異世界に転生したゴブリン、地球に戻る

丘野 優

文字の大きさ
上 下
7 / 40

第7話 ゴブリンの希望

しおりを挟む
 何か行動を起こさなければまずい。
 ゴブリンのあまりの弱さに気づいた俺が思ったのがまずそれだった。
 しかし一体何をすればいいのか。
 鍛えたところで強くなれるのか?
 俺の父であるラードのステータスを見る限り、とてもではないがそうは思えなかった。
 聞くところによるとどうも彼の年齢は十歳らしいのだが、生まれて一年が経つ頃には、すでに狩りの戦力として普通に数えられるようになっていた、とも言っていたから、およそ九年の戦闘経験がある、と考えて間違いない。
 にも関わらずあのステータスなのだ。
 鍛え続けてもゴブリンはあれくらいにしかなれないのではないか。
 そんな恐ろしい推測が俺の頭を過ぎった。
 そしてそれが正しいとすると、俺も父と同じ程度のステータスにしかなれないということになる。
 それではどう考えてもこの世界で生き残ることは難しく、女神の元に再度生まれ直しをするために行くことになるだろう。
 考えようによっては、ゴブリンなどに生まれたのだから、もう一度チャンスをもらって人間になる機会をもらった方がいい、とも言えなくもない。
 ただ、重要なのは、もう一度転生の機会を得たところで、ゴブリンよりもいい転生先に生まれられるとは限らない、ということだ。
 虫などにはならないとは一応保証されているが……それくらいで、何かとんでもない生き物になる可能性はないではない。
 それならばゴブリンの方がまだマシというものだろう。
 とりあえず、ゴブリンとして生き残る努力をして、失敗したらまた転生するときに考えればいい。
 そうした方が建設的だ。

 ただ、せめてゴブリンとして頑張るにしても、何か指針が必要だ。
 そのために俺は、ゴブリンたち全員を今一度しっかり《真実の目》で観察してみることにした。
 他人のステータスは見れば分かるわけだが、称号や技能についてはさらにそれらについて意識するとその詳細がわかる。
 この間、ゴブリン父たちを見たときにはステータスの低さに目がいってしまって、技能などについてはそこまで詳しくは見ていなかったので、今回はそれを確認した。
 すると、面白いことが分かった。
 ゴブリンにはほとんど全て《早熟》という技能がついているのだが、これの効果がかなり重要だったのだ。
 その説明はこうだ。

 早熟:成人になるまでの期間をおよそ一年に短縮する。その代わりに、成人になった後の成長率は極めて低くなる。

 なるほどな、と思った。
 ゴブリンが大人になってから狩りをいくら続けても大して強くなれない原因はこれなのだ。
 考えてみれば、俺の一族のゴブリンたちのレベルは皆、一様に低い。
 また技能の数も、そのレベルも低い。
 これはゴブリンが、生まれて直後から成人になるまでの成長にその潜在能力の全てを注ぎ込んでいるからではないだろうか。
 これさえなければ、ゴブリンは普通の人間と同じような成長が見込めるのではないか。
 そう思った。
 しかし、それは無理な相談だった。
 一族にはポコポコと子供が産まれるので、彼らについてもステータスを観察してみたが、ほとんど全てのゴブリンに《早熟》スキルがついていたからだ。
 スキルは基本的に外すことができず、これを持っている時点で今の俺にはどうしようもない。
 幸い、というべきか、俺にはこれはついていなかったから成長はなんとか見込めそうだということはわかった。
 それに、ごく稀にだが、《早熟》のついていない子供というのもいた。
 なんでなのか不思議だったが、父や母の話によれば、ゴブリンの中にも稀に強力な戦士となれる才覚を持って産まれる者がいるのだという。
 そういう者たちはいずれ、ゴブリンメイジやゴブリンファイターなどになり、最後にはゴブリンキングとなってゴブリン族の皆を率いる王になるのだ、という話だった。
 ゴブリンの言い伝えである。
 父や母は、この話を彼ら自身の両親や一族の者たちから教えられたのだろうが、俺はこれを聞いて思った。
 そういう強力なゴブリンになるゴブリンというのは、《早熟》スキルを持たないゴブリンなのではないか、と。
 俺は《真実の目》という特殊なスキルがあるから、《早熟》を持たないゴブリンが稀にいることを知っているが、他のゴブリンはそんなこと調べようがない。
 だから気づかなかったのだろう。
 そしてこの事実は俺にとってプラスに働くのではないか。
 
 そんなことを思ったのは、生まれてひと月が経った頃、一族の子供たちが集められて、チームを組むように言われた時のことだ。
 なんというか、五人組みたいな制度で、この時に組んだグループで死ぬまで一緒に狩りをするのがゴブリンの生き方だ、みたいなことを懇々と説明された。
 メンバーのうちの誰かが魔王軍に呼ばれたらどうなるのか、と尋ねると、その場合はグループ全員で行くことになるから気にするなという。
 まぁ、そもそも魔王軍に呼ばれるゴブリンなどこの一族には滅多にいないから本当に心配はいらない、と指導役のゴブリンが笑っていた。

 そして、その場にいたゴブリンたちがグループを組もうとキョロキョロし始めたところで、俺は自らのスキル《真実の目》を使った。
 それはもちろん、《早熟》スキルを持たないゴブリンと一緒に組むためだ。
 この日のために、俺は毎日、子供を産む母ゴブリンたちのところを回って目をつけていたのだ。
 この群には《早熟》スキルを持たないゴブリンが二匹いる。
 俺はその二匹を見つけると、他の誰かが声をかける前にと一直線にその下へと走ったのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

捨てられた転生幼女は無自重無双する

紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。 アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。 ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。 アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。 去ろうとしている人物は父と母だった。 ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。 朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。 クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。 しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。 アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。 王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。 アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。 ※諸事情によりしばらく連載休止致します。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...