平兵士は過去を夢見る

丘野 優

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3巻

3-2

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「あれがこっちに突進して来たら……どうなると思う?」

 恐る恐る聞いてくるトリスに、俺は至って冷静に答える。

「まぁ、馬車は大破だろうな……ってわけで、とにかく奴を止めないといけないだろう。出るぞ」
「えぇ!? ほんとに!?」

 フィーがそんなことを呟きながらも、既に愛用の大斧を持って準備している辺り、やる気は十分ということだろう。血の気の多さは出会ったときからずっと変わっていない。
 トリスとノールもすぐに準備を終え、俺たちは馬車から降りた。
 とはいっても、あれを仕留めるのはそんなに簡単ではなさそうだ。さて、どうしたものか。
 突進してくる狂山羊インサニアム・カペルを眺めながら考えていると、もう一台の馬車からテッドたちも出てきた。

「おい、ジョン! 俺たちはどうすればいい!?」

 その言葉で、俺は次の行動を決めた。

「奴の突進を止めるために協力してくれ! 壁を何枚か作れば……まぁ、なんとかなるだろ! その後は俺たちが攻撃を加えるから、馬車を守って砦まで行け!」
「おう、分かった!」

 テッドたちとは、昔からずっと一緒に森で狩りをしてきた仲だ。
 これくらい大雑把な打ち合わせでも、十分に対応できるだろう。
 問題は狂山羊インサニアム・カペルの巨大さだが、タロス村の森の中で、俺たちは友人になったクリスタルウルフたちを相手に、色々と訓練をしてきたのだ。
 さすがに十メルテには及ばないが、彼らの中でもユスタは七メルテ近かったはずだ。ユスタの突進力を想定すれば、あの狂山羊インサニアム・カペルも何とかなるのではないだろうか。

「何とかならなかったら、そのときは――逃げるぞ」

 俺はその場にいる全員にそう言い、突進してくる狂山羊インサニアム・カペルに向き直った。
 それぞれが呪文を唱え、魔術の壁を築き始める。
 土、水、風、炎、氷など様々な属性で構成された壁が、狂山羊インサニアム・カペルの目の前に現れた。
 タイミングを計り、こちらに狂山羊インサニアム・カペルが到達する直前に魔法を完成させたため、狂山羊インサニアム・カペルはルートを変えることも出来ず、そのまま色とりどりの壁に突っ込むことになった。
 しかし、十メルテの巨体と、その身体を支えるきょうじんな筋力が生み出す突進力は恐ろしく、壁は一枚、二枚と、がりがり削られて押し込まれていく。
 皆の表情を見るとかなり辛そうで、このままだと押し負けそうな気さえしてくる。

「頑張れ! もう少し耐えれば止められる!」

 俺がそう言うと全員が頷き、魔術にも力が入った。
 押され気味だった壁が少し力を取り戻し、狂山羊インサニアム・カペルの突進力を徐々に削っていく。
 そして、俺たちの魔術の壁に狂山羊インサニアム・カペルは完全に抑え込まれ、その場に停止した。
 とはいえ、ここで終わりというわけではない。
 再度突進されては意味がないのだ。
 助走がとれない距離だから止めやすくはあるだろうが、それでも馬車を破壊されかねない。
 俺たち――俺、ノール、トリス、フィーの四人は、狂山羊インサニアム・カペルの突進が停止すると同時に奴の横に回り、足を攻撃することにした。
 その間に、テッドたちには馬車に戻って砦に向かうよう指示をする。
 二台の馬車の後部には人が立ち、追撃を警戒しながら遠ざかっていった。
 それをにらみつける狂山羊インサニアム・カペルであったが、足元でちょろちょろしている魔術師四人を先に始末することにしたらしい。
 ぶるぶると頭部を振り、頭についている、くるくるとした角を光らせ始めた。

