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第29話 一つ目のギルドの説明
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「面子ネェ……探索者ノ事情ッテヤツハコッチニ来テモヤッパリ変ワラナイッテノハ、ソウイウトコロモナンダナ」
俺がしみじみそう呟くと、博も頷いて、
「まぁ、そういうこった。それでも向こうよりはマシだがな。普通に交渉や会話が通じる」
「ソリャ向コウニイタ時ハ探索者ナンテ敵ダッタンダカラ交渉モ会話モ通ジル訳ナイダロ」
「確かにそうなんだが、あっちのやつらの方がずっと野卑なのは間違いないぞ。俺たち魔物にも、人間に似た格好の種族とか、変化できる奴とかいただろ? そういうのが探索者組合に潜り込んでの感想でもあるぞ」
「アー……」
確かにそれについては俺にも覚えがある。
俺も変化系の魔術を駆使してスパイ活動したことがあるが、まぁ酷いこと酷いこと。
登録しようとしたら本当に絡んできたりする奴が普通にいるのだ。
こっちの世界では……まぁ、ゼロとまでは言わないが、かなり少ないのは間違いないだろう。
世界的にもいい方だと言われる日本人の遵法精神は、当然向こうよりもずっとマシなのだった。
「だからといって油断も出来ねぇけどな。今回お前が交渉することになるギルドの説明に移るが、いいか?」
「構ワナイ」
話を続ける博に頷くと、彼は説明してくれる。
「まず一つ目だが、《聖女の祈り》だ。流石に名前くらいは知ってるよな?」
「アァ。五大ギルドノ名前ハ全部、一応聞キ覚エハアルヨ」
何せ、毎日CMが流れているからな。
それだけ羽振りがいいというのも勿論だが、必ずしも彼らの金ではなく、それこそこの探索者協会が《求む、冒険者たち》みたいな感じで、国民たちを探索者としてリクルートするために流しているCMに、格好よく映って協力している場合の方が多い。
トップクラスの探索者というのはいい稼ぎをしている、というのはもうすでに日本では常識的な話だからな。
それに加えて見た目も格好良く見える奴らがテレビでそうやってCMに出演すれば、探索者志望の若い奴らが押し寄せてくるわけだ。
《はぐれ》なんかのせいで職場が壊されたりするなどして仕事にあぶれる人もいたりして、求人倍率が下がった時期があったのだが、そういう時に特にガンガン流していた記憶がある。
今は安定的にそういった存在を狩れるようになっているのでCMの方も落ち着いているが、見ない日はない。
そして、そんなトップクラスの探索者たちの中でも、若い男性に人気の高いのが《聖女の祈り》というギルドだった。
「確カ、聖女トカ呼バレテル白亜聖《ハクアヒジリ》ガギルドマスターダッタカ?」
「おっ、意外と知ってるな。そうだよ。今やほとんどアイドル扱いだな。CMのみならずグラビアやらドラマやらにまで出てるくらいだ」
「……本業疎カニシスギジャナイカ?」
「流石にそこまでじゃないって。ただ人気者なのは間違いない。お前が名前知ってるくらいだからな」
「マァ、テレビハ見ルカラ」
バラエティでも見たような記憶はあるな。
だけど《真実の目》は彼女に対しては使っていない。
アイドルはもう見ないって決めたのだ……アイドルじゃないけど。
まぁ、芸人やら大物MCやらを見てもいいことがないしな。
誰が愛人だとか隠し子が何人いるだとかそういうことまで見えてしまうのだから。
芸能人はもう見ない。
これで確定だ。
……いざとなったら見るだろうけれど、平常時はな。
「それで、今回交渉に来るのはまさにそのギルドマスター、白亜聖だ。副長も来るが、こっちも人気だな。龍円静《りゅうえんしずか》。白亜とはまた違った雰囲気をした美人だ。ゲード、色香に惑わされないように気をつけるんだぞ?」
「釘バットヲ買イニ来ルト思ウト百年ノ恋モ覚メソウダケドナ」
「ははは。言われてみりゃそうだな。どうして彼女たちが直接交渉してまで欲しいのか……《聖女の祈り》は基本的に強力な回復能力を持ったギルドマスターと、魔術師を主力にしてるギルドだ。まぁ、それでも前衛はいるだろうし、そいつらにってことかな」
「強力ナ武器ハトリアエズ自分ノトコロデ持ッテオイテ損ハナイダロ」
「そういう見方もあるか。他にはあとで誰かを勧誘するのに使ってもいいだろうしな……」
会話しながら納得したらしい。
博は頷いて、
「ま、そういうわけで、そこと初めに交渉することになる。何か聞きたいことはあるか?」
「ウーン……ソウダナ。トリアエズ、コノ釘バットノ相場ッテイクラクライダト思ウ?」
「そこか? 俺が見るにやっぱり五百万はくだらないと思うぞ。場合によっては一千万くらいいく可能性もあるな」
「ソンナニカ?」
「向こうじゃ見慣れてるレベルの品だろうが、こっちの世界に来たとき、本来持ってた武器の類はいつの間にか消えてたろ。鎧もだ。普通の鉄製の武具に変わって、収納の中身も入れ替わってた。だから、お前のその釘バットは恐ろしいほど貴重な品なんだよ」
「ダッタラ億越エデモ……」
こっちはいいのだよ?と下心を出してみたが、今度は博に笑われた。
「ははは。それは欲を出しすぎだ。そいつがミスリル製だとかいうなら、それこそその可能性もあるだろうけどな。あくまでも普通の材質の釘バットが強い魔力で強化された品でしかないからな。それに、すでに人類が到達している十層でなら出る可能性もありうる性能。となると、やっぱり一千万くらいが限界だろう。攻略が進めばもっと下がっていくだろうし、今が売り時なのは間違い無いだろうけどな」
俺がしみじみそう呟くと、博も頷いて、
「まぁ、そういうこった。それでも向こうよりはマシだがな。普通に交渉や会話が通じる」
「ソリャ向コウニイタ時ハ探索者ナンテ敵ダッタンダカラ交渉モ会話モ通ジル訳ナイダロ」
「確かにそうなんだが、あっちのやつらの方がずっと野卑なのは間違いないぞ。俺たち魔物にも、人間に似た格好の種族とか、変化できる奴とかいただろ? そういうのが探索者組合に潜り込んでの感想でもあるぞ」
「アー……」
確かにそれについては俺にも覚えがある。
俺も変化系の魔術を駆使してスパイ活動したことがあるが、まぁ酷いこと酷いこと。
登録しようとしたら本当に絡んできたりする奴が普通にいるのだ。
こっちの世界では……まぁ、ゼロとまでは言わないが、かなり少ないのは間違いないだろう。
世界的にもいい方だと言われる日本人の遵法精神は、当然向こうよりもずっとマシなのだった。
「だからといって油断も出来ねぇけどな。今回お前が交渉することになるギルドの説明に移るが、いいか?」
「構ワナイ」
話を続ける博に頷くと、彼は説明してくれる。
「まず一つ目だが、《聖女の祈り》だ。流石に名前くらいは知ってるよな?」
「アァ。五大ギルドノ名前ハ全部、一応聞キ覚エハアルヨ」
何せ、毎日CMが流れているからな。
それだけ羽振りがいいというのも勿論だが、必ずしも彼らの金ではなく、それこそこの探索者協会が《求む、冒険者たち》みたいな感じで、国民たちを探索者としてリクルートするために流しているCMに、格好よく映って協力している場合の方が多い。
トップクラスの探索者というのはいい稼ぎをしている、というのはもうすでに日本では常識的な話だからな。
それに加えて見た目も格好良く見える奴らがテレビでそうやってCMに出演すれば、探索者志望の若い奴らが押し寄せてくるわけだ。
《はぐれ》なんかのせいで職場が壊されたりするなどして仕事にあぶれる人もいたりして、求人倍率が下がった時期があったのだが、そういう時に特にガンガン流していた記憶がある。
今は安定的にそういった存在を狩れるようになっているのでCMの方も落ち着いているが、見ない日はない。
そして、そんなトップクラスの探索者たちの中でも、若い男性に人気の高いのが《聖女の祈り》というギルドだった。
「確カ、聖女トカ呼バレテル白亜聖《ハクアヒジリ》ガギルドマスターダッタカ?」
「おっ、意外と知ってるな。そうだよ。今やほとんどアイドル扱いだな。CMのみならずグラビアやらドラマやらにまで出てるくらいだ」
「……本業疎カニシスギジャナイカ?」
「流石にそこまでじゃないって。ただ人気者なのは間違いない。お前が名前知ってるくらいだからな」
「マァ、テレビハ見ルカラ」
バラエティでも見たような記憶はあるな。
だけど《真実の目》は彼女に対しては使っていない。
アイドルはもう見ないって決めたのだ……アイドルじゃないけど。
まぁ、芸人やら大物MCやらを見てもいいことがないしな。
誰が愛人だとか隠し子が何人いるだとかそういうことまで見えてしまうのだから。
芸能人はもう見ない。
これで確定だ。
……いざとなったら見るだろうけれど、平常時はな。
「それで、今回交渉に来るのはまさにそのギルドマスター、白亜聖だ。副長も来るが、こっちも人気だな。龍円静《りゅうえんしずか》。白亜とはまた違った雰囲気をした美人だ。ゲード、色香に惑わされないように気をつけるんだぞ?」
「釘バットヲ買イニ来ルト思ウト百年ノ恋モ覚メソウダケドナ」
「ははは。言われてみりゃそうだな。どうして彼女たちが直接交渉してまで欲しいのか……《聖女の祈り》は基本的に強力な回復能力を持ったギルドマスターと、魔術師を主力にしてるギルドだ。まぁ、それでも前衛はいるだろうし、そいつらにってことかな」
「強力ナ武器ハトリアエズ自分ノトコロデ持ッテオイテ損ハナイダロ」
「そういう見方もあるか。他にはあとで誰かを勧誘するのに使ってもいいだろうしな……」
会話しながら納得したらしい。
博は頷いて、
「ま、そういうわけで、そこと初めに交渉することになる。何か聞きたいことはあるか?」
「ウーン……ソウダナ。トリアエズ、コノ釘バットノ相場ッテイクラクライダト思ウ?」
「そこか? 俺が見るにやっぱり五百万はくだらないと思うぞ。場合によっては一千万くらいいく可能性もあるな」
「ソンナニカ?」
「向こうじゃ見慣れてるレベルの品だろうが、こっちの世界に来たとき、本来持ってた武器の類はいつの間にか消えてたろ。鎧もだ。普通の鉄製の武具に変わって、収納の中身も入れ替わってた。だから、お前のその釘バットは恐ろしいほど貴重な品なんだよ」
「ダッタラ億越エデモ……」
こっちはいいのだよ?と下心を出してみたが、今度は博に笑われた。
「ははは。それは欲を出しすぎだ。そいつがミスリル製だとかいうなら、それこそその可能性もあるだろうけどな。あくまでも普通の材質の釘バットが強い魔力で強化された品でしかないからな。それに、すでに人類が到達している十層でなら出る可能性もありうる性能。となると、やっぱり一千万くらいが限界だろう。攻略が進めばもっと下がっていくだろうし、今が売り時なのは間違い無いだろうけどな」
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