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第20話 軽いスカウト
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「ウーン……」
カズ兄の提案はわりと悪くない気はした。
ケン君だけの言葉だったらちょっと忙しいから、で断ったかもしれないが、報酬を出してくれると言う。
カズ兄は俺から見てもそこそこの使い手であるようだし、その稼ぎは結構なものだと思う。
探索者でも大手ギルドに所属しているトップランカーになると年収数億、なんて者も普通にいるらしいからな。
もちろん、大半の探索者はそこまで稼ぐ事はできず、平均的には通常の職種と変わらないほどでしかないが。
だからこそ、俺たち魔物も迷宮に潜るとは限らず、普通に一般的な職業について生活する者が少なくないのだ。
悲しい話だが、こちらの世界にやってきた魔物はそこまで成長の幅が大きくない、という事情もある。
向こうの世界で、魔物は生まれつき人間を遥かに凌駕する能力を持っていたのだが、その不公平の是正のために神々はスキル/ステータス制を採用した。
つまりこれは人間に対する優遇であるから、魔物はそこまでその恩恵に預かれない、という設計上の限界がある。
したがって、俺たちは平均的には向こうの世界の人間よりは少し強いが、しかし努力して成長しきった人間はそんな俺たちの平均を優に凌駕する、という関係にあったわけだ。
それでもスキル/ステータス制の恩恵を得られずとも、通常の努力でもって強力な戦士や魔術師になる者もいたわけだが、能力の特定による経験値増という恩恵を受けられないからそれこそ血反吐を吐くような努力が必要になってくる。
それを好んで行う者は当然、それほど多くなかったわけだ。
こっちの世界に来てから、スキル/ステータス制の影響も薄くなっているので、人間との成長率格差は少なくなってはいるが、それでもまだ人間の方が成長率は高い傾向にある。
微妙な話なのだった。
そんなわけなので、探索者である魔物、というのは全人口からすると意外なほどに少ない。
まぁ、それはいいか。
ともかく、カズ兄はそんななかなか大変そうな探索者業界の中でも頑張っている方なのは確実で、だからこそ収入は高いだろう。
バイト感覚でこの提案を受けるのも悪くはないな。
そう思って俺はカズ兄に答える。
「……分カッタ。ソノ話、引キ受ケルヨ」
この答えにぱあっ、と表情を明るくさせたのは、もちろん、カズ兄ではなく、ケン君たち一行だった。
カズ兄は言う。
「良かった。断られたらしばらく探索者稼業も休業することも考えてたところだったんだ」
「ソンナニ心配ナノカ?」
「もちろんだよ。迷宮ってのは……外部さんならよく分かってるだろうけど、思われてる以上に怖いところだからな。いわゆるRPGが盛んな弊害で、みんな結構簡単に考えてるけどさ。実際に潜ってみると本当に……ただの殺し合いだよ。あんな場所、好き好んで潜る奴の気が知れないというのが正直なところだ」
「ソノ感覚デヨク探索者ナンテヤッテルネ?」
「俺の場合、そもそも偶然潜ったのが最初だからさ。正直出来ることなら潜らない人生が良かったよ。俺が迷宮に潜るきっかけになったのは半年以上前だけど……あの頃は……迷宮なんて、ほとんど確認されてなくて、でもある日、酔っ払ってフラフラしてたら街の路地裏で迷宮の入り口を発見しちゃったんだ。その時はただの夢か何かだと思ってて、それで潜って……気付いたら魔物に襲われてたよ。運が良かったのは、他の探索者が落とした剣が転がってたところだな。逃げる途中で拾って、なんとか倒してさ……。家に逃げ帰って、次の日起きたら妙に体に力が漲ってた。色々思い出して、役所に行って調べてもらったら、スキルをいくつか発現してて……会社に今のギルド《アウターズ》……当時は胡散臭いベンチャーだったんだけど、そこの代表が連絡つけてきて、スカウトされたんだ。その頃、会社勤めもだいぶ慣れてきて、だけど代わりに精神的に疲れてきててさ。もうなんでもいいやと思って勢いで会社を辞めて、そのままギルドに入ってしまって、今に至る感じだよ。収入は昔の何倍にもなったし、今更、会社勤めに戻る気にもならなくてさ……」
少しだけ疲れた顔でそう語ったカズ兄であった。
かなり波乱万丈というか、幸運と勢いで乗り切った感のあるここ一年だったんだなと思う。
《アウターズ》は俺でも知っている有名ギルドだな。
ギルド、というがその存在形式は法人であり、株式会社であることが多いな。
ギルドは当初は若い連中がそれこそ遊びのような感覚で一円起業するような形が多かった記憶があるが、最近では既存の大企業が出資したり子会社として設立することも少なくない。
《アウターズ》はまさに前者の方で、当初の会社名は《社会不適合者冒険株式会社》だった覚えがある。
流石にそれじゃあ問題だと《アウターズ》にどっかのタイミングで変えたのだ。
登記上でも変わってるのかどうかは謎だが……。
気になってカズ兄に尋ねてみると、彼は苦笑して、
「いや、今でも登記上は《社会不適合者冒険株式会社》のまんまだよ。商号変更が面倒くさいし、そのままでも大して問題はないだろうって社長がいうんだけど、流石にもう変えた方がいいと思うんだけどな。CMとか看板に大きく出すのは《アウターズ》の方だけど、公的な書類とかHPの会社概要に書くの《社会不適合者冒険株式会社》の方だし、銀行とか行った時に名刺渡すの、ちょっと恥ずかしいんだよな」
「ソレハ……ナンテイウカオ気ノ毒ニネ……」
「いいさ。そのうち意地でも変えさせてやるから。まぁ……現実的な話をすると、そもそもちょっとまだまだ組織として拡大中だから、そんなことよりもやることが沢山あるってのが一番の理由なんだけどね。後回しでもいいって感覚は分かるから、しばらくは放置だけど」
「ヤルコト?」
「ギルド員の募集が大きいね。日本では十指に入るギルドではあると自負してるけど、まだまだだからさ。もし良かったら、外部さんもどう? 貴方なら間違いなく活躍できると思うんだけど……」
カズ兄の提案はわりと悪くない気はした。
ケン君だけの言葉だったらちょっと忙しいから、で断ったかもしれないが、報酬を出してくれると言う。
カズ兄は俺から見てもそこそこの使い手であるようだし、その稼ぎは結構なものだと思う。
探索者でも大手ギルドに所属しているトップランカーになると年収数億、なんて者も普通にいるらしいからな。
もちろん、大半の探索者はそこまで稼ぐ事はできず、平均的には通常の職種と変わらないほどでしかないが。
だからこそ、俺たち魔物も迷宮に潜るとは限らず、普通に一般的な職業について生活する者が少なくないのだ。
悲しい話だが、こちらの世界にやってきた魔物はそこまで成長の幅が大きくない、という事情もある。
向こうの世界で、魔物は生まれつき人間を遥かに凌駕する能力を持っていたのだが、その不公平の是正のために神々はスキル/ステータス制を採用した。
つまりこれは人間に対する優遇であるから、魔物はそこまでその恩恵に預かれない、という設計上の限界がある。
したがって、俺たちは平均的には向こうの世界の人間よりは少し強いが、しかし努力して成長しきった人間はそんな俺たちの平均を優に凌駕する、という関係にあったわけだ。
それでもスキル/ステータス制の恩恵を得られずとも、通常の努力でもって強力な戦士や魔術師になる者もいたわけだが、能力の特定による経験値増という恩恵を受けられないからそれこそ血反吐を吐くような努力が必要になってくる。
それを好んで行う者は当然、それほど多くなかったわけだ。
こっちの世界に来てから、スキル/ステータス制の影響も薄くなっているので、人間との成長率格差は少なくなってはいるが、それでもまだ人間の方が成長率は高い傾向にある。
微妙な話なのだった。
そんなわけなので、探索者である魔物、というのは全人口からすると意外なほどに少ない。
まぁ、それはいいか。
ともかく、カズ兄はそんななかなか大変そうな探索者業界の中でも頑張っている方なのは確実で、だからこそ収入は高いだろう。
バイト感覚でこの提案を受けるのも悪くはないな。
そう思って俺はカズ兄に答える。
「……分カッタ。ソノ話、引キ受ケルヨ」
この答えにぱあっ、と表情を明るくさせたのは、もちろん、カズ兄ではなく、ケン君たち一行だった。
カズ兄は言う。
「良かった。断られたらしばらく探索者稼業も休業することも考えてたところだったんだ」
「ソンナニ心配ナノカ?」
「もちろんだよ。迷宮ってのは……外部さんならよく分かってるだろうけど、思われてる以上に怖いところだからな。いわゆるRPGが盛んな弊害で、みんな結構簡単に考えてるけどさ。実際に潜ってみると本当に……ただの殺し合いだよ。あんな場所、好き好んで潜る奴の気が知れないというのが正直なところだ」
「ソノ感覚デヨク探索者ナンテヤッテルネ?」
「俺の場合、そもそも偶然潜ったのが最初だからさ。正直出来ることなら潜らない人生が良かったよ。俺が迷宮に潜るきっかけになったのは半年以上前だけど……あの頃は……迷宮なんて、ほとんど確認されてなくて、でもある日、酔っ払ってフラフラしてたら街の路地裏で迷宮の入り口を発見しちゃったんだ。その時はただの夢か何かだと思ってて、それで潜って……気付いたら魔物に襲われてたよ。運が良かったのは、他の探索者が落とした剣が転がってたところだな。逃げる途中で拾って、なんとか倒してさ……。家に逃げ帰って、次の日起きたら妙に体に力が漲ってた。色々思い出して、役所に行って調べてもらったら、スキルをいくつか発現してて……会社に今のギルド《アウターズ》……当時は胡散臭いベンチャーだったんだけど、そこの代表が連絡つけてきて、スカウトされたんだ。その頃、会社勤めもだいぶ慣れてきて、だけど代わりに精神的に疲れてきててさ。もうなんでもいいやと思って勢いで会社を辞めて、そのままギルドに入ってしまって、今に至る感じだよ。収入は昔の何倍にもなったし、今更、会社勤めに戻る気にもならなくてさ……」
少しだけ疲れた顔でそう語ったカズ兄であった。
かなり波乱万丈というか、幸運と勢いで乗り切った感のあるここ一年だったんだなと思う。
《アウターズ》は俺でも知っている有名ギルドだな。
ギルド、というがその存在形式は法人であり、株式会社であることが多いな。
ギルドは当初は若い連中がそれこそ遊びのような感覚で一円起業するような形が多かった記憶があるが、最近では既存の大企業が出資したり子会社として設立することも少なくない。
《アウターズ》はまさに前者の方で、当初の会社名は《社会不適合者冒険株式会社》だった覚えがある。
流石にそれじゃあ問題だと《アウターズ》にどっかのタイミングで変えたのだ。
登記上でも変わってるのかどうかは謎だが……。
気になってカズ兄に尋ねてみると、彼は苦笑して、
「いや、今でも登記上は《社会不適合者冒険株式会社》のまんまだよ。商号変更が面倒くさいし、そのままでも大して問題はないだろうって社長がいうんだけど、流石にもう変えた方がいいと思うんだけどな。CMとか看板に大きく出すのは《アウターズ》の方だけど、公的な書類とかHPの会社概要に書くの《社会不適合者冒険株式会社》の方だし、銀行とか行った時に名刺渡すの、ちょっと恥ずかしいんだよな」
「ソレハ……ナンテイウカオ気ノ毒ニネ……」
「いいさ。そのうち意地でも変えさせてやるから。まぁ……現実的な話をすると、そもそもちょっとまだまだ組織として拡大中だから、そんなことよりもやることが沢山あるってのが一番の理由なんだけどね。後回しでもいいって感覚は分かるから、しばらくは放置だけど」
「ヤルコト?」
「ギルド員の募集が大きいね。日本では十指に入るギルドではあると自負してるけど、まだまだだからさ。もし良かったら、外部さんもどう? 貴方なら間違いなく活躍できると思うんだけど……」
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