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第2章

第5話 ゴッド様とは俺のことか?

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 要約しておこう。つまりはこういうことだ。

 ガイル=ガイガー=ハイブリット、見た目は可憐な少女にして、その実、魔王の妹。魔王グフタス=ガイガー=ハイブリットの溺愛する妹であった。

 で、そんな凶悪な兄妹達とはあろうことか喧嘩してしまったようなのである。その喧嘩の理由は魔王であるグフタスが妹であるガイルに対し可愛らしいフリフリのメイド服を着ろと馬鹿みたいなお願いをしたのがきっかけらしく、それを嫌がったガイルと激しく喧嘩。何でも魔王軍付近一帯の大地に致命的なダメージを残すほどの兄妹喧嘩だったらしく、その末にガイルは魔王グフタスの元から離れることを決意したのだと。

 その後についてはわざわざ俺が語るまでもなくレッドドラゴンがこの寂れた街、シリウス街へとやってきた。それを何も知らなかった俺が屠り、結果として魔王兄妹の兄妹喧嘩に水を差した形になってしまったらしい。

 ここまで聞いた者なら分かるよな?これからの俺の波乱に満ちるだろう旅路についてを、存分には理解してくれるだろうな…

 頭痛が、痛い。そう、痛いのだ、もの凄く。

「マルシャ、はよ!はよ行くぞ!」

 俺は起床した直ぐにも眠たそうに目を擦るマルシャに向けそんな事を言い出していた。それ程に今現在の俺とは切羽詰まっていたのである。

 そんな俺に対してのマルシャの反応とは無論「はぁ?こいつ朝っぱらからどうしたの?馬鹿なの?」とは言いたげで、俺はそれを分かっていて尚もマルシャの肩を揺すって懇願した。

「なぁなぁマルシャ~お願いだから~早く~魔王退治に行こうよ~」

「は、はぁ!?いきなりどうしたってのよ!?」

「いいから早く~」

「もう、うざい!離れろ!」

 マルシャに殴られ渋々観念した俺とはしばらく放心状態へと陥っていた。
申し訳ないが冷静でいられる状態ではなかったのである。

「マ、マルシャ様?バンキス様が壊れているのですが…」

「ふん、ほっとけばいいのよあんな奴!」

「バンキス殿~やる気に満ち溢れてますな?感心ですぞい!」

 はぁ、ほんとやだこのパーティ。仲間達。俺の気苦労も知らないでほんとやだ。神様がいるなら神の鉄槌を下して欲しいですマジで。

 それから各々の支度は完了して、いざ宿屋を後にしようとした。その時だった。

「ちょいと待たれよ、旅のお方…」

 と、皺くちゃな顔で笑う老人が一人。宿屋の店主である。

「ん、何だ爺ちゃん?」

「いや何、こんな朝早くに旅立つなんて立派だのうと思いましての…時に冒険者方、そなたらの中に…もしやゴッド様が紛れておるということはないかのう?」

「ご、ゴッド様?何だそれ?」

「おや、知らぬのか?ゴッド様とは先日かの悪名高きレッドドラゴンを一撃にて討伐したお方の異名じゃ…どうじゃ、おらぬのか?」

 おいおい待て待て…何で『竜墜の投擲者』が一日も経たずして『ゴッド様』へと進化しているんだ!?

「爺ちゃん、そのゴッド様とやらの異名についてを聞いていいか?」

「あ?無論、神という意味じゃ。我々シリウス街の民からすればこの街をお救い頂いたその者は最早神に等しきお方。街では既にゴッド信教なるものも作られているみたいじゃぞ?」

「ほうほう、いい事を聞いた。だが生憎、俺たちはそのゴッド様とやらは無縁だ。悪いな」

「ほっほっほ、そうか。それなら止めて悪かったのう。では、そなたらの安寧たる旅路を祈って…『そなたらにゴッド様の祝福があらん事を』…」

「あははは、まじ助かるわ~…なぁみんな?」

「別に?」

 と、平然と言って退けるマルシャ。

「ええ。と言いますかバンキス様、物凄い汗ですね…大丈夫ですか?」

 と、痛いとこを突いてくるルクス。

「バンキス殿~、これ、ですぞい!?」

 と、人差し指を唇に当てては内緒事だという事実を誇張するガイル。

 総じて、最恐最悪の仲間達である。

 俺は足早のシリウス街を後にする事にした。不安しかない面持ちが分かりやすく足へと伝達されていたのであろう、あれよこれよという間にシリウス街を遠い背にする。

 そして、シリウス街が見えなくなった頃、

「出たわね魔物!!」

 そう言ったマルシャを先頭に、俺たちの前に数匹の魔物が行く手を阻んでいた。ついこの時がやってきてしまった!

 このパーティでの初戦闘である。

 敵は例の猪みたいな魔物、レッドデビルだ。最近ここいらを縄張りに『紅のギャング』という異名を持つ獰猛な中級種である。それが一匹、二匹、三匹、四匹…八匹。とんでもない数でのお出ましだ。

 勝てるわけない。駆け出しの冒険者が勝てるような敵では決してない。一匹とて厳しい筈だ。それが八匹。まさに地獄への片道切符を手渡されたようなもんだろうよ…そう、普通ならな?

「ふふふ!いよいよね!私の真の実力を見せる時が来たみたいね!?見てなさいよバンキス!それ!」

 と、マルシャが飛び出した。そして先日新調したばかりの艶やかな剣を片手にはレッドデビルの一匹を瞬殺。すぐ様華麗な体裁きでは二匹、三匹と余裕そうには駆逐していた。お見事、その一言はまさにマルシャに相応しい。

「ぶはははははは!どうよバンキス!?見た?ねぇ見た?ねぇねぇねぇ!?」

 俺の方へと振り向いてはそう言って自慢げなニヤケ顔を見せるマルシャに向けて一匹のレッドデビルが攻撃を仕掛け出していた。著等猛進なるそんな一撃を受けたのなら、いくらマルシャでも無事では済まないだろうことが容易に想像できる。つまりやばい。

「マルシャ!危ない!」

 俺がそう叫んだ時に既に遅かった。猛スピードで突進したレッドデビルのツノがマルシャの体を貫く寸前であったーーー次の瞬間、

「悪い子にはお仕置きが必要だ…ぞーい!!」

 そんな叫び声を皮切りにガイル、マルシャへと迫っていたレッドデビルの胴体をバカでかい大剣にて一刀両断。速すぎるその一瞬の一連の動作について、俺には手を取るように見えていた。だからこそ、それだけでガイルの実力がかなりのもんだとは自然と察していたのである。

「あ、あっぶな!?ありがとうガイル…」

「いいですぞい!私達は仲間!助け合ってこそ…ぞい?」

「ふふふ…確かにそうね?それにしたってガイル、貴女中々の腕前ね」

「分かりますぅ?」

「もちろん!私ほどの実力者には貴女の強さがビンビンに伝わるの!」

「て、照れるぞい…えへへ」

「照れるのは結構。でもまず、あいつらをどうにかしないと、ね?」

「ふふ、任せるぞい!」

「ふん!抜かすわね!?ではガイル!どっちが多く仕留められるか競争よ?」

「ぞい!」

 ああ、何だこれ。激しく問いたい、あいつらマジバケモンか?

「やはり凄いですねお二方…私など手も足もでませんよ…バンキス様、一緒に見習いましょう…」

 ルクスは次々とレッドデビルを殺戮していく二人の血祭り殺法を眺めそう言った。そして、

「おや?バンキス様、その腕の傷…」

「あ、これか?これは確かあれだ…さっき転んだ時の。でも大丈夫、ただの擦り傷だ。唾つけときゃ治る」

「それはいけない!膿んでしまっては大事になりますよ!?バンキス様、そこに立って下さい!」

「ん、どうしたいきなり?」

「いいから!」

「わ、分かったよ…」

 全く、どうしたってんだよ急に…

「ではバンキス様、いきますよ?」

 と、ルクスの目付きが変わった。またルクスの体内を無数の青白い光球が飛び交い、まるで幻風景のようには映る。刹那、

「我、精霊の力を預かりし者…我、汝の力を強く望まん…我に答えよ精霊よ、その絶対的なる守護たる力を我に授け給え…それ!!」

 ルクスが杖を振るった。振るって、青白い光球がルクスから俺へと向かってくる。嘘、なにこれ…暖かい…

「エクスケアリジェネテーション!!!」

 そんなルクスの叫びを聞いた瞬間だ、俺の腕についた傷がみるみる治癒されていくではないか。それだけじゃない。俺の足元一帯から大量な花畑が咲き乱れ、大地を色鮮やかに染めていく。しかもなんだこの俺を囲うようには輝く天を突く光柱は!?

「ああ、精霊様よ…バンキス様に癒しあれ…」

 ほうほう、つまりこれが回復魔法というやつか?

「やばすんぎんだろ…」

 素直に感心する俺とは一体?



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