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9巻
9-3
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モルスが聖剣を抜けるようになるためには、上位魔人を倒さなければいけないらしいからな。
神都エルランでモルスが勇者として選定され、早速聖剣を抜いてもらおうとしたのだが、なぜか抜けなかった。
その時、ファレーナに理由を聞いてみたところ、今のモルスには魂が不足していて、それを得るためには人々と交わり、さらには上位魔人を二人倒す必要があるとのことだった。
だから、どうしても精霊王に結界を何とかしてもらい、魔族のいる北の島に行かねばならない。
しかしトリスは、俺の問いに首を振る。
「それはどうかしら……私も、アーク様にはお会いしたことがないからね。会ったことがあるのは、貴種でも長老格だけだと思うわよ。言ってたじゃない、人嫌いだって。しかも、その〝人〟の中には貴種すら含まれる、ってね」
「そうは言うけどな。本人も貴種なんだろう? それなのに……」
「私に聞かれても分からないわ。どうしても疑問を晴らしたいというのなら、おじいさまに聞いてみれば? ……さて、私はそろそろ寝るわね……ふぁ……」
トリスはそう言って、あくびをしながら去っていった。
「おじいさまに聞け、ね」
まぁ、それは正しいだろう。
トリスの祖父、ラーカー。
彼はまさに貴種の長老であり、アークにもおそらく会ったことがあるはずだから。
朝食は、彼と一緒にとることになるだろう。
ついでと言っては何だが、そのときに聞けばいいか。
そう考えて、俺は寝間着から着替えることにしたのだった。
◇◆◇◆◇
「アーク様について、か。うーん……」
朝食の場には、やはりトリスの祖父ラーカーもいて、彼に尋ねる機会を得た。
モルスと俺、それにラーカーの三人という、若干むさ苦しい感じがしないでもないが、モルスとラーカーはどちらも美男である。
むさ苦しさを出しているのはもしかしたら俺だけかも、と気づき、深く考えないことにした。
それはさておき、精霊王アークとはどのような人物か、という質問に対し、ラーカーは呻いたままだ。
「……本人の許可を得ずに答えることはできない、ということでしょうか?」
ラーカーの逡巡を、俺は一種の崇拝対象に対する謙譲の気持ちからだと解釈して尋ねたが、ラーカーは首を横に振った。
「いやいや、そういうわけじゃない。まぁ、確かに僕らはあの方を尊敬しているし、本人の許可を得ないでペラペラしゃべっていいのかと言われると、よくないだろうとは思うよ。けど、ね……そもそも、あの方はそんなことは気になさらないだろうから。問題はそこじゃないんだ。ただ単純に……何と言っていいものやら、分からないんだよね……」
「というと……?」
俺が続きを促すと、ラーカーはやはり悩みつつも、ぽつりぽつりと答える。
「あの方がどういう人か、だったよね……そう、だな……まず、人が嫌い、というのは言ったね?」
「ええ。その〝人〟には貴種まで含まれるともお聞きしました」
「そうそう、そうなんだよ。これでも僕ら、貴種の長老格は、色々と仕事があってね。儀式とか祭りとか、季節ごとにあるんだ。それらはただの形式的なものじゃなくて、森の精霊術の維持やかけ直しに必要なものでね。怠ると、究極を言えば、森の生態系や、この集落の家屋が崩壊する可能性すらある。だから、どうしてもやらなきゃならないんだけど……」
精霊術による迷いの森の仕組みとか、集落の家屋の建築方法とか興味深いものがある千年王国だが、その維持はやはりというべきか、簡単なものではないらしい。
だとすると、世界が平和になったからといって、気軽にいろんなところに作ってくれ、とは言えないな……
しかし、それにしても儀式と精霊王にどんな関係があるのだろう。
ラーカーは続ける。
「そういった儀式には、当たり前の話だけど精霊術が必要なんだ。僕らには多くの精霊術師がいて、みんなその力を振り絞って儀式を行う。だけど、森全体を覆うような精霊術は負担が大きくてね。僕らだけの力ではどれほど頑張っても足りない、という場合があるんだよ」
「それで、精霊王の力が必要になる、ということですか?」
モルスがなるほど、と頷きながら尋ねた。
ラーカーも首肯して答える。
「そうさ。だから、森の精霊術が途切れそうになったとき、それが精霊王の力なくして維持が不可能だというとき、長老格が彼のもとを訪ねて力を貸してほしいとお願いするんだ」
第4話 勇者の本音
「お願い?」
俺が首を傾げると、ラーカーは言う。
「そうさ。あの方の家を訪ね、儀式に参加してくれないか、と頼む。これはお願いだろう?」
確かにそれなら、まさにお願いである。
しかし、同じ貴種なのだから、自主的に参加するということはないのだろうか。
森を守らねば、自身も困ると思うのだが。
そう尋ねると、ラーカーは首を横に振った。
「あの方は別に儀式なんて面倒なことをせずとも、何の不利益も受けない。僕らはこの森の環境を集落のために維持しなければならないけど、あの方は一人で森の奥に隠棲しているからね。集落の維持には今の森の生態系を守る必要がある。でも、あの方が一人で生きていくためには、そんなものはあってもなくてもいいんだ。精霊たちも、あの方が望むのなら何でも用意してくれるだろうしね」
それはまた、何というか。身も蓋もない話である。
では……
「何かを差し出す代わりに、とか、そういうことは……?」
労働の対価を渡せば、普通に協力してくれるのではないか、という意味の質問だったが、これにもラーカーは首を振った。
「あの方は驚くくらい、何も欲しがらない。僕ら普通の貴種でも、少しは物欲がある。ほら、弓矢の鏃は鉄製のものがあったらいいな、とか、そういうね。でもあの方は……。まぁ、食べ物は生きるために必要だと思うし、お茶くらいは貴種の嗜みとして好まれるようだが、それすらもご自分で用意してしまうからね……僕らから差し上げます、なんて言ったところで、喜んでくださるかどうか」
お茶は……前世でも確かによく飲んでいたな。少しだけ、うるさかった気がする。
食事も普通に食べてはいたが、あまり大食漢ではなかったし、グルメという雰囲気もなかった。
必要なだけ得られれば構わない、というタイプだろう。
なるほど、確かに労働の対価で協力を得られる感じではないか。
「そういうわけだから、僕らとしてはお願いするくらいしかなくてね。まぁ、それでもいつも来てくれるし、しっかりと精霊術をかけ直してくれるから、いいんだけど」
いい、とは言ったものの、ラーカーの言い方には若干の含みが感じられた。
不思議に思ったモルスが首を傾げて尋ねる。
「何か問題が?」
「実は……いつも、あまり会話ができなくてね……。色々と話しかけても、避けられるんだよ。あの方の家の扉をノックしても、返事がない。不在なのかと思ってしばらくその場で待っていると、ごそごそと人の動いている音がする。やはりいたのかと思い、しつこく名前を呼び続けて、やっと出てくる……と、そういう感じでね」
なるほど、人嫌いだ。彼は誰にも会いたくないのだと受け取るのも頷ける。
「でも、最後には出てきてくれるのでしょう?」
「ああ。でも、出てきた後、いつも言うんだよ。『愛想がなくて悪かったな、これが私の性格だ』とか、『精霊術のために私に会いに来なければならないとは、難儀なことだな』とか、あからさまな嫌味をね……。あぁ、嫌われてるなぁ僕ら、と毎回思うんだよ」
……それを聞いて、俺は少し考えた。
確かに、そのまま聞くと、偏屈な人嫌いが嫌味を飛ばしているように思えるが、前世の彼の性格を考えると……そうとは言い切れない。
まぁ、俺の想像が間違っている可能性はもちろんあるけれど、本当に人嫌いだったら前世の戦争にだって参加していないだろう。
森の奥深くに隠棲していることを考えれば、可能な限り人と顔を合わせたくない、というのは事実だとしても、しかし心の底から人が大嫌い、というほどではないと思う。
そこまで考えた俺に、ラーカーは言う。
「……ま、そんなわけだから、あんまり期待しすぎないほうがいいと思うよ。仮に返事が来たとしても、酷い断りの文句だった、なんてこともあり得るからね。そのときはまぁ、仕方ないと思って諦めるしかないよ。あの方の家に行っても門前払いだろうし……」
実に気の毒そうに言うので、手紙を送って実際に酷い目に遭った経験がおそらく彼にはあるのだろう。
とはいえ、俺たちは彼の協力をどうしても得なければならないから、こんな森の奥くんだりまで来たのだ。
仮に拒まれたとしても、それで「はい、分かりました」なんて帰れるわけがないのだった。
◇◆◇◆◇
「そこが武具を作っている工房よ。といっても、鍛冶をしているわけではないのだけど」
トリスが、集落を歩きながら一つの建物を指す。
それもまた、樹木と一体化したような、奇妙な形の建築物だ。
といっても、作りが悪いとか格好がよくないとかいうことは全くなく、単純に見慣れないという意味である。むしろ周囲の木々と緑に溢れた風景の中では、極めて自然で調和しているといえた。
ちなみに、トリスがなぜ建物の説明をしているかと言えば、ラーカーが集落の案内を提案したからだ。
俺たちが朝ご飯を食べた後、しばらくしてトリスとミレイアが身支度を終えて寝室から出てきて、彼女たちも食事をとった。
その際、君たちはしばらく暇だろうから、集落の中を見て回ってはどうか、とラーカーが言ったのだ。
実際、アークからの返事が来るまで、俺たちにはすることがない。
まぁ、せいぜい体を鈍らせないために訓練をする程度で、時間を持て余しているのは事実だったため、その提案を受け入れた。
問題があるとすれば、俺たちのような外部の――しかも祖種に、貴種の千年王国の内部を見せても構わないのか、ということだろう。
