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第2話 決別

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「……あ、おっさん! おはよう!」

 次の日、俺が待ち合わせしていた街の広場に着くと、アルフレッドはぱぁっと顔を明るくしてそう言って手を振ってきた。
 直前までなぜだか死にかけのような表情だったのだが……どうしたのだろうか?

「おう、早いな。アルフレッド。待ち合わせの時間までまだあったと思ったが」

 魔道具の懐中時計を出して時刻を確認するに、あと五分ある。
 広場には巨大な魔道具の時計も設置されていて、それと時間がずれているということもなさそうだった。
 俺の言葉にアルフレッドは少し考えてから、言う。

「いや……まぁ、あんたB級冒険者だろ? 先輩をあんまり待たせちゃ悪いかと思ってさ」

「別に冒険者同士なんだから細かいこと気にする必要はねぇぜ。それにしても、なんか調子が悪いのか? さっきまで顔色が悪かったが……」

 俺がそう尋ねると、なぜかアルフレッドは焦った表情になり、それから黙り込み、意を決したように顔を上げると、言った。

「違うんだ! そうじゃなくって……もしかしたら、昨日の話は……俺をからかってのことで、おっさん、来てくれないんじゃないかと……」

「はぁ?」

「だっておかしいだろ!? パーティーから追放されて、直後にB級冒険者のおっさんが話しかけてくれて、俺のことを高く買ってくれるなんて! それよりも、全部話は嘘っぱちで、だから今日、待ち合わせしたここにも来てくれないって方が、ずっと納得が行く……」

 死ぬほど卑屈な話だった。
 しかし分からないでもない。
 アルフレッドは長い間、信じていたパーティーに簡単に裏切られて切られてしまったのだから。
 そこに俺のような人間が突然現れたのでは、詐欺か何かを疑っても仕方の無いことだろう。
 けれどもちろんのこと、そんなつもりは一切ない。
 俺はアルフレッドに言う。

「まぁ、気持ちは分かる。ただ、はっきり言っておくが俺にはお前を騙すつもりは一切ない。昨日言った話は、全部本当だぜ。証拠を出せと言われても難しいところだが……お前を騙して金を巻き上げようとかそんなつもりなら、素直にボコボコにして奪い取った方が早いだろ? それか奴隷にしようってんなら……それでもやっぱりボコボコにしてどっか別の街で適当に売り払った方が早い……あぁ、怯えるなって。やらねぇよ」

 実際、アルフレッドと俺の間にはそれくらいの実力差がある。
 アルフレッドもそれは分かっているのか、頷いて、

「……まぁ、そうだよな。今更怯えても仕方ないか」

「そういうこった。それより……お前、その格好で依頼に出るつもりか?」

 今日は、とりあえずお互いの実力確認のために一緒に一度依頼に出よう、という話をしていた。
 もちろん、冒険者組合ギルドでパーティー登録してからの話になるが……。
 俺はB級であるから、登録すれば一応、A級の依頼まで受けることが出来る。
 E級のアルフレッドを連れていきなりそんな依頼を受けたらまずいのは分かっているので、あくまでも彼に合わせた依頼を受けるつもりなのは当然の話だ。
 なので、依頼に出るために武具を身につけての待ち合わせだったのだが、アルフレッドの格好は中々酷い。
 傷だらけの、しかも最低品質の革の鎧に、おそらく見習い鍛冶師の数打ちの剣を下げ、ボロボロのブーツに、今にも穴の空きそうな背嚢を背負っている。
 新人冒険者だってもっとマシな格好をしているだろう。
 というか、ついこの間まで、流石にここまで酷くなかったはずだが……。
 俺の言葉にアルフレッドは情けない顔をして、

「……昨日、あれから宿に戻ったら、俺の武具全部、ギースたちに持って行かれててさ……代わりにこれが置いてあったんだ。金も全部取られて……」

「マジか……もうそれ窃盗で訴えてもいいような気がするが」

「一応、書き置きがあって、今までの貢献度を考えると俺の武具や金はほとんどギースたちが稼いだようなものだから、回収するって……」

「盗んではいない、と一応遠回しに主張しておく辺り、犯罪をするつもりはないんだろうが……余計に酷いだろ。はぁ……俺が奪い返してやる」

 流石にこの格好のアルフレッドを連れて行くわけにはいかない。
 これじゃあ、どのタイミングでやられるか分からない。
 ゴブリンの短剣の一撃ですら、剣が折れたり鎧が切り裂かれて外れたりしそうだ。
 元々の武具なら、普通の依頼を受けることを出来るだろう。
 そう思っての台詞だったが、アルフレッドはギースたちを探しに行こうと歩き出そうとする俺の腕を掴み、

「ま、待ってくれ! それはやめてくれ!」

 と言った。
 俺が怪訝に思って、

「……お前。いいのか? あんな奴らに武具と金をとられたままで……」

「良くはないけど……でも、ここでまた関わり合いになるのは、嫌なんだ。おっさんにも絶対に迷惑がかかる。それよりも、ここで完全に関係を断って、これからはあいつらと関係のないところでやっていきたいんだ……駄目、かな……?」

 真剣な表情でそう言ったアルフレッドの顔には、決意の色があった。
 別にギースたちに怯えて、とか、気を使って、とか、ましてや優しくしてやろうとか、そんな気持ちからではないようだ。
 それならば……確かに、アルフレッドの言うとおり、ここで完全に縁を切ってやっていく、というのも悪くない。
 むしろ、今後のことを考えるとその方が都合が良さそうだ。
 アルフレッドを使い潰すだけ使い潰した奴らだ。
 そんな彼が、俺のようなB級とこれからパーティーを組む、となったら自分たちで捨てたことも忘れてどんな要求をしてくるかも分からない。
 流石にそこまで屑ではないと思いたいところだが、そう言いきれるほど俺はあいつらの性格を知らない。
 アルフレッドが不安そうなのは、まさにそういうことをしそうだと思っているからだろう。
 俺は頭をかきながら、

「……はぁ。分かったよ。そういうことなら、やめておく。だが……」

「……?」

「その武具じゃ、流石に依頼には出れない。今日のところはやめだ。まずはお前の武具を揃えるところから始めるぞ」

「えっ。でも、俺、全然金が……」

「そいつは俺が出してやる。貸して……いや、今日はお前の新しい冒険者人生の始まりだ。俺がぱーっと奢ってやろうじゃねぇか。冒険者ってのは、宵越しの金は持たねぇもんだからな!」
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