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第8章 何か捕まった!
第34話 敵の影 ー side ルンルン
しおりを挟むシノミヤを捜し始めて数十分、予想はしていたがやはりシノミヤはどこにも見当たらなかった。私達はどこまでも続く廊下の、窓から射し込む月光だけが頼りの道中を彷徨っている最中である。
よくよく考えて、シノミヤを捜すといってもこの屋敷はかなり広い。手当たり次第に捜すというのも一つの手ではあるが、そもそもこの屋敷にシノミヤがいるかも分からないことに今更ながらに気付いた。
つまりだ、正当法で捜したところで埒が明かないということである。
「ザラ、あんた何か良い方法ないわけ?」
【そうですね…じゃあ、いっそのこと暴れてみるってのはどうですかね?】
「あ、暴れる?」
【思ったんですけど、この屋敷はかなりの豪邸です…そんな豪邸を破壊されようもんならですよ?普通、それを止めると思いませんか?】
「つまりこっちから捜すんじゃなくて、敵をこちらから敢えて誘い出すと…」
【そゆことです!】
とザラはそうニッコリと笑った。次の瞬間にも、目に付くものを手当たり次第には破壊し始めていた。それは高価そうな壺に始まり、廊下に飾られた見事な絵画、彫刻物などなど、しっちゃかめっちゃかには次々と破壊活動を続ける。
【ルンルンさんも一緒に壊しましょうよ!?案外楽しいですよ!?】
楽しいって…あんたねぇ…
「ま、いいか」
考えたって仕方ないし、今はシノミヤを助け出すことを第一に考えなくてはいけない。だったら、どんな方法だって試す他ない。
そうと決まれば話は早い。私はザラにならって、廊下途中にはある扉を力一杯には蹴り飛ばした。そうして部屋の中に入ると、壁に立て掛けれていた刀剣を発見。そいつを手にしては更に破壊を続けていった。
そうして暴徒と化した私とザラは目に付くありとあらゆるものを破壊し回って、そろそろ屋敷の主人に申し訳なく思ってしまってきた辺りである、
【へっへっへ、ルンルンさん…どうです?他人様の、それも悪い奴らの大切にしていただろうものを破壊するのって、中々楽しくないですか?】
邪悪な笑みを浮かべてザラは言った。幼い容姿をしておいて中々のロックな心意気だ。
【私の大切なシノミヤさんを奪ったんです。こんなじゃ飽きたりませんよぉ~】
「ねぇ、やっぱりこんな事したって意味ないんじゃない?」
【そんなことありませんよ。多分、敵さんはかなり怒っていることでしょう】
「どうしてそんな事わかるのよ」
【分かってしまうもんは分かってしまうのです。もう直ぐそこまで来てると思いますよ?】
ザラはそう言って、廊下の奥を指差した。どうやらザラにはこちらへと近付いてくる敵の気配に気がついているらしい。
それから少し待った頃だ、廊下の奥からコツコツと耳心地の良い音が近付いて来ているのが分かった。
最初こそ何の音かは分からなかったが、次第に音に強さを増して聞こえてくるそれはーーー足音。
リズミカル歩調では、何者かがゆっくりとこちらへと近付いて来ているようであった。
ザラの言っていることが正しければ、この足音の正体は敵。
そして、月明かりに照されるその敵とやらを見た。意表を突かれていた。
「そう、貴女だったのね…」
私は手に持った刀剣を握り直して構えなおした。また刀剣の切っ先をそいつに向けては警戒心を募らせる。
【私は初めっから怪しいと踏んでいましたけど】
と、ザラは私の隣に並ぶ。私達は廊下向こうから静かには歩む寄ってくるそいつを見据えるーーー刹那、
「よくもこんなに汚しちゃってくれましたね、お客人?」
そいつは足を止め、口を開いてはそう呟いたーーーそれはこの屋敷の主人ガルマの使用人キリコである。そして、その手に握られた悪魔が持参していそうな恐ろしい鎌がキリコの明確な敵意を物語っていた。
「まぁ、そうなるわよね。あのガルマって爺さんがシノミヤを攫ったんだったら、その使用人である貴女が無関係なわけないんだし」
「その通りですよ、お客人。ただ今更そこに気付いたところでもう全てが遅いかも知れませんが。あのシノミヤとかいう女も、そして貴女達も、最早屋敷からは出られない、その事に変わりはありません…ガルマ様には申し訳ありませんが、調教前に、貴女を排除させて頂きます」
と、キリコは手に持った鎌を振り構える。
成る程、最早戦闘は避けられないと…つまりそういうことなのね、
「別にやり合うのは構わないけれど、その前に一つ質問いいかしら」
そう尋ねた私を見て、キリコは首を傾むけた。
「何か?」
「どうして私達を襲ったりしたのか…その理由を聞いても?」
「どうして…ですか…さぁ、それは私にも分かりません」
「答えるつもりはないと、そう言いたいわけ?」
わざと挑発めいた口調で訊いたみた。すると、キリコは「いえ…」と小さく呟いて、
「いえ、そうではありません。使用人風情の、ガルマ様に従っているだけの私は詳しくは知らされていない、そういう意味で言いました。私のただただガルマ様の命令に従うに過ぎない…ガルマ様に凶刃を向ける賊の排除と、ガルマ様の意向に背く者に対する調教と、そして…この屋敷を穢す、暴徒の排除です」
そんな言葉を皮切りに、キリコが動き始めた。目で追うのがやっとといった猛スピードで急接近、
「死になさい」
そう言ったキリコが鎌を振り上げる姿を目の当たりにしていた。
やばい、避けらないーーー
【ルンルンさん!しゃがんで下さい!】
背後、ザラの叫び声を聞いた。一瞬の反応が遅れていればもしかしたらは死んでいたかもしれないーーーキリコの振り抜いた鎌の一閃を頭上に、そんな事を思っていた。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
今のはかなり危なかった。死ぬかと思った。
「よく避けましたねぇ…殺すつもりで仕掛けたのですが…だったら、これはどうですか?」
と、再度キリコが鎌を振り構えるのを見た、次の瞬間、
【ルンルンさんから離れなさぁああああああい!!】
勢い良く前へと飛びだしたザラがキリコの頰を思いっきり殴り飛ばしていたのだった。そうしてキリコの体がぐらりと揺らぎ、数メートル後退する。
あれ?結構効いてる?
