エンドロール〜BLゲームの悪役モブに設定された俺の好きな子の話〜

高穂もか

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第二章 淫紋をぼくめつしたい

■ある姉弟の回想【1】

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「姉やーん、おかえり!」
 
 県外の女子高に入学して、はや三か月。
 久しぶりに実家の門を潜れば、四歳下の弟の熱い歓迎が待っていた。両腕を広げて抱きついて来ようとするので、ボクサーのようにひょいと身をかわす。
 
「へぶっ」
「……ただいま~」
 
 床に伸びた弟を尻目に、さっさと居間に向かう。すぐさま、どたばたと後を追って来た弟は、不満げに唇を尖らせる。
 
「ちょぉ、なんでよけるん?」
「う・ざ・い。あんたもう、小六でしょ。いちいち抱きついて来んといて」
「そんなあ。だって姉やん、連休は帰ってこおへんだし……寂しかったんやもん」
 
 彼女か、お前は。
 と、思わなくもなかったんだけど、あんまりしょぼくれた顔をするので、正直に言うのはやめてやる。
 
「はいはい。ごめんね、シゲル
「ねえやん!」
 
 赤くなった額をぽんぽんと撫でてやったら、滋は途端に上機嫌になって、へらへらと笑いだす。
 
「えへへ……姉やん、おれ荷物はこぶよ」
「じゃ、部屋までよろしく」
「うんっ」
 
 肩にかけていた鞄を渡すと、嬉しそうに受け取っている。その背後に、ブンブンとちぎれそうに振れる尻尾の幻が見えた。
 
 ――わが弟ながら、ちょろいにもほどがある。
 
 小学六年生の滋は、すでに私と目線が変わらない。小さいころに病弱だったせいか、まるきり女の子みたいだった外見も、ずいぶん少年らしくなってきてるんだけど。
 この子供っぽさは、どうしたことか?
 
「なあなあ、姉やん。夏休みいっぱいまでおれるん?」
「一応、そのつもりだけど……」
「わあ、やったー!」
 
 滋は、嬉しそうにぴょんと飛び上がる。見ないうちに伸びたあめ色の髪が、笑顔を縁取るようにふわりと揺れた。
 
 ――まあ実際、なつかれて悪い気はしないんだけどね。
 
 中坊の弟がいる友達が言うには「あいつはクソガキじゃ」ってもんらしいから。こんな風に接してくるのも、あとちょっとのことぐらいかもしんないし。
 だったら、ちょっとくらい構ってやるかという気持ちになる。
 
「あんな、また晴海も遊びに来るって言うてたん。マリカー強なったから、リベンジしたいって」
「いいけど。あんた、宿題はちゃんとやってんの?」
「えっ、まだやけど。休みなったばっかやし……」
「あーあ。そんなん言って、また晴海くんに泣きつく気やろ」
「ち、ちゃうもん! 姉やんの意地悪っ」
 

 
 ■■

 
 
「――意地悪とは何よ、この馬鹿弟~」
「今ちゃん、今ちゃーん。教授めっちゃ睨んでるよ」
「……はっ!」
 
 しずかちゃんに揺り動かされ、私はがばりと顔を上げた。
 あたりを見回せば、そこは大学の講義室。なつかしい家の風景は、どこにもなかった。
 
 ――やっば、寝てたわ……
 
 昨夜も夜更かししたからか、授業中に寝入ってしまったらしい。
 ……最近、多いのよね。頭がちょっと痛い気もするし、疲れてるのかしら。
「ふああ」と欠伸が一発出たところで、大きな咳払いが聞こえてきた。
 つられて見れば、黒板の前で教授が渋面を作っている。――げげっ。
 
「今井さん、講義を受けるつもりはありますか」
「はい、あります! すみませんでした」
 
 蹴倒すように席を立ち、直角に頭を下げる。
 ぷりぷりしながら授業に戻った教授に、ホッと息を吐いた。すると、隣のしずかