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5巻
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しおりを挟む第1話 生きるために
「運がないってのは、こういうことを言うんだろうな……」
つい、しみじみとした口調でそんな台詞が出てしまうのも仕方がないというものだ。
なにせ、このタイミングでこれほどの事態に陥るとは普通なら考えられない。
俺――ジョン・セリアスとケルケイロは、魔の森でこいつに襲われて、奴の攻撃を防いだときに地面が陥没し、遥か奈落の底へと落ちてしまった。そして、穴の中から出るための道を探したところ、偶然にも迷宮を発見。何とかその迷宮を抜け、やっとの思いで地上までたどり着いたのだ。
迷宮の出口の扉を開くまでは、少なくとも危険なものなどいないだろう、静かな森の風景が広がっているはずだと思っていたのに。
しかし、現実は、これだ。
――空中に浮かぶ竜。
月の中、笑い声を上げるかのように唸るその姿に、俺たちは頭を抱えたくなった。
「……ど、どうするよ、ジョン……」
ばさりと翼をはためかせる巨大な生き物から決して目を逸らさずに、そう尋ねるケルケイロの瞳は動揺に震えている。
それも当然だ。あれから逃げるために死力を尽くした記憶は、俺たちの中から消えてはいない。
それどころか、竜の姿を目にしたおかげで、その記憶がありありと浮かび上がり、俺たちの恐怖を駆り立てる。
あれから逃げることなどできるのか、と。
そう思ってしまうほどに、竜は強く、恐ろしい存在なのだ。
「できることなら、さっさと逃げたいところだが……」
俺は言いながら周囲を見渡してみるも、辺りは非常に開けた空間で、木々もまばらに生えているのみ。
後ろを見るが、すでに迷宮の扉は閉まっていた。重く閉じられたその扉は、とてもではないが開きそうにない。
ケルケイロが後ろ手で押してみるも、首を振って開かないと伝えてきた。
この状態で逃げ出したとしても、前回と同じく、いつまでも逃げ続けなければならないのは自明に思えた。
したがって、今できることは一つしかないのではないか――
俺は無謀にもそう結論づけ、そして引きつった微笑みを顔に張りつけつつ、ケルケイロに呟く。
「これは、もう、仕方ないだろう。戦うしか、ないな……」
ははは、と乾いた笑いを漏らす俺に、ケルケイロは唖然として凝視してきた。
しかし、ケルケイロにも俺の言いたいことは理解できたはずだ。
なにせ、逃げ場がない。
そして相手はあの竜だ。
他に何かやりようがあるのかと考えたときに、全く選択肢が浮かばないのは俺だけではないだろう。
「……マジか、と聞きたいところだが……他にどうしようもないもんな……なぁ、ジョン」
「なんだ?」
「勝算は……あるのか?」
それこそが最も重要だとでも言うように、真剣な顔をしながらケルケイロは俺に言った。
その質問に対する答えは、俺たちのこれからの運命そのものである。だから、聞きたくなる気持ちも理解できた。
しかし、俺がその答えを言わずとも、ケルケイロには分かっているのかもしれない。
他に手段がないと言っても、竜と相対して生き残れると思うほどケルケイロは自分の力を過信していない。たとえ、ニコという通常手に入れられるはずのない、奇妙極まりない力を手にしているとしてもだ。
ニコは、俺が契約しているファレーナと同種の存在である。
ファレーナは魂を糧として存在しており、俺は自分の魂を食わせてやる代わりに彼女の力を借りるという契約をした。
おそらく、ケルケイロがニコと交わした契約も同じようなものだろう。
ケルケイロは迷宮の中での戦いで、ずいぶんとニコの力を使いこなせるようになった。
だから、前回竜に追われていたときよりも、戦力としては格段に上がっているはずだ。
では、今なら竜に勝てるのかと問われれば、それでも無理だ――ケルケイロは、俺がそう答えると思っているだろう。
しかし、俺が口にした答えは、そんなケルケイロの予想から外れたものだった。
「勝算がないわけじゃ、ない」
そうだ、ないわけではない。
勝てる可能性は、決してゼロではないと俺は思っている。
と言っても、俺たちだけじゃ無理だ。
「どこにそんなものがあるんだよ!?」
ケルケイロは、この場面で何か望みがあるなら、どんなものにでも縋ってやると言いたげな様子で、声を荒らげる。
もちろん、勝算なんてあるはずないだろう、という意味でもあった。
彼の感覚は非常に正しく、望みなどどこにもないように思える。
けれど、俺の感覚は捉えていた。
今、この場に向かってくる何かが、確かにあるのだということを。
俺の記憶を再現したあの迷宮の中で、前世の時代の空気を吸い、肌で感じたからだろうか。
魔族と戦っていた頃に戻ったかのように、俺の感覚は鋭敏になっていた。
もちろん、今は魔法を使って感知範囲を広げているからこそ分かるのだが、迷宮を抜ける前よりも正確な魔法の使い方を思い出せたような気がする。
悪夢のようなあの時代にとって、人や魔物の気配をいち早く感じ取ることは何よりも大事なことで、それができない奴は死んでいった。
俺は生き残った。
つまり、俺の感知能力は、あの時代を生き抜ける程度にまで研ぎ澄まされていたのである。
ただ、今世では平和な時代の空気に慣れ過ぎて、そういう感覚がかなり落ちていたらしい。
今の俺の感覚はあの頃に近く、近くの空気の動き、葉っぱの擦れる振動、そして魔物や動物たちの動きを正確に捉えることができる。
そして、遠くから迫る何かがあることも、俺には把握できていた。
つまり――
「こっちに向かってる味方がいる。もうすぐ、ここに来る。だから、それまで耐えきればいいんだ。たぶん……これは、ユスタだ……」
巨大な魔物――クリスタルウルフのユスタが立てる空気や魔素の動きを、俺は捉えていた。
かなり急いで、一直線にこちらに向かってきているようだ。しかも、それほど遠くない。
五分、いや、十分耐えきれば、合流できるかもしれない。それくらいの距離だ。
この広い魔の森において、これほど近くまで来てくれているのは僥倖以外の何物でもないだろう。
なぜここが分かったのかと疑問に思ったが、空を見上げれば竜の姿がある。
睥睨するように一点を見つめ、羽ばたき続ける竜がいるとなれば、ここに何かあると考えるのも当然だろう。
少なくとも俺たちが迷宮にいる間、ユスタは何の手がかりもない状態で森の中を探索していたはずだ。あの竜を目指して駆けていても、不思議ではない。
「……ユスタ? そいつは何だ?」
ケルケイロはユスタのことを知らない。
これまで話すタイミングがなかったし、話したところで信じてもらえるとも思っていなかった。
しかし、今は違うだろう。
あの迷宮の中での出来事を経て、ケルケイロは俺の話を聞く心の準備のようなものができたはずだ。少なくとも、ユスタのことくらいなら、頷いて理解を示してくれるという確信があった。
「ユスタは……俺の魔物の友人だよ。クリスタルウルフは知っているだろう?」
「なんだって……魔物の……友人!? そんなものになれるのか……? しかも、クリスタルウルフって言やぁ、超危険な魔物の一つだろうが……」
目を見開きながら、ケルケイロは叫んだ。
クリスタルウルフは有名な魔物で、誰でも知っていると言っていい。
だが、実際に見たことのある者はほとんどおらず、俺の父アレンのような――危険地帯に入り込むのが日常のような人間以外は、出会う機会など持ちようがない。
それくらいクリスタルウルフは人里から離れた地域に棲息していて、街や村にも近づかない魔物なのだ。
しかし、彼らが強力なこと、出会ったら死を覚悟する以外にない魔物であることは皆知っている。
だから、そんなものと俺は友人だと言われても、普通は信じることなどできないだろう。
しかし、ケルケイロは違った。
「……それが本当なら、俺たちの命運もまだ、尽きてないってことか……」
そう納得したように頷いた。
「信じるのか?」