「ざ、ザラ!?」
【ルンルンさん!お怪我はありませんかぁ!?】
「え、ええ…私は大丈夫だけど…」
あんたやっぱり何者よ!?
【まぁ、それは一先ず置いといて…ルンルンさん!この場は私にも任せて先に行って下さい!】
「な、何言ってんの!?そんなこと出来るわけないじゃない!?」
キリコの戦闘力はまだ分からないが、あの身のこなし…ただの使用人ってわけでもないだろう。あれはある程度戦闘経験に精通した者の動きである。しかもだ、悔しいが…多分、体術は私よりも遥かに格上な様子。
「ザラ、マグレで勝てる相手じゃないのよ!?」
そう、たまたまパンチが当たったぐらいでキリコは倒れたりはしない。
「はぁ…痛いですねぇ…今のは少々意表を突かれましたが、今度はそうもいきませんよ?」
ほらな、まだピンピンしてる….
キリコは頰をさすりながら立ち上がると、血混じりの唾を吐き捨てた。
「ザラ!ここは私に任せて、貴女は逃げなさい!」
勝てるかどうかは分からない。だが、幼いザラを残して先へと進むぐらいなら…
「貴女は街へと戻って、誰が大人の人を呼んでーー」
ーーきなさいと、言いかけた、次の瞬間だった。私の脇をザラがすり抜けた。まさに一瞬、慌ててザラを目で追うと、どうやら再度キリコに特攻を仕掛けるらしい。
【大丈夫ですよルンルンさん!私、負けませんから…それを、今証明してみせます、】
そう言ったザラは事実、キリコの体を鎌ごと蹴り飛ばしていた。キリコにダメージはないようだが、それでも圧倒されるようには後退りをしていた。
まさか、対等に渡り合えている?
「へぇ、お嬢ちゃん…なかなかやるのね。甘く見ていたわ」
【私、今、褒められてますぅ!?】
興奮気味にそう訊いたザラに、キリコはフッと笑って、
「ええ、久しぶりに殺しがいのある獲物に出会えて嬉しいわ」
【やったぁ!ルンルンさん今の聞きましたぁ!?私、キリコさんに認められましたよ!?】
何であんたそんなに嬉しそうにしてるわけ!?
【というわけでルンルンさん、先に進んで、シノミヤさんの救出をお願いします!私も直ぐに追いつきますので】
威勢良く叫んだザラをキリコはきつく睨んで、
「ふん、そんなこと許しませんよ?『この廊下を真っ直ぐ進んで左に曲がって直ぐの部屋の中のタンスの裏にはある隠し扉にはいるガルマ様の元には行かせません』…」
【ですってルンルンさん!この廊下を真っ直ぐ進んで左に曲がって直ぐの部屋の中のタンスの裏にはある隠し扉にはいるガルマの元へ行って下さい!…きっと、そこにシノミヤさんも居るはずです!】
な、成る程…
「…ま、まさか…この私に誘導尋問を仕掛けるだなんて…やられました…」
キリコは頭に手を当てて、してやられたとは言わん口振りでは呟いた。
「い、いや…別に誘導尋問なんかしてないんだけど…」
もしかしたら、かなりの天然さんなのかもしれないな…いや、今はそんな事どっちでもよくて…
「ザラ、本当に…一人で大丈夫?」
【もちろんです!ルンルンさん、信じて下さい!】
「……うん、分かった。でも、危なくなったら直ぐに逃げるのよ!?いいね!?」
【はい!】
今はザラを信用しようと、そう思った。
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