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第5話 雑談

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「そんじゃ、パーティー登録とするか」

 次の日、俺とアルフレッドは二人でパーティーを登録しておくために冒険者組合《ギルド》にやってきていた。
 少しばかりこそこそしているのは、アルフレッドの元パーティーメンバーであるギースたちに可能な限り会いたくないからだ。
 アルフレッドは会ったら会ったで無視すれば良いだけだから構わない、と言っているのだが、俺には分かる。
 アルフレッドがいないことで、ギースたちのパーティーには色々と不具合が出てきているはずだ。
 聞けばアルフレッドは戦闘だけでなく、それ以外にも多くの役割をあのパーティーの中で担っていたようで、索敵からマッピング、それに料理や雑用、依頼の管理まで全てやらされていたというのだから。
 じゃあ、他の三人は何をやっていたのか、と聞けば、戦闘の際にそれぞれの職業に合った活動をしていた、という。
 それ以外は全部アルフレッドの役割だった、と続けて。
 
 ……いやいや、ということはギースたちはこれから先、まともに活動することすら厳しいんじゃないかと思った。
 依頼の受注や選別もアルフレッドがやっていたなら、それも覚束なくなる。
 納品系の依頼でも薬草や魔物の見分けなどもアルフレッドがやっていた、と。
 本当にあいつらこれからどうするんだろうなぁ、という感じだ。

 まぁ、腐っても戦闘技術だけはそれなりにあるようだから、少しの間はやっていけるだろうし、色々と自分たちで気付いてアルフレッドが今までやっていたことをちょっとずつ自分たちで賄えるようになれば、問題なく順当にランクも上げていけるだろう潜在力はある。
 ただ、その《自分で気付く》が出来なさそうなのがな……。
 
 最終的にその責任をアルフレッドに求めてきそうな気がするのだ。
 パーティーに戻れ、元通りにしろ。
 こういうことを言いそうな気がする。

 だからこそ、俺はアルフレッドはこれからあいつらを一人で相手できるようになるまで、可能な限り顔を合わせない方がいいと考えている。
 C級程度の実力にまで鍛えた上で、この街タイレンカをさっさと出て行くのが一番いいと思っている。
 出来れば俺を越えるくらいの力は身につけて欲しいが……アルフレッドに才能がありそうだといっても、B級は地方の冒険者組合においてはほぼ最上位だ。
 そこまで必ず上がれるとは流石に言い切れなかった。
 いずれは上がるとは思うのだが……何年かかるか。
 それまでギースたちがアルフレッドを探さない自信はない。

「……なぁ、おっさん」

「なんだ?」

「これから……パーティー登録するんだよな?」

「そうだって言ってるだろ」

「……本当に本気なのか?」

「お前……嫌なのか? まぁ、こんなおっさんと組むのが嫌ってのは分かるが……」

「そういうことじゃなくてさ。やっぱりE級とB級で組むなんて……おかしいだろ? 本当にいいのか気が引けてきて……やっかみとかありそうだし、寄生してるとか言われそうだし」

 どうにもかなり後ろ向きになってしまっているようだ。
 元いたパーティーにゴミのように捨てられたのだから、まだ精神的な傷が癒えていないのだろう。
 しかし、俺はアルフレッドに言う。

「そんな雑音気にすんな……と言ってしまうのは簡単だが、難しいのは分かる。まぁ、言い訳を考えておけばいいんじゃねぇか? やっかまれたら、俺にこき使われててキツい、変わってやろうか? とか言えば良いし、寄生している、とか言われたら、ついでに魔物の囮に使われるけどお前がやるか? と言えば良い」

 実際、そこまでやるつもりはないにしろ、そう思ってしまうだろうくらいの鍛え方をするつもりでいるから嘘にはならない。 
 ただ、アルフレッドはそんなことは知らず、むしろ俺のことを気遣って言った。

「いや、そんなこと言ったらおっさんに迷惑がかかるだろ!? そんなこと俺には……」

「それこそ俺は雑音なんて気にしないからな。元々、B級冒険者はやっかみを受けるのが義務みたいなもんだ。A級以上は冒険者組合に来ることは滅多にねぇから、そういう奴らに対するやっかみもB級に向かってくるしな。今更ちょっとくらい増えても何とも思わねぇよ」

 A級以上は貴族や商人から直接指名依頼が入る。
 その際、冒険者組合での手続きは向こうで全て代行することが多い。
 だから冒険者組合に来ることはほとんどない。
 来たとしてもすぐに応接室に通され、彼らと低位冒険者が接触する機会はゼロに等しい。
 だからこそ、実質冒険者組合にいる最上位冒険者はB級になってくるので、A級にぶつけられない恨みがB級に向かうのだ。
 B級になら万が一勝てるかも知れない、みたいな情けない理由もある。
 だが、実際にはC級とB級の間に広がっている差はかなりのもので、C級が十人同時に襲いかかってこようともあしらうことは余裕だ。
 流石に百人に来られれば疲れるだろうが……死ぬことはない。
 そんなわけで、どんなに低位冒険者に恨まれようとも、本当に気にならない。

「でも……もし俺がそんなこと言って、本当に変わってやろう、とか言う奴が来たらどうするんだ? チャンスだと思って……」

「ん? それならそれで、連れてってやれば良いさ。何度か一緒に依頼を受けて、それでも根をあげないなら……それはそれで大したもんだしな」

「……拒まないのか?」

「まぁ、よっぽどヤバイ奴……犯罪者紛いのが来たら流石に断るし、あまり人が多くなりすぎてもしょうがないから、そういう場合は別だが。一人や二人なら増えても良いだろ? パーティーメンバーがよ」

「まぁ……確かに。そう言われればそうだな……ん? でも、根をあげないならって……どういうことだ?」

 なんだかアルフレッドがこれから叩き込まれる地獄について気付きそうだったので、俺は彼の肩に手を当てて、

「それはともかく、まず受付に行こうぜ。登録だ。俺たちのパーティーの門出だ。あぁ、そうだ、パーティー名を考えとけよ。俺はこういうのセンスなくてなぁ……」

「ん? 分かった……でも俺もそんなにセンスはないから期待しないでほしいんだけど……」

 アルフレッドは疑問を無理矢理打ち消されたことに気付かず、俺と共に受付へと歩き出した。
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