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第31話 すれ違い

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「さて、そんじゃ、次のギルドと行くか」

「オイコラ待テ。説明ガ必要ダロウガ」

 《聖女の祈り》の白亜聖と龍円静が部屋を出ていき、気配も遠くなった時点で博が言ったので、俺は突っ込む。

「説明って?」

 若干ヘラヘラとした顔でそう言ったので、俺はそこで確信する。

「ヤッパリワザトカ。ト言ウカ、カカッテナカッタナ?」

「わかるか? まぁ、普通に抗魔《レジスト》はしなかったけどな」

「ダロウヨ。ジャナキャ気付カレテタダロウシ。アノ聖女サマ、《魅了《チャーム》》持チダナ?」

 俺が確信を持って尋ねれば、博も真面目な顔で頷き、

「その通りだ」

 と言った。
 俺は悪びれることのないその様子に呆れつつ、

「先ニ言ッテオケヨ。チョット驚イタダロウガ」

 少しの憤慨を伝えるが、博は、

「お前なら絶対に平気だと踏んでのことだよ。向こうの世界でお前の部隊にサキュバスとか精神系の奴結構いたろ? それに少しだけ驚かせたいのもあった。こっちの人間も侮れないところがあるってな」

「随分ト買イ被ラレタモンダガ……マァ一ツ貸シナ」

「……やめときゃよかった。とりあえず借りておくか。そうそう、それと俺がかかったふりをしたのは元々、あいつらにはそういう付き合い方してるからだな。こっちの手札を知られたくなくて」

「ワザトカカッタフリヲ、イツモシテイル?」

「そういうこった」

「ヨクバレナイナ」

「多分、まだ抗魔《レジスト》以外の方法で《魅了《チャーム》》を返されたことがないんだろ。そもそも抗魔《レジスト》自体、人間相手にはほとんどされたことないだろうな」

「ダカラソレヲ利用シテギルドヲ作ッタ、カ?」

「あぁ。今はいいだろうが、これから先を考えるとかなり危ういギルドだぜ。あの龍円は《魅了《チャーム》》で従っているわけじゃなさそうだし、そういうメンバーも他に何人かいるみたいだが……多くは《魅了《チャーム》》ありきだからな」

「色ンナ意味デ恐ロシイスキルノ使イ方ヲスルモンダナ。忠告ハシテヤラナイノカ?」

「当面はその予定はないな。弱みは出来るだけ多く握っておいた方が後々効いてくる」

「最後ニハ子飼イニシヨウッテワケカ」

「出来るならな。あいつらは世間のイメージもいいし、政府の手先になってもらうにはちょうどいいスキルをいろいろ持ってる。ま、そんなわけだからお前は適度に距離を保った方がいいぞ、と言う忠告でもあったわけだよ」

「確カニ、若干乱暴ダッタガ、アアイウ性格ダト分カリヤスク知レタノハ良カッタカモナ」

「やっぱりあいつらに売るつもりはないんだな?」

「出会イ頭ニ《魅了《チャーム》》ヲカケテクルヨウナ、イカレタ奴ニ売ルニハ性能ガ良スギルミタイダカラナ」

「ま、それがいいだろうな」

「デモ、他ガアンマリニモ安値シカ付ケナイッテ言ウナラ考エルゾ」

「そこは自由にしていい。ちなみに支払い能力については保証するぞ。今日来た三つの中じゃ、多分、一番資金力があるのが《聖女の祈り》だ」

「ナンデ」

「言ってたろ? 治癒能力がかなり高いんだよ。多分、世界で一番治癒能力が高いのは、俺たち魔物を除けばあの白亜聖だ。俺たちの中にも結構治癒系得意なやつはいるが、例によって国が押さえているからな。民間企業の社長とかとんでもなく金持ちの占い師とか、そういうのに金を積まれて治癒かけに行くんだよ、あいつは」

「……ソノウチ教祖ニデモナッテシマイソウダナ」

「非公式だが彼女を神として崇める新興宗教はすでにいくつか出来てる。有名大学でも活動してて、普通のファンクラブの体で布教活動してるぞ」

「……コワイ」

「まぁ、本人がそう言う団体と結託する気はないのが救いと言えば救いだな。いろんな意味で要注意な女な訳だ」

「分カッタ」

「よし、じゃあ本当に次のギルドの話に移っていいか」

「オウ」

 *****

「……あら、どうもお久しぶりですね」

 探索者協会新宿支部の入り口を出ようとしていた白亜聖と龍円静だったが、反対に入ってきた人物たちの顔を見て、聖はそう声をかけた。
 向こうもそれで聖の顔に気づいたようで、

「……白亜聖か。交渉の方は終わったところか?」

 《スーサイド・レミング》総長、岡倉恭司が口元に皮肉げな笑みを浮かべつつ、聖にそう尋ねる。
 その意味を聖は理解して、

「恙無《つつがな》く、終わりましたよ。所有者の方も私のお話《はなし》によく耳を傾けてくださいました」

 そう言った。
 恭司はこれに苦々しい表情をして、

「……そうかよ。ま、ただ戦利品を持ってないあたり、その場で決まりはしなかったみたいだな。まだ目があるようで俺としてはよかったぜ」

「……ほぼ決まったようなものです。まぁ、どうなろうとも、お互い恨みっこなし、と言うことで。行きましょう、静」

「ええ」

 そう言って、聖と静は外へと出て行った。
 その場に残される形になったのは、恭司と、そして彼にくっついてついてきた《スーサイド・レミング》のメンバー、如月桜花だ。
 桜花は聖たちの後ろ姿を興味深そうな目で見つつ、

「……やっぱり芸能人扱いされる人たちは作りからして違いますね」

 と、ミーハーじみたことを言う。 
 そんな桜花に恭司は笑って、

「見た目はな。ただ中身まで見た目と同じだとは思わない方がいい。あいつら……特に白亜はな……」

 そこで桜花の耳元に口を寄せ、それから、

「……瞳を見た者、声を聞いた者を好きに操れるスキルを持ってやがる。お前も気をつけろ」

 と言った。
 これに桜花は、

「え……それは不味いのではありませんか。と言いますか、今日の交渉、あの人たちが先に本人としたのですよね……」

「そうなんだよなぁ。既にあいつらに売る、で心が固定されてるかもしれねぇ。博さんがなんか対策してくれてるかと思ってたんだが……期待し過ぎたかもな。一応、状態異常回復薬も持ってきてはいるのが希望か」

「二百万はする品を簡単に持ってこないで欲しいのですが……」

「いいんだよ。あの釘バットが手に入るんなら。ともかく、行くぞ、如月。まずは薬飲んでもらうことからだ」

「はい」
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