上 下
26 / 46
第3章

第5話 この水を飲めば幸せになれるらしい

しおりを挟む

「あんた、何それ?」

 宿屋に戻ったすぐにもマルシャが尋ねてきた。まるで捨て猫を拾ってきた息子に対し呆れ顔を浮かべるような母親のような、そんな顔でだ。

 だからどうしたって話だが、俺は嘘偽りなく答えることにした。

「水だが?」

「いや見れば分かるわよ!わたしがいいたいのはそういうことじゃなくて…何でそんな大量の水を持っているかについて聞いてるの!」

「ああ、そういうこと。貰ったんだよ」

「貰った?」

「そう、無料で差し上げるとのことだったからさ。無料だったら別に問題ないだろ?」

「いや問題はないけど…誰によ?」

「ゴッド信教」

「……は?」

 と、マルシャはそう呟いたすぐ後にも、もう一度言えと催促してきた。故に俺とはゴッド信教と巡り合った経緯からこの大量の水ボトルを貰ったまでの一連の流れを簡略的には説明してやった。

 と、次にマルシャの般若顔を見た。かなり怒っていた。

「あんた何やってんのよ!?そんな怪しい奴らから怪しい水を貰ってくるなんて全くどうかしてるんじゃないの!?大体よ、水つったって中がどうなっているのか怪し過ぎて飲めたもんじゃないっての!」

「いやな?これはゴッド様のありがたい水といって、ただ今ゴッド信教布教キャンペーンのスペシャル無料セットなんだ。聞いて驚くなよ?この段ボールには計24本の水ボトルが詰められているんだが、その水ボトル一本一本にはゴッド様の人知を超越した有難~い力が注がれいるんだ。さらにさらになんと、この水ボトルを毎日三本ずつ飲むとあら不思議、体の中に溜まった老廃物を綺麗サッパリ流してくれるし、朝の快眠も約束されている。それっていうのはな、」

「もういいから黙れ馬鹿」

 一蹴された。ほんと正しい反応過ぎて救われている俺がいたのは嘘じゃない、ほんとさ。ただ同時にやり場のない苛立ちを覚えたのも確かだ。

「はぁ…マルシャよ、お前がそう言いたい気持ちは分かる。ただな!俺だって大変だったんだよ!?お前らが勝手に帰った後に訳のわからねぇ頭のイカれた連中に捕まってゴッド様がどう凄いのかというクッソどうでもいい内容を永遠と聞かされた挙句だ、中々返してくんないから強引に逃げようとしたら『せめてこの水だけでも!』と半ば無理矢理欲しくもないゴッド様の有難い水とやらを掴ませれてよ…少しは同情してくれてもいいだろうが!?」

「わ、悪かったわよ…確かにあんたを置いて行ったのはよくなかったわ」

「ほんとに分かってのかよ全く…危うく俺はゴッド信教第452信徒になる羽目になっていたんだからな?もしかしたらお前らにもゴッド様の有難い水を定期会員お買い得キャンペーンで売りつけていたかもしれないんだからな?な?な?な!?」

「しつこい!」

 



「にしてもゴッド信教ですか…まさかこの街にも広まっているだなんて驚きですね」

 ルクスはベッドの上でゴロゴロと回転しながら言った。その仕草一切からは心底どんでもいいと言った様子がビンビンに伝わってきていた。

「お前も気をつけろよ?何でもゴッド信教は凄い勢いで拡大してるらしいからな」

「そうなんですか?でもなんか変ですよね、そのゴッド様が現れたのはつい一週間前のレッドドラゴンがシリウス街を襲撃時です。そんなゴッド様がいきなりどうして宗教団体などと、また何でレッドドラゴンを一撃で潰せる程の実力者が今まで姿を見せずにいたのかとか…」

