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第38話 採用

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「……それで、いつ頃から来れますかね?」

 そう尋ねたのは、今回俺が面接を受けた介護施設、《プリエール桜水上《さくらみなかみ》》の施設長、風野良悟《かぜのりょうご》であり、今はまさにその面接の最中だ。
 まぁ、概ね聞かれるべきことは聞かれた後ではあるけれど。
 力仕事があるけど大丈夫かとか、そういう比較的簡単な質問ばかりだった。
 普通なら、と言うか俺が普通の人間なら前職とか退職の理由とか、そんなことも聞かれるんだろうが、俺の場合魔物だからな。
 しかも、人間に紛れられるような容姿ではなく、見ればはっきりとそれと分かる見た目だ。
 つまり前の職とか尋ねたところで魔王軍で戦士として敵をバッタバッタと切り倒してました、とか言う奴である可能性が高い。
 もちろん、聞いてもいいのだろうけれど、聞いてしまったら後々、なんでそんな奴を入れたんだとかそう言う責任問題になる場合もある。
 そう言うことを考えると、施設長的には適度にボカして、ただ労働力としては雇っておきたい、みたいなそんな感じなのだろう。
 人手が足りていると言うのなら違うだろうが、面接直後にいつから来られるか聞いてくる時点でかなり人手が足りていないんだろうなぁ、と言うのは俺でも察せられる。
 もしかしたら相当馬車馬の如く働かせられるかもしれない、と言う危惧が湧き上がってくるが、正直選り好みはしていられない。
 俺のようなゴブリンを雇ってくれる仕事は数少なく、ここで辞退して次の機会があるとも言えない。
 人手不足、どんと来いの感覚で飛び込むしかない。
 だから俺は言った。

「明日カラデモ大丈夫デス」

「おぉ、それはありがたいですね! ですけど、いきなり仕事をしてもらう、と言うわけにもいきませんし……朝は比較的忙しいんですよ。だからもし、これから時間があるなら説明を受けていかれませんか? 今でしたら手すきの職員もいるはずですし」

 風野がそう言ったので、俺は特にこれから予定もないため頷いたのだった。

 *****

「……介護施設にも色々ありますが、うちは医療法人が運営する有料老人ホーム、という区別になります。よく見かける特養とは違って、民間企業が運営する施設になりますね」

「ト言ウコトハ……モシカシテ、オ高イ?」

「はは。確かにそういうところも少なくないですね。実際、うちの系列でも最も高額なところは入居一時金だけで一億ほど取るところもありますし」

「一億……!」

 大体、十釘バットである。
 まぁ、釘バット十個収めたところで入れてはくれないだろうけれど。
 
「うちは……まぁ、決して安くはないですけど、普通の方でも入れるくらいの金額ですね。もちろん、特養と比べると高くなりますが、その代わりに施設は充実しています。ほぼ個室ですし、医師・看護師も二十四時間常駐しています。それに画一的なサービスではなく、個々人にあったサービスを提供しておりまして……」

 それだけ聞けば大体わかる。
 ここもかなり高いだろう、と言うことが。
 いつか俺も介護が必要になったらそういういいところに入れるのだろうか、と考えたりするが、そもそも魔物向けのそう言うサービスが存在しているのかどうか謎だ。
 そもそも俺たちは頑丈だから老化しても人間ほどに介護が必要になることもほとんどないというのもあるから、心配する必要はないかもしれないが。
 最後の手段として《若返り薬》を迷宮に取りにいって、不老を狙う、というのもないではないが、まだこちらの世界では産出していないようだしな。
 あれは確か二十層くらいまでいかないと得られなかったはずだ。
 見つかったらおそらく、とんでもない値段で取引されるのだろうことは想像に難くなく、公表せずにこっそり使うしかない。
 一瓶で大体、一月から三ヶ月程度の若返り効果が得られる。
 宝箱でのポップ率も魔物を倒した時のドロップ率も物凄い低いから、定期的に確保しようとしたらよほどの工夫か人海戦術が必要になってくるけれどな。
 
「あ、こっちがスタッフルームになります。外部さんもどうぞ」

 風野がそう言って、施設の入り口近くにある部屋へと進む。
 ちなみに俺が面接を受けていた部屋は応接室だな。
 
「……えーと、誰か時間ある人いる? 涼石《すずいし》さん? なるほど、で、彼女はどこに……食堂? あー、分かった」

 スタッフルームの中にいた人間にそう尋ねた風野は頷いた後、

「外部さん、そういうことなんで、食堂に行きましょう」

「ハイ」

 そして食堂にたどり着くと、席に座って老人達と穏やかに会話をしている若い女性を見つけて、風野が話しかけた。

「いたいた。涼石さん」

 すると女性は振り返って立ち上がる。
 少し驚くくらいに整った顔立ちをしていて、白亜聖クラスである。

「はい、施設長、どうかされましたか?」

「いや、この間言ってた新しい人が入ることが決まってね」

「あっ、もしかしてそっちの……?」

「そうそう。ゴブリンの人だけど、感じも悪くないし、ちゃんと日本語も話せるから」

 そこが判断基準だったのか?
 と思うが確かに日本語をそこまで話せない魔物はまだ全然いるからな。
 ほとんどリスニングは出来ているだろうし、伝えたいことを伝えることも出来るくらいではあっても、細かい話は難しい、というくらいが多い。
 博みたいに《語学》を持っていたり《翻訳》を持っていたら別なのだが。
 まぁ、少数派だ。
 
「なるほど、わかりました。それじゃあ、私は基本的なお仕事とか教えればいいですか?」

「そうだね、とりあえず今日のところは施設を見学してもらうのと、まぁ、大雑把でいいから仕事の内容を見せてあげてってところ。大丈夫かな? 忙しいなら別の人に頼んでもいいけど……」

「大丈夫です。ええと、外部さん、ですね?」

「エ、エエ。ゴブリンノ外部岩雄デス。ヨロシクオ願イシマス」

「私は涼石春香《すずいしはるか》です。どうぞよろしくお願いします」
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