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第3章 波乱の幕開けとデスゲームの狼煙
9話 円卓会議、始まり
しおりを挟む重厚な扉を開け、俺とグインは二人その部屋へと足を踏み入れた。
その部屋ーー大きな円卓のテーブルが部屋のど真ん中に設置された会議室。
円卓の座には全部で15つの席が用意されており、その内の3つは既に埋まっていた。
円卓の座に腰を下ろした3人の人物についてはよく知っている顔ぶれであり(アルテマの記憶により)、右から順にシャルテ大臣、ナールバス大臣、そしてブルドック大臣の顔ぶれが並んで揃う。
そんな顔ぶれに於いて、一人やたら険しい顔を作っては俺を睨む存在がいた。
「…おやおや、どの面下げてやってきたのやら…」
とその人物、開口一番にそんな煽り文句を口に出したブルドック大臣である。
初老を感じさせる白毛の長髪をキチッと後しろへと流したオールバックスタイルに、歳の割には皺の少ない若々しい顔立ち。また目鼻立ちの良さが尚も彼のハンサム具合を引き立てており、汚れ1つ見当たらないこれまたキチッと仕立てられた礼服を身に纏う様は彼の几帳面な性格をよく表しているようである。
それらの見た目だけで言えば感じのいい老紳士と捉えられるのだろうが…問題は内面だ。
俺からすればネチネチとした陰湿なオーラを放つ嫌味な糞ジジイにしか見えないわけで、というのも、彼は俺の存在を疎ましく思っている憎たらしい大臣の代表であり、事あるごとには俺にイチャモンばかりをつけてきやがる。
もちろん俺がそんなブルドック大臣が頗る嫌いだということは言うまでもないだろう。
「まぁまぁ、今はそういうのは良さないか?」
悪い雰囲気を制するように、シャルテ大臣は涼しい顔ではそんな事を口にする。
シャルテ大臣ーー短髪の黒髪に癖髪の剛毛、また穏和そうなふくよかな顔立ちをしており、彩り豊かな礼服は彼のファッションに対する並々ならぬ拘りを感じさせる。
シャルテ大臣は主に外交関係の仕事をこなす敏腕な大臣であり、歳はまだ30そこそこと彼の優秀さを物語っているようだった。
また比較的中立的な立場を維持する彼は俺の事をそこまで敵視しはしてはいない極めて少ない大臣の一人だと言える(まぁ良くも思ってないだろうがな…)。
「そうですよブルドック大臣、今の我々にそんな余裕はないのですかね、うん?」
少し遅れてやたらと特徴的な喋り方をする彼ーーナールバル大臣もまたシャルテ大臣に乗っかる形では口を開いた。
ナールバル大臣ーー面長の顔立ちに禿げあがった頭頂部、これぞ大臣だと言わんばかりの風格を醸し出していた。
今いる中では最年長者であるナールバル大臣は大臣達を総括する監督のような立場である。
だからなのか、そんなナールバル大臣の言葉には流石のブルドック大臣も「申し訳ない…」とは頭を下げざるを得ない様子だった。
そんなアクの強い3人の大臣が一同に揃ったこの会議室とは、正直に言って落ち着いていられる場所なんかではない。
話し合う前からこんな状況なのだから、話し合う内容次第ではかなり白熱した展開になるだろう。いや、間違いなくなる。それは確信して言えることである。
と、俺がそんな先の見えない展開を想像して不安を募らせ始めていたーーそんな時だった。
「…おや、ところでグイン殿、ラクシャータ様の姿が見えないようだが?」
そう言い出したのはシャルテ大臣である。
シャルテ大臣がそんな疑問を抱くのも無理はない。
というのも、この会議にはラクシャータを参加する予定だったのだ。
ただこの場にいないということそういうこと。
ラクシャータがこの場にいない理由についてーーラクシャータは中庭で眠った後、いくら起こしても起きなかったからという、ただそれだけの理由に過ぎない。
「ラクシャータ様は体調が優れないということでしたので、お部屋にて安静にして頂くようにとお伝えしておきました。ですので今回の会議は欠席ということですが…よろしいでしょうか?」
そんな状況において、グインは機転の効いた嘘を吐いではやり過ごした。
もちろん俺はそれが嘘があることを知っているからに、知らない顔ではグインを見ているだけだった。
また今頃ベッドの上で安眠中なのだろうラクシャータを想像して思ったーー全く羨ましい限りだぜ。
「成る程…でもそれはいけないね。ラクシャータ様はこのラクスマリア王国の象徴といっても過言ではない大切なお方だ…何かあってはいけない」
とはシャルテ大臣。
「…ラクシャータ様にはこのところ無理ばかりをさせていましたからね、いや、大事がなければよいのですがね、はい…」
続いてナールバル大臣。
それは王族原理主義者である彼等らしい意見である。
王様の存在こそが第一である、だからこそ無理は良くないのだと彼等は言っているようだった。
ただその事が気にくわないのか、ブルドック大臣は怪訝そうには顔を顰め作る。またそうして二人がラクシャータの体調を気にかけていた直ぐ横ではテーブルに平手を強く打ち付けては立ち上がった。
「…何をそんな生易しいことを言っていられるのですかお二方!臨時であってもラクシャータ様はこの国の王ですぞ?王が国の一大事を話し合う場にいなくてどうなるというのですっ!?」
「お言葉ですがブルドック大臣様、会議の内容は後でラクシャータ様にお伝えすればそれでーー
と、グインが言い終わるよりも先に、ブルドック大臣は口から唾を飛ばして怒号を上げ始めた。
「何を言っておるか貴様!後ではなく、今であることが重要なのだ!今、この場で話あってこその会議である!それを後からで良いだと?この戯けめっ!」
ふんっ、と鼻息を鳴らして、ブルドック大臣は再度平手をテーブルに打ち付けた。
それは気性が荒いことこで有名なブルドック大臣であれば当然の言動として、皆一様には「やはりか…」と始めからわかりきっていたことのような、そんなうんざりとした顔色を浮かべていた…
が…若干一名だけはそうではない。
そんな若干一名とはーーそう、俺だ。
俺は心底怒っていた。何故ならブルドック大臣の言葉とはラクシャータのこれまでの頑張りが否定されているように聞こえたからで、俺はそれがどうしても我慢がならなかったのだ。
俺はブルドック大臣のいる席までズカズカと足音を鳴らして近寄ると、厳しい視線ではブルドック大臣を睨みつけた。
睨みつけて、怒鳴りつける。
「おいおいブルドックさんよぉ、てめー聞いてればさっきからふざけた事ばかり言いやがって…お前なぁ!ラクシャータを何だと思ってやがる!仏か神かとでも思ってるつもりかぁ!?えぇ!?」
「き、貴様!何だその口の聞き方は!!私に対して非礼であろう!!」
「はぁっ!?今はてめーの事なんかどうでもいいんだよ!!今俺はラクシャータの話をしているんだ!分かってんのかこの糞ジジイ!?」
「き、貴様…くく糞ジジイ…だとぉ?」
「お、何だよ、やるってんのか!?」
「…初めて見た時からいけ好かない奴だとは睨んでいたが…やはり、貴様は真の戯けであったようだな!!」
「だったら何だよ?俺は別にお前の評価なんて気にしないっての!」
「調子に乗るな若造めが!!」
「な、何だと糞ジジイ!!」
いよいよ俺とブルドック大臣の口喧嘩が暴力沙汰へと発展仕掛けたーー次の瞬間。
「止めんか二人共!!」
ナールバル大臣の覇気を帯びた一声が会議を児玉した。
そうしてナールバル大臣の言葉が会議室の空気を一瞬の内にて制圧するのだった。
俺はそこでハッと我に返り、直ぐ様自分の仕出かした事の重大さに気づいた。気づいて、ブルドック大臣へと向けられる筈だった握り拳を抑え下ろした。
それはブルドック大臣も同様のようで、血の気の冷めた表情を作ってはヘナヘナと席に腰つかせるのだった。
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