「ルクス。お前の言いたいことは大体分かった。つまり、そのゴッド様とやらは偽物じゃないのかって、そう言いたいんだろ?」

「その通り!胡散臭さしかありませんよ!?」
 
 ああ、何と言うことだ…ずっとただのお馬鹿さんだと思っていたルクスがここにきってやっと最もらしい発言しているではないか…

 全く喜ばしいだなぁ、と、素直に感心したかったのにも関わらずだ、やはりと言って俺の知っているルクスとはルクスのまんまであるようだった。

その事実を突きつけるように、ルクスとはゴッド様の有難い水を物凄い勢いでは次々と飲み干していく。

「お、おい馬鹿!お前何やってんだ!?」

「何って、これは調査ですよ調査?もしもそのゴッド様が本物のゴッド様なのであればこの[ゴッド様の有難い水]の効能も其れ相応のものな筈ですよね?私もちゃんとした魔法覚えられる筈ですよね!?」

 成る程な、つまり魔法士としてゴッド様の人知を超越したお力にあやかりたいと、もうね、アホかと、そう思うわけですよ。

「お前なぁ…そんな得体の知れない水飲んどいて後にどうなっても知らねーかんな?」

「それはあんまりですよバンキス様!?元はと言えばゴッド信教なる集団のリーダーと肉体関係を持ったバンキス様に全責任が、」

「おいおい待て待ておかしい何だよ肉体関係って!?」

「あれ、違いましたか?私はてっきりそのミミカという人物の色仕掛けにバンキス様がまんまと嵌ってしまったとそう思っていたのですが…」

「んなわけあるか!」

「痛ッ!何で打つんですか!?私おかしなこと言ってませんよね!?」

「本当にそう思ってんならもう一発チョップをお見舞いしてやろうか?」

「も、もういいですよ!バンキス様最低です!もうこの水だって全部私が飲みますからね!?後で寄越せって言っても知りませんからね!?」

「勝手にどうぞ」

「ふん!」

 と、ヘソを曲げたルクスとは次のゴッド様の有難い水に手をつけていた。既に八本目である、この勢いでいけば明日にでもなくなっていることだろう。果たして明日にはどれ程の効能を得ているか期待しようじゃないか、期待してないけど。

 さて、この可愛いお馬鹿さんはとりあえず置いといて、

「なぁマルシャ、ところでガイルの姿が見えないようだが…」

「ああ、ガイルなら魔鋼式霊術装を買い戻しに行くってさっき出ていったわよ?」

「まじかよ、あいつ金持ってない筈じゃあ…お前が金貸したとか?」

「はぁ?そんなお金私が持ってるわけないでしょ?」

 うん、全くだ。聞いた俺が馬鹿だったよ。

「ルクスも金貸せるわけないしなぁ…じゃああいつ、どうしようってんだ…」

「さぁね、強盗でもするじゃない?」

「ご、強盗?」

「ええ、ほら、あの子あれでいてかなり強いじゃない?強盗ぐらい余裕でこなしちゃうでしょ?」

 成る程な…

「あり得る」

「え?」

「マルシャ、俺はガイルの様子を確かめに行ってくるから、それじゃあ!」

「ちょ馬鹿待ちなさいよ!?冗談だってば!?強盗なんて幾ら何でもあの子がそんな真似、」

「馬鹿野郎!それを確かめる為に行くんだろうが!?仲間を信じたいが故にだ!」

「いやいやいや矛盾してるし!?信じたいなら待てばいいでしょうが!?」

「うるさい黙れ!これ以上厄介ごとに巻き込まれてたまるか!」

「本音はそっちかい!」

 ええ、ええそうですとも。
 せっかくもう少しでクエスト報酬の大金を手に出来るんだ。そんな手前また問題を作られてはたまったもんじゃない。

 それにガイルはかなりの傷心中だ。そのまま感情を高ぶらせたガイルが街中の服を奪い去る可能性がないなんて誰が保証してくれる?いないだろ?結局はケツ持つのは俺なんだ。

「早まるなよガイル!!」

 俺は足を急がせた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!

桜井正宗
ファンタジー
 辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。  そんな努力もついに報われる日が。  ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。  日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。  仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。 ※HOTランキング1位ありがとうございます! ※ファンタジー7位ありがとうございます!

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜

ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。 その一員であるケイド。 スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。 戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。 それでも彼はこのパーティでやって来ていた。 彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。 ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。 途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。 だが、彼自身が気付いていない能力があった。 ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。 その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。 自分は戦闘もできる。 もう荷物持ちだけではないのだと。 見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。 むしろもう自分を卑下する必要もない。 我慢しなくていいのだ。 ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。 ※小説家になろう様でも連載中

処理中です...