睨んでいたが、サルサがこう言っている以上俺にはどうしようねぇ。


『こうなったらいっそのこと正直に「お前は内通者か?」と聞いてみるか?』


 いや何馬鹿なこと考えているんだ俺。
 わざわざ自身の正体をしているような奴が「はいそうです、私が内通者です」なんて素直に白状するもんかよ。
 
 
 ではどうする?
 このままむざむざ自室へ帰るか?
 帰ってどうする?寝るか?仮に寝て明日がやってきたとして、じゃあ明日は何をやるってんだ?
 そうしてあっと言う間に3日後はやってきて、「ノブナガ」はこのラクスマリア王国を破壊にしにやってくるだろう。
 そんな災厄に対してラクスマリア王国はちゃんと立ち向かうのだろうか?
 
 


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 会議の話し合いの結果、「警備体制の強化」が専らの対策となった。それは現状敵が何者か分からないということもあるが、そもそも俺がアルバートから聞き出した情報が果たして真実であるか、という点について疑問視されたからである。

『たけし君、私は別に君を疑ってるわけではないんだ。ただね、もしかしたら君がアルバートから聞き出した情報こそがそもそものフェイクであり、そこに敵の付け入る隙を与えてしまうやもしれないと、私はそう判断した。後はグインが率いる「マーガレット・アーマーズ」が何かしらの情報を持ち帰ることに期待しようじゃないか」
 と、会議室を後にしようとしてに俺にナールバル大臣は言った。
 「警備体制強化」と並びに、グインを含む「マーガレット・アーマーズ」が明日の早朝にも城を出て原因究明に当たるという。
 「何もなければよいのですがね…いや、もう既に何かが始まっているやもしれないんですよね?」
 そう言ったナールバル大臣の不安げに満ちていていて、それはナールバル大臣もこれから起こりうる災厄を予期していたからなのかもしれない…

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 つまり全てはこの三日間に掛かっている。
 その間にグイン達が何の手掛かりも掴めなければラクスマリア王国が戦火に包まれてしまうかもしれない。もちろん警備は強化されるからに、ルコンド城下町にしろラクスマリア城にしろ何も起きない場合だってある。
 ただそんなに事がうまく運ぶなんて俺はどうしても思えなかった。


 なぜなら敵は俺同様に人を殺すことに対して何の躊躇いももたない残虐非道な奴らだ。
 俺が[スキルドレイン]や[スキルブレイク]を使うことに何の躊躇いなどないように、そいつらもまた俺に近しい感情の持ち主に違いない。俺と同じ様に、感情のぶっ壊れた野郎なのだ。
 感情のぶっ壊れた野郎のやる事なんざ俺が一番よく理解している。同族嫌悪を抱きつつ、俺のやってることだってまたかわりないんだからよ。
 

 もしそうなってしまえば戦火は瞬く間に広がり、皆死んでしまうかもしれない。
 全て、予想だ。
 それでも予想が現実になってしまった後では、もう何をやっても遅いのだ。
 

 もしかしたら…グインも、そしてラクシャータも、死んでしまうかもしれない。


『ふざけるな…そんなこと、俺が絶対に許さねぇよ…』


 やっと出来た大切な存在。守りたい人達。
 心を失った筈の俺がどうしてかそんな感情を抱いているのは事実で、彼らを守れなかった場合の事を考えるのも胸が苦しかった。
 考えないようにしてもどうしてか考えてしまうのは、そんな彼らに愛着を抱いてしまったからなのだろう。
 

 今更なかったことになんかできねぇよ。
 できる事なら、こんなに苦しんだりしねぇよ…


『俺に何ができる?』


 分からない。


『俺はどうしたらいい?』


 猶予は後三日間。


『誰か…教えてくれ…』


 誰も教えてはくれない。


『俺は…』


 だったら、自分で考えるしかない。


『守れるだろうか?』


 自分でやるしかない。


『いや、守るんだーーー俺が』


 決意は固まった。
 俺は最早ーーー
 

『止まるわけにはいかないのだ』













「サルサ…すまないな…」


「えっ、何が?」

 
「いや、先に謝っておこうと、そう思ったんだ」


「…はい?たけし君、貴方さっきから何をーー」
 サルサがそう言いかけた、その時だ。俺はサルサが言い切るよりも先に、瞬時に抜いた剣をサルサの首元へ突き立つ一寸の距離で止めた。
 そうした折、サルサの目が一瞬だけ大きく見開いた。
 そのままサルサの手が扉のドアノブを離れ、ガチャリと扉は閉まる。


「悪いな、こうするしかなかったんだ」


「………」


「俺はお前が内通者である事を知っている。また『ノブナガ』という人物と繋がっている事もな」


「………」


 サルサはジッと俺の顔を覗いては黙っていた。その目はどこまでも冷たく冷酷には俺の目に映る。
 また取り乱す事もなく、平然とした様子を見せつける。それは歴史学者では到底考えつかない落ち着きぶりで、まるでこういった出来事に慣れているような、そんな雰囲気を醸し出していた。
 以上を踏まえて、やはり彼女は普通じゃない。
 そんなサルサに抱いていた疑念が確信へと変わろうとした、次の瞬間だった。


「…へぇ、たけし君。知ってたんだ、
 サルサはうすら笑みを浮かべて、アッサリとした口調では、そう言った。
 
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