俺が尋ねてみると、ケルケイロは呆れたような顔をする。
「迷宮の中での出来事に比べれば、まだまだずっと信じやすい話だぜ。しかし、どうやって魔物と友達になんてなったんだ?」
「簡単な話だ。会話して、仲良くなった」
端的な俺の言葉に、ケルケイロはため息を吐いた。
「……聞いた俺が馬鹿だったよ。お前ならそんなもんなのかもしれないな……」
そう言われて、俺も冗談交じりに返す。
「なに、どこかの貴族と友達になるよりは難しくなかったぞ。後でユスタを紹介してやるさ」
「はは、そうかよ。確かにおかしな趣味の貴族と友達になるよりは、魔物と友達になるほうが簡単なのかもしれないな……うぉ!」
こんな状況でするにしては、いささか和やかすぎる会話だったか。空に浮かんでいた竜も、これ以上待つつもりはないらしい。
俺とケルケイロに向かって、規模の小さな吐息を放ってきた。
竜の口が開き、そこから光が漏れ出たのを確認した俺たちは、慌ててその場から跳ぶ。何とか避けられたが、俺とケルケイロは場所が離れ、分断されてしまった。
ケルケイロに近づこうとすると竜は吐息を放ってくるので、俺たちを合流させるつもりはないらしい。一人ひとり、なぶろうというのだろう。
やはり、相変わらず性格の悪い生き物だと思わずにはいられない。
前世でも、わざわざ仲間の部隊が崩壊するさまを見せびらかすように攻撃する竜がいたくらいである。
俺とケルケイロが話している間に何もしてこなかったのも、俺たちの気の緩む隙を窺っていたか、死ぬ前の最期の会話でもさせてやろうという、こちらとしては腹の立つ配慮だったのかもしれない。
そう考えてしまうくらい、竜が底意地の悪い性格をしていることは周知の事実だった。
だから俺たちは話しながらも警戒は解かずに、ずっと竜を注視していた。そのおかげで、吐息も避けることができたというわけだ。
もし、竜が本気で、ただ俺たちを殺すという目的を達成するためだけに行動していたら、会話なんてする暇もなく終わっていたに違いない。
しかし、幸いなことにというべきか、不幸中の幸いというべきか、竜は俺たちを一息で殺すつもりはないようだった。
追い立てて追い立てて、そして飽きたらトドメを、というくらいの考えでいることが、その行動から読み取れる。
だから、俺たちに勝算があるとしたら、そこなのだ。
竜がふざけている間に、俺たちはユスタの到着を待つ。
生き抜くのだ。
俺はケルケイロに叫ぶ。分断されたと言っても、叫び声は届くくらいの距離だ。
「ケルケイロ! とにかく、一撃で死なないように頑張るんだ! ニコの力も借りて……ここが正念場だ! 死ぬ気でやるぞ!」
「おう! お前も死ぬんじゃねぇぞ! ジョン!」
力強い言葉が返ってきた。
そうして、俺たちは竜に相対する。
竜も、俺たちの準備が整ったとみたのか、それとも、そろそろ遊ぼうと思ったのか、高度を徐々に下げてきて地面に足を着けた。
空中から吐息で狙い撃ちしても、さして面白くないと考えたのかもしれない。
竜の地上を歩く速度がいくら遅いといっても、あの巨体である。
俺たちが本気で走っても、簡単に追いつかれるのは間違いないだろう。
しいて欠点を言うなら小回りが利かないということだろうが、せいぜいそのくらいだ。
大した救いにもならない事実だが、十分間は逃げ回れる程度の余裕は与えてくれるのかもしれない。
顔を上げると、相当に距離の近づいた竜の瞳が視界に入る。
見るからに、恐ろしかった。俺たちを本当に小動物か何かだとしか見ていない、ただの餌だと認識していると分かる色がそこにはあった。
しかし、竜はただ本能に駆られて俺たちをどうこうしようとしているわけではなく、しっかりとした考えに基づいて、理性的に殺そうとしているのだということもはっきりと分かる。
ただの獣に本能のまま殺されるよりも、それは恐ろしいことに思えた。
よく人が、最も恐ろしいものに人間を挙げることがあるが、その本質は、人間は獣と異なり思考をめぐらせ、理性を保ったまま人を殺すことができてしまうからだろう。
