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第21話 妙な電話
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「……オ誘イハアリガタインダケド……」
俺がカズ兄の言葉にそう返答すると、カズ兄ではなくケン君の方が興奮した様子で、
「なっ、なんでだ!? カズ兄の所属ギルド、めっちゃ有名なのに……もったいないって!」
と言ってくる。
その様子に俺は苦笑する。
これは俺が断ったことに対して言っているというわけではなく、自分が入りたいから言っているのだろう、と分かるからだ。
それはカズ兄の方も同じようで、苦笑していた。
しかし、カズ兄はケン君の台詞に特に言及することなく、俺に言う。
「……そっか。まぁ、それなら仕方がないな」
「結構、スグ引イテクレルンダネ?」
知人の魔物たちの中には、かなりしつこく勧誘を受けた者もいるというのは聞いたことがあった。
まぁ、いい条件でならともかく、その多くが半ば詐欺的なものや、その魔物たちの力に寄生するような形でのギルド立ち上げを企んでいたものばかりだったらしく、初期の俺たちがどれだけ舐められていたかがわかる話である。
今でも無くなったわけではないが、国による保護があるため、あまり気軽に手を出すとむしろ火傷するようなところもあって、そういう奴らは減ってはいる。
ただ、カズ兄のギルドのような大手であれば、それなりにあの手この手を使って勧誘してもそこまで問題視はされない。
だからスッと引いたのは意外だった。
これにカズ兄は、
「まぁ、今のところは、ってとこだよ。諦めたわけじゃない」
「ナルホド。デモ俺ハ大シタ事ナイヨ? スゴイ奴ラハモウトックノ昔ニドコカノギルドニ入ッテルシ」
「だからこそ、俺は外部さんに出会えたことに感謝したいんだけど……まぁ、今はいいさ。というか、外部さんって、これからどうするつもりなんだ? まだ可決はしてないけど、野党の勢いを削ぐために、廃止はしないまでも給付金、少し下げられるだろうって話だし、流石にそれだけじゃ生活できなくなるんじゃないのか?」
ちょっと突っ込んだ話をするカズ兄。
俺がさっき国に養われる身だと言ったところから、給付金頼りだということを理解したのだろう。
俺はそれに答える。
「ソレニツイテハ昨日、斡旋所ニ行ッテサ。トリアエズ介護施設ノ面接ヲ受ケル予定ナンダ」
「介護施設? ってことは介護士になるんだ。それ《はぐれ》を一撃で倒すほどの人にしては意外な話だな……でもまぁ、魔物の人たちって結構、介護に慣れてるって聞いたことがあるから、そういう意味じゃ別におかしくはないのかな?」
「アァ、元々、コッチニ来タ奴ラハ戦場ニイタノガ多イカラネ。重傷者ヲ運ンダリ、介抱スルコトニハ確カニ慣レテル人ハ多イト思ウヨ」
「……なるほどね。あんまり向こうでの話は魔物の人たちは話したがらないってことだったけど、そういうこともあったのかな。それなら、適職なのかもな。ま、もしも気が変わったり、面接で落ちたりしたらこっちに連絡してくれよ。連絡先、交換しておこう」
「ウン。ケン君タチモ。初心者講習ノ後ニナルダロウケド、迷宮ノ基本的ナコトハ教エルカラ」
「おっ、ありがとう。外部さん……ほら、ミサとリノも」
「わかった!」
「う、うん……」
そんな感じで連絡先交換を終え、近いうちの再会を約束してから、俺は公園から家に戻ることにしたのだった。
*****
「サテサテ、ソレジャ、ネトオクノ様子ヲ拝見ト行キマスカ……」
家に戻って、俺は早速パソコンを開いて例のサイト、《迷宮オークション》を開く。
そしてマイページを開いて、出品物の欄を開こうとしたのだが……。
「……アレ?」
不思議なことに、そこには何の記載もなかった。
出品それ自体が取り下げられている上、登録したはずの情報も全部削除されている。
ログも特に残っておらず、一件二件だけだがあったはずのコメントもなくなっていた。
まぁ、コメントは「五十円なら即決」とか「釘バットなんかいらん」とかいうものだけだったので正直どうでもいいが。
しかし、出品それ自体がまるでなかったことになっているのは……。
そう思って困惑しつつ、落ち着こうと思って帰りに買ってきたラーメンを啜る。
けれど、ラーメンの味はうまくても、なぜこんなことになっているのかは全くわからなかった。
そんな中、
ーーピロリンラン。
という、スマホの着信音が部屋に鳴り響く。
一昔前の映画音楽を着信音にしているのだが、まず被らないのですぐに俺のスマホが鳴ったとわかる優れた音だ。
俺はスマホを取り、フリックして通話状態にする。
「……ハイ?」
見たことのない番号だったから、名乗るのもどうかと思って適当に返事をしてみると、向こうから帰ってきた声は意外なものだった。
『おっ、ゲード……じゃなかった、岩雄か。よかった、今、家か?』
「……ソノ声ハ、モシカシテ博《ヒロシ》カ?」
『そうだよ。悪いな、突然』
「イヤ別ニ構ワナイケド……ドウシタンダ、突然。シカモ、ドコカラ掛ケテルンダヨ。携帯カラジャナイヨナ?」
『あぁ、それなんだが、今回は仕事でかけてるからな。通話記録とってるんだよ。お前もそのつもりで話してくれ』
「エ? 仕事ッテ、確カオ前ノ職場ッテ、アレダヨナ」
『そう、天下の外務省だぜ』
「何デソンナ所ガ俺ニ用ガアルンダヨ……」
『お前、こっちに来て当初は色々やってただろうが。それだけでもそこそこ用があってもおかしくないだろ。ただ、今回は別にそっちは関係なくてな。お前、《迷宮オークション》に魔剣出したろ? その件だよ』
俺がカズ兄の言葉にそう返答すると、カズ兄ではなくケン君の方が興奮した様子で、
「なっ、なんでだ!? カズ兄の所属ギルド、めっちゃ有名なのに……もったいないって!」
と言ってくる。
その様子に俺は苦笑する。
これは俺が断ったことに対して言っているというわけではなく、自分が入りたいから言っているのだろう、と分かるからだ。
それはカズ兄の方も同じようで、苦笑していた。
しかし、カズ兄はケン君の台詞に特に言及することなく、俺に言う。
「……そっか。まぁ、それなら仕方がないな」
「結構、スグ引イテクレルンダネ?」
知人の魔物たちの中には、かなりしつこく勧誘を受けた者もいるというのは聞いたことがあった。
まぁ、いい条件でならともかく、その多くが半ば詐欺的なものや、その魔物たちの力に寄生するような形でのギルド立ち上げを企んでいたものばかりだったらしく、初期の俺たちがどれだけ舐められていたかがわかる話である。
今でも無くなったわけではないが、国による保護があるため、あまり気軽に手を出すとむしろ火傷するようなところもあって、そういう奴らは減ってはいる。
ただ、カズ兄のギルドのような大手であれば、それなりにあの手この手を使って勧誘してもそこまで問題視はされない。
だからスッと引いたのは意外だった。
これにカズ兄は、
「まぁ、今のところは、ってとこだよ。諦めたわけじゃない」
「ナルホド。デモ俺ハ大シタ事ナイヨ? スゴイ奴ラハモウトックノ昔ニドコカノギルドニ入ッテルシ」
「だからこそ、俺は外部さんに出会えたことに感謝したいんだけど……まぁ、今はいいさ。というか、外部さんって、これからどうするつもりなんだ? まだ可決はしてないけど、野党の勢いを削ぐために、廃止はしないまでも給付金、少し下げられるだろうって話だし、流石にそれだけじゃ生活できなくなるんじゃないのか?」
ちょっと突っ込んだ話をするカズ兄。
俺がさっき国に養われる身だと言ったところから、給付金頼りだということを理解したのだろう。
俺はそれに答える。
「ソレニツイテハ昨日、斡旋所ニ行ッテサ。トリアエズ介護施設ノ面接ヲ受ケル予定ナンダ」
「介護施設? ってことは介護士になるんだ。それ《はぐれ》を一撃で倒すほどの人にしては意外な話だな……でもまぁ、魔物の人たちって結構、介護に慣れてるって聞いたことがあるから、そういう意味じゃ別におかしくはないのかな?」
「アァ、元々、コッチニ来タ奴ラハ戦場ニイタノガ多イカラネ。重傷者ヲ運ンダリ、介抱スルコトニハ確カニ慣レテル人ハ多イト思ウヨ」
「……なるほどね。あんまり向こうでの話は魔物の人たちは話したがらないってことだったけど、そういうこともあったのかな。それなら、適職なのかもな。ま、もしも気が変わったり、面接で落ちたりしたらこっちに連絡してくれよ。連絡先、交換しておこう」
「ウン。ケン君タチモ。初心者講習ノ後ニナルダロウケド、迷宮ノ基本的ナコトハ教エルカラ」
「おっ、ありがとう。外部さん……ほら、ミサとリノも」
「わかった!」
「う、うん……」
そんな感じで連絡先交換を終え、近いうちの再会を約束してから、俺は公園から家に戻ることにしたのだった。
*****
「サテサテ、ソレジャ、ネトオクノ様子ヲ拝見ト行キマスカ……」
家に戻って、俺は早速パソコンを開いて例のサイト、《迷宮オークション》を開く。
そしてマイページを開いて、出品物の欄を開こうとしたのだが……。
「……アレ?」
不思議なことに、そこには何の記載もなかった。
出品それ自体が取り下げられている上、登録したはずの情報も全部削除されている。
ログも特に残っておらず、一件二件だけだがあったはずのコメントもなくなっていた。
まぁ、コメントは「五十円なら即決」とか「釘バットなんかいらん」とかいうものだけだったので正直どうでもいいが。
しかし、出品それ自体がまるでなかったことになっているのは……。
そう思って困惑しつつ、落ち着こうと思って帰りに買ってきたラーメンを啜る。
けれど、ラーメンの味はうまくても、なぜこんなことになっているのかは全くわからなかった。
そんな中、
ーーピロリンラン。
という、スマホの着信音が部屋に鳴り響く。
一昔前の映画音楽を着信音にしているのだが、まず被らないのですぐに俺のスマホが鳴ったとわかる優れた音だ。
俺はスマホを取り、フリックして通話状態にする。
「……ハイ?」
見たことのない番号だったから、名乗るのもどうかと思って適当に返事をしてみると、向こうから帰ってきた声は意外なものだった。
『おっ、ゲード……じゃなかった、岩雄か。よかった、今、家か?』
「……ソノ声ハ、モシカシテ博《ヒロシ》カ?」
『そうだよ。悪いな、突然』
「イヤ別ニ構ワナイケド……ドウシタンダ、突然。シカモ、ドコカラ掛ケテルンダヨ。携帯カラジャナイヨナ?」
『あぁ、それなんだが、今回は仕事でかけてるからな。通話記録とってるんだよ。お前もそのつもりで話してくれ』
「エ? 仕事ッテ、確カオ前ノ職場ッテ、アレダヨナ」
『そう、天下の外務省だぜ』
「何デソンナ所ガ俺ニ用ガアルンダヨ……」
『お前、こっちに来て当初は色々やってただろうが。それだけでもそこそこ用があってもおかしくないだろ。ただ、今回は別にそっちは関係なくてな。お前、《迷宮オークション》に魔剣出したろ? その件だよ』
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