上 下
23 / 40

第23話 ひっかけ

しおりを挟む
「デモ、ソウイウ話ナラ俺ハアノ釘バット、ドウヤッテ処分シタライイ? 粗大ゴミニデモ出シタライイノカ?」

 俺は博にそう尋ねる。
 高く売れたらそれはそれでいいというのは正直なところだが、そもそもの目的は《魔剣化》してしまった不用品をどうにかして処分したいという一点に尽きるからだ。
 家に置いておくとあれが誰かに盗まれたりしたら怖いからな。
 というのは、このマンション、窃盗の被害に何度かあっているらしいからだ。
 大家さんからも気をつけてね、と言われているが気をつけたところで、家にいないときに窓ガラスを割られて入られたんじゃどうしようもない。
 少なくとも、前の手口はそういう感じだったようだし。
 通帳とか財布とか印鑑とかは手元に常に持ってればいいが、流石に釘バットは持ち歩き続けるわけにはいかないからな。
 他のものは盗まれても諦めがつくし、問題も怒らないが、この釘バットに限っては小学生が軽く振ったとしてもその辺の樹木くらいなら切り倒せるのだ。
 危ないなんてもんじゃない。

 そんな俺に、博は言う。

『流石に粗大ゴミに捨てるのはやめてくれよ。まぁ、冗談だって分かってるけど、お前って結構突拍子のないことも昔からするやつだったから、ちょっと怖い』

 昔、というのは魔王軍にいた頃の話だろう。
 こっちの世界では大したことはしていない。
 善良なゴブリンとして生きてきている。
 
「イクラナンデモ、ソレ位ノ常識ハアルカラ心配シナイデクレ。デモ処分シタイノハ本当ナンダ」

『まぁ、そうだろうなぁ。というか、そもそもの話なんだが、どうやって手に入れたんだ? 最初は迷宮に潜って手に入れたのかと推測してたんだが、さっきお前、俺の引っかけに引っ掛かったよな? ってことは自分で作ったってことだろうが……そんなスキル持ってたか?』

「ン? 引ッ掛ケ……アッ!?」

 《お前の作った魔剣ほどの品はまだ生産できねぇだろうな》《ナンデ?》 
 そんなやりとりをしたことを思い出す。
 あれはすでに知っていたわけではなくて、引っ掛けだったのか……。
 博は外務省勤めで、俺たちのような異世界の存在について担当する部署にいるから、先日のケン君たちと一緒に遭遇した《はぐれ》のこともすでに掴んでいると勝手に思い込んでた。
 しかし、この感じだとそこまで分かってはいないようだ。
 だとすれば、話しておいた方が良さそうだ、と思った俺は、博に言う。

「確カニ、アレハ俺ガ作ッタモンダヨ。実ハ……」

 そして、コンビニ帰りにケン君たちと襲われた経緯と、そこでアーツを使ったことを話すと、博は驚いた声で、

『……マジかよ。ゲードの住んでるあたりにはまだ迷宮は確認されてなかったはずなんだがな。《はぐれ》が出てくるくらいになってんのか。やべぇな、それ。それにお前も……《剣気一閃》だって? それって確か《上級剣術》スキル持ってねぇと覚えられねぇ技だろ。聞いてないんだが』

「ソリャ、手ノ内ハ味方デアッテモ全部話スベキジャナイカラナ。デモ博ニハ言ッテモ良カッタカモシレナイケド他ガチョット」

『言いたいことはわかるぜ。魔王軍と言っても別に完全な一枚岩ってわけでもなかったしなぁ……まぁ、今となっちゃどうでもいい話だが。で、問題は迷宮だよ。一応聞いとくが、どこら辺にあるか推測つくか?」

 博としてはダメ元で聞いてきたのだろう。
 しかし、俺は言う。

「既ニ見ツカッテルモンダト思ッテタカラ、アンマリ細カクハ感知シテナイケド、大体、桜水上山《サクラミナカミヤマ》ノドコカニ入口ガアルト思ウヨ。暇ナ時デイイナラ調ベテ後デ位置データ送ルケド?」

 スマホで位置情報埋め込んだ写真を送ればそれでいいだろうと思っての提案だった。
 これに博は喜んだ声で、

『マジか! すげー助かるわ。どうにかこっちで人出して虱潰しにしねぇといけねぇと思って焦ってた。ここのところいくつも迷宮が見つかってて、正直寝る暇もなくてよ。公務員って奴は辛いな。誰だよ、暇だって言ってたの』

 文句を言いながら感謝するという離れ技を披露する。
 まぁ、俺は公務員ではないのでどれだけ忙しいのかは分からないが、少なくとも迷宮関連の部署はどの省庁であって死ぬほど忙しいことは想像がつく。
 SNSとかまとめサイトとかだと死ぬほど叩かれてるのがたまにかわいそうになってくるほどに。
 迷宮管理局仕事しろ、とか、魔物被害多すぎんぞふざけるな、とかそんなの言われても人手不足なんだろうなという感じで。
 特に博はこの世界の人間と俺たち魔物との間を取り持つような仕事もしているはずだから、さらにひどいはずだ。
 たまに俺のところを訪ねてくるのは仕事もあるだろうが、本当に息抜きついでに話せる相手が俺くらいしかいないというのもある。
 
「マァ、ナンダ。トニカク応援シテルカラ頑張ッテクレ。デモ俺、面接トカアルカラ一週間位ハ見トイテ欲シインダケド」

『それくらいなら余裕だ。お前が請け合うからには確実に見つけてくれるんだろ? 今、東北で探してる迷宮は一月経っても見つからねぇんだぜ。それに比べりゃ、むしろ楽でいいよ』

 迷宮には様々な形があり、ぱっと見でわかるようなところもあるが、中々見つけられない場合もある。
 土に埋まっているとか、数メートル掘らないと出てこないとかもザラだ。
 どうやって内部の魔物は空気を確保してるんだと聞きたくなるが、あいつらは俺たちとはそもそも存在自体が違って、呼吸も不要なのかもしれない。
 空中に浮かんでる迷宮とかもあるしな。
 
「分カッタ。デモ出来ル限リ早メニヤットクヨ」

『あぁ、頼んだ。その代わりと言っちゃあなんだが、お前の釘バット、処分先紹介できるぞ? まぁ、これはちょっと恩着せがましい言い方だが」

「本当カ?」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
ファンタジー
 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

処理中です...