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【外伝】 首のない魔物が現れた!
第24話 ザラトリッチについて
しおりを挟む気絶したルンルンをおぶって野営地へ戻ると、俺は一回深呼吸を挟み、改めて真向かいにいるそいつを見た。
【わぁー焚き火だぁー、あったかーい…うふふ】
焚き火に手を当て、可愛らしい声を上げてはそう言った鎧姿のそいつ。これで顔があれば完璧だったのだが、そいつ曰く、頭は落としてしまったのこと。何故か一緒に連れて来てしまっていた。
【私の名前はザラトリッチ。よろしくお願いしますね、シノミヤさん!】
陽気な声で鎧姿ーーーザラトリッチは言った。てか待て冷静に考えろ俺、顔がなければ口もないのにザラトリッチはどうやって喋っているんだ?
【…まぁ、細かい事はいいじゃないですか?】
「細かい事と言うかかなり重要なことだと思うぞ、人として」
【あ、それなんですけど…私、実は人じゃないんです】
「…はい?」
今こいつ、何て言った?
【シノミヤさんは…デュラハンって、ご存知ですか?】
「デュラハン?」
聞いたことなかった。
【そうですね…ざっくり言いますと、魔物の一種でして、巷では『首なし騎士』とか呼ばれていたりします…あ、でもでも、実際はそうじゃなくて!ただ首が取れやすいだけで、本当は頭あるんですよ!?】
と、ザラトリッチは手をパタパタとはためかせ必死に否定した。だだ首のないヤツに言われても説得力皆無なわけだがなぁ…
「まぁいいや、つまりザラトリッチはデュラハンっていう魔物で、頭が取れやすくて、んで実際に落っことして困っていると…そういうこと?」
自分で言ってて何だが無茶苦茶な事を言っている気がするが、
【はい!それであってます!ただ付け加えると、一緒に私の頭を探してほしいと…そう思っています!】
ザラトリッチは姿勢を正して、ない頭を下げる仕草を見せつけてそう言った。誠意ある態度だった。別に協力してあげてもいいとも思う、だが…
「探すったってさぁ…この暗闇の中どうやって探すわけよ?」
俺は腕を組んで尋ねた。
【あ、その点につきましては大丈夫です!頭に近づけば…なんかこう…ビビッと反応するんで!】
えらいザックリした説明だなぁおい。
【協力して…くれませんか?】
ザラトリッチは甘えるような声を出して、不意に俺の手を握り締めてきた。これで頭があればなぁ…と、そこだけが府に落ちない。言っても仕方ないが。その頭を探してほしいと頼まれているわけだし。
【駄目…ですか?】
「う、うーん…駄目、じゃないけど…」
果たして信用していいものか?仮にもザラトリッチは魔物だと自分から自白していて、これが魔物の巧妙な罠だと考えられなくもない。
だが、俺を騙そうとしている様子にも見えないし…
俺は頭を悩ませていた。そうして流すようには首のないザラトリッチを見て、何だか不憫に思えて仕方がなかった。
そうさ、俺は根っからのお人好し、困った人に対し見て見ぬ振りなど俺にはできないのである。ま、人じゃないんだけどね。
「………はぁ、分かったよ」
俺はザラトリッチの肩に手を置いて言った。
【え、ほんとですかぁ!?やったぁ!!】
ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶ首のない鎧姿ザラトリッチ。その喜びようとは見方によれば微笑ましくもあるが、逆に考えればそんなオーバーなリアクションのせいで頭を落としたのでは…と、思えなくもない。
何はともあれ、俺は気絶したルンルンに毛布をかけるとザラトリッチと二人、山の中へ入っていった。
◆◇◆◇◆
頭探しの間、ザラトリッチは様々なことを語り出した。それはデュラハンという魔物の一族に始まり、何でもデュラハン一族は世界でもかなり稀な存在であるということ、そしてザラトリッチとは、そんなデュラハン一族の最後の生き残りであるということを…
【デュラハン一族はですね、かつて魔物と人間の争いでその殆どが死んでしまったのです。冒険者なら知っていると思いますが、100年前、魔物を率いて人間達に攻撃を仕掛けたビルマ・マルクレイドっていう異世界転生者がいまして…】
ああ、また始まったと、そう思った。
ビルマ・マルクレイド…その名は嫌となる程に知ってるよ。何故ならその生まれ変わりが俺なんだからなぁ…
【でして、そのビルママルクレイドの生まれ変わりが、ここ最近誕生したようなのです。というのも一週間前、突然懐かしいような、またそれでいて恐ろしいような、表現しがたい波動を私は感じたのです!もしかしたらビルマ・マルクレイドの生まれ変わりが本当に誕生したんじゃないかって、そんな感じでした、はい!】
ザラトリッチは興奮して言った。一週間前と言えば、魔物達が大集合したあの時か。
で、あるならばだ…ザラトリッチが言う『表現しがたい波動』とは、その時にも俺が知らず知らずの内に発したものを指すのか?もしかしたら、魔物達に対して一喝した時のあれだったりして…確かに魔物はあの一喝で黙りはしたが…
ん、でも待てよ…確か他の魔物達は俺が何をしなくてもビルマ・マルクレイドの生まれ変わりと分かっていたような…ザラトリッチには俺がどういった存在なのか理解できていない、とか?
つまり俺の中で何かが変わった、のかもしれない。
「…ま、考えても仕方ねーか…」
【ん、どうかしましたか?】
「え?あ、いやこっちの話!あはは…」
いかんいかん。
「それで、ザラトリッチはビルマ・マルクレイドの生まれ変わりを見分ける事ができたりするのか?」
【あ、それなんですけど…私が感覚にてビルマ・マルクレイドを知覚出来たのは一週間前のあの日が最後なんです。というのもですね、私、元々あまり魔力保有値が高くないんです…はい…魔力が少なければ、感知能力も自ずと限られてくるわけです】
とザラトリッチ。ただどこか腑に落ちないような口振りでは続けて、
【でも、それにしたってですよ?ビルマ・マルクレイドの強大な力を感じる程度にはあった筈なんです!それなのに…今では全く知覚できません。プッツリと遮断されたみたいに反応が消失してしまったんです…もしかして、何かあったのかもしれません…ああ、心配ですよぉ…】
「…へ、へぇ…」
そうなのか。やっぱりあれから魔物がパッタリと俺の前に現れなくなったのは何も偶然ではないみたいだな。自分でも理屈は分からないけど…
「でもさぁ、ザラトリッチがそこまで心配するようかことなの?」
そう言ったのが誤りだと気付いたのは、それから数秒後のことであった。見ると、ザラトリッチはガタガタと身体を震わせていて、
【当たり前じゃないですか!?叛逆の竜皇女ビルマ・マルクレイドは私のお母様がお慕えしていた偉大な方なんですから!】
と、声を荒げるのだった。
「お母様?」
【はい!デュラハン一族随一の魔剣士として名を馳せた『魔族劍帝ザラトリアス』とは、何を隠そう私のお母様なのです!】
フフンと鼻高々にザラトリッチは言った。
「魔族劍帝…ザラトリアス?」
【あれ、聞いたことありませんか?結構有名だと思うんですが…叛逆の竜皇女ビルマ・マルクレイドに絶対忠誠を誓った最強の魔物達がいまして、それらは『四魔星』と呼ばれているんですけど、『東鬼の王 酒呑童子』『最古の吸血鬼 エリザ・ベリアノート』『霊界の支配者ダストスモッグス』、そして最後の四魔星こそ…『魔族劍帝ザラトリアス』、私の尊敬するお母様!】
うん、詳しくは分からないけれど、多分、俺が想像しているよりも遥かにヤバい連中だということだけは伝わるよ。てかビルマ・マルクレイドはそんな連中を従えるほどに強かったってことか?
【ええ、そりゃあもうとんでもない方だったと聞きますよ。実際お母様も闘ったらしいんですけど、何でも圧倒的な力でねじ伏せて強引に配下に加えたとか。まぁ、お母様がビルマ・マルクレイドの強さに惚れ込んで自分から進んで軍門に潜ったってのもあるんですが】
「そ、そうか…」
俺がそのビルマ・マルクレイドの生まれ変わりだって言ったら、ザラトリッチはどんな反応を浮かべるのか…考えるのも嫌になる。
【でも、お母様は100年前の戦争で負けて死んじゃったんです…】
ザラトリッチは肩をガックシと落とした。ここ、励ますべき?
「…色々と、大変だったんだね」
とりあえず、当たり障りのない事を言ってみた。
【分かってくれますか!?シノミヤさん!】
「え、うん…」
【嬉しい!お母様を殺した同じ人間ってとこは殺したいほど憎いですけど、私、シノミヤさんとは仲良くなれそうな気がします!】
そう言って、ザラトリッチの熱い抱擁を受ける俺とは一体?
【ささ、先へ進みましょうシノミヤさん!】
「お、おー」
帰りたくなってきた。
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