エンドロール〜BLゲームの悪役モブに設定された俺の好きな子の話〜

高穂もか

文字の大きさ
上 下
105 / 112
第二章 淫紋をぼくめつしたい

お隣さんとの攻防⑨

しおりを挟む
 お隣さんと並んで、流しで手を洗う。ジャバジャバ、って水音の上に、重い沈黙が乗っかっとった。
 
「……」
 
 き、気まずーい!
 お隣さん、さっきからずっと無言やし。全然、目ぇ合わへんもん!
 
 ――うう、おれのアホ! せめて独り言は止しとけばよかったぁ……!
 
 きっと、けったいな奴やと思われたんやっ。
 お便所でひいひい言うとるやつが、隣の部屋で夜ごと騒いどるやつやってんもん。声をかけたこと、後悔してはるんかも。
 
「うぅ~……」
 
 神様の意地悪! 三日前に、おれと晴海であんぱん持って謝りに行ったのに。なんで、そのときに会わせてくれへんかったん。
 ひっく、と嗚咽を噛み殺したとき――ぴた、と冷たい感触がほっぺに当たった。
 
「――!?」
「……泣くほど辛いの?」
 
 ぎょっとして顔を上げれば、お隣さんがじいっとおれの顔を見下ろしとった。水に濡らしたハンカチが、ぽんぽんとおれの目の下に押し当てられとる。
 子供にするような優しい手つきに、きょとんとしてしもた。
 
「ふえ」
「おなか気持ち悪い? 熱とか測ってみた?」
「え、あっ」
 
 お隣さんは、しんみりしたお声で色々と聞いてくれる。
 なんか、めっちゃ心配してくれてるような気がするんですが……。
 思いがけない親切に、どう反応したもんか――オロオロと見上げとったら、長い前髪の隙間から、心配そうに見下ろす目とかち合った。
 おれは、息を飲む。
 
 ――うわあ、綺麗な目! みどり色してんねや。
 
 思わず、戸惑いも忘れて、まじまじと見入ってまう。
 ほしたら、お隣さんはなんか気づいた顔した。それから、両腕を振り上げて、ずささーっと一気に五歩くらい後じさる。
 ポカンとするおれに、見える部分の顔を真っ赤にして、お隣さんは早口に言うたん。
 
「ご、ごめん。つい、いっつも友達にやるみたいに……!」
「えっ、いえっ。心配してもろて、すみません」
 
 恐縮仕切りのお隣さんに、おれは慌てて頭を振った。
 
「おれ、大丈夫ですっ。先輩、気にせんといて」
「そ、そう?」
 
 ぎゅっと拳を握って見せると、お隣さんはほっとしたらしい。
 
「ああ、よかった」
「……へへ」
 
 でっかい人があんまり慌てとるもんで、ちょっとおかしい。
 うふふと笑っとると、お隣さんはなぜか、じーっと見てくる。ていうか、ほぼ凝視や。
 
「あの、何か」
「……やっぱ、かわいい」
「へっ?」
 
 なんて言うたん?
 ふいに伸びてきたでっかい手に、もふもふと頭を撫でられた。不思議に思って見上げたら、お隣さんはニコって笑う。
 そしたら、でっかい背の威圧感が一気に失せて、のんびりした雰囲気になった。
 
 ――はっ……! もしかせんでも、今が謝るチャンスと違う?
 
 これまでの騒音被害とか、いろいろ謝って。そんで、ご近所付き合いを改善させるんや!
 おれは、意を決して一歩踏み出した。
 
「あ、あのっ……!」
 
 歩いた拍子に捩れたパンツが、おけつに食い込んだ。――さっき、慌てて下着を直したから……いつもより上げ過ぎたんやっ! ぬるぬるする穴を強く擦られて、眼の奥が熱くなる。
 
「ひっ……」
 
 忘れてた火照りが戻ってきて、足の力が抜けてへたり込んでまう。
 すると、お隣さんは慌てた様子でしゃがみ込み、顔を覗いてくる。
 
「あっ、ごめん。具合悪いんだったね。立てそうにない?」
「だ……だいじょうぶ」
 
 それより、もっぺんトイレに――と言おうとしたときやった。
 
「ちょっと、我慢してね」
「えっ!?」
 
 ぐい、と腰に手を回されて、目を見開く。あれよあれよと抱えあげられて、視界が高くなった。ちょうど、お隣さんの胸に横向きに抱えられた状態――いわゆる「お姫様抱っこ」をされ、おれは動転する。
 
「ちょ、ちょちょお、何するんっ!?」
「保健室。運んでくから、じっとして」
「えーっ!」
 
 決然と言いきられ、絶句する。こんな、高校生にもなって、ほとんど知らん人に抱っこされるなんて……! そのままトイレから出てかれそうになり、おれは慌てた。
 
「まって、歩ける! 歩けるから下ろしてっ」
「まあまあ。遠慮しないで」
 
 恥ずかしさで半泣きになって、必死に胸を押す。けど、全然びくともせえへん。
 さ、さっきは謝ってくれたのに。めちゃくちゃ強引やないかい!
 ガチャ、とドアノブに手をかけられたとき、おれはパニックの極みに至る。
 
 ――いやや~! こんな格好、見られたないっ!
 
 ぶわーって、両眼から涙があふれ出た。
 
「うわー! 晴海~っ」
 
 叫んだ途端、ドアが思いきり開いた。
 
 
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

処理中です...