しかし、重要な施設は昨日通された主樹くらいしかなく、他は民家や職人の工房程度で、仮に破壊されたとしても、さほどの痛手にはならない場所ばかりだという。
それを聞いて、安心して案内してもらうことにしたのだが、前世において千年王国が滅びていることを知っている俺からすると、それならなぜ貴種の集落が壊滅したのか疑問に思う。
何か隠されている施設があり、それを魔族に落とされたとも考えられるが……あとでそれとなく聞いてみよう……
「鍛冶をせずに武具を作っているとなると……製品は弓矢や革の防具などだろうか?」
モルスが少し考えてからそう尋ねた。
ちなみに、今一緒に案内してもらっているのは、モルスとミレイアである。
案内人はもちろん、トリスだ。
「だいたいそうね。ちょっと中をのぞいてみる? ミレイアにとってはいいものがあるかもしれないし」
「私にですか? 何でしょう……」
トリスの言葉に首を傾げつつ、断る理由もないので四人で工房へ入る。
工房の中は、当たり前と言うべきか、祖種のそれとほとんど変わらない。
とはいえ、鍛冶工房ではなく、家具や皮革製品を作る工房であるため、道具や並んでいる品々は異なるが。
何人かの貴種が、自分に与えられた区画で作業をしている。
見れば、木材を削っている者、皮の処理をしている者など、至極普通の光景が広がっていた。
ただ、その技術は祖種のものよりもかなり高度に見える。
貴種は長命であるから、作業の一つをとっても習熟度がすさまじく、流れるような作業とはまさにこのことを言うのだろう、と思う。
そんな工房の中に完成品が並べられた区画があるが、店員などは見当たらない。
「店員さんはいないのですか?」
そのことを奇妙に思ったらしいミレイアが、トリスに尋ねた。
「決まった店員、というのはいないわね。私たちはあまり、祖種みたいな貨幣による取引をしないから。物々交換が多いの。工房の職人の誰かに言って、取引をする感じね」
全くしない、と言わないのは、他種族と取引する場合には普通に貨幣を使っているからだろう。
まぁ、他種族との間でも物々交換はできるが、やはり価値がはっきりしている貨幣による取引が好まれるからな。
こればかりは、貴種もわがままは言えないはずだ。
よほど価値のあるもの、珍しいものだったら別だろうが、貴種が出せる貴重品といったら、主に森にいる強力な魔物の素材である。
いくら貴種が優れた精霊術師を多く輩出する種族であるとはいえ、彼らも強力な魔物をそう定期的に狩れるものではない。
実力的にもそうだし、そもそも強力な魔物は少ないのだ。
大食漢だったり、一定以上の魔力濃度が必要だったりするため、個体として強いからといって、種族として繁栄しているわけではないのである。
人に置き換えて考えてみても、個体として最も弱い種族である俺たち祖種が、この世で一番数の多い人類種だしな。
「……あ、これは短杖ですね?」
どうでもいいことを考えていると、工房に並ぶ武具の完成品を眺めていたミレイアがトリスに問いかける。
彼女の視線の先を見ると、確かにそこには木製の短杖がいくつも並べてあった。
先端というか、持ち手の先には魔石が取り付けられ、杖の全体に精緻な彫刻が施されている極めて流麗な品ばかりである。
なるほど、他の武具ならともかく、短杖は魔法を使うための触媒であるし、必ずしも金属製である必要はない。
金属を扱うのが得意でない貴種の工房にあってもおかしくはない品だった。
先ほどトリスが、ミレイアにとっていいものがある、と言ったのは、このことだろう。
もちろん、魔術師である俺やトリスにとってもいいものだが、治癒術が魔法の中でも最も負担が大きいからな。
それを減らしてくれる可能性のある魔力触媒があれば、ミレイアも嬉しいだろう。
まぁ、大英雄と言われるほど高い治癒能力を持つ彼女に、果たしてそういったものが必要なのかと言われると微妙だが……ないよりはあったほうがいい。
「そうよ。どれか気に入ったものがあったら、手に取ってみるといいわ。せっかく貴種の集落に来たんだから、お土産にって、おじいさまがラペ長老に持ち出しの許可を取ってくれたの。本当は門外不出なんだけどね」
トリスは何の気なしに言ったが、これは驚くべきことだ。
何せ、貴種の魔力触媒といったら外では相当な値打ちものである。
王国ではいくつかの貴族の家で、家宝として代々受け継がれているとか、そういうレベルの品だ。
それを、こんな風にぽんっとくれるなど、普通はあり得ない。
前世では魔族の襲撃によって、貴種の武具の大半が消失してしまったから、軍の魔術師たちは持つことができなかった……それはミレイアも同じだっただろう。
しかし今回は……
何が幸運になるか分からないものだな。
「あぁ、ジョンとモルスもよければ」
トリスが続けた言葉を聞いて、俺とモルスは顔を見合わせる。
俺は驚いて、モルスはどう反応したらいいのか分からずに、という感じだ。
モルスは、ファレーナに魂がないと言われただけあって、こういう感情を出すべきところでうまく出せないことが多い。
それは魂がなくからっぽだからなのか、それとも、人であることを学ぼうとしているからなのかは分からない。
ただ、魂がないというけれど、何の感情も存在しないかといえば、俺にはそうは見えない。
だいたい、魂がなくなると感情もまた失われるのであれば、ファレーナにその多くを食われている俺はどうなのか。
これで結構、感情の起伏は激しいほうであるし、人の持つ感情と、魂の有無はそれほど関係がないのではないか、という気がする。
……まぁ、考えても答えは出ないか。
それよりも、今は杖のことだ。
「俺たちも、いいのか?」
俺がトリスにそう尋ねると、彼女は頷く。
「ええ。私ももらうつもりだしね。魔法学院に行く前は絶対にダメだとおじいさまに言われていたけど、しっかりと卒業して軍に入ってからは、集落に戻ってきたら好きなものを選ぶといいと言われて、楽しみにしていたのよ。遠慮なんて一切する気はないわね」
そんなことを言いながら、彼女は杖を物色し始めた。
俺はトリスに呆れつつ、モルスに声をかける。
「……こいつがここまで言うんだ。俺たちも遠慮せず選ばせてもらおう」
「あぁ……しかし、いずれの杖も美しいな。武器として使うのがもったいないくらいだ」
頷いたモルスが杖に興味を引かれているようなことを言ったので、やはり、彼にはしっかりとした心がある、と確信することができた。
これは、今後のためにも大事なことだ。
心のない人間に、戦いを強要するのはつらいからな。まるで、人を道具として扱っているようで。
まぁ、心のある人間に戦いを強要するのもまた、別の意味で苦しくはあるが……少なくとも、本人が選んで決めている、というのは大事なことだ。
……なんて言うと、まるで俺が責任から逃げているみたいだな。
確かにそういう面もあるのかもしれない。
俺は、あの前世の悲惨な状況を繰り返さないために、自分のできることはすべてして、差し出せるものは、それこそ自分の命だって捧げようと思っている。
だから、他人の命もまた、そうすることにさしたる迷いを感じなくなっているのだろう。
しかし、まだどこかに、それは悪魔の所業であって許されるものではない、という感覚もあり……
だからこそ、免罪符を求めている。
俺が強要したわけではない、本人の意思で決めたことだ、と。
「……意気地がないのかな」
ぼそりと呟くと、モルスは俺をちらりと見て言う。
「ジョンが、か? そんなことはない……お前は何事にもまっすぐ取り組んでいる。ただ、目的のためにはどんなことでもしようとする、ある種の恐ろしさも感じるが……それというのも、お前に人並み外れた勇気と、執着があるからだろう」
なるほど、確かに俺にはそういうものがある。
自らの死すら恐れないことを勇気と呼ぶなら、俺は勇気を持っているだろう。
何があっても目的を達成するという覚悟を執着と呼ぶのなら、それもまた、正しい。
「だけど、そのために人に迷惑をかけたくはないんだよな……」
そんな風に言うと、モルスは首を横に振る。
「誰もお前の言うことややることを、迷惑だなんて思っていないだろう。カレンをはじめとする魔族討伐軍の人々も、国王陛下も、俺もミレイアも。なぜだかな、お前が進む先には道があるような……そんな気がするからだ。だから、考えすぎるな」
それは慰めなのか、それとも本気でそう思っているのか。
どちらなのか尋ねようと思ったが、〝勇者〟の言葉にどうこう言えるほど、俺の〝勇者〟に対する信仰は浅くない。
彼が言うのなら、そうなのだ。
俺は気持ちを新たにして、今までの自分と、これからの自分に自信を持つことにしたのだった。
第5話 精霊王の返答
「……おっと、戻ってきたか。さきほど知らせがあってね。アーク様から返事が来たみたいだよ」
家に戻ると、俺たちが帰ったことに気づいたラーカーがそう言った。
返事が来るまでにかなり長い時間がかかることも覚悟していただけに、思いのほか早くて驚く。
それはラーカーも同じだったようだ。
「今回は随分と早く返事をしてくれたものだよ。いつもなら数日どころか、一月二月経って、なんてこともザラだからね。早速だけど、内容を聞きに主樹の方へ行ってみるかい? 僕もまだどんな返事だったかは知らないんだ」
聞けば、貴種の伝令が手紙の到達を知らせに来ただけで、内容については口にしなかったらしい。
というのも、アークは貴種にとっては神にも等しい人物であり、手紙の内容も重要文書扱いで、伝言で済ませることなど許されないからだ。
手紙の内容を知りたいなら実際に見に来い、というわけである。
若干の面倒くささを感じるが、アークを国王みたいなものだと思えば、まぁ、分からない話でもない。
国王陛下から何かお言葉がある、王城まで来るように、と言われているようなものだ。
なるほど、そう考えると伝令の口から言ってくれればいいだろう、などというのは不敬である。
そう結論づけた俺は、ラーカーに返答する。
「今すぐ行ってもいいなら、ぜひ」
トリスやモルス、それにミレイアも特に反対の表情はしていないので、問題ないだろう。
ラーカーが頷き、立ち上がって家の扉に向かったので、俺たちも続いた。
◇◆◇◆◇
神都エルランでモルスが勇者として選定され、早速聖剣を抜いてもらおうとしたのだが、なぜか抜けなかった。
その時、ファレーナに理由を聞いてみたところ、今のモルスには魂が不足していて、それを得るためには人々と交わり、さらには上位魔人を二人倒す必要があるとのことだった。
だから、どうしても精霊王に結界を何とかしてもらい、魔族のいる北の島に行かねばならない。
しかしトリスは、俺の問いに首を振る。
「それはどうかしら……私も、アーク様にはお会いしたことがないからね。会ったことがあるのは、貴種でも長老格だけだと思うわよ。言ってたじゃない、人嫌いだって。しかも、その〝人〟の中には貴種すら含まれる、ってね」
「そうは言うけどな。本人も貴種なんだろう? それなのに……」
「私に聞かれても分からないわ。どうしても疑問を晴らしたいというのなら、おじいさまに聞いてみれば? ……さて、私はそろそろ寝るわね……ふぁ……」
トリスはそう言って、あくびをしながら去っていった。
「おじいさまに聞け、ね」
まぁ、それは正しいだろう。
トリスの祖父、ラーカー。
彼はまさに貴種の長老であり、アークにもおそらく会ったことがあるはずだから。
朝食は、彼と一緒にとることになるだろう。
ついでと言っては何だが、そのときに聞けばいいか。
そう考えて、俺は寝間着から着替えることにしたのだった。
◇◆◇◆◇
「アーク様について、か。うーん……」
朝食の場には、やはりトリスの祖父ラーカーもいて、彼に尋ねる機会を得た。
モルスと俺、それにラーカーの三人という、若干むさ苦しい感じがしないでもないが、モルスとラーカーはどちらも美男である。
むさ苦しさを出しているのはもしかしたら俺だけかも、と気づき、深く考えないことにした。
それはさておき、精霊王アークとはどのような人物か、という質問に対し、ラーカーは呻いたままだ。
「……本人の許可を得ずに答えることはできない、ということでしょうか?」
ラーカーの逡巡を、俺は一種の崇拝対象に対する謙譲の気持ちからだと解釈して尋ねたが、ラーカーは首を横に振った。
「いやいや、そういうわけじゃない。まぁ、確かに僕らはあの方を尊敬しているし、本人の許可を得ないでペラペラしゃべっていいのかと言われると、よくないだろうとは思うよ。けど、ね……そもそも、あの方はそんなことは気になさらないだろうから。問題はそこじゃないんだ。ただ単純に……何と言っていいものやら、分からないんだよね……」
「というと……?」
俺が続きを促すと、ラーカーはやはり悩みつつも、ぽつりぽつりと答える。
「あの方がどういう人か、だったよね……そう、だな……まず、人が嫌い、というのは言ったね?」
「ええ。その〝人〟には貴種まで含まれるともお聞きしました」
「そうそう、そうなんだよ。これでも僕ら、貴種の長老格は、色々と仕事があってね。儀式とか祭りとか、季節ごとにあるんだ。それらはただの形式的なものじゃなくて、森の精霊術の維持やかけ直しに必要なものでね。怠ると、究極を言えば、森の生態系や、この集落の家屋が崩壊する可能性すらある。だから、どうしてもやらなきゃならないんだけど……」
精霊術による迷いの森の仕組みとか、集落の家屋の建築方法とか興味深いものがある千年王国だが、その維持はやはりというべきか、簡単なものではないらしい。
だとすると、世界が平和になったからといって、気軽にいろんなところに作ってくれ、とは言えないな……
しかし、それにしても儀式と精霊王にどんな関係があるのだろう。
ラーカーは続ける。
「そういった儀式には、当たり前の話だけど精霊術が必要なんだ。僕らには多くの精霊術師がいて、みんなその力を振り絞って儀式を行う。だけど、森全体を覆うような精霊術は負担が大きくてね。僕らだけの力ではどれほど頑張っても足りない、という場合があるんだよ」
「それで、精霊王の力が必要になる、ということですか?」
モルスがなるほど、と頷きながら尋ねた。
ラーカーも首肯して答える。
「そうさ。だから、森の精霊術が途切れそうになったとき、それが精霊王の力なくして維持が不可能だというとき、長老格が彼のもとを訪ねて力を貸してほしいとお願いするんだ」
第4話 勇者の本音
「お願い?」
俺が首を傾げると、ラーカーは言う。
「そうさ。あの方の家を訪ね、儀式に参加してくれないか、と頼む。これはお願いだろう?」
確かにそれなら、まさにお願いである。
しかし、同じ貴種なのだから、自主的に参加するということはないのだろうか。
森を守らねば、自身も困ると思うのだが。
そう尋ねると、ラーカーは首を横に振った。
「あの方は別に儀式なんて面倒なことをせずとも、何の不利益も受けない。僕らはこの森の環境を集落のために維持しなければならないけど、あの方は一人で森の奥に隠棲しているからね。集落の維持には今の森の生態系を守る必要がある。でも、あの方が一人で生きていくためには、そんなものはあってもなくてもいいんだ。精霊たちも、あの方が望むのなら何でも用意してくれるだろうしね」
それはまた、何というか。身も蓋もない話である。
では……
「何かを差し出す代わりに、とか、そういうことは……?」
労働の対価を渡せば、普通に協力してくれるのではないか、という意味の質問だったが、これにもラーカーは首を振った。
「あの方は驚くくらい、何も欲しがらない。僕ら普通の貴種でも、少しは物欲がある。ほら、弓矢の鏃は鉄製のものがあったらいいな、とか、そういうね。でもあの方は……。まぁ、食べ物は生きるために必要だと思うし、お茶くらいは貴種の嗜みとして好まれるようだが、それすらもご自分で用意してしまうからね……僕らから差し上げます、なんて言ったところで、喜んでくださるかどうか」
お茶は……前世でも確かによく飲んでいたな。少しだけ、うるさかった気がする。
食事も普通に食べてはいたが、あまり大食漢ではなかったし、グルメという雰囲気もなかった。
必要なだけ得られれば構わない、というタイプだろう。
なるほど、確かに労働の対価で協力を得られる感じではないか。
「そういうわけだから、僕らとしてはお願いするくらいしかなくてね。まぁ、それでもいつも来てくれるし、しっかりと精霊術をかけ直してくれるから、いいんだけど」
いい、とは言ったものの、ラーカーの言い方には若干の含みが感じられた。
不思議に思ったモルスが首を傾げて尋ねる。
「何か問題が?」
「実は……いつも、あまり会話ができなくてね……。色々と話しかけても、避けられるんだよ。あの方の家の扉をノックしても、返事がない。不在なのかと思ってしばらくその場で待っていると、ごそごそと人の動いている音がする。やはりいたのかと思い、しつこく名前を呼び続けて、やっと出てくる……と、そういう感じでね」
なるほど、人嫌いだ。彼は誰にも会いたくないのだと受け取るのも頷ける。
「でも、最後には出てきてくれるのでしょう?」
「ああ。でも、出てきた後、いつも言うんだよ。『愛想がなくて悪かったな、これが私の性格だ』とか、『精霊術のために私に会いに来なければならないとは、難儀なことだな』とか、あからさまな嫌味をね……。あぁ、嫌われてるなぁ僕ら、と毎回思うんだよ」
……それを聞いて、俺は少し考えた。
確かに、そのまま聞くと、偏屈な人嫌いが嫌味を飛ばしているように思えるが、前世の彼の性格を考えると……そうとは言い切れない。
まぁ、俺の想像が間違っている可能性はもちろんあるけれど、本当に人嫌いだったら前世の戦争にだって参加していないだろう。
森の奥深くに隠棲していることを考えれば、可能な限り人と顔を合わせたくない、というのは事実だとしても、しかし心の底から人が大嫌い、というほどではないと思う。
そこまで考えた俺に、ラーカーは言う。
「……ま、そんなわけだから、あんまり期待しすぎないほうがいいと思うよ。仮に返事が来たとしても、酷い断りの文句だった、なんてこともあり得るからね。そのときはまぁ、仕方ないと思って諦めるしかないよ。あの方の家に行っても門前払いだろうし……」
実に気の毒そうに言うので、手紙を送って実際に酷い目に遭った経験がおそらく彼にはあるのだろう。
とはいえ、俺たちは彼の協力をどうしても得なければならないから、こんな森の奥くんだりまで来たのだ。
仮に拒まれたとしても、それで「はい、分かりました」なんて帰れるわけがないのだった。
◇◆◇◆◇
「そこが武具を作っている工房よ。といっても、鍛冶をしているわけではないのだけど」
トリスが、集落を歩きながら一つの建物を指す。
それもまた、樹木と一体化したような、奇妙な形の建築物だ。
といっても、作りが悪いとか格好がよくないとかいうことは全くなく、単純に見慣れないという意味である。むしろ周囲の木々と緑に溢れた風景の中では、極めて自然で調和しているといえた。
ちなみに、トリスがなぜ建物の説明をしているかと言えば、ラーカーが集落の案内を提案したからだ。
俺たちが朝ご飯を食べた後、しばらくしてトリスとミレイアが身支度を終えて寝室から出てきて、彼女たちも食事をとった。
その際、君たちはしばらく暇だろうから、集落の中を見て回ってはどうか、とラーカーが言ったのだ。
実際、アークからの返事が来るまで、俺たちにはすることがない。
まぁ、せいぜい体を鈍らせないために訓練をする程度で、時間を持て余しているのは事実だったため、その提案を受け入れた。
問題があるとすれば、俺たちのような外部の――しかも祖種に、貴種の千年王国の内部を見せても構わないのか、ということだろう。
しかし、重要な施設は昨日通された主樹くらいしかなく、他は民家や職人の工房程度で、仮に破壊されたとしても、さほどの痛手にはならない場所ばかりだという。
それを聞いて、安心して案内してもらうことにしたのだが、前世において千年王国が滅びていることを知っている俺からすると、それならなぜ貴種の集落が壊滅したのか疑問に思う。
