12 / 78
第1章 『俺この異世界ベルハイムで、第二の人生を送る!』-始まりの異世界とジョーカー
11話 道化を演じる
しおりを挟む何てこった。まさか感情なりに続き味覚まで失うとは…
信じられず最後まで食ってみたはいいものの、何も満たされねぇし、てかそもそも何も感じねぇ。
確かに食事を摂らなければ死ぬ、という人間の生理現象を逸脱出来たことは助かる。が、まさか味覚までも消失するだなんて聞いてねーよ。
『まさか俺はこれから一生食事を楽しむこともできないのか…』
最悪だ、と一瞬だけ、ほんの一瞬だけそう思ってしまった自分がいた。
ただそんな人間味染みた感情とは、その後直ぐさまドッと押し寄せてきた虚無心の中に溶けてなくなってしまうようだった。
そうして俺は再び感情なき在るべき自分へ、心を失った俺は「ま、いっか。死ぬわけじゃねーし」と楽観視する。
そうさ、何故なら俺には悲しみを抱くような要らない感情は捨てられた。勝手には捨てられたのだから、うん、今更何を思うことなんてしねーよ。
どうせ感情を抱いたところで虚しく、失せるだけーーーこれから先も、ずっと…
『あーあ、これからの人生味覚がないにも関わらずそれをひた隠して生きなきゃならないのかよ…それってマジ面倒くせぇな…』
そう思うと気分が沈むーーー俺は本当に不意に、ハァ…とため息が溢していた。
そんな俺の様子をアルテマは不安そうな顔で見ていた。
そうしてバツの悪そうな顔を作っては、「口に合わなかったか?」と一言。
やばい、俺ってば今顔にも態度にも出してた!?
『違う、そうじゃないんだ!どっからどう見たった旨そうだし、てか不味いなんて想像つかねーよ。見た目だけでそう思えるんだから食ったら絶対に美味いに決まってんだろ!でもな、俺にはどうやら味覚をどっかに落っことしてしまったらしいんだ…申しわけないけど、素直によく分からねぇ…』
と言いたい。言ってしまいたい。素直に謝りたい。青年の好意を嘘で否定したくない…、と以前の俺ならきっと自責の念に押しつぶされそうになったことだろうが…
今の俺にはそれがなかった。
「…美味いよ。こんな美味いもん食ったの久しぶりだ…あまりの美味さにため息がで出ちゃったみたいだ、なんか誤解させて悪いな?」
ハハハと、笑みを交えては俺はそんな言葉を口にしていた。それは当然の如く吐き捨てと虚言であり、嘘である。
「そうか、なら良かった。あまり人に料理を提供したりしないもんでね、味については良く分からないんだ」
「いや、マジで美味かったぞ?もしかしたら俺が今まで食ってきた料理の中でもトップクラスかもしれん」
「あははは、たけしそれは言い過ぎじゃないか?」
「いやいや本当だって!俺は嘘を吐いたりしてねーからな?」
俺は平気で嘘をつく。罪悪感は全くといってない。
やはりと言って、俺は最早人間としての感情は死んでいたのだった。
言うなれば、今の俺とは人間という道化を演じているだけの人間のようなものに過ぎない。
道化か…ん?待てよ、確かjokerは訳すと、道化師て意味じゃなかったか?
え、それじゃあまさか…
『俺はjokerの役割を得た代わりに、その代償として味覚を失った』
いやいや、幾ら何でもそれは…でも確かアンヘルは無駄な感情やちょっとの生前の記憶を消しただけで、何かしらの身体機能を消しただなんて言ってなかったしな…くそ、理由がつかねぇ。
じゃあやっぱり、この味覚を失っていう現象はjokerとなる為に俺が支払った代価ということになるのか?
分からない。分からないけど、本格的にそうだとしか思えなくなってきたぞおい。
この分でいったら、もしかしたらその他の身体機能も損失しているとか…視覚、聴覚、嗅覚、触覚は…無事だよな、多分。
まぁそれだったら人間の有する五感の内4つはあるわけだから、生きる上で支障はないはず。ただその他にも何かしらの身体機能が欠如しているのだとしたら…いかん、悪い予感が過ぎって仕方ねぇ。
今のところ失った身体機能が味覚、それに伴う形で空腹感と食欲もなくなった。今はそれだけだと済んだと喜ぶべきなのだろうか…
0
お気に入りに追加
161
あなたにおすすめの小説
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
平凡なサラリーマンのオレが異世界最強になってしまった件について
楠乃小玉
ファンタジー
上司から意地悪されて、会社の交流会の飲み会でグチグチ嫌味言われながらも、
就職氷河期にやっと見つけた職場を退職できないオレ。
それでも毎日真面目に仕事し続けてきた。
ある時、コンビニの横でオタクが不良に集団暴行されていた。
道行く人はみんな無視していたが、何の気なしに、「やめろよ」って
注意してしまった。
不良たちの怒りはオレに向く。
バットだの鉄パイプだので滅多打ちにされる。
誰も助けてくれない。
ただただ真面目に、コツコツと誰にも迷惑をかけずに生きてきたのに、こんな不条理ってあるか?
ゴキッとイヤな音がして意識が跳んだ。
目が覚めると、目の前に女神様がいた。
「はいはい、次の人、まったく最近は猫も杓子も異世界転生ね、で、あんたは何になりたいの?」
女神様はオレの顔を覗き込んで、そう尋ねた。
「……異世界転生かよ」
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
転生してしまったので服チートを駆使してこの世界で得た家族と一緒に旅をしようと思います
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
俺はクギミヤ タツミ。
今年で33歳の社畜でございます
俺はとても運がない人間だったがこの日をもって異世界に転生しました
しかし、そこは牢屋で見事にくそまみれになってしまう
汚れた囚人服に嫌気がさして、母さんの服を思い出していたのだが、現実を受け止めて抗ってみた。
すると、ステータスウィンドウが開けることに気づく。
そして、チートに気付いて無事にこの世界を気ままに旅することとなる。楽しい旅にしなくちゃな
モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)
優摘
ファンタジー
※プロローグ以降の各話に題名をつけて、加筆、減筆、修正をしています。(’23.9.11)
<内容紹介>
ある日目覚めた「私」は、自分が乙女ゲームの意地悪で傲慢な悪役令嬢アリアナになっている事に気付いて愕然とする。
しかもアリアナは第一部のモブ系悪役令嬢!。悪役なのに魔力がゼロの最弱キャラだ。
このままではゲームの第一部で婚約者のディーンに断罪され、学園卒業後にロリコン親父と結婚させられてしまう!
「私」はロリコン回避の為にヒロインや婚約者、乙女ゲームの他の攻略対象と関わらないようにするが、なぜかうまく行かない。
しかもこの乙女ゲームは、未知の第3部まであり、先が読めない事ばかり。
意地悪で傲慢な悪役令嬢から、お人よしで要領の悪い公爵令嬢になったアリアナは、頭脳だけを武器にロリコンから逃げる為に奮闘する。
だけど、アリアナの身体の中にはゲームの知識を持つ「私」以外に本物の「アリアナ」が存在するみたい。
さらに自分と同じ世界の前世を持つ、登場人物も現れる。
しかも超がつく鈍感な「私」は周りからのラブに全く気付かない。
そして「私」とその登場人物がゲーム通りの動きをしないせいか、どんどんストーリーが変化していって・・・。
一年以上かかりましたがようやく完結しました。
また番外編を書きたいと思ってます。
カクヨムさんで加筆修正したものを、少しずつアップしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる