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第2章 ゴブリンに襲われた!

第7話 ゴブリン

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 俺たちは夜に現れるとされるゴブリン達を見張るべく、ゴブリン達がやってくるとされる森には野営していた。
 
 焚き火をくべ、俺たちは暖をとる。やたらと冷えた。

「ルンルン、これって初の実戦だよね」

「もちろんよ」

「怖くないの?」

「当然。ゴブリンなんて下級の魔物に何を臆する必要があるっての?」

「いやでも、初めてだし」

 そう呟いた俺に、ルンルンはニヤニヤとした笑みを見せて、

「あらぁ、どうしたのかしらシノミヤちゃん?まさか怯えちゃってるわけぇ?」

「うん、ちょっと」
 
 正直に俺は言った。いくら下級の魔物といっても、生前ゴキブリさえも殺せなかった俺は自信がなかったのだ。

「ふふふ、素直ね。いいわ、シノミヤ貴女は私の後ろで見てるといいわ。にしてもら…怖がってるシノミヤも可愛いわね」

「ちょっと近い」

「いいじゃない、戦うのは私なんだから我慢しないさい!」

 と、俺とルンルンがじゃれ合っていた、その時。

「ニンゲン、ニンゲン…」

 頭上から声を聞いた。やけに篭った声だった。しかも声は一つではなく、

「ニンゲンダ」
「ニンゲン、オイシイ?」
「シラナイ、デモオイシソウ」
「タベル?」
「トリアエズ、ツカマエル?」

 計5つの声。俺は声の聞こえる方へと目を向けて、闇夜に光る無数の黄色い色を見た。多分、あれは眼光。状況から察して、

「ルンルン、ゴブリン来たんじゃない?」

「みたいね」

 ルンルンはサッと背に吊るした長剣を引き抜くと、ゆっくりとは構えた。

「何やってるのシノミヤ、貴女も構えなさい!」

「えっ、何を?」

「武器に決まってるでしょ!?腰の剣!」

「ああ、これか」
 
 俺は腰から銅の剣を抜くて、見様見真似には剣を構えた。

「こんな感じ?」

「もっと脇を締めなさい」

「ん、こう?」

「違う!」

「ニンゲン、ナニヤッテンノ?」

 そんな声は、俺のすぐ背後から聞こえてきた。すぐさま振り向いて、俺は一匹のゴブリンと対峙した。緑の肌に、小さな子供のような体型に、シワの多い顔面、一見して、こいつはゴブリンだ。

「あれ、なんか案外可愛い?」

「ば、馬鹿シノミヤ!離れなさい!」

「えっ?」

 ルンルンの忠告に耳を傾けて時には既に遅かった。頭上から降りてきた数体のゴブリンに組みつかれ、俺は地面へと押し倒された。

「ニンゲン、ヨワイ」
「ドウスル?」
「トリアエズ、ツレテク?」
「ソウシヨウ」

 ゴブリン達は話し合いが終わったのか、皆で俺の足首を掴んでは、そのまま物凄いスピードでは引き摺り始めた。

「る、ルンルン助けて!」

「し、シノミヤぁあああ!!」

「うわぁあああ!」

 俺はグイグイと森の中へと引き摺られ、少しした頃には既にルンルンの叫び声は聞こえなくなっていた。それほどには遠く、森の奥地とは引き摺れてしまったらしい。

 そのまま引き摺られ、ゴブリンの足が止まった。それと同時に俺の体に再びゴブリン達は組みついて、

「ニンゲン?」
「イキテル?」
「イキテルヨネ?」
「シンダ?」
「シンデナイヨネ?」

 物珍しそうには俺の顔を覗いて、俺のほっぺをペチペチとは叩いたり、俺の全身触ったり、やりたい放題である。

「いててて…何すんだよ」

「ニンゲン!」
「イキテル!」
「シャベッテル!」
「ゲンキカ!?」
「ゲンキソウダナ!」

 とは五匹のゴブリンは、何だか嬉しそうにはしていた。何なんだよ全く。

「おい、とりあえず離してくんないか?」

「オオ、ワルイ」
「ミンナ、ハナレロ!」
「「オウ!!」」

 案外すんなりとはゴブリンは離れてくれた。しかも俺の体をいたわってくれているのか起き上がるのに手を貸してくれている。いやいや、そんな優しさあるなら引き摺るなよな。

「ニンゲン、ヒフガウスイ」
「キズダラケ」
「ヒキズッタセイ?」
「キットソウダ」
「カワイソウダネ」

 申し訳なさそうにはひそひそと話し合っていた。そうして話し合いが終わったのか、ゴブリンは近くはある洞窟の中へと消えていった。あれはもしかして、ゴブリンの住処だろうか?

「ニンゲン、コレヌッタラヨクナルヨ」

 しばらくして、洞窟から戻ってきたゴブリン達は緑の葉っぱを差し出して言った。

「これは?」

「ヤクソウ。キズニキク」

「ああ、そうなのか」

 見ると、薬草と呼ばれる葉っぱの表面はヌルヌルとして茶色の液体が染み出している。

「ヌッテアゲル」

「えっ?」

「ミンナ、ニンゲンニヤクソウヲ!」

「「「ワカッタ!!」」」

「ちょ、ちょっと待て!?何だよ塗るって!?て馬鹿!そんなとこ触るな!う、うわぁあああああああ!!」
 
 こうして、俺は何故かゴブリンに引き摺られ、何故かゴブリンに薬草を塗られていた。服まで脱がされた時はどうなると思ったが、幸いにも変な展開にならなかっただけマシだと考えよう。

「体がスースーするな」

「ヤクソウガキイテルショウコ」

 俺は服を着ると、ゴブリン達の前へと座り問いただした。

「どうして俺の事連れてきたんだ?」

 すると、一体のゴブリンが口を開いた。

「オイシソウダッタカラ」

「おい、じゃあ食べるつもりだったってわけかよ?」

「ウン」

「いやいや、じゃあ何で治療を?」

「ナンカ、ヤッパリカワイソウダッタカラ…ナ?」

 そう言って、ゴブリン達は顔を見合わせ、

「ダナ」
「ニンゲンヨワイ」
「ヨワイモノイジメヨクナイ」
「ヨクナイ」

 と、ゴブリン達はニッコリと笑った。不覚にも可愛いと思ってしまった俺はどうかしている。

「トリアエズ、アジトニイコウニンゲン」

 有無も言わせず、俺はゴブリン達に手を引かれ、そのまま洞窟の中へ入っていった。

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