何か隠されている施設があり、それを魔族に落とされたとも考えられるが……あとでそれとなく聞いてみよう……
「鍛冶をせずに武具を作っているとなると……製品は弓矢や革の防具などだろうか?」
モルスが少し考えてからそう尋ねた。
ちなみに、今一緒に案内してもらっているのは、モルスとミレイアである。
案内人はもちろん、トリスだ。
「だいたいそうね。ちょっと中をのぞいてみる? ミレイアにとってはいいものがあるかもしれないし」
「私にですか? 何でしょう……」
トリスの言葉に首を傾げつつ、断る理由もないので四人で工房へ入る。
工房の中は、当たり前と言うべきか、祖種のそれとほとんど変わらない。
とはいえ、鍛冶工房ではなく、家具や皮革製品を作る工房であるため、道具や並んでいる品々は異なるが。
何人かの貴種が、自分に与えられた区画で作業をしている。
見れば、木材を削っている者、皮の処理をしている者など、至極普通の光景が広がっていた。
ただ、その技術は祖種のものよりもかなり高度に見える。
貴種は長命であるから、作業の一つをとっても習熟度がすさまじく、流れるような作業とはまさにこのことを言うのだろう、と思う。
そんな工房の中に完成品が並べられた区画があるが、店員などは見当たらない。
「店員さんはいないのですか?」
そのことを奇妙に思ったらしいミレイアが、トリスに尋ねた。
「決まった店員、というのはいないわね。私たちはあまり、祖種みたいな貨幣による取引をしないから。物々交換が多いの。工房の職人の誰かに言って、取引をする感じね」
全くしない、と言わないのは、他種族と取引する場合には普通に貨幣を使っているからだろう。
まぁ、他種族との間でも物々交換はできるが、やはり価値がはっきりしている貨幣による取引が好まれるからな。
こればかりは、貴種もわがままは言えないはずだ。
よほど価値のあるもの、珍しいものだったら別だろうが、貴種が出せる貴重品といったら、主に森にいる強力な魔物の素材である。
いくら貴種が優れた精霊術師を多く輩出する種族であるとはいえ、彼らも強力な魔物をそう定期的に狩れるものではない。
実力的にもそうだし、そもそも強力な魔物は少ないのだ。
大食漢だったり、一定以上の魔力濃度が必要だったりするため、個体として強いからといって、種族として繁栄しているわけではないのである。
人に置き換えて考えてみても、個体として最も弱い種族である俺たち祖種が、この世で一番数の多い人類種だしな。
「……あ、これは短杖ですね?」
どうでもいいことを考えていると、工房に並ぶ武具の完成品を眺めていたミレイアがトリスに問いかける。
彼女の視線の先を見ると、確かにそこには木製の短杖がいくつも並べてあった。
先端というか、持ち手の先には魔石が取り付けられ、杖の全体に精緻な彫刻が施されている極めて流麗な品ばかりである。
なるほど、他の武具ならともかく、短杖は魔法を使うための触媒であるし、必ずしも金属製である必要はない。
金属を扱うのが得意でない貴種の工房にあってもおかしくはない品だった。
先ほどトリスが、ミレイアにとっていいものがある、と言ったのは、このことだろう。
もちろん、魔術師である俺やトリスにとってもいいものだが、治癒術が魔法の中でも最も負担が大きいからな。
それを減らしてくれる可能性のある魔力触媒があれば、ミレイアも嬉しいだろう。
まぁ、大英雄と言われるほど高い治癒能力を持つ彼女に、果たしてそういったものが必要なのかと言われると微妙だが……ないよりはあったほうがいい。
「そうよ。どれか気に入ったものがあったら、手に取ってみるといいわ。せっかく貴種の集落に来たんだから、お土産にって、おじいさまがラペ長老に持ち出しの許可を取ってくれたの。本当は門外不出なんだけどね」
トリスは何の気なしに言ったが、これは驚くべきことだ。
何せ、貴種の魔力触媒といったら外では相当な値打ちものである。
王国ではいくつかの貴族の家で、家宝として代々受け継がれているとか、そういうレベルの品だ。
それを、こんな風にぽんっとくれるなど、普通はあり得ない。
前世では魔族の襲撃によって、貴種の武具の大半が消失してしまったから、軍の魔術師たちは持つことができなかった……それはミレイアも同じだっただろう。
しかし今回は……
何が幸運になるか分からないものだな。
「あぁ、ジョンとモルスもよければ」
トリスが続けた言葉を聞いて、俺とモルスは顔を見合わせる。
俺は驚いて、モルスはどう反応したらいいのか分からずに、という感じだ。
モルスは、ファレーナに魂がないと言われただけあって、こういう感情を出すべきところでうまく出せないことが多い。
それは魂がなくからっぽだからなのか、それとも、人であることを学ぼうとしているからなのかは分からない。
ただ、魂がないというけれど、何の感情も存在しないかといえば、俺にはそうは見えない。
