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第17話 覚醒者
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無事、釘バットを出品してからしばらくサイトを更新したりして見ていたが……。
「……思ッタヨリ金額ガ上ガラナイナ……」
最低落札金額五百円からスタートした釘バットだが、今の金額を見ると六百五十円だ。
二時間が経過しているためその間に百五十円上がったと思えばまぁ、全然落札しようとする人がいない、というよりはずっといいのだが……。
しかし、このサイト、《探索者ショッピング》の平均落札金額が一万円程度であることを考えると、いくらなんでも低すぎる。
「……マァ、釘バットジャ仕方ナイカ……」
ぽつりと独り言を言いながらも、がっくりと来た俺だった。
実際、サイトに出品されている他の品を見る限り、まさに迷宮で産出しました、と見た目から主張しているような物品ばかりで、釘バットのような現代の品を売っている奴は少数派だ。
全くいないわけではないのは、それこそバットや防弾チョッキなど、わかりやすい迷宮攻略に役立ちそうな品を売っている者がいるからで、しかしだからこそそういう奴らに埋もれて俺の釘バットはさっぱり目立っていないのだろう。
ただ、俺以外の人の売っているバットとか防弾チョッキとかはそこそこ高値がついているというか、一万円くらいにはなっているんだよな。
何が悪いのか……と思って見てみると、あぁなるほど、と思う。
「見タ目ノボロサガ段違イ過ギルノカ……」
見れば、ある程度の値段がついている他の品々は大体が新品、もしくは中古でもほとんど新品に近い状態のものばかりだった。
やはり、迷宮探索に使う品である以上、あまりにもボロすぎる、いつ壊れるかわからないような品を買おう、という者などいるはずもなかったか。
至極当たり前の結論にやっと辿り着き、俺は早速諦めることにした。
「……昼過ギマデ放ッテオケバ、ワンチャン千円クライニハナルダロ」
パソコンを閉じながら、そう独り言を呟きつつ、もうサイトを見ないことにした。
即決価格など設定しておらず、期日は三日後にしてあるので、もういっそその辺りまで放置しておけばいいかなという気がする。
やっぱり金を稼ぐのは簡単ではなかった……まぁ、俺がしたかったのはあの釘バットの処分であって、金稼ぎは副次的な目的であったから別にいいのだ。
少なくとも買おうと思ってくれている人はいるみたいだし、そもそもの目的は達成できるだろう……。
とりあえず昼過ぎまで時間でも潰すか……。
そう思って、俺は外に出ることにした。
*****
近所の公園、そこに設置してあるベンチに座りながら、ぼんやりとあたりを見回す。
子連れの親子やら、体を動かしている老人やらが疎らにいるあんまり人気のない公園だ。
少しばかり異質に感じるのは、まるでファンタジー小説のような格好をした青年が、真剣な表情で刃先を潰した長剣を振っているところだろうか。
皮の軽鎧を纏って、ただひたすらに素振りをしているその様子は、数年前であればコスプレしているか、もしくは気が狂ったヤバい奴扱いされていることだろう。
しかし現代においては違う。
あいつはいわゆる、探索者というやつだ。
現代に出現した、宇宙と深海以外の秘境であるところの迷宮《ダンジョン》を探索することを職業とする者。
俺たちがこっちに来るのと前後して出現した、不可思議な構造体である迷宮《ダンジョン》。
この存在に当然、地球の人間たちは極めて困惑した。
本来存在していたはずの地下構造物を押し除けたり、一般的な森林だったのにおかしな生物が大量に出現したり、飛行中の飛行機や戦闘機が突然消息を経って、ブラックボックスを運良く回収できたので見てみればそこにはドラゴンやハーピーが写っていたりととんでもない騒ぎになった。
しかし、地球の運が良かったところは迷宮と共に、俺たちもやってきた、ということだろう。
迷宮《ダンジョン》が一体どういうものなのか、知識でもって明快に説明できる存在が現れたのだ。
当初は当然、警戒されたし俺たちの説明もまともに捉えられなかったが、各地に出る被害や、出現する魔物の種類、それにたまたま確保できた素材などを得ていくうち、そのいずれもが俺たちの主張に沿っていることを認めざるを得なくなり、結果として俺たちは貴重な情報を持っている存在として受け入れられた経緯がある。
迷宮の探索者が出現したのもその頃で、当初はもちろん、各国の軍隊などのプロフェッショナルが中心だったが、迷宮それ自体が様々な場所に唐突に出現し、一般人の中でも容易に侮れない実力者も出現しだした。
迷宮の出現とともに、魔術やスキルに目覚めた者たちだ。
彼らの力を活用しない、ということは迷宮から外に現れる魔物の脅威を考えればあり得ないことであり、各国で急ピッチに《覚醒者》の活用が進められていき、法制化されていった。
今では《覚醒者》とすら呼ばなくなったのは、馬鹿にできない数の人々が訓練、もしくは迷宮での魔物の討伐によって多かれ少なかれ魔術やスキルを使えるようになってきたからだが、その危険性などから必ずしも誰でも潜るというわけではなく、むしろそんなことをするのは少数派だ。
どんなに頑張っても魔術やスキルを使えない者も結構な割合で存在することもあり、日本国民の大半はいまだにいわゆる《非覚醒者》であり、魔術もスキルも使うことはできない。
「……思ッタヨリ金額ガ上ガラナイナ……」
最低落札金額五百円からスタートした釘バットだが、今の金額を見ると六百五十円だ。
二時間が経過しているためその間に百五十円上がったと思えばまぁ、全然落札しようとする人がいない、というよりはずっといいのだが……。
しかし、このサイト、《探索者ショッピング》の平均落札金額が一万円程度であることを考えると、いくらなんでも低すぎる。
「……マァ、釘バットジャ仕方ナイカ……」
ぽつりと独り言を言いながらも、がっくりと来た俺だった。
実際、サイトに出品されている他の品を見る限り、まさに迷宮で産出しました、と見た目から主張しているような物品ばかりで、釘バットのような現代の品を売っている奴は少数派だ。
全くいないわけではないのは、それこそバットや防弾チョッキなど、わかりやすい迷宮攻略に役立ちそうな品を売っている者がいるからで、しかしだからこそそういう奴らに埋もれて俺の釘バットはさっぱり目立っていないのだろう。
ただ、俺以外の人の売っているバットとか防弾チョッキとかはそこそこ高値がついているというか、一万円くらいにはなっているんだよな。
何が悪いのか……と思って見てみると、あぁなるほど、と思う。
「見タ目ノボロサガ段違イ過ギルノカ……」
見れば、ある程度の値段がついている他の品々は大体が新品、もしくは中古でもほとんど新品に近い状態のものばかりだった。
やはり、迷宮探索に使う品である以上、あまりにもボロすぎる、いつ壊れるかわからないような品を買おう、という者などいるはずもなかったか。
至極当たり前の結論にやっと辿り着き、俺は早速諦めることにした。
「……昼過ギマデ放ッテオケバ、ワンチャン千円クライニハナルダロ」
パソコンを閉じながら、そう独り言を呟きつつ、もうサイトを見ないことにした。
即決価格など設定しておらず、期日は三日後にしてあるので、もういっそその辺りまで放置しておけばいいかなという気がする。
やっぱり金を稼ぐのは簡単ではなかった……まぁ、俺がしたかったのはあの釘バットの処分であって、金稼ぎは副次的な目的であったから別にいいのだ。
少なくとも買おうと思ってくれている人はいるみたいだし、そもそもの目的は達成できるだろう……。
とりあえず昼過ぎまで時間でも潰すか……。
そう思って、俺は外に出ることにした。
*****
近所の公園、そこに設置してあるベンチに座りながら、ぼんやりとあたりを見回す。
子連れの親子やら、体を動かしている老人やらが疎らにいるあんまり人気のない公園だ。
少しばかり異質に感じるのは、まるでファンタジー小説のような格好をした青年が、真剣な表情で刃先を潰した長剣を振っているところだろうか。
皮の軽鎧を纏って、ただひたすらに素振りをしているその様子は、数年前であればコスプレしているか、もしくは気が狂ったヤバい奴扱いされていることだろう。
しかし現代においては違う。
あいつはいわゆる、探索者というやつだ。
現代に出現した、宇宙と深海以外の秘境であるところの迷宮《ダンジョン》を探索することを職業とする者。
俺たちがこっちに来るのと前後して出現した、不可思議な構造体である迷宮《ダンジョン》。
この存在に当然、地球の人間たちは極めて困惑した。
本来存在していたはずの地下構造物を押し除けたり、一般的な森林だったのにおかしな生物が大量に出現したり、飛行中の飛行機や戦闘機が突然消息を経って、ブラックボックスを運良く回収できたので見てみればそこにはドラゴンやハーピーが写っていたりととんでもない騒ぎになった。
しかし、地球の運が良かったところは迷宮と共に、俺たちもやってきた、ということだろう。
迷宮《ダンジョン》が一体どういうものなのか、知識でもって明快に説明できる存在が現れたのだ。
当初は当然、警戒されたし俺たちの説明もまともに捉えられなかったが、各地に出る被害や、出現する魔物の種類、それにたまたま確保できた素材などを得ていくうち、そのいずれもが俺たちの主張に沿っていることを認めざるを得なくなり、結果として俺たちは貴重な情報を持っている存在として受け入れられた経緯がある。
迷宮の探索者が出現したのもその頃で、当初はもちろん、各国の軍隊などのプロフェッショナルが中心だったが、迷宮それ自体が様々な場所に唐突に出現し、一般人の中でも容易に侮れない実力者も出現しだした。
迷宮の出現とともに、魔術やスキルに目覚めた者たちだ。
彼らの力を活用しない、ということは迷宮から外に現れる魔物の脅威を考えればあり得ないことであり、各国で急ピッチに《覚醒者》の活用が進められていき、法制化されていった。
今では《覚醒者》とすら呼ばなくなったのは、馬鹿にできない数の人々が訓練、もしくは迷宮での魔物の討伐によって多かれ少なかれ魔術やスキルを使えるようになってきたからだが、その危険性などから必ずしも誰でも潜るというわけではなく、むしろそんなことをするのは少数派だ。
どんなに頑張っても魔術やスキルを使えない者も結構な割合で存在することもあり、日本国民の大半はいまだにいわゆる《非覚醒者》であり、魔術もスキルも使うことはできない。
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