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第12章 王都にやって来た!
第48話 初めての出会い
しおりを挟む昼下がりとなって、俺たちは一件の飯屋に立ち寄った。特に何が食いたいというわけではなかったが、空腹には逆らえず適当に入ったのである。
店内はかなり混んでいた。俺たちが座ったテラス側のテーブル席を最後に、空席はなかった。さすが王都だ。ここならどんな店を開いても、大繁盛は間違いなさそうだ。問題は何で繁盛するかだが、異世界転生者である俺なら生前の知識をフルに活用していろいろとやれそうな気がする。そうすれば金もジャンジャン溜まるし、案外良い手かもしれない。
と、欲深い思案を巡らせる俺をよそに、
「まずは肉ね」
【ですね】
ルンルンとザラはハモりながらそう言った。また顔を見合わせて、
「ザラ、あんた良く分かってんじゃん」
【ルンルンさんこそ】
肩を組み、気持ち悪い笑みを浮かべていた。
二人は一体いつからこんなにも仲良くなったのか……まあ、いいや。
「じゃあ俺は、魚にでも……」
「魚!? シノミヤ、正気なの!?」
【そうですよ!? 魚なんて、なんで!?】
え?
「いや、いいじゃん別に。俺の勝手だろ」
ルンルンは不敵な笑みを浮かべた。
「ふーん。せっかく忠告してあげてるのにー」
ザラはルンルンとは別な反応で、戸惑っていた。
【止めませんけど……でも、シノミヤさんの意思を尊重するしかありませんね……】
と、この様子。
二人はどうしてここまで魚に怪訝な反応を見せるのか、俺には皆目見当もつかなかった。いや確かに、魚は独特の臭みがあったり、味付けの濃さに於いても獣肉には敵わないだろう。
だが待ってほしい。魚には魚の良さがあるんだって、俺は声を大にして叫びたい!
……と、息巻いていたのも束の間、
「だから言ったじゃない。食べない方がいいって」
トイレのドア越しから、ルンルンが「私は悪くないからね」とそうも言ってきた。
俺はギュルルルッと魔物の唸り声のような音を立てるお腹をさすりながら、苦言を呈す。
「あ~、いたたたたたたた……そう言うんだったら、もっと強く止めてくれたっていいだろ!?」
俺は急激な腹痛に蝕まれ、トイレから動けなくなっていた。なんでも、この異世界の魚(厳密には魚ではなく、魚のような姿をした魔物らしい)は特異な魔素を持っているらしく、それは異世界転生者である者には毒となってしまうのだと、
「って、最初に案内所で言われた筈でしょ? シノミヤ、まさか聞いてなかったの」
「わ、わかんないぃぃ……」
覚えてねーよそんなこと!
てか、腹が痛い! 痛い痛い!
【ご愁傷様ですシノミヤさん。痛みを取り除く方法は至ってシンプル、シノミヤさんの腹を蝕む魔素を出し続けるだけ。シノミヤさん、負けずに踏ん張って下さいね!】
「そうよシノミヤ! 気張るのよ!」
こいつら、他人事だと思いやがって……
「じゃ、シノミヤ! 私たちは王都の探検を続けるからね」
俺は便器に腰つかせたまま、前のめりになりながら扉を叩いた。
「は、はあ!? ちょ待って! 置いてくつもり!?」
「だって、まだまだ時間かかるでしょ?」
「いやかかるけど、かかるけども!?」
「だったらいいじゃない。日が暮れたら、ギルド酒場に集合よ。第4地区にアルタイルっていうメチャでかいギルドがあるみたいだから、方向音痴でもきっと分かる筈だから」
「待って! お願い見捨てないで!」
ドア壁一枚挟んだ向こう側から、足音が去っていく。最後に聞いたのは、ザラの申し訳なさそうにする声で【シノミヤさん、ガンバ!】と、言っていることは全然申し訳なさそうじゃなかった。
腹痛がおさまったのは、それから数時間後だった。飯屋の裏側に併設された個室トイレからいそいそと外へと出る。
あんなに高くにあった陽も、今でも傾きつつある。もうそろそろで、夕方になろうとしていた。
「全く、来て早々ついてないな~」
仕方なく、俺は一人王都を探検することにした。
人通りは昼に比べると、落ち着いているように思えた。だがそこは腐っても王都、量が多いという部分には変わりなかった。
しばらく適当に歩き、疲れた頃、ひらけた場所に出た。中央には立派な噴水があり、噴水の前にはこれまた立派な石像が直立していた。
人型の石像だった。しかもよく見ると、剣を掲げた青年の姿をしている。
近くで見ると、かなり精巧な作りであることが分かる。台には、この世界の文字で何やら刻まれていた。
(えっと……なになに……)
「勇者ゾルダス」
その声は、すぐ隣から聞こえてきた。
「え!?」
慌てて声の鳴った方へ視線を移すと、そこには一人の青年が立っていた。
黒い髪に、紫の目。黒いマントを羽織る、若い男だった。
てか、
(かなりイケメンじゃん……)
イケメン具合で言ったら、生前の俺と同等ぐらいか……いやいや待て、それでも俺の方がイケメンだったか。いやでも、イケメン度指数は他人が判断するものであって俺には決めれないし、でも今の俺はこうして女体なわけだから、生前の俺とは無関係なわけだし、だったらやはり俺の方がイケメーー
「どうかしましたか?」
「あ! いや、なんでも……」
青年はニコリと笑った。
改めて、顔をまじまじと眺めて見る。
やはり、こいつは正真正銘のイケメンで間違いなかった。最早他人と比べるとか、そういうレベル話ではなくこいつはとんでもないイケメンだ。何せ、元男である俺の顔が熱くなるぐらいだからな……
(認めよう……このイケメンめ!)
と、そんな俺の思慮など知る由もないだろうイケメン野郎は勝手に話し始めた。
「この石像はですね、勇者ゾルダス・バトリックを模したものなんですよ」
「へ、へぇ……え、てか勇者ゾルダスって、あのゾルダス?」
確か、ビルマ・マルクレイドを倒したとか何とかの。
「さて、僕はゾルダスという勇者を一人しか知りませんので、貴女がどのゾルダスを言っているのか知りませんが、彼は世界の破滅を防いだ英雄と、そうは呼ばれていますよ」
青年はこれまた屈託のない笑顔を浮かべて、お辞儀した。
「申し遅れました。僕の名前はクエルティーヌ・デルタ。吟遊詩人である、しがない旅人です」
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