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第3章 波乱の幕開けとデスゲームの狼煙

8話 何も失いたくない

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「おや、たけし。ラクシャータ様は?」


 背後からそんな声が聞こえて、俺はクルリと振り返った。
 振り返って、首を傾げるグインの顔を見る。


「おおグイン。いいところに来た」


「ん?どうしたーーーって、成る程、そういう事か…」


 グインはクスクスとは頬を緩ませて笑った。
 どうやら俺の膝では泣き腫らした目を閉じてスヤスヤと寝息をたてるラクシャータの顔を見ては悟ってくれたらしい。


「よく寝ているな」


「そうなんだよ。いきなり泣き出したかと思えばいきなり寝だしたり、ほんと手の掛かる王女様だよ、全く…」
 俺は起こさないようには優しくラクシャータの頭を撫でた。
 撫でて、ラクシャータの頭の小ささを改めて実感した。


「こんなにもまだ小さいのに王様だもんな…俺の前いた世界ではまだ小学生だってのに…」


「ん?」


「あ、いや何でもない!それでグイン、そろそろ戻った方がいいよな?」


「ああ、でも…こんなにも穏やかに眠るラクシャータ様を見てしまった手前、起こしてしまうってのもね…」


 グインそう言って膝を曲げると、ラクシャータの顔を覗き込んだ。そうしてクスッと笑っては、プニプニとラクシャータの頬をツンツン。


「か、可愛い…」


「グイン、俺も…やっていいか?」


「……」
 グインは無言でコクリと頷くと、そのまま優しくはラクシャータの頭を自身の膝へと動かしてくれた。選手交代、今度は俺がツンツンする番だ。


「あまり激しくツンツンするなよ?」
 グインはそう言って釘を刺した。


「わ、分かってるよ…」


 俺はそぉーっとラクシャータの頬へと人差し指を近づけた。
 近づけて、いざツンツン。

 そうしてマシュマロのように柔らかいラクシャータの頬を指先で感じては、再度ツンツンを試みた。


「や、柔らかいな…」


「たけし、私に変われ」


「ちょ、待て!もう1いちツンツンだけ!後もう1☆○ツンツンだけだから!」



 









 快くまでラクシャータを愛でた俺たち。これ以上はラクシャータに悪いだろうということで、そっとラクシャータの頭を芝生の上へと下ろした。


 緩やかな風と、心地よい太陽、ラクシャータが眠ってしまうのも無理はない。
 もちろんそれだけじゃないことも俺は知っている。
 知っているからこそ、俺はただラクシャータの寝顔を見守りたかった。
 

「…無理してだんだよなぁ、多分ずっと。それなのに俺は心配までかけちゃって…はは、何やってんだろうな…」
 

 自分のことで精一杯だっただろうラクシャータ。
 そんな時に俺まで倒れてしまって…そう言えばあの時、この城で目覚めた瞬間にもラクシャータは泣いていたのだっけ?
 俺の為に涙を流してくれていたのだっけ…
 本当に、ラクシャータは天使のような子だ。
 守ってあげたくなる。


「…なぁ時にグイン。ラクシャータの親…『クルシュマルタ・ラクスマリア』様と『リルタリルバニア・ラクスマリア』様についてはまだ何も分からないままなのか?」


 そう言った俺に対し、グインはバツの悪そうな顔を浮かべては
「…現在捜索中ではあるんだがね…」と答えた。


 成る程、進展はないってことね。


 消えた先代の王『クルシュマルタ・ラクスマリア』、王妃『リルタリルバニア・ラクスマリア』の行方については未だ誰にも分からない。
 しかもだ、一か月もの間探し続けているのにも関わらず見つからないとなるといよいよキナ臭くなってきた。加えて1週間前に起きた城内殺人に、アルバートから聞き出した密かには動き出した闇の存在の影…今、このラクスマリア王国は非常に危ない状態にあるのは明白だ。
 まるで全てが何者かに仕組まれているようにしか思えない…
 いや、これはに仕組まれている。俺の第六感がそれを告げていた。


 別にラクスマリア王国の事に介入しなくたって俺には何ら利益はない。別に俺が頭を悩ますことでもない。
 ないが、俺の中にいつしか芽生えた情というやつがそれを許さなかった。
 

 俺はアルテマ・スコットスミスという一人の男の人生を奪い、今日これまでやってきた。
 そこにはグインだったり、ラクシャータだったりと、失いたくと思える大切な関係があったりと、決して俺一人でやってきたわけではないと改めて実感していた。


 だからこそ、俺にできる事があるならば、それをやりたい。叶えたい。守りたい。
 奪う側の存在である俺がこんなこと言うのも何だが、俺はもう、


 俺はこの異世界ベルハイムで全てを手に入れると決めたんだ。
 地位も、名誉も、絆も、全てーーー


『もしもそんな俺の邪魔をするってんなら容赦はしねぇ…奪い、破壊し、絶望を見せてやるからよ…いつでもこい…』


 俺は迫り来る脅威に対して、そう言いたい。


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