上 下
24 / 78
第2章 ラクスマリア城とラクシャータ王女の剣

8話 城の内情について

しおりを挟む


 グインは俺が席に着いたのを皮切りに、フゥーと一回息を吐いては、落ち着いた様子では口を開いた。


「とにかくたけし、君が無事でよかったよ」


「あ、ども」


 開口一番、グインの言った台詞とはそんなねぎらいの言葉だった。
 何だよ、結構キツイ奴かと思ってたけどそうでもないのか?


「念の為とはいえ、君を何日もの間部屋に隔離していたことを許してほしい、たけし」


「へ?」


 おいおい、グイン。それはどういう…


手前だ、君が敵のマインドコントロール洗脳を受けていないという可能性も捨てきれなかったわけだよ。だから様子見として、君にはあの部屋にて隔離状態に入ってもらった。最も、君には何らマインドコントロール洗脳を受けている兆候がなかったわけだからね、それに関しては酷な事をしたと私自身反省しているよ…」


 グインはそう申し訳なさそうには言って、深々と頭を下げた。
 ただ、謝られたところでいまいち状況が理解できない俺にはグインに対してどうこう思う余裕などない故、何のこっちゃ分からんわけだ。
 それよりも、気になる事が一つ。


「…俺の事はとりあえずいい、それよりもだ…ってのは何だ?何かあったのか?」


「…ああ、そうなんだよ」


 深刻そうな顔を受けべて、グインは深いため息を吐いた。
 吐いて、辺りをキョロキョロと見回し確認すると、俺に向け軽い手招きを行なった。
 え、何だよ一体…


「…顔を近くに、一応傍聴対策を施してはいるが、誰かに聞かれてないという保証もない」


「え?」


 傍聴対策?誰かに聞かれないという保証?つまり聞かれちゃまずい話ってこと?
 

 よく意味はわからなかったが、とりあえずグインに顔を近づける。
 近づけて…うわっ、めっちゃいい匂い…
 しかも美女とこんなにも顔が近いし…


「何をニヤニヤしているたけし?」


 あ、やべ。


「あははは、すまんすまん。で、一体全体何があったんだグイン?」


 そうして、グインは重苦しい雰囲気の中には語り始めた。


「…驚かないで聞いてほしい、たけし。今から丁度1週間前の事になるんだが…城内の兵士が何者かによって殺された」


「……え?」


 つまりそれって…殺人?あの殺人?
 推理ドラマとかでよく見るあの殺人ってこと?


「殺害された兵士は5人。皆城内の警護を行なっている最中にも殺されていた。犯行に及んだとされる時間帯は深夜、城内の見回りに出た兵士が当直室に戻るまでの2、30分の内には殺害行為は完了していたことが分かった。殺された兵士は皆喉元刃物にて一突き、兵士達の遺体に荒らそった痕跡が見られない事から一瞬のうちには殺されたようだ。犯行の痕跡は一切残っておらず、兵士の死体だけがその場に残されていた。しかも犯人はまだ捕まっていない。現状誰がやったのかさえも分からない程の完全犯罪だ。この意味、分かるかたけし?」


「あ、ああ…」


 とりあえず状況を整理しよう。
 1週間前、深夜の城内の中で警護の任務にあたっていた兵士5人が殺されていた。兵士は皆荒そった痕跡がなく、皆喉元を突かれては絶命した。その事から察するに、相手はかなりの殺人慣れをしている…ということだよな?
 だって喉元を一突きだろ?しかも5人をたった2、30分程度でだろ?
 しかも犯行の痕跡はないとか…


「まるで必殺仕事人だな、そりゃあ…」


「は?必殺仕事人?」


「あ、すまん。忘れてくれ」


 1週間前となると、つまり俺がアルテマの能力を奪った日になるのか?
 そうして俺はそのまま丸一日森の中で気を失っていて、俺がこのラクスマリア城で過ごしたのは意識を失っていた2日間と部屋に隠っていた4日間だから、それで7日。うん、やっぱりそうだ。俺がほぼほぼ関われなかった期間にまさかそんなことがあったなんて知らなかった…


「だから俺は隔離されていたってわけか…」


「ああ、その通りだ。たけしがいなくなってからの犯行だったからな、しかも戻ってきたと思えば意識不明の状態だ。今回の犯行に関わった何者かにをされたとみるのが妥当であると、私がそう判断した。最も、ラクシャータ様にはそんなことは関係のないようだったがね。『たけしに限ってそんなことは絶対にあり得ない!』の一点張り、しかも無断で玉座の間を抜け出しては勝手に君の元へと行っていたようだしね…」


「ラクシャータ様が?」


 そうか、だからあの時、意識を取り戻した俺の元にラクシャータはいたのか。
 まぁ、殴られたわけだが…でもあれはアルテマとしての記憶がなかった俺が意味不明なことばっかり口走っていた俺が悪いわけだし、ラクシャータは隔離体制にあった俺の元へわざわざ足を運んでくれて、心配してくれていたわけで…うわ、めっちゃいい子じゃん。


「やはり、天使か、あの子は」


「?」


 


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

平凡なサラリーマンのオレが異世界最強になってしまった件について

楠乃小玉
ファンタジー
上司から意地悪されて、会社の交流会の飲み会でグチグチ嫌味言われながらも、 就職氷河期にやっと見つけた職場を退職できないオレ。 それでも毎日真面目に仕事し続けてきた。 ある時、コンビニの横でオタクが不良に集団暴行されていた。 道行く人はみんな無視していたが、何の気なしに、「やめろよ」って 注意してしまった。 不良たちの怒りはオレに向く。 バットだの鉄パイプだので滅多打ちにされる。 誰も助けてくれない。 ただただ真面目に、コツコツと誰にも迷惑をかけずに生きてきたのに、こんな不条理ってあるか?  ゴキッとイヤな音がして意識が跳んだ。  目が覚めると、目の前に女神様がいた。  「はいはい、次の人、まったく最近は猫も杓子も異世界転生ね、で、あんたは何になりたいの?」  女神様はオレの顔を覗き込んで、そう尋ねた。 「……異世界転生かよ」

転生令嬢の幸福論

はなッぱち
ファンタジー
冒険者から英雄へ出世した婚約者に婚約破棄された商家の令嬢アリシアは、一途な想いを胸に人知の及ばぬ力を使い、自身を婚約破棄に追い込んだ女に転生を果たす。 復讐と執念が世界を救うかもしれない物語。

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

転生してしまったので服チートを駆使してこの世界で得た家族と一緒に旅をしようと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
俺はクギミヤ タツミ。 今年で33歳の社畜でございます 俺はとても運がない人間だったがこの日をもって異世界に転生しました しかし、そこは牢屋で見事にくそまみれになってしまう 汚れた囚人服に嫌気がさして、母さんの服を思い出していたのだが、現実を受け止めて抗ってみた。 すると、ステータスウィンドウが開けることに気づく。 そして、チートに気付いて無事にこの世界を気ままに旅することとなる。楽しい旅にしなくちゃな

処理中です...