異世界に転生したゴブリン、地球に戻る

丘野 優

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第28話 ギルドの仲

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「デ、ココガソノ探索者協会新宿支部、ッテ訳カ」

 博と話しながらしばらく歩いて、俺たちはとうとうその場所にたどり着く。
 真新しい、現代的なビルがそこにはあった。
 複数の三角錐が複合的に重なっているような不可思議な形をしていて、どこかの現代建築家がアバンギャルドな感性でもって設計したのだろうな、と想像がつく。
 ただ、今の新宿の街の中では思った以上に溶け込んでいる。
 この現代に武具を身に纏った探索者や魔物たちが闊歩するそれこそ奇妙な街なのだ。
 これくらいに自己主張の激しい建物でなければ埋もれる、という感覚はむしろ正解なのかもしれなかった。

「おう、こっちだ。ついてきてくれ」

 博が勝手知ったるなんとやら、といった感じでズンズン進んでいき、自動ドアを通って中に入る。
 入ってすぐのところに受付があり、その後ろには役所のような部署ごとの窓口がたくさんあった。
 ここを訪れる探索者はまず受付で目的を述べ、どの部署に行くべきか訪ねるというシステムなのだとすぐにわかる。
 それこそその辺の役所と同じだな。
 ただ、受付の後ろに存在している部署は水道課とか市民課とかじゃなくて、迷宮課とか魔物課とか換金所とか、現代人の感覚からするとかなりカオスなところばかりのようだが。
 
 しかし博はそんな受付には寄らなかった。
 受付に座っている二人の女性は博と俺に気づいたようだが、博が目配せするとすぐに頷いて、特段誰何もされることなく終わる。
 向かっている方向には《関係者以外立ち入り禁止》のタグが付けられたロープが張ってあるのだが、博はそれを避けて進んでいく。
 俺もいいのかな、と思って一瞬躊躇していると、博は俺がついてこないことにすぐに気づいて振り向き、

「おい、ゲード。早く来い」

 そう言ったので俺は慌てて、

「悪イ。チョットマゴツイテ」

 と博の元に急ぐ。
 それから共に進みつつ博が言う。

「こっち来た当初はお前が誰よりも堂々としてたってのに、なんだか意外だな」

「元々小市民気質ナンダヨ。最初ノ内ハソレコソ皆何モ分カッテナカッタンダカラ俺ガ頑張ルシカナイト思ッタダケダ」

「そうなんだろうな、今のお前見てると。本当に頭が下がるぜ……おっと、歩きながらで悪いんだけどよ、これからの段取りを軽く確認してもいいか?」

「アア」

「と言っても、難しいことは何もねぇんだがな。電話で話した通り、ゲード、お前には三つのギルドと釘バットの譲渡・売却について交渉してもらう。ただ、三つ一緒に交渉するわけじゃねぇ。あくまでも、一つずつ、だ」

「ソレッテ何デナンダ?」

 まとめてやってしまった方が話が早いだろうに。
 そう思ってしまって不思議だったが、これに博は苦々しい顔で言う。

「簡単だよ。四天王の皆様方みたいなもんだからだ、といえば分かりやすいだろ?」

「……アァ、ナルホド」

 それは、俺たち向こうの魔物、特に魔王軍に所属していた者にとっては極めて分かりやすい例えだった。
 魔王軍には魔王陛下の下に《四天王》と呼ばれる強力な幹部クラスの魔物がいた。
 RPGでもよくいるような奴らを想像して貰えばいい。
 まさかそんなものが本当にいるなんて、俺は最初に知ったとき、つい笑いかけたが、教えてくれた魔物の怯えようを見るに冗談ではないのだな、と笑いを引っ込めた記憶がある。
 それだけ強力な魔物なのだ。
 そんな彼らはそもそも強いわけだが、そのこととは関係なく、分かりやすい共通点があった。
 全員、極めて仲が悪いのだ。
 四人も人がいれば……人ではなく魔物だがそう言うことにする……自分以外の誰かしらとは少しくらい仲良くできるものだと思うのだが、四天王に限っては全くそんな一般論は通じなかった。
 彼らはそれぞれ他の三人と仲が悪い。
 嫌いあっていると言っても過言ではない。
 もちろん、これには理由があって、彼らはいわゆる次期魔王候補だったからだ。
 他の三人をいつか必ず蹴落とさなければならない、そういう関係にある以上はどうやっても仲良くすることができず、だからこそ、そうやっていがみ合うしかなかった、と言える。
 まぁ、そんなこと関係なく嫌いあってたんじゃね、と言う感じもしないでもないが、それは置いておこう。
 博はそんな彼らと、今回交渉する予定の三つのギルドが同じだと言った。
 つまり、彼らもまた仲が極めて悪いと……。

「デモ、イワユル五大ギルドッテヤツナンダロウ? 同業他社ト鎬ヲ削ル感ジハ分カルケド、交渉ノ場マデソンナ啀《イガ》ミ合イヲ持チ込ンダリシナインジャナイカ?」

「ゲード、お前は甘いよ。と言うか、探索者って生き物をわかってない。普通の企業人じゃないんだ。むしろいわゆる、なんだ。マフィアとかヤクザとか、そっちよりの精神構造しているような奴らなんだよ。どこであろうと面子のためには喧嘩を引っ張ってくる。そういう性質なんだよ」
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