エンドロール〜BLゲームの悪役モブに設定された俺の好きな子の話〜

高穂もか

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第二章 淫紋をぼくめつしたい

お隣さんとの攻防⑤

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 翌朝の土曜日――遅めの朝ごはんを買いに、寮の食堂へ行こうとしたら。 
 
「あっ」
 
 ガチャ、ってドア開けたタイミングで、ちょうどお隣さんも出てきはった。
 ひょろっと背の高い、ヤシの木みたいな感じの人や。出かけはるんか、背中には登山用みたいなでっかいリュック。
 長い前髪のせいで定かではないけど、目が合った気がしてギクッとする。
 
「おっ……おはようございます~」
「……」
 
 へらへら笑って挨拶したら……すたこらさっさと歩いて行かはる。
 お隣さんの背負ったリュックが、ひょこひょこ遠ざかっていくんを、おれは呆然と見送った。
 
 ――ひょっとして、スルーされた?
 
 ピシャーンと雷をくったみたいに、おれはその場にくぎ付けになってまう。
 
「あ……あわわ……」
「シゲル、どないしたんやー。オムレツパンなくなるで」
 
 と、財布を取りに行ってた晴海に、ぽむって肩を叩かれる。その瞬間、涙が一気にあふれだした。
 おれはがばぁって振り返り、晴海の首にかじりつく。
 
「うわ~、晴海~!」
「お、おい? 何や何や!」
 
 おんおん泣くおれに、晴海は動転しながら背を撫でてくれる。
 でも、恥ずかしさと焦燥で、泣き止むことが出来ひん。
 
 ――やっぱり、昨夜のおれの声、聞こえてたんやあ!
 
 おれは滂沱しながら、昨夜のことを思い返す。
 解毒のために、おけつで振動するバイブを耐えなあかんくて。――声、ずっと堪えてたのに。敏感なナカをブルブル震わされて、おれ、イった瞬間に叫んでしもたん。
 せやけど、
 
「――シゲルッ!」
「んむうう……?!」
 
 晴海がすぐに、口を手で押さえてくれたんよ。
 悲鳴は、くぐもった呻き声になって、大きく響かへんかったはず。
 やから、大丈夫やって……そう思おうとしてたけど。
 
「うえ~、もうあかん!」
 
 ご近所付き合い、絶望的や!
 だって、前に話したときは、めっちゃ気さくな感じの人やったのに。絶対、おれの恥ずかしい声が聞こえて、変態やと思わはったんや。
 そう言うたら、晴海がぎゅって思いきり抱き締めてくれる。
 
「シゲル……そんな事ないっ。お前は悪いことなんかないからな!」
「わーん、晴海~!」
 
 晴海はおれを抱き上げて部屋にとっかえすと、ずっと励ましてくれた。
 
 



 
「シゲルよ、すまん。オムレツパン無かったさかい、グラタンパンとスパゲッティパンでええか?」
 
 晴海は笑って、山盛りのパンが乗った食堂のトレーを机に置く。
 おれはベッドからもそもそと這い下りて、晴海の背にくっついた。
 
「ありがとう……ごめんなあ、晴海」
「何言うてんねん、水くさい」
 
 晴海、やさしすぎる。
 結局、お昼前まで泣いてしもたのに、いやな顔ひとつせえへん。なにげ、おれの好きなパンばっかり買ってきてくれてるし……。
 しおしおと俯いとったら、頭を撫でられた。
 
「しっかり食べて、栄養つけや。今のタイミングで言うのもあれやけど……新しいこと始めたとこやから。体が資本やでな」
「……はるみぃ」
「なあ、大丈夫や。俺が、絶対守るから。お前は、自分の体のことだけ心配しい」
 
 晴海の優しい声が、おれのちくちくする心にしみわたる。
 
 ――晴海、大好き……。
 
 胸がきゅうっと苦しくなって、今すぐ抱きつきたくなった。でも、さすがに甘えすぎやし、なんか恥ずかしいし。
 かわりにグラタンパンを手に取って、がぶりと齧った。
 晴海が、ほっと息を吐いて言う。
 
「からだ、痛いとこないか?」
「むぐ。うん、なんもないよ」
「そうか。しんどいことあったら、すぐに言うんやで。お姉さんに相談するでな」
「うんっ……なあ、晴海も食べてや。おればっか食べてるやん!」
「おう、すまん」
 
 パンそっちのけの晴海に、胸が温かくなる。
 カツサンドのパックを開けて、口元にずいと押し出してみる。
 「おおきに」て、晴海は照れ笑いしてかぶりついた。
 
「なあ、晴海。おれ大丈夫、がんばるわ」
 
 からだを治すために。
 次こそ、ちゃんと声も我慢したらええねんもん! なんやったら、お隣さんにも謝りに行くし。 
 にっこり笑って見せると、晴海が眩しそうに目を細めた。
 
「シゲル、えらいなあ……」
「えへへ。チョココロネも開けてええ?」
「おう、食え食え」
 
 晴海が、にこにこ笑う。
 その笑顔見てたら、きゅっとお腹の奥が甘く疼いた気がして――おれは戸惑う。
 
 ――さっきの、何……?
 
「どうした?」
「な、なんもない」
 
 目ざとい晴海に、慌てて首を振る。
 でも、なんやったんやろ。おなかの奥に、ちっさい火が点ったみたいに、ちりってしたような。
 
 ――まあ……発情とは、ちゃうみたいやからええか。
 
 おれはそう納得して、おなかを擦った。
 
 
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