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第2話 死と神と
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四年前。
俺はこの世界、地球で死んだ。
死因は酷くありふれたもので、交通事故に遭った。
ただそれだけの話だ。
そのときの俺は都内の私立大学でぼんやりと毎日を生きていた人間だったが、それでもそれなりにやりたいことがあった。
だからこそ、自分の人生がそこで終わることを呪い、そしてどうにかもう一度新しい人生がほしいと、そう願った。
その願いが届いたと知ったのは、意識を取り戻した瞬間、周囲が見渡す限り真っ白な空間に自分が存在していると気付いたときのことだ。
これは、話に聞く奴ではなかろうか、とピンときた。
当時の俺の暇つぶしと言えば、ウェブ小説を読むくらいのものだったが、その中で良くある展開に、死した後、こういうところに呼び出される、というものがあった。
そして、誰に呼び出されるかと言えば……。
「目が覚めましたか」
そう声をかけられて振り向くと、そこには何とも言葉では言い表しがたい美女が立っていた。
美女なのに言い表しがたいというのはどういうことかといえば、じっと見ていても特徴がまるで掴めないからだ。
一瞬一瞬で印象が変わるというか、全てを内包しているように見えるというか……。
言葉にした瞬間、違うものだと思ってしまうと言うか。
だから美女としか言えない。
しかし、こんな場所にこんな美女が現れるということは……話は決まっている。
俺は尋ねた。
「……貴方は、やっぱり神様ということで間違いないですか?」
すると美女は苦笑しつつも頷いて、
「話が早くて助かります。その通りです……が、地球の神ではありません」
「ということはやっぱり異世界の方で……俺をその世界に転生させてくれるというご相談ですか? こう、生きていきやすいように何か能力などを下さったりなども……?」
「おそろしく話が早いですね……まぁ、現代日本の方は皆そうですが……まさにそういうことです。ただ、あなたが今、想像しているような、世界を壊しかねない強力な能力は与えかねるということは言っておかなければなりません。また、生まれにつきましても強く干渉することはいたしかねます」
「……その辺りについては流石に察せないので、もう少し細かく……」
「でしょうね。ええと……たとえば、ありとあらゆる他人の能力を奪うとか、成長率が他の者の一万倍とか、ある能力を拡張したり曲解して新しい能力にするとか、そういうことは出来ないということです。まぁ、最後の部分につきましては幅があると言いますか、多少の工夫のしようはあるのですが、コップを作る能力を付与されたからといって、生き物を生きたままコップの形に変形させられる、みたいな無茶な話は無理だということですね」
「……なるほど」
確かにそんなことが出来たらどんな能力をもらおうとも世界最強になって世界を破壊できるだろう。
美女は続ける。
「それと生まれについてですが……どこかの国の王族に、とか貴族に、とかそういうピンポイントでの操作ができないということです。私どもでどうにか出来るのは、あくまで虫や植物、それに大きく魂の器が異なる動物などを転生先から除外する、というくらいのことです」
「……虫や植物になるのは流石に勘弁願いたいので、ありがたいお話です」
「本来でしたらその可能性もあるのですが……色々な事情がありまして、貴方には記憶を保ったまま、私どもの世界に来ていただかなければなりません。そしてその場合……虫や植物などになってしまうと、遠からず精神が崩壊し、そして魂も崩れてしまうのです。記憶がまっさらな場合はそういうことが起こりませんのでどこに転生しようとも構わないのですが……流石にこちらの事情でご招待しておいて、そこまで理不尽なことをすることは気が引けます」
「神様にしては……と言うと失礼かもしれませんが、細やかなお気遣い、感謝します」
「いえ、わたくし共の中には雑で適当な者や、生き物をなんとも思っていない者もおりますので、必ずしも失礼というわけでは……。ともあれ、そういうことですので……ある程度は転生に安心感を持っていただければと……」
「そうですね……最低限の安心はありそうです。それでも、とてつもなく貧乏な家に生まれたり、とんでもない両親のもとに生まれて即死亡、という可能性は残るということも分かりました」
