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第12話 外出
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「……サテ、ソロソロ出発スルカ……」
独り言を呟きながら俺は立ち上がった。
それから子供用のハーフパンツとシャツという簡単寝巻きスタイルから、外出着へと着替える。
外出着も安定の子供服であり、正直俺のような年齢の者が着るにはいささかカラフルに過ぎるのだが、やはりサイズ問題からして仕方がない。
せめてモノクロで挑みたいところだが、手持ちのものは今、ベランダで乾かし中である。
もう何枚か買うべきかな……。
そんなことを考えつつ、バッグやスマホを手に取って玄関で靴を履いた。
靴も子供用であり、やはりこれも結構カラフルだった。
なぜ子供用の衣服というのはこうもチカチカする色合いにするのだろうかと思ったりするが、目立つ格好をしていないと親が見失う可能性が高いと考えれば別に不思議な話ではないかもしれない。
俺も小さい頃、突然迷子になったことくらい何度もあるからな。
気づいたら親が電車に乗っていて、俺だけホームに取り残されて大分唖然とした記憶が今でもある。
その時はなんとか駅員に自ら迷子ですと話しかけにいってことなきを得たが、流石に電車に乗る瞬間くらい手を繋ぐとかなんとかしろよと思わないでもなかった出来事だった。
まぁ、そんなのはどうでもいいか。
今の俺の手を引いてくれる人など誰もいない。
ただ、自分一人だけで生きていかなければならない……とまで後ろ向きになる必要もない。
先日遭遇したオークの博《ひろし》とか、向こうの世界にいた時からの知り合いはそれなりにいるし、これから向かう場所にも相談に乗ってくれる人はいるのだからな。
そう、これから向かう場所。
それは例の場所である。
俺たち、こちらの世界に突然に飛ばされた者たち用の、特別な職業斡旋所だ。
歩いて二十分ほどの距離にあるのは、マンションを借りる時にいずれ働かなければならないからとあえてそうした位置にしたからだ。
ちなみにマンションは、俺は普通に自分で借りた。
実のところ、俺たちのような者たちは、その気になれば国から斡旋される低廉な価格の公営住宅に住む事もできる。
これは別に俺たちに対する極度の優遇、というわけではなく、俺が洗面台やキッチンの使い勝手に悩んだように、一般的な人間用に作られている家屋というのが俺たちにとっては極めて使いにくい、という場合が少なくないからだ。
特にドラゴン族とかスライム族とか、もう体の作りからまるきり人間と異なるような種族になってくると使い勝手が悪いとかいうレベルではなくなる。
その点からすれば、俺は割と人間社会に馴染みやすい体をしていると言える。
まぁ、最近はドラゴン族だって人化したり、スライム族もその体をうまいこと形だけ人間を真似したりとかするなど、適応してきてはいるのだが。
ただそういうことが出来ない種族も少なくないから、俺たち用の住宅というのはやっぱり国に用意してもらう必要があるのだった。
民間が用意するには需要が分かりにくいのである。
まぁ、それでも皆無ではないのは、俺たちを高額の報酬で雇ったりするような企業とか団体とかが用意する場合があるからだな。
ただこれは俺のような普通のゴブリンにはあまり関係ない話だ。
そういう企業とかが欲しがるのは、高度な魔術やスキルを持った存在であり、ゴブリンはそういう部分があまり期待できない、と見られているからだ。
確かにそれは間違いではない。
こちらに飛ばされたゴブリンの多くは、そういう傾向がある。
つまりは向こうの世界にいる、最低レベルの雑魚ゴブリンだな。
そうじゃない例外的な存在もいる、というところまで掴んでいる者は意外といないのだった。
これは俺たちの自衛であり、あまり情報を出さないようにしているためにそうなっている。
こちらの世界に飛ばされて、俺たちは大変に困惑したのだが、それでも向こうで戦争をしてきた、いろんな意味での猛者である。
こちらの世界の住人と交渉するにあたって様々なことを考えなければならないことは、全員が言わずともわかっていた。
だからこそ、情報も小出しにしているし、その全容をベラベラ語ったりはしていない。
まぁ、それでも一年が経ってるから、かなりのところは伝えてあるようだが、いわゆる個人情報的な部分についてはまだ皆内緒にしている。
俺についても、こちらに飛ばされた奴らの多くがかなり色々なことを知っているはずなのだが、それらが政府やら企業やらに伝わったという話はないから、皆言わないでくれているのだろう。
同じ釜の飯を食った魔王軍の戦友たちのみならず、エルフやらドワーフやらという敵対していた種族たちもその当たりの義理は守ってくれているのだからなんというか、ちょっと感慨深いものがあるよな。
まぁ、飛ばされる直前に魔物と人間というのはほとんど和解・休戦していたから、いがみ合いみたいなところは緩やかになっていたという事情があるのも大きいだろうが。
そういう義理に従って、俺たち魔物もエルフやドワーフたちのような者の情報はこちらの世界の者にはあまり流していない。
ちなみに、こちらの世界に飛ばされた者の中で、人間と呼ばれる存在のうち、普人族、といういわゆるこっちの世界の人間と全く同じ容姿をしている種族の者は一人もとばされていないらしい。
これは女神情報で、理由も説明されたのだが、向こうの世界の普人族、と言うのは女神たちによって完全に管理されているため、一種のイレギュラーである今回のこちらの世界の転移事故の影響から完全に守り切れたから、らしい。
エルフやドワーフ、それに獣人のような者たちは、実のところ魔物に分類される血が流れているために守りきれなかった、と。
ただ、完全な魔物である俺たちよりは守れた人数も多いようで、こちらの世界に来たエルフやドワーフ、獣人たちはかなり少数派だ。
まぁ、だからこそ俺たち魔物の情報もあまり流していないと言うのはあるかもしれない。
異世界の仲間として帰属意識を持っておかないと、誰も味方がいない、なんていう状況に追い込まれるとか、そう言う危惧があるとか。
とまぁ、そんな入り組んだ事情の末に出来上がったのが職業斡旋所である。
俺はこれからそこに向かうのだ。
独り言を呟きながら俺は立ち上がった。
それから子供用のハーフパンツとシャツという簡単寝巻きスタイルから、外出着へと着替える。
外出着も安定の子供服であり、正直俺のような年齢の者が着るにはいささかカラフルに過ぎるのだが、やはりサイズ問題からして仕方がない。
せめてモノクロで挑みたいところだが、手持ちのものは今、ベランダで乾かし中である。
もう何枚か買うべきかな……。
そんなことを考えつつ、バッグやスマホを手に取って玄関で靴を履いた。
靴も子供用であり、やはりこれも結構カラフルだった。
なぜ子供用の衣服というのはこうもチカチカする色合いにするのだろうかと思ったりするが、目立つ格好をしていないと親が見失う可能性が高いと考えれば別に不思議な話ではないかもしれない。
俺も小さい頃、突然迷子になったことくらい何度もあるからな。
気づいたら親が電車に乗っていて、俺だけホームに取り残されて大分唖然とした記憶が今でもある。
その時はなんとか駅員に自ら迷子ですと話しかけにいってことなきを得たが、流石に電車に乗る瞬間くらい手を繋ぐとかなんとかしろよと思わないでもなかった出来事だった。
まぁ、そんなのはどうでもいいか。
今の俺の手を引いてくれる人など誰もいない。
ただ、自分一人だけで生きていかなければならない……とまで後ろ向きになる必要もない。
先日遭遇したオークの博《ひろし》とか、向こうの世界にいた時からの知り合いはそれなりにいるし、これから向かう場所にも相談に乗ってくれる人はいるのだからな。
そう、これから向かう場所。
それは例の場所である。
俺たち、こちらの世界に突然に飛ばされた者たち用の、特別な職業斡旋所だ。
歩いて二十分ほどの距離にあるのは、マンションを借りる時にいずれ働かなければならないからとあえてそうした位置にしたからだ。
ちなみにマンションは、俺は普通に自分で借りた。
実のところ、俺たちのような者たちは、その気になれば国から斡旋される低廉な価格の公営住宅に住む事もできる。
これは別に俺たちに対する極度の優遇、というわけではなく、俺が洗面台やキッチンの使い勝手に悩んだように、一般的な人間用に作られている家屋というのが俺たちにとっては極めて使いにくい、という場合が少なくないからだ。
特にドラゴン族とかスライム族とか、もう体の作りからまるきり人間と異なるような種族になってくると使い勝手が悪いとかいうレベルではなくなる。
その点からすれば、俺は割と人間社会に馴染みやすい体をしていると言える。
まぁ、最近はドラゴン族だって人化したり、スライム族もその体をうまいこと形だけ人間を真似したりとかするなど、適応してきてはいるのだが。
ただそういうことが出来ない種族も少なくないから、俺たち用の住宅というのはやっぱり国に用意してもらう必要があるのだった。
民間が用意するには需要が分かりにくいのである。
まぁ、それでも皆無ではないのは、俺たちを高額の報酬で雇ったりするような企業とか団体とかが用意する場合があるからだな。
ただこれは俺のような普通のゴブリンにはあまり関係ない話だ。
そういう企業とかが欲しがるのは、高度な魔術やスキルを持った存在であり、ゴブリンはそういう部分があまり期待できない、と見られているからだ。
確かにそれは間違いではない。
こちらに飛ばされたゴブリンの多くは、そういう傾向がある。
つまりは向こうの世界にいる、最低レベルの雑魚ゴブリンだな。
そうじゃない例外的な存在もいる、というところまで掴んでいる者は意外といないのだった。
これは俺たちの自衛であり、あまり情報を出さないようにしているためにそうなっている。
こちらの世界に飛ばされて、俺たちは大変に困惑したのだが、それでも向こうで戦争をしてきた、いろんな意味での猛者である。
こちらの世界の住人と交渉するにあたって様々なことを考えなければならないことは、全員が言わずともわかっていた。
だからこそ、情報も小出しにしているし、その全容をベラベラ語ったりはしていない。
まぁ、それでも一年が経ってるから、かなりのところは伝えてあるようだが、いわゆる個人情報的な部分についてはまだ皆内緒にしている。
俺についても、こちらに飛ばされた奴らの多くがかなり色々なことを知っているはずなのだが、それらが政府やら企業やらに伝わったという話はないから、皆言わないでくれているのだろう。
同じ釜の飯を食った魔王軍の戦友たちのみならず、エルフやらドワーフやらという敵対していた種族たちもその当たりの義理は守ってくれているのだからなんというか、ちょっと感慨深いものがあるよな。
まぁ、飛ばされる直前に魔物と人間というのはほとんど和解・休戦していたから、いがみ合いみたいなところは緩やかになっていたという事情があるのも大きいだろうが。
そういう義理に従って、俺たち魔物もエルフやドワーフたちのような者の情報はこちらの世界の者にはあまり流していない。
ちなみに、こちらの世界に飛ばされた者の中で、人間と呼ばれる存在のうち、普人族、といういわゆるこっちの世界の人間と全く同じ容姿をしている種族の者は一人もとばされていないらしい。
これは女神情報で、理由も説明されたのだが、向こうの世界の普人族、と言うのは女神たちによって完全に管理されているため、一種のイレギュラーである今回のこちらの世界の転移事故の影響から完全に守り切れたから、らしい。
エルフやドワーフ、それに獣人のような者たちは、実のところ魔物に分類される血が流れているために守りきれなかった、と。
ただ、完全な魔物である俺たちよりは守れた人数も多いようで、こちらの世界に来たエルフやドワーフ、獣人たちはかなり少数派だ。
まぁ、だからこそ俺たち魔物の情報もあまり流していないと言うのはあるかもしれない。
異世界の仲間として帰属意識を持っておかないと、誰も味方がいない、なんていう状況に追い込まれるとか、そう言う危惧があるとか。
とまぁ、そんな入り組んだ事情の末に出来上がったのが職業斡旋所である。
俺はこれからそこに向かうのだ。
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