そしてそんな危険性を秘めた理性を、目の前の竜は持っている。だからこそ、竜は恐れられ、最悪の魔物といわれるのだ。
戦いたくない、近づきたくない、できることなら永遠に会わないでいるに越したことはない存在。
それでも俺は――俺たちは、この場で生き残らなければならない。
「……さぁ、行くぞ!」
自分を奮い立たせるためだけに竜に向かってそう叫び、強化魔法を目いっぱい使う。
そして身体全体に力を込め、俺は竜に立ち向かった。
第2話 思い出と最後の話
そうは言っても、簡単に叩けるようであれば竜はそもそも恐れられたりしない。
当たり前の話だ。がむしゃらに戦えばそれでいい、というわけではない。
むしろ、竜と同じくらい狡猾に戦ってこそ、勝利が掴めるというものだろう。
いや、勝つ必要はないのだ。
ユスタが到着するまで持ちこたえ、あとはユスタの背中に乗って逃げるか何かすればいい……はずだ。
それでも逃げきれない場合は戦うしかないが、だとしても、今よりはずっとマシな状況だろう。
ケルケイロと二人でこの状態を乗り切ることこそが、俺たちの生存にとって必要な条件だ。
そのためには竜に攻撃を仕掛け、しかし怒らせて本気を出されない程度に、適度に興味を引くというほかない。
ケルケイロには、できるだけ竜の関心が向かないようにする――彼はなんだかんだ言って、まだ子供だ。
竜に追い立てられた経験を得て、あの迷宮で凄惨な光景を見たといっても、それで即座に一流の戦士になれるわけではない。
もちろん、俺も一流の戦士というわけではないが、あの時代を生き抜いた過去がしっかりとあるのだ。三流だとしても、古兵と名乗るぐらいはいいのではないか。
そんなことを思いつつ、俺は剣を抜いて竜の硬い鱗に突き立てた。
「……はぁ!!」
竜の表皮は硬い鱗におおわれていて、濃密な魔力で強化されており、たとえ刃物であってもそう簡単に通したりはしない。
親父くらいの魔剣士が本気で武器に魔力を込め、その研鑽の全てを乗せた一撃を絶妙のタイミングで繰り出してこそ、貫ける。それくらいに丈夫なものなのである。
だから、俺のような身体も小さく魔力もそれほどではない子供が本気で剣を振り切ったところで、竜の鱗には傷一つつけられない――普通ならば。
しかし、俺には前世の経験がある。
人類最強の剣聖スルトに直接手ほどきを受け、学んだ剣術があるのだ。
スルトは、初代剣聖ルフィニア・コールの窮めた奥義に対する返し技を生み出した、剣聖の中の剣聖。
現代の剣士たちが使う王国剣術の剣聖流とは異なる体系の、スルトの剣術――スルト流は、俺のような剣術の才能がない者でも、強大な魔物に対し、ある程度戦えるようにしてくれた。
現代の王国剣術は、才能がなければ強くなることはほとんどできないが、スルト流は違う。
必要なのは努力であり、執念であり、そして執着であった。
あの時代を生きた者にとって、それらは自然に芽生えるもので、何の才能も持たない俺ですら、努力や執念といった感情、精神を持ち合わせていたのだ。
だから、耐え抜くことができた。
スルトが、血反吐を吐くような、命を落としかねないような訓練を課そうとも、それを苦とも思わずに乗り越えられる魂が俺たちにはあったのだ。
当時の研鑽は、今ここでその力を見せてくれた。
通常の剣士では決して傷をつけることができないほどの竜の鱗。
そこに突き立てられた俺の剣は確かに、傷を刻んだのである。
「ぐるるぁぁぁぁぁ!!」
その瞬間、周囲の木々を、地面を、そして空気をびりびりと震わせながら、竜の唸り声が響きわたる。鱗に傷がついたことを、竜も感じたらしい。
痛覚があるのかは分からないが、俺の剣で刻まれた傷は、針で突き刺した程度の痛みは与えたのかもしれない。
おかげで竜の興味はケルケイロにではなく、俺に向いたようだ。
してやったり、と思った。
にやりと笑った瞬間に、竜の前足が俺に向かって振り下ろされる。
「ジョンッ!」
ケルケイロの叫び声が響くが、だからといってそれに合わせて避けられるわけでもない。
確かに竜の動きは見えているのだが、奴のリーチがあまりにも長すぎて、後退しても命中するのは必至だ。
仕方なく、俺はこの場でできる最善の方法として、剣を使って直撃だけは免れることにする。
片手で剣の柄を、もう片方の手で剣の平を持つ。
前に向かって両手で構えた俺の剣に、大きな衝撃が走った。
当たり前の話だが、少し踏ん張ったくらいでどうにかなる程度の衝撃ではなく、俺はまるで小さな石ころのように思い切り蹴り飛ばされて、竜から離れた位置まで転がることになった。
幸い、竜の腕の直撃は逃れたからか、全身に軽い打撲があるくらいで、骨などは折れてはいないようだ。
背中を思い切り地面にたたきつけられてしまったが、それでも立ち上がれないほどではない。相手が竜であることを考えれば、まだ軽傷の部類だ。
力を込めて身体を起こし、呟く。
「……しかし、一撃でこれじゃあな……」
まだ三分も経っていないだろう。
確かにユスタの距離が近づいているのは気配で分かるが、ここにたどり着くには、あと最低でも七分はかかるだろう。魔の森は、それほどに広い。
「だが、諦めるわけには、いかないんだ……!!」
言いながら俺は立ち上がり、再度、竜に近づくべく走り出した。
身体にかかっている強化魔法はまだ持続している。
魔力の減り具合からして、十分間は持たないかもしれない。
ユスタたちが来るまでぎりぎり持つか、もしかしたら途中で切れる可能性もある。
それくらい、切羽詰まった戦いだ。
魔法の出力をもう少し弱めにすれば、余裕で持つだろう。
しかし、身体強化魔法の強度をこれ以上、下げるわけにもいかなかった。そうすれば、おそらく竜に対抗することができなくなる。
最低でも今くらいの強度を保ち続けなければ、竜の一撃一撃を防ぎ、回避することは不可能だ。
俺ですら、こうなのだ。
「……ケルケイロは……」
走りつつ、俺よりも竜に近い位置にいるケルケイロを見る。
――まだ、生きている。
無傷……とはいえないが、やはり竜は今もまだ遊んでいるということなのだろう。
ケルケイロを軽く前足で何度も引っかきながらも、致命傷になりそうな攻撃は繰り出していないように見えた。
口元にも、強力な吐息の気配はない。ケルケイロに当たるか当たらないかの位置に小規模な吐息をたまに放っているようだが、その程度である。俺たちをあの奈落の底に突き落としたときのような、強力な吐息を放つつもりはなさそうだ。
ケルケイロはニコの補助を受けているからか、竜の攻撃をしっかりと受け流すことができているようで、これなら、と思わないでもなかった。
俺はケルケイロのもとまで走る。
先ほどは俺がケルケイロと合流しようとするのを吐息で牽制していた竜だったが、今度は妨害しようとはしなかった。
俺がケルケイロに近づくのを竜は横目でちらりと眺めたので、俺の存在に気づいていないというわけでもなさそうだ。
やっぱり一人を相手にするのはつまらない、と思ったのかもしれない。
竜にとって、俺やケルケイロ一人の力など、その程度のものなのだろう。
実際、今行われているのは大人と子供の喧嘩以下のもので、竜の吐息一撃で全てが終わってしまうようなものなのだから。
「……ジョン、こいつ遊んでやがるぜ!」
近づいた俺に、ケルケイロが言った。
「それでいいんだ! 下手に本気になられると、おしまいだからな! 適度に遊んでもらっておこう!」
俺がそう言うと、ケルケイロはげんなりとした顔で剣を振りながら応える。
「まさに命がけの遊びだな……しかも俺たちは別に楽しくも何ともないってのが最悪だぜ……!!」
その言葉に、俺は笑って返す。
「人生ってのは、そんなもんだろうさ!」
「ちげぇねぇな!」
冗談を飛ばし合いながらも、俺たちは必死で竜の攻撃に耐える。
余裕があって軽口をたたいているわけではなく、そうしてなければ平静を保てずに狂ってしまいそうなほど、限界に近づいていただけの話だ。
応援ありがとうございます!
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