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第27話 合流
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「エエット……」
天下の新宿駅に降り立ち、俺は東改札を出る。
そこから辺りを見回して目的の人物を探す。
「……マダ来テナイカナ。ソレニシテモ、何度見テモ不思議ナ光景ダヨナァ……」
なんだか感慨深くそう思ってしまうのは、周囲を歩く人々の姿にあった。
まず一つ目が、少なからぬ人数が武装していることだろう。
重火器類を持っている人物は一人もおらず、大抵が防具に剣や弓などの、昔ながらの武器を持っている。
防具については現代的なものも少なくなく、防弾チョッキのようなものから革鎧まで様々だ。
中にはフルアーマーを着込んでいる強者もいる。
さらに、そういった人たちの、いわゆる人種も様々であることも目を引いた。
つまりは俺たちのような魔物系が結構いるのだ。
新宿はそもそも行き交う人々の数が半端ではないため、必然的に多くなるというのがその理由の一つだが、他にも理由はあった。
それは一つ目の不思議な光景、武具を持っている人が多いことの理由でもある。
「……ゲード! いたいた」
色々と考え込みかけた俺に向かって、聞き覚えのある声がかかった。
声の方向を向いてみれば、スーツ姿のオークが手を振りながら近づいてくるところだった。
一昔前であれば明らかにコスプレ以外に見えず、秋葉原かなと言ったような見た目の博であるが、今の新宿には問題なく溶け込んでいる。
普通にアロハシャツ姿のリザードマンとかブランド服に身を固めたゴブリンが通り過ぎていくのだから、スーツ姿のオークくらいなんだと言う話だ。
「遅イゾ、博」
「悪いって。でもそもそもお前が新宿支部の場所がわからねぇって言うから迎えに来てやったんだろ? 少しは感謝しろよな」
「……ソレハマァ、ソウナンダケドサ。ダッテ完成シタノ少シ前ダロ? 丸ノ内本部ニハ何度モ行ッテルンダケド」
「あっちは今はほとんど事務作業ばっかだからな。迷宮探索の本場は新宿に変わろうとしてる。見つかる多くの衛星迷宮も新宿近くが一番多いしな。やっぱり新宿迷宮があるからだろうさ」
「マサカ本当ニダンジョンガ出来テシマウナンテ面白イモンダヨナ……」
ぽつり、と俺がそう言ったのは、こんな世界になる前に新宿駅ときたらダンジョン呼ばわりされるほどの複雑さと大きさを誇った駅だったからだ。
そんな駅の地下に迷宮が出来たのは俺たちがこの世界に呼ばれて少し後だった。
今では日本最古、最大のダンジョンの一つとなっていて、多くの探索者たちがこの街を拠点に活動している。
それもあって新宿には探索者協会の支部が作られたのだが……。
これにも実は一悶着あった。
「あぁ、昔からダンジョンって呼ばれてたって話な。こっちの世界にはそんなもんなかったってのに、面白いもんだぜ。ただ《はぐれ》の被害に遭った一般人たちからすりゃ、迷惑な話だろうがな」
博が苦笑しながらそう言った。
《はぐれ》は基本的に大きく発達した迷宮から発生し、迷宮外に排出される魔物だ。
したがって、古く大きなダンジョンの周辺には発生しやすい。
つまり今の日本において、最も《はぐれ》が発生しやすい地域の一つがこの新宿駅周辺になっていた。
と言っても、基本的にダンジョンがしっかりと攻略され、内部の魔物がある程度駆除されている場合には《はぐれ》はまず発生しないのだが、新宿ダンジョンはその存在が明らかになる前にそれなりの数の《はぐれ》を外部に排出し、周辺に結構な被害を出していた。
具体的に言うなら、ビルなどが倒壊するなどの事件が数件、魔物による大量殺人も数件起こった。
今の新宿駅の様子を見る限り、全くそんな雰囲気はなく、日本人の立ち直りの早さを尊敬したくなるが、ふと注意して周りを見てみると、慰霊碑や花束が設置されている場所がそれなりに目に付く。
「今ダッタラ多少ノ《ハグレ》クライ、ソノ辺ニイル探索者ガ倒シテシマウンダロウケドナ……」
「当時は探索者なんてほとんどいなかった。警察と自衛隊で死傷者を出しながらやっとなんとか、だったみたいだな。まぁ、ひどい記憶だ。だがその代わりに、探索者の必要性が日本人の意識に根付いたところもある。テレビでのニュースなんか一時、そればっかりだったからな……いなけりゃこうなる、って誰もが思ったって言うよな」
人は痛みを知らなければ傷つく可能性のある存在を排除することに頭が向かないのだ。
迷宮について、日本人は当初さして問題視していなかった。
あまり大きなものがなく、《はぐれ》の存在もほとんど知られていなかったのが大きい。
だからこそ、新宿駅での出来事は大きく報道され、今でも忘れられてはいない。
「ソレデ支部創設ニツイテモ話ガスムーズニ進ンダ、カ。魔物ニ破壊サレタビルノ跡地ニ作ッタンダヨナ?」
