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第2章 ラクスマリア城とラクシャータ王女の剣
15話 アルバート・ジックレイという男
しおりを挟むすぐさま声の聞こえた方へと向ける。
向けて、俺は声の主を見た。
鍛冶屋の扉前で微笑み混じりでは佇む男の姿が一人。見てくれは30代程といったところ、ブルー色の瞳に無精髭に伸びきった黒髪を1束に結っている。服装はルコンドで見かけた人達と似たり寄ったりのもので、違いがあるとすればその首に巻かれた紅色の首巻き。
その男の風態はグインから聞いていたものと酷似していた。
要するにだ、その男こそが今回俺がこの場にやってきた目的。
『間違いない…こいつだ』
外来記録から何故か魔法によって隠蔽されていた人物、あの日の事件に関わっていたとされる鍛冶屋の主人ーーー
「あなたが…ここの主人…アルバート・ジックレイさんですか?」
「ええ、そうですけど、あなたは?」
男ーーアルバート・ジックレイは微笑みを崩すことなく俺に尋ね返した。
「えっ?あ、俺は…」
と吃る俺。
いかん、何て答えればいいんだ?
正直に「たけしです!」って名乗りたいわけだが…
『いい?決して自分がラクスマリア城のたけしだとは名乗っては駄目よ?君の存在はもしかしたら相手に知られている恐れがあるからね、いいね?』
途端に、そんなグインの言いつけが脳裏を過ぎった。
そうなのだ、俺の存在とは既に内通者によって知られているかもしれないという。
つまり、ここで馬鹿正直に実名を名乗ってしまえば元も子もないわけだ。
くそ、こんな事ならコードネームの一つや二つ、もっと言えば相手にバレない程度の嘘の素性を仕込んでおくべきだった。
今更どう悩んだって仕方ないが…
ここは1つ、機転の効いた偽りの素性を答える必要がある。
そうだな…俺は…
「俺は…」
「?」
「アルテマ…そう、俺の名はアルテマ・スコットスミス。実は遠方の大陸『デザイアの地』からやってきた武芸者なんだ」
苦肉の末、俺の絞り出した言葉とはそんな嘘の虚言であり真実であり、【称号スキル】アルテマ・スコットスミスから引き出した記憶だった。
もちろんこの世界には既にそんな名前の人間などいないわけで、当然だ、俺がその存在を奪い消しさってしまったのだから。
「…武芸者のアルテマ・スコットスミスさん、ですか…」
アルバートは少し俯き気味で、「そうですか…あのデザイアの地から遥々と…」と呟いた。
呟やいて、すぐさま俺の方へと向き直った。
どうだ?この偽りの素性は成立するのか?
というのも、【称号スキル】アルテマ・スコットスミスで引き出せる記憶の情報には未だ制限が強く残っているようで、アルテマが『デザイアの地』という地からやって記憶は引き出せたようであるが、肝心のその『デザイアの地』がどういった場所なのかを俺は知らない。
知っている限りでは『デザイアの地』は魔物の襲撃によって荒廃してしまった地、ということであるが…
そうして俺は向き直ったアルバートは微笑みを見た。
「…縁とはるばるご苦労様です。それで、今日は私にどういったご用件で?」
よし、どうやら俺の偽りの素性は通用したらしい。
あっぶねー…、もしも何かしら突っ込まれようもんなら何も答えられなかったよマジで…
額の冷や汗を袖で拭い、俺もまた微笑みを浮かべる。
「その事なんですがね、ちょっと剣が刃こぼれしまいまして…聞くと、どうやらここは鍛冶屋のようじゃないですか?」
「…成る程、そういうことですか」
そう言って、アルバートは肩を竦ませた。
「確かに私は鍛冶職人でした。ただそれも過去の話。今ではほら、ご覧有様なんで」
と、辺りを見ましては答えるアルバート。
また足を進めては地面に落ちた一本の剣を手にとった。
手にとって、剣を懐かしそうには眺めていた。
「私は鍛冶屋失格ですよ。自分で鍛えた剣をこんな風には腐らせているわけですからね…」
「…そうですか、残念です」
俺は宛かも本当に同情するかのようにそう言って、続けて、
「今は何を?」
と不躾な質問投げかける。
別にアルバートに何があったかなんて知ったこっちゃねーからな。
それとだ、アルバートは今俺に対して明らかな嘘をついた。
俺は知っている。1週間前、アルバートが城にやってきた理由を。外来記録には確かに、アルバートは自身で鍛えた剣を城に運んできた…と書き記されていた。アルバートはその事実を隠蔽しきっていると思っているだろうがな…
やはり、このアルバート・ジックレイという鍛冶屋は何か隠しているようだった。
「今は普通に街の行商として働いていますよ。もちろん鍛冶屋とは無縁の、他きら仕入れた果物を販売してますがね?あはははは」
嘘つけ。
分かってるだぞ俺は….
ただそれは知られてはいけないからな、とりあえず、話を合わせておくとしようか…今はな?
「そうなんですか…それなら仕方がないですね。他を回ることにしますよ…ただ、それしても残念です。これ程の剣を鍛える術を持っているのに」
そう言って、俺は辺りに散らばった刀剣へと目線を配る。
「少々勝手ですが見させてもらいました。俺も剣士として数多くの剣を手にとってきましたがね、これらはその中でも上質なものばかりだ」
その事に嘘偽りはなかった。
【称号スキル】アルテマ・スコットスミスの引き出した記憶のおかげで俺は少なからず剣に知識があった。
アルテマはどうやらかなりの数の剣を触ってきたようで、それは剣士であるならば当然なのだろうが、それにしてもアルテマ自身剣に対して深い拘りがあるようだった。
だからこそ胸をはって言える。
ここにある剣は良いものばかりだ。こんな場所で腐らせてしまうにはもったいない程に。
俺の言葉を受けて、不意にアルバートの顔から微笑みが消えた。
そうして寂しそうな表情では手にとった剣を地面に戻した。
「…そう言って頂けると、私の鍛冶職人としての道を無駄ではなかったと…そう思えます」
思えますだと?
ふざけた事に抜かしやがって!
俺は鍛冶職人についてとか全くといって無知だがな、これらの剣を鍛えるにはそれこそ血の滲むような努力が必要だってことぐらい分かるんだよ!
それこそ俺みたいに家に引き篭って怠惰な日々を過ごす暇さえない程には大変な努力が必要だったことだろうよ。
それなのに、お前は…
Now loading…
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Now loading…
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ステータス展開中…
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暗殺者
【アルバート・ジックレイ】
LV : 35
HP : 1851 / 1851
MP : 270 / 270
ATK : 1201
DEF : 83
MAT : 0
MAE : 0
【装備】
・ アルバートの短剣 ランク[A] レア度[★★★]
・アルバートの隠しナイフ ランク[A] レア度[★★★]
【称号スキル】
・アルバート・ジックレイ LV:xxx
・鍛冶職人 LV:4
・暗殺者 LV:3
【魔法スキル】
※現在の閲覧権限で閲覧できません。
【固有スキル】
※現在の閲覧権限で閲覧できません。
【通常スキル】
※現在の閲覧権限で閲覧できません。
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その鍛冶職人としての努力を、こんな形で無駄にするなんてよ…
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