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第16話 釘バットの行方

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 次の朝、目覚めるとふと、強力な魔力の気配を感じて慌てて周囲を見回した。
 そして目に入ったのは……。

「……ナンダ、昨日ノ釘バットカ……」

 そう、ベッドの横に立てかけてあるその物体は、昨日ケン君から頂いた気合いの入った釘バットであった。
 本来であれば、あれはおそらくはケン君の、もしくは他のあの不良集団のうちの誰かの凶器であることは間違いないのだから、一旦借りたとはいえ、あの場所に置いてくるべきだったと言える。
 俺に所有権があるわけではないし、したことは行為だけ見れば窃盗と解釈されるだろう。
 しかし、それでも俺はこの釘バットを置いてくるわけにはいかない理由があった。
 俺は立てかけてあったバットを手に持ち、改めて矯めつ眇めつ観察する。

「……ヤッパリ、ヤッテシマッタッポイナ。魔剣化シテルジャン……」

 そう、この釘バット。
 これを使って俺は、先日のコボルトとの戦いで、剣に魔力と闘気を混ぜて注ぐことにより、強力な破壊力を発揮するアーツ《剣気一閃》を使用したわけだが、久しぶりに使ったアーツは少しばかり威力的に大袈裟になり過ぎて、釘バットに必要以上の魔力と闘気を注いでしまったのだ。
 余剰魔力や闘気というのは、一般的には使われた直後から徐々に空気の中に霧散するように消えていくため、何の問題もないのだが、例外的に強く圧縮すると、物体などに強く結びつき、結果として魔力を持った武具や魔道具などを作り出すことがある。
 今回もその場合と同様で……ちょっと気合入れて魔力と闘気を注ぎすぎたらしい。
 釘バットは完全に魔剣化し、その気になればこれ一本で鉄の鎧くらいは切り刻めるくらいの力を持ってしまっていた。
 もしもこれをあのままケン君に渡していれば、彼は早々に殺人を犯して少年院に入るか刑務所に入るかしていただろう、ということが想像され、俺はどさくさに紛れてこれを持ち帰るしか方法がなかった、というわけだ。
 途中で止められてしまうかも、と思いながらの行動であったが、ケンくんも、それに他の不良たちも随分俺に感謝してくれたのか、もしくはその場の空気に完全に飲まれていたのか、お礼まで叫んでくれた上、特段俺のことを止めずに見逃してくれたのでよかった。
 もしかしたら今頃気づいて返してもらってねぇ、とか思うかもしれないし、その結果として俺のことを探して返せと言いにくるかもしれないが……まぁ、その時はその時で、違うバットを買って返すことにしよう。
 どうあってもこの釘バットは彼らに渡すわけには……。
 でも、俺が持っていても正直なところ、宝の持ち腐れなんだよな。
 
 そこまで考えたところで、

「……アッ、ソウダ、売レバイインジャン……?」

 ふと、そう思いついた。
 もちろん、ケン君とか、似たような不良を見つけて「コイツヲ使エバ県下ノ不良全テヲ統一スルコトナンテ朝飯前ダゾ」などと言いながら売りつけることを考えているわけではない。
 そうではなく……。
 俺はノートパソコンを棚から持ってきて、テーブルの上に設置し電源を入れる。
 古い型だから立ち上げに妙に時間がかかるが、月収二十万円弱とはいえ、パソコンはそうそう高いものを買ってはいられない。
 用途もせいぜいがネットサーフィンとネットショッピングくらいなので、さほどの性能はいらないからこれでいいのだ。
 
「ヨシヨシ、エエト確カ……《迷宮オークション》トカ《探索者ショッピング》トカダッタヨナ」

 ぶつぶつ言いながら、検索エンジンに適当に文字を叩き込み、検索する。
 どちらも非常に特殊なショッピングサイトであり、売買には一種の許可や免許が必要なところだ。
 しかし、俺たち魔物については全員がこの許可をもらっている。
 というか、ISEKAがあればいいのだよな。
 ちなみにどんなサイトかというと、こちらの世界でいわゆる魔法製品とか魔術製品とかそんな風に言われる特殊な武具や道具、もしくは魔素材とか言われる素材などを売り買いできるサイトだ。
 もちろん二つだけでなく、公営のものと民営のものを含めて十個以上存在するし、海外のものも含めればそれこそ星の数ほどの種類があるが、あまり適当なサイトだと色々な意味で危険なので、よくCMでやっている有名なサイトを開くところだった。
 
「……オッ、ココダナ……ヘェ、意外ニイイモノガ売ッテルモンダナ……」

 サイトのトップを見ると、その日の《注目の品》が数品、大々的に売り出されており、値付けはオークションなので数秒ごとに徐々に価格が上昇していく様が見てとれた。
 額は……相当なものだ。
 今の時点で、二百万を超えているものが二つあるし、他のも百万以上である。
 まぁ、それもそのはず、出品されているのは十グラムほどではあるけれど《魔銀《ミスリル》》のインゴットや、高度の魔術強化効果を持つ魔術師用の杖《炎命の杖》などであり、どちらも滅多に産出しない貴重品だ。
 特に前者は迷宮に潜る探索者のみならず、電子機器に使用されて驚愕の効果を叩き出しているもので、そういった企業からの入札も相当あるはずだ。
 まだまだ価格は上がるだろう。
 
 俺が何でこんなサイトを開いているかといえば、俺の釘バットをここで売ろうという判断だ。
 一応、これでも魔剣に分類される品だし、捨て値でもとりあえずちゃんと使い道がわかっていて免許もでている人間に渡すのであれば問題ないだろう、という判断だった。
 俺はISEKAを読み取り装置に翳して、会員登録を適当に済ますと、釘バットをスマホで写真に撮り、出品するのだった。
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