2 / 40
第2話 死と神と
しおりを挟む
四年前。
俺はこの世界、地球で死んだ。
死因は酷くありふれたもので、交通事故に遭った。
ただそれだけの話だ。
そのときの俺は都内の私立大学でぼんやりと毎日を生きていた人間だったが、それでもそれなりにやりたいことがあった。
だからこそ、自分の人生がそこで終わることを呪い、そしてどうにかもう一度新しい人生がほしいと、そう願った。
その願いが届いたと知ったのは、意識を取り戻した瞬間、周囲が見渡す限り真っ白な空間に自分が存在していると気付いたときのことだ。
これは、話に聞く奴ではなかろうか、とピンときた。
当時の俺の暇つぶしと言えば、ウェブ小説を読むくらいのものだったが、その中で良くある展開に、死した後、こういうところに呼び出される、というものがあった。
そして、誰に呼び出されるかと言えば……。
「目が覚めましたか」
そう声をかけられて振り向くと、そこには何とも言葉では言い表しがたい美女が立っていた。
美女なのに言い表しがたいというのはどういうことかといえば、じっと見ていても特徴がまるで掴めないからだ。
一瞬一瞬で印象が変わるというか、全てを内包しているように見えるというか……。
言葉にした瞬間、違うものだと思ってしまうと言うか。
だから美女としか言えない。
しかし、こんな場所にこんな美女が現れるということは……話は決まっている。
俺は尋ねた。
「……貴方は、やっぱり神様ということで間違いないですか?」
すると美女は苦笑しつつも頷いて、
「話が早くて助かります。その通りです……が、地球の神ではありません」
「ということはやっぱり異世界の方で……俺をその世界に転生させてくれるというご相談ですか? こう、生きていきやすいように何か能力などを下さったりなども……?」
「おそろしく話が早いですね……まぁ、現代日本の方は皆そうですが……まさにそういうことです。ただ、あなたが今、想像しているような、世界を壊しかねない強力な能力は与えかねるということは言っておかなければなりません。また、生まれにつきましても強く干渉することはいたしかねます」
「……その辺りについては流石に察せないので、もう少し細かく……」
「でしょうね。ええと……たとえば、ありとあらゆる他人の能力を奪うとか、成長率が他の者の一万倍とか、ある能力を拡張したり曲解して新しい能力にするとか、そういうことは出来ないということです。まぁ、最後の部分につきましては幅があると言いますか、多少の工夫のしようはあるのですが、コップを作る能力を付与されたからといって、生き物を生きたままコップの形に変形させられる、みたいな無茶な話は無理だということですね」
「……なるほど」
確かにそんなことが出来たらどんな能力をもらおうとも世界最強になって世界を破壊できるだろう。
美女は続ける。
「それと生まれについてですが……どこかの国の王族に、とか貴族に、とかそういうピンポイントでの操作ができないということです。私どもでどうにか出来るのは、あくまで虫や植物、それに大きく魂の器が異なる動物などを転生先から除外する、というくらいのことです」
「……虫や植物になるのは流石に勘弁願いたいので、ありがたいお話です」
「本来でしたらその可能性もあるのですが……色々な事情がありまして、貴方には記憶を保ったまま、私どもの世界に来ていただかなければなりません。そしてその場合……虫や植物などになってしまうと、遠からず精神が崩壊し、そして魂も崩れてしまうのです。記憶がまっさらな場合はそういうことが起こりませんのでどこに転生しようとも構わないのですが……流石にこちらの事情でご招待しておいて、そこまで理不尽なことをすることは気が引けます」
「神様にしては……と言うと失礼かもしれませんが、細やかなお気遣い、感謝します」
「いえ、わたくし共の中には雑で適当な者や、生き物をなんとも思っていない者もおりますので、必ずしも失礼というわけでは……。ともあれ、そういうことですので……ある程度は転生に安心感を持っていただければと……」
「そうですね……最低限の安心はありそうです。それでも、とてつもなく貧乏な家に生まれたり、とんでもない両親のもとに生まれて即死亡、という可能性は残るということも分かりました」
「それにつきましては大変に申し訳ないのですが……運に賭けていただくしか。ただ、もしそのような死亡のされ方をした場合、再度、ここにお呼びしますので、どうぞご宥恕《ゆうじょ》いただければ……」
「良いところに生まれるまで、運に賭けさせていただける?」
「良いところに、の意味については、普通にある程度の年齢まで成長できるところに、と解釈させていただけるのであれば、その通りです」
つまり、あれだ。
死なない程度に暴力を振るってくる親の元に生まれたらそのチャンスはないというわけだな。
……まぁ、仕方が無いか。
この賭けは、全世界の人間が生まれるときに必ず行っているものだからだ。
一応のやり直しの機会をもらえただけ、ありがたい話だろう。
そして、これ以上ごねるのも違う気がする。
「……分かりました。それで……」
続きを促すと、美女は頷いて言う。
「ええ、能力の方ですね。こちらについては貴方のような、現代の地球は日本に暮らしている方には理解しやすいことと思います。わたくし共の世界は、能力についてステータス/スキル制を採用しておりますので……」
「それは……つまり、ステータスと唱えればステータスが目の前に表示され、その中に力とか魔力などの記載があり、また技能についてはスキルとスキルレベルで表示される、というあのゲーム的な?」
「細かいところにつきましては異なる部分があるのですが、概ねその通りです」
「……つかぬことをお伺いしますが」
「はい」
「……なぜそんなゲームのような制度を? 神様のお仕事に文句を言いたいわけではないのですが、あのようなもので人間の能力を全て表示しきれるとは思いません」
「それについては……わたくし共も同感です。そもそも、当初は……数万年前は、わたくし共の世界も、地球と同様にそういったシステムは存在しませんでした。しかし……外部から招かれざる者が参りまして……」
「招かれざる者……」
「ええ。便宜上、外神《とつかみ》、と呼びます。この外神は、呼び名の通り、世界の外からやってきた、他の世界の神なのですが……元いた世界を追い出されて流れ着いたようで。そのこと自体は良くあることなので構わないのですが……」
「よくあるのですか……?」
「ええ。貴方方の世界でも普通にあるでしょう? 外国から木造船に乗って人が漂流してくる、なんてことは」
「そのレベルの話なんですね」
「わたくしどもにとっては。ですので、とりあえず介抱して、わたくしどもの世界でやっていけるように色々と世話をしたのですが……すこしばかり増長しまして。新しい生き物を作ってしまったのです」
俺はこの世界、地球で死んだ。
死因は酷くありふれたもので、交通事故に遭った。
ただそれだけの話だ。
そのときの俺は都内の私立大学でぼんやりと毎日を生きていた人間だったが、それでもそれなりにやりたいことがあった。
だからこそ、自分の人生がそこで終わることを呪い、そしてどうにかもう一度新しい人生がほしいと、そう願った。
その願いが届いたと知ったのは、意識を取り戻した瞬間、周囲が見渡す限り真っ白な空間に自分が存在していると気付いたときのことだ。
これは、話に聞く奴ではなかろうか、とピンときた。
当時の俺の暇つぶしと言えば、ウェブ小説を読むくらいのものだったが、その中で良くある展開に、死した後、こういうところに呼び出される、というものがあった。
そして、誰に呼び出されるかと言えば……。
「目が覚めましたか」
そう声をかけられて振り向くと、そこには何とも言葉では言い表しがたい美女が立っていた。
美女なのに言い表しがたいというのはどういうことかといえば、じっと見ていても特徴がまるで掴めないからだ。
一瞬一瞬で印象が変わるというか、全てを内包しているように見えるというか……。
言葉にした瞬間、違うものだと思ってしまうと言うか。
だから美女としか言えない。
しかし、こんな場所にこんな美女が現れるということは……話は決まっている。
俺は尋ねた。
「……貴方は、やっぱり神様ということで間違いないですか?」
すると美女は苦笑しつつも頷いて、
「話が早くて助かります。その通りです……が、地球の神ではありません」
「ということはやっぱり異世界の方で……俺をその世界に転生させてくれるというご相談ですか? こう、生きていきやすいように何か能力などを下さったりなども……?」
「おそろしく話が早いですね……まぁ、現代日本の方は皆そうですが……まさにそういうことです。ただ、あなたが今、想像しているような、世界を壊しかねない強力な能力は与えかねるということは言っておかなければなりません。また、生まれにつきましても強く干渉することはいたしかねます」
「……その辺りについては流石に察せないので、もう少し細かく……」
「でしょうね。ええと……たとえば、ありとあらゆる他人の能力を奪うとか、成長率が他の者の一万倍とか、ある能力を拡張したり曲解して新しい能力にするとか、そういうことは出来ないということです。まぁ、最後の部分につきましては幅があると言いますか、多少の工夫のしようはあるのですが、コップを作る能力を付与されたからといって、生き物を生きたままコップの形に変形させられる、みたいな無茶な話は無理だということですね」
「……なるほど」
確かにそんなことが出来たらどんな能力をもらおうとも世界最強になって世界を破壊できるだろう。
美女は続ける。
「それと生まれについてですが……どこかの国の王族に、とか貴族に、とかそういうピンポイントでの操作ができないということです。私どもでどうにか出来るのは、あくまで虫や植物、それに大きく魂の器が異なる動物などを転生先から除外する、というくらいのことです」
「……虫や植物になるのは流石に勘弁願いたいので、ありがたいお話です」