「それにつきましては大変に申し訳ないのですが……運に賭けていただくしか。ただ、もしそのような死亡のされ方をした場合、再度、ここにお呼びしますので、どうぞご宥恕《ゆうじょ》いただければ……」
「良いところに生まれるまで、運に賭けさせていただける?」
「良いところに、の意味については、普通にある程度の年齢まで成長できるところに、と解釈させていただけるのであれば、その通りです」
つまり、あれだ。
死なない程度に暴力を振るってくる親の元に生まれたらそのチャンスはないというわけだな。
……まぁ、仕方が無いか。
この賭けは、全世界の人間が生まれるときに必ず行っているものだからだ。
一応のやり直しの機会をもらえただけ、ありがたい話だろう。
そして、これ以上ごねるのも違う気がする。
「……分かりました。それで……」
続きを促すと、美女は頷いて言う。
「ええ、能力の方ですね。こちらについては貴方のような、現代の地球は日本に暮らしている方には理解しやすいことと思います。わたくし共の世界は、能力についてステータス/スキル制を採用しておりますので……」
「それは……つまり、ステータスと唱えればステータスが目の前に表示され、その中に力とか魔力などの記載があり、また技能についてはスキルとスキルレベルで表示される、というあのゲーム的な?」
「細かいところにつきましては異なる部分があるのですが、概ねその通りです」
「……つかぬことをお伺いしますが」
「はい」
「……なぜそんなゲームのような制度を? 神様のお仕事に文句を言いたいわけではないのですが、あのようなもので人間の能力を全て表示しきれるとは思いません」
「それについては……わたくし共も同感です。そもそも、当初は……数万年前は、わたくし共の世界も、地球と同様にそういったシステムは存在しませんでした。しかし……外部から招かれざる者が参りまして……」
「招かれざる者……」
「ええ。便宜上、外神《とつかみ》、と呼びます。この外神は、呼び名の通り、世界の外からやってきた、他の世界の神なのですが……元いた世界を追い出されて流れ着いたようで。そのこと自体は良くあることなので構わないのですが……」
「よくあるのですか……?」
「ええ。貴方方の世界でも普通にあるでしょう? 外国から木造船に乗って人が漂流してくる、なんてことは」
「そのレベルの話なんですね」
「わたくしどもにとっては。ですので、とりあえず介抱して、わたくしどもの世界でやっていけるように色々と世話をしたのですが……すこしばかり増長しまして。新しい生き物を作ってしまったのです」
俺はこの世界、地球で死んだ。
死因は酷くありふれたもので、交通事故に遭った。
ただそれだけの話だ。
そのときの俺は都内の私立大学でぼんやりと毎日を生きていた人間だったが、それでもそれなりにやりたいことがあった。
だからこそ、自分の人生がそこで終わることを呪い、そしてどうにかもう一度新しい人生がほしいと、そう願った。
その願いが届いたと知ったのは、意識を取り戻した瞬間、周囲が見渡す限り真っ白な空間に自分が存在していると気付いたときのことだ。
これは、話に聞く奴ではなかろうか、とピンときた。
当時の俺の暇つぶしと言えば、ウェブ小説を読むくらいのものだったが、その中で良くある展開に、死した後、こういうところに呼び出される、というものがあった。
そして、誰に呼び出されるかと言えば……。
「目が覚めましたか」
そう声をかけられて振り向くと、そこには何とも言葉では言い表しがたい美女が立っていた。
美女なのに言い表しがたいというのはどういうことかといえば、じっと見ていても特徴がまるで掴めないからだ。
一瞬一瞬で印象が変わるというか、全てを内包しているように見えるというか……。
言葉にした瞬間、違うものだと思ってしまうと言うか。
だから美女としか言えない。
しかし、こんな場所にこんな美女が現れるということは……話は決まっている。
俺は尋ねた。
「……貴方は、やっぱり神様ということで間違いないですか?」
すると美女は苦笑しつつも頷いて、
「話が早くて助かります。その通りです……が、地球の神ではありません」
「ということはやっぱり異世界の方で……俺をその世界に転生させてくれるというご相談ですか? こう、生きていきやすいように何か能力などを下さったりなども……?」
「おそろしく話が早いですね……まぁ、現代日本の方は皆そうですが……まさにそういうことです。ただ、あなたが今、想像しているような、世界を壊しかねない強力な能力は与えかねるということは言っておかなければなりません。また、生まれにつきましても強く干渉することはいたしかねます」
「……その辺りについては流石に察せないので、もう少し細かく……」
「でしょうね。ええと……たとえば、ありとあらゆる他人の能力を奪うとか、成長率が他の者の一万倍とか、ある能力を拡張したり曲解して新しい能力にするとか、そういうことは出来ないということです。まぁ、最後の部分につきましては幅があると言いますか、多少の工夫のしようはあるのですが、コップを作る能力を付与されたからといって、生き物を生きたままコップの形に変形させられる、みたいな無茶な話は無理だということですね」
「……なるほど」
確かにそんなことが出来たらどんな能力をもらおうとも世界最強になって世界を破壊できるだろう。
美女は続ける。
「それと生まれについてですが……どこかの国の王族に、とか貴族に、とかそういうピンポイントでの操作ができないということです。私どもでどうにか出来るのは、あくまで虫や植物、それに大きく魂の器が異なる動物などを転生先から除外する、というくらいのことです」
「……虫や植物になるのは流石に勘弁願いたいので、ありがたいお話です」
「本来でしたらその可能性もあるのですが……色々な事情がありまして、貴方には記憶を保ったまま、私どもの世界に来ていただかなければなりません。そしてその場合……虫や植物などになってしまうと、遠からず精神が崩壊し、そして魂も崩れてしまうのです。記憶がまっさらな場合はそういうことが起こりませんのでどこに転生しようとも構わないのですが……流石にこちらの事情でご招待しておいて、そこまで理不尽なことをすることは気が引けます」
「神様にしては……と言うと失礼かもしれませんが、細やかなお気遣い、感謝します」
「いえ、わたくし共の中には雑で適当な者や、生き物をなんとも思っていない者もおりますので、必ずしも失礼というわけでは……。ともあれ、そういうことですので……ある程度は転生に安心感を持っていただければと……」
「そうですね……最低限の安心はありそうです。それでも、とてつもなく貧乏な家に生まれたり、とんでもない両親のもとに生まれて即死亡、という可能性は残るということも分かりました」
「それにつきましては大変に申し訳ないのですが……運に賭けていただくしか。ただ、もしそのような死亡のされ方をした場合、再度、ここにお呼びしますので、どうぞご宥恕《ゆうじょ》いただければ……」
「良いところに生まれるまで、運に賭けさせていただける?」
「良いところに、の意味については、普通にある程度の年齢まで成長できるところに、と解釈させていただけるのであれば、その通りです」
つまり、あれだ。
死なない程度に暴力を振るってくる親の元に生まれたらそのチャンスはないというわけだな。
……まぁ、仕方が無いか。
この賭けは、全世界の人間が生まれるときに必ず行っているものだからだ。
一応のやり直しの機会をもらえただけ、ありがたい話だろう。
そして、これ以上ごねるのも違う気がする。
「……分かりました。それで……」
続きを促すと、美女は頷いて言う。
「ええ、能力の方ですね。こちらについては貴方のような、現代の地球は日本に暮らしている方には理解しやすいことと思います。わたくし共の世界は、能力についてステータス/スキル制を採用しておりますので……」
「それは……つまり、ステータスと唱えればステータスが目の前に表示され、その中に力とか魔力などの記載があり、また技能についてはスキルとスキルレベルで表示される、というあのゲーム的な?」
「細かいところにつきましては異なる部分があるのですが、概ねその通りです」
「……つかぬことをお伺いしますが」
「はい」
「……なぜそんなゲームのような制度を? 神様のお仕事に文句を言いたいわけではないのですが、あのようなもので人間の能力を全て表示しきれるとは思いません」
「それについては……わたくし共も同感です。そもそも、当初は……数万年前は、わたくし共の世界も、地球と同様にそういったシステムは存在しませんでした。しかし……外部から招かれざる者が参りまして……」
「招かれざる者……」
「ええ。便宜上、外神《とつかみ》、と呼びます。この外神は、呼び名の通り、世界の外からやってきた、他の世界の神なのですが……元いた世界を追い出されて流れ着いたようで。そのこと自体は良くあることなので構わないのですが……」
「よくあるのですか……?」
「ええ。貴方方の世界でも普通にあるでしょう? 外国から木造船に乗って人が漂流してくる、なんてことは」
「そのレベルの話なんですね」
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