「やばい、魔法だ!」

 俺が叫ぶと、ノールたちはそれぞれ自分を覆うようにドーム状の魔術壁を張り、狂山羊インサニアム・カペルの魔法に備えた。俺も続いて魔術壁を作る。
 そして次の瞬間、俺たち四人に向かって狂山羊インサニアム・カペルの角から雷撃が放たれ、辺りの平原の地面を焦がした。
 俺たち四人は皆、防御に成功し、魔術壁は雷撃を防いでもなお健在である。雷撃が止んだのを確認すると、俺たちは再度攻撃に移った。
 こういった巨大な魔物を倒すためには、まず足を狙って潰すのが定石である。
 それを分かっているからこそ、俺たち四人とも足を攻撃しているのだが、さすが魔の森の魔物というべきか、おそろしく硬くて剣も魔術も中々通らない。
 全く効いていないわけではないだろうが、その足はまるで数百年もの月日を経た樹木のように太く、いくら攻撃しても物ともせずに、俺たちを踏みつぶそう、蹴り上げようとしてくるのだ。

「……くそっ……」

 このままではジリ貧か、と思ったそのとき、砦の方角からガシャガシャと鎧の鳴る音が聞こえてきた。
 狂山羊インサニアム・カペルに注意しながら音のする方をちらりと見てみると、兵士が隊列を組んで向かってきている。
 その最前列で彼らを率いているのは、大剣を持った女性である。
 彼女は俺たちを見やりながら、狂山羊インサニアム・カペルの前に飛び出して叫んだ。

「あんたたち、よく持ちこたえた! あとはあたしらに任せな!!」

 その声とともに、兵士たちのうなり声が響く。
 おそらく、砦から来た兵士たちだ。
 魔の森の魔物の討伐は、彼らの専門分野である。彼らに任せて大丈夫そうだ。
 そう思った俺は、他の三人に向かって叫ぶ。

「おい、お前ら、下がるぞ!」

 俺たちは少しずつ後方に下がろうとしたが、兵士たちから離れすぎて孤立したところを狂山羊インサニアム・カペルに狙われては危険だ。
 そう思った俺たちは、安全な場所に身を潜めて兵士たちの戦いを見守ることにしたのだった。



 第3話 兵士の戦い


 兵士と狂山羊インサニアム・カペルの戦いは素晴らしいものだった。
 兵士たちの能力は、それほど高くはない。
 魔法を使える者は少なく、兵士のほとんどは魔術師からの支援を受けながらも、自分の身体能力だけを頼りに戦っている。
 しかしそれでも、俺たちが狂山羊インサニアム・カペルと戦っていたときよりは、明らかに相手を押していた。
 大剣を掲げた女性剣士率いる魔の森の砦の兵士たちは、俺たちが苦戦していた狂山羊インサニアム・カペルを巧みにほんろうし、損耗もほとんどなく、徐々に化け物の体力を奪っていく。
 冷静に考えれば分かることだが、あの巨体である。
 身体の動きを維持するためには大量の魔力が必要らしく、スタミナはあまりないようだ。
 兵士たちの統制のしっかり取れた戦いに振り回され、狂山羊インサニアム・カペルの動きはだんだんと鈍くなっていった。

「やっぱり本職は違うな……」

 ノールが呟くようにそう言った。

「あぁ。個人の能力自体は魔法学院の生徒も負けてはいないだろうが、技術や知識、経験が違うってことがよく分かる」

 兵士たちの動きは全て、狂山羊インサニアム・カペルの行動パターンや性質を知り抜いているもので、おそらくは予想外の攻撃などというものはないのだろう。
 単純な踏みつけや蹴り飛ばしでは兵士たちを仕留められないと考えたのか、狂山羊インサニアム・カペルは俺たちに放ったのと同様の雷撃の魔法を放つ。
 しかし、兵士たちは個々で魔術壁を形成することなく、二、三人の魔術師が全員の頭上に大きな一枚の魔術壁を築いただけで防いでしまった。
 狂山羊インサニアム・カペルがそういった魔法を使用すると知っていなければ出来ない対応だし、仲間の魔術師が必ず防いでくれると信頼していなければ、兵士たちは恐ろしくて戦っていられないだろう。
 間違いなく、彼らが一流であることが分かる。
 そうして攻撃方法を全て防がれた狂山羊インサニアム・カペルはなす術がなくなり、仕方なく無効な攻撃を繰り返すしかなかった。
 けれど、それはいたずらに体力を擦り減らす結果しか招かない。
 限界に達したらしい狂山羊インサニアム・カペルの頭が少し前に垂れた瞬間を、隊長らしき女性剣士は見逃さなかった。

「お前ら、下がれッ!!」

 号令の直後、ザッと音を立てて兵士全員が狂山羊インサニアム・カペルから距離をとった。

「何をする気かしら?」

 首をかしげるトリスを横目に女性剣士に注意を向けると、彼女は持っている大剣を構えて集中し始めた。
 その瞬間、大剣に魔力が通されるのを、俺は確かに見た。

「あの人は……魔剣士だ!!」

 近接戦闘の攻撃手段のなかでも、最も強力で使い手がほとんどいないと言われる力。
 俺の親父アレン・セリアスと同様、女性剣士も、その才能の持ち主だったらしい。
 彼女の持っている大剣は魔力と反応して赤く輝き、強い衝撃波を放った。
 狂山羊インサニアム・カペルはその剣の恐ろしさに気付いて、一瞬ろうとするも、時すでに遅し。
 飛び上がった女性剣士の大剣が目にもとまらぬ速さで振り切られる。
 斬撃の音が聞こえたか、どうか。
 不自然なほどの静寂が一瞬辺りに広がると、その直後には狂山羊インサニアム・カペルの首に一筋の赤い線が走り、ずずず、と音を立てて首と体がずれていく。
 そして、ずずん、と狂山羊インサニアム・カペルの首が地面に落ちると、数秒後に身体も地面に倒れたのだった。
 文句なしの一撃、文句なしの勝利である。

「あれと同じことが、お前の親父さんにも出来るわけだ……」

 ノールがふっとそんなことを呟いたので、俺は頷く。

「あぁ……だから、俺は親父に、兵士に憧れたんだよ……」

 その決意は、前世の俺を最終的に魔王の城まで連れて行ったのだ。
 俺たち四人は感嘆を漏らして、倒れた狂山羊インサニアム・カペルと、その周りでかちどきをあげる兵士たち、それに最後の一撃を加えた女性剣士を見ていた。
 すると、彼らもこちらに気づいて手を振ってきたので、振り返す。
 女剣士に手招きされた俺たちは何の用か分からず顔を見合わせ、兵士たちの方へと走って行ったのだった。


 ◆◇◆◇◆


「あんたたち! 大丈夫だったかい? 怪我は!?」

 近くに行くと、あの魔剣士の女性が開口一番、そう言って俺たちを心配してくれた。
 俺たちはお互いの様子を確認してみるも、誰一人として怪我を負っていない。そこで、俺が代表して返答する。

「誰も怪我はしてないみたいです。本当に助かりましたよ……あのままでは、おそらくやられていましたから」

 すると、女性魔剣士は笑った。

「あれだけ持ちこたえられただけでも、私はあんたたちを評価するよ。狂山羊インサニアム・カペルっていっても、魔の森の魔物だからね……それも、普通の奴の三倍はデカい。おそらくこいつは群れのボスだったろう……魔法学院の三年生なんかの手に負えるようなもんじゃない。それを……ほんとによくやったよ! あんたたちもそう思うだろ!?」

 女性魔剣士は振り返り、その場にいる兵士たちに同意を求めた。
 全部で十四、五人いるが、その中で魔術師は二、三人。
 この人数比からも魔術師が稀少であることが分かるが、実は一部隊に二、三人は多い方である。
 魔の森は王国の中でも危険な場所であるため、比較的多めに魔術師が配置されているのだ。
 これが他の土地の砦となると、もっと少ないだろう。
 魔の森の砦には、確か常時十人以上の魔術師が配置されていたはずだ。
 兵士たちは女性魔剣士の言葉に応じて、口ぐちに俺たちを褒めてくれる。
 自分たちでもそれなりに頑張ったとは思うが、やはり決定打がなく、あれ以上どうにもできなかった。それが悔しい。
 俺が、この時代ではまだ普及していないナコルル式の魔法を使えばまた違ったのかもしれないが、それは最終手段だ。
 先ほどの狂山羊インサニアム・カペルの場合、逃げるだけならナコルル式魔法を使うまでもないと判断して使用しなかった。それに、これまで旧式魔法の訓練も積んできたのだから、それで対処できると思ったのだが……
 その悔しさを漏らすと、女性魔剣士は肩をすくめた。

「まぁ、確かにさっきまでは打つ手なしだっただろうけどね。でも、今はもう違うだろう? あんたたちの目を見ると……どうもそんな感じがするよ」

 どうやら、相当評価されてしまったらしい。
 確かに、俺は魔法学院に入学して以来、ノール、トリス、フィーに、戦いの際には常に考えるように言ってきた。勝ったにしろ、負けたにしろ、また戦いの最中でも、どうやれば勝てるかを徹底的に考えるように、と。
 それは今やほとんど彼らの癖になっており、先ほどの兵士たちの戦いを見て、それぞれ思うことがあったに違いない。
 狂山羊インサニアム・カペルの性質を巧みに利用し、スタミナ切れを狙っていく戦い方なら、俺たちにもおそらく出来た。
 それに、各自が思い思いに戦うのは、あの雷撃があることを考えると愚かな選択だったといえる。
 誰か一人が先ほどの兵士のように頭上に魔術壁を形成して雷撃を防ぎ、その間に他の三人が徹底的に攻撃を加える、そして足を一つ一つ確実に潰していく、という戦法をとっていれば、勝てた可能性は高い。
 俺がそんなことを話すと、女性魔剣士は頷いた。

「ふむ……確かにそれなら可能性はあったかもしれないね。しかし、意外なもんだ。魔法学院から十数年ぶりに研修生がやってくると聞いて、よっぽど魔の森をめたガキが来るんじゃないかと皆で思ってたところだ。けれど、来たのはあんたたちだった……面白いね。歓迎するよ。……おっと、荷馬車が来たね」

 俺たちが魔法学院の研修生であるということは、しっかり分かっていたらしい。
 まぁ、俺たちは馬車に乗って来たし、いつ頃、何人来るかくらいは把握していただろう。だからこそ、すぐに助けに来られたのだ。
 砦の方を見ると、確かに女性剣士の言う通り、何台かの荷馬車がこちらに向かってくる。

「あの荷馬車は何のために来たの?」

 フィーが尋ねると、女性剣士は微笑みながら答える。

「そりゃあんた、狂山羊インサニアム・カペルを運ぶためさ。魔物の肉は美味い。強ければ強いほどね。この狂山羊インサニアム・カペルも間違いなく相当な美味さ。魔の森の砦の何が楽しいって、飯が上手いことさね!」

 確かに魔の森の砦ほど、強力な魔物の肉に毎日ありつける場所はなかなかないだろう。
「恐ろしく危険」という但し書きが必要だが、それは誰もが分かっていることだ。
 それでもこの砦に来る者を物好きと呼ぶならば、俺たちだってまさにそれに該当する。

「ま、そんなわけだから、砦に行くのは狂山羊インサニアム・カペルを切り分けた後になる。少し時間がかかるが許しておくれ」
「いえ、全く構いませんよ。よければ解体しているところを見せて頂けませんか? 実のところ、狂山羊インサニアム・カペルの解体は見たことがなくて」

 タロス村周辺に、狂山羊インサニアム・カペルは出現しなかった。だから、その解体も見たことがなく、俺としては興味がある。
 魔物料理は母さんが得意なのだが、俺もその影響を受けて、魔法学院に来てからしばらくして趣味のように料理をすることが増えてきた。
 前世では決してやらなかったことだが、やってみると意外に面白く、奥が深いものだと感じている。
 ノールたちは俺のそんな趣味を理解しているからか、俺の解体見学の申し出に特に文句も言わず、むしろ自分たちにも見せてほしい、と一緒になって頼んでくれた。
 女性剣士は、豪快に笑った。

「はっはっは、ほんとにあんたたちは面白いねぇ……先に砦に行った子たちも、あんたたちみたいなのかい?」
「俺たちみたい、というのがどういうことなのかは分からないですけど、先に行った奴らはみんな俺と同じ村の出身ですから……似たような奴らではありますね」

 そう答えると、女性剣士はへぇ、と頷いて質問を続ける。


「あんた、どこの村の出身なんだい?」
「タロス村です」
「タロス村……タロス村って、アレンのいるタロス村!?」

 ずいぶんな驚き方だったので、俺は少し面食らいながら頷く。

「はい、そうですけど……アレンは俺の親父です。それが何か?」
「あんたがアレンの息子かい! いやぁ、本当に面白いなと思ってね。そうだ、ここらであたしの自己紹介をしておこうか?」
「あ、申し訳ありません。俺たちもまだしてませんでした。俺はジョン、こっちはノール、それにトリスと……フィーです」

 俺が紹介すると、それぞれ頭を下げた。
 女性剣士はゆっくりと頷いて、それぞれの顔をしっかりと記憶するように眺めながら一人一人の名前を復唱した。そして、それぞれと握手をする。

「あぁ、よろしく頼むよ。これからしばらく、砦で一緒に生活するんだからね。それで、だ。私の名前はエリス。エリス・シュルプリーズだ。……それともこういった方が分かりやすいかね。けんエリス、と」

 その言葉に、俺は目を見開いて驚く。
 けんエリス。
 その名前に、俺ははっきりと聞き覚えがあった。確か、魔法学院学院長のナコルルから聞いたのだったか。
 かつての闘技大会――当時、魔法学会から追放されて落ち込んでいたナコルルが勇気づけられたというその大会において、親父と熱戦を繰り広げたという女性剣士。
 それこそが、けんエリスに他ならない。
 彼女が魔の森の砦に勤めているという話は、親父からは一度たりとも聞いたことがなかった。いつもの親父らしく、単に言わなかっただけなのだろうか?
 いや、違う。
 前世で魔の森の砦を捜索したとき、ここにいると聞いていた兵士たちの名前の中に、彼女の名前はなかった。
 おそらく何らかの事情で、彼女は今、ここにいることになったのだろう。その理由は、あとで聞けば分かるはずだ。
 それにしても、まさかこんなところで彼女に出会うとは思わなかった……
 驚いている俺の顔を見て、けんエリスは笑った。

「いやはや……そこまで驚くとは思わなかったよ。あんた、アレンとは違う性格をしているみたいだねぇ……」

 そういえば前世の記憶によると、この時期、親父も砦にいるはずだ。
 それを思い出してエリスに聞いてみると、親父は今、別の地域の騎士団のところに行っていて留守で、いつ戻るのか分からないらしい。この点も前世とは少し違っているようだ。

「ま、いいさ。色々積る話はあとでしようか。さ、解体するから、こっちに来な」

 俺はエリスにそう言われて動き出し、ノールたちもあとに続いた。



 第4話 魔の森の砦


 それからしばらくの間、狂山羊インサニアム・カペルの解体に時間がかれた。
 ただ、部位を分けた後は手早く、数台の馬車に芸術的な積み上げ方で狂山羊インサニアム・カペルの肉が載せられていき、巨大な動物の解体と運搬をしたにしては驚くほどの短時間で全ての工程が終えられた。

「随分と慣れているんですね」

 そう言うと、エリスは頷く。

「当たり前さね。こんなことは日常茶飯事だからね……」

 その言葉に込められている意味を理解できないほど、俺たちは魔の森をめてなどいない。
 つまり、あの森にはこの程度の魔物など毎日のように現れるのだろう。
 それに耐えられるだけでなく、軽く討伐できる程度の実力がなければ、魔の森の砦ではやっていけない、という意味なのだ。

「俺たちも早く慣れるように努力しような、みんな」

 振り返ってノール、トリス、フィーの三人にそう告げると、皆も深く頷いた。
 俺たちの様子を見ていたエリスは、にやりと笑う。

「ま、見込みはありそうだからね……嫌でも慣れてもらうから、そんなに気負わなくても大丈夫だよ」
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