だいたい、魂がなくなると感情もまた失われるのであれば、ファレーナにその多くを食われている俺はどうなのか。
これで結構、感情の起伏は激しいほうであるし、人の持つ感情と、魂の有無はそれほど関係がないのではないか、という気がする。
……まぁ、考えても答えは出ないか。
それよりも、今は杖のことだ。
「俺たちも、いいのか?」
俺がトリスにそう尋ねると、彼女は頷く。
「ええ。私ももらうつもりだしね。魔法学院に行く前は絶対にダメだとおじいさまに言われていたけど、しっかりと卒業して軍に入ってからは、集落に戻ってきたら好きなものを選ぶといいと言われて、楽しみにしていたのよ。遠慮なんて一切する気はないわね」
そんなことを言いながら、彼女は杖を物色し始めた。
俺はトリスに呆れつつ、モルスに声をかける。
「……こいつがここまで言うんだ。俺たちも遠慮せず選ばせてもらおう」
「あぁ……しかし、いずれの杖も美しいな。武器として使うのがもったいないくらいだ」
頷いたモルスが杖に興味を引かれているようなことを言ったので、やはり、彼にはしっかりとした心がある、と確信することができた。
これは、今後のためにも大事なことだ。
心のない人間に、戦いを強要するのはつらいからな。まるで、人を道具として扱っているようで。
まぁ、心のある人間に戦いを強要するのもまた、別の意味で苦しくはあるが……少なくとも、本人が選んで決めている、というのは大事なことだ。
……なんて言うと、まるで俺が責任から逃げているみたいだな。
確かにそういう面もあるのかもしれない。
俺は、あの前世の悲惨な状況を繰り返さないために、自分のできることはすべてして、差し出せるものは、それこそ自分の命だって捧げようと思っている。
だから、他人の命もまた、そうすることにさしたる迷いを感じなくなっているのだろう。
しかし、まだどこかに、それは悪魔の所業であって許されるものではない、という感覚もあり……
だからこそ、免罪符を求めている。
俺が強要したわけではない、本人の意思で決めたことだ、と。
「……意気地がないのかな」
ぼそりと呟くと、モルスは俺をちらりと見て言う。
「ジョンが、か? そんなことはない……お前は何事にもまっすぐ取り組んでいる。ただ、目的のためにはどんなことでもしようとする、ある種の恐ろしさも感じるが……それというのも、お前に人並み外れた勇気と、執着があるからだろう」
なるほど、確かに俺にはそういうものがある。
自らの死すら恐れないことを勇気と呼ぶなら、俺は勇気を持っているだろう。
何があっても目的を達成するという覚悟を執着と呼ぶのなら、それもまた、正しい。
「だけど、そのために人に迷惑をかけたくはないんだよな……」
そんな風に言うと、モルスは首を横に振る。
「誰もお前の言うことややることを、迷惑だなんて思っていないだろう。カレンをはじめとする魔族討伐軍の人々も、国王陛下も、俺もミレイアも。なぜだかな、お前が進む先には道があるような……そんな気がするからだ。だから、考えすぎるな」
それは慰めなのか、それとも本気でそう思っているのか。
どちらなのか尋ねようと思ったが、〝勇者〟の言葉にどうこう言えるほど、俺の〝勇者〟に対する信仰は浅くない。
彼が言うのなら、そうなのだ。
俺は気持ちを新たにして、今までの自分と、これからの自分に自信を持つことにしたのだった。
第5話 精霊王の返答
「……おっと、戻ってきたか。さきほど知らせがあってね。アーク様から返事が来たみたいだよ」
家に戻ると、俺たちが帰ったことに気づいたラーカーがそう言った。
返事が来るまでにかなり長い時間がかかることも覚悟していただけに、思いのほか早くて驚く。
それはラーカーも同じだったようだ。
「今回は随分と早く返事をしてくれたものだよ。いつもなら数日どころか、一月二月経って、なんてこともザラだからね。早速だけど、内容を聞きに主樹の方へ行ってみるかい? 僕もまだどんな返事だったかは知らないんだ」
聞けば、貴種の伝令が手紙の到達を知らせに来ただけで、内容については口にしなかったらしい。
というのも、アークは貴種にとっては神にも等しい人物であり、手紙の内容も重要文書扱いで、伝言で済ませることなど許されないからだ。
手紙の内容を知りたいなら実際に見に来い、というわけである。
若干の面倒くささを感じるが、アークを国王みたいなものだと思えば、まぁ、分からない話でもない。
国王陛下から何かお言葉がある、王城まで来るように、と言われているようなものだ。
なるほど、そう考えると伝令の口から言ってくれればいいだろう、などというのは不敬である。
そう結論づけた俺は、ラーカーに返答する。
「今すぐ行ってもいいなら、ぜひ」
トリスやモルス、それにミレイアも特に反対の表情はしていないので、問題ないだろう。
ラーカーが頷き、立ち上がって家の扉に向かったので、俺たちも続いた。
◇◆◇◆◇
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