「あぁ、人死がたくさん出たし、また《はぐれ》が出たらどうするんだって誰も買い手がつかなかったらしいからな。かなり安く購入できたって話だぜ」
天下の新宿駅に降り立ち、俺は東改札を出る。
そこから辺りを見回して目的の人物を探す。
「……マダ来テナイカナ。ソレニシテモ、何度見テモ不思議ナ光景ダヨナァ……」
なんだか感慨深くそう思ってしまうのは、周囲を歩く人々の姿にあった。
まず一つ目が、少なからぬ人数が武装していることだろう。
重火器類を持っている人物は一人もおらず、大抵が防具に剣や弓などの、昔ながらの武器を持っている。
防具については現代的なものも少なくなく、防弾チョッキのようなものから革鎧まで様々だ。
中にはフルアーマーを着込んでいる強者もいる。
さらに、そういった人たちの、いわゆる人種も様々であることも目を引いた。
つまりは俺たちのような魔物系が結構いるのだ。
新宿はそもそも行き交う人々の数が半端ではないため、必然的に多くなるというのがその理由の一つだが、他にも理由はあった。
それは一つ目の不思議な光景、武具を持っている人が多いことの理由でもある。
「……ゲード! いたいた」
色々と考え込みかけた俺に向かって、聞き覚えのある声がかかった。
声の方向を向いてみれば、スーツ姿のオークが手を振りながら近づいてくるところだった。
一昔前であれば明らかにコスプレ以外に見えず、秋葉原かなと言ったような見た目の博であるが、今の新宿には問題なく溶け込んでいる。
普通にアロハシャツ姿のリザードマンとかブランド服に身を固めたゴブリンが通り過ぎていくのだから、スーツ姿のオークくらいなんだと言う話だ。
「遅イゾ、博」
「悪いって。でもそもそもお前が新宿支部の場所がわからねぇって言うから迎えに来てやったんだろ? 少しは感謝しろよな」
「……ソレハマァ、ソウナンダケドサ。ダッテ完成シタノ少シ前ダロ? 丸ノ内本部ニハ何度モ行ッテルンダケド」
「あっちは今はほとんど事務作業ばっかだからな。迷宮探索の本場は新宿に変わろうとしてる。見つかる多くの衛星迷宮も新宿近くが一番多いしな。やっぱり新宿迷宮があるからだろうさ」
「マサカ本当ニダンジョンガ出来テシマウナンテ面白イモンダヨナ……」
ぽつり、と俺がそう言ったのは、こんな世界になる前に新宿駅ときたらダンジョン呼ばわりされるほどの複雑さと大きさを誇った駅だったからだ。
そんな駅の地下に迷宮が出来たのは俺たちがこの世界に呼ばれて少し後だった。
今では日本最古、最大のダンジョンの一つとなっていて、多くの探索者たちがこの街を拠点に活動している。
それもあって新宿には探索者協会の支部が作られたのだが……。
これにも実は一悶着あった。
「あぁ、昔からダンジョンって呼ばれてたって話な。こっちの世界にはそんなもんなかったってのに、面白いもんだぜ。ただ《はぐれ》の被害に遭った一般人たちからすりゃ、迷惑な話だろうがな」
博が苦笑しながらそう言った。
《はぐれ》は基本的に大きく発達した迷宮から発生し、迷宮外に排出される魔物だ。
したがって、古く大きなダンジョンの周辺には発生しやすい。
つまり今の日本において、最も《はぐれ》が発生しやすい地域の一つがこの新宿駅周辺になっていた。
と言っても、基本的にダンジョンがしっかりと攻略され、内部の魔物がある程度駆除されている場合には《はぐれ》はまず発生しないのだが、新宿ダンジョンはその存在が明らかになる前にそれなりの数の《はぐれ》を外部に排出し、周辺に結構な被害を出していた。
具体的に言うなら、ビルなどが倒壊するなどの事件が数件、魔物による大量殺人も数件起こった。
今の新宿駅の様子を見る限り、全くそんな雰囲気はなく、日本人の立ち直りの早さを尊敬したくなるが、ふと注意して周りを見てみると、慰霊碑や花束が設置されている場所がそれなりに目に付く。
「今ダッタラ多少ノ《ハグレ》クライ、ソノ辺ニイル探索者ガ倒シテシマウンダロウケドナ……」
「当時は探索者なんてほとんどいなかった。警察と自衛隊で死傷者を出しながらやっとなんとか、だったみたいだな。まぁ、ひどい記憶だ。だがその代わりに、探索者の必要性が日本人の意識に根付いたところもある。テレビでのニュースなんか一時、そればっかりだったからな……いなけりゃこうなる、って誰もが思ったって言うよな」
人は痛みを知らなければ傷つく可能性のある存在を排除することに頭が向かないのだ。
迷宮について、日本人は当初さして問題視していなかった。
あまり大きなものがなく、《はぐれ》の存在もほとんど知られていなかったのが大きい。
だからこそ、新宿駅での出来事は大きく報道され、今でも忘れられてはいない。
「ソレデ支部創設ニツイテモ話ガスムーズニ進ンダ、カ。魔物ニ破壊サレタビルノ跡地ニ作ッタンダヨナ?」
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