「本来でしたらその可能性もあるのですが……色々な事情がありまして、貴方には記憶を保ったまま、私どもの世界に来ていただかなければなりません。そしてその場合……虫や植物などになってしまうと、遠からず精神が崩壊し、そして魂も崩れてしまうのです。記憶がまっさらな場合はそういうことが起こりませんのでどこに転生しようとも構わないのですが……流石にこちらの事情でご招待しておいて、そこまで理不尽なことをすることは気が引けます」
「神様にしては……と言うと失礼かもしれませんが、細やかなお気遣い、感謝します」
「いえ、わたくし共の中には雑で適当な者や、生き物をなんとも思っていない者もおりますので、必ずしも失礼というわけでは……。ともあれ、そういうことですので……ある程度は転生に安心感を持っていただければと……」
「そうですね……最低限の安心はありそうです。それでも、とてつもなく貧乏な家に生まれたり、とんでもない両親のもとに生まれて即死亡、という可能性は残るということも分かりました」
「それにつきましては大変に申し訳ないのですが……運に賭けていただくしか。ただ、もしそのような死亡のされ方をした場合、再度、ここにお呼びしますので、どうぞご宥恕《ゆうじょ》いただければ……」
「良いところに生まれるまで、運に賭けさせていただける?」
「良いところに、の意味については、普通にある程度の年齢まで成長できるところに、と解釈させていただけるのであれば、その通りです」
つまり、あれだ。
死なない程度に暴力を振るってくる親の元に生まれたらそのチャンスはないというわけだな。
……まぁ、仕方が無いか。
この賭けは、全世界の人間が生まれるときに必ず行っているものだからだ。
一応のやり直しの機会をもらえただけ、ありがたい話だろう。
そして、これ以上ごねるのも違う気がする。
「……分かりました。それで……」
続きを促すと、美女は頷いて言う。
「ええ、能力の方ですね。こちらについては貴方のような、現代の地球は日本に暮らしている方には理解しやすいことと思います。わたくし共の世界は、能力についてステータス/スキル制を採用しておりますので……」
「それは……つまり、ステータスと唱えればステータスが目の前に表示され、その中に力とか魔力などの記載があり、また技能についてはスキルとスキルレベルで表示される、というあのゲーム的な?」
「細かいところにつきましては異なる部分があるのですが、概ねその通りです」
「……つかぬことをお伺いしますが」
「はい」
「……なぜそんなゲームのような制度を? 神様のお仕事に文句を言いたいわけではないのですが、あのようなもので人間の能力を全て表示しきれるとは思いません」
「それについては……わたくし共も同感です。そもそも、当初は……数万年前は、わたくし共の世界も、地球と同様にそういったシステムは存在しませんでした。しかし……外部から招かれざる者が参りまして……」
「招かれざる者……」
「ええ。便宜上、外神《とつかみ》、と呼びます。この外神は、呼び名の通り、世界の外からやってきた、他の世界の神なのですが……元いた世界を追い出されて流れ着いたようで。そのこと自体は良くあることなので構わないのですが……」
「よくあるのですか……?」
「ええ。貴方方の世界でも普通にあるでしょう? 外国から木造船に乗って人が漂流してくる、なんてことは」
「そのレベルの話なんですね」
「わたくしどもにとっては。ですので、とりあえず介抱して、わたくしどもの世界でやっていけるように色々と世話をしたのですが……すこしばかり増長しまして。新しい生き物を作ってしまったのです」
0
お気に入りに追加
65
あなたにおすすめの小説

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。

破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。
大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。
ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。
主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。
マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。
しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。
主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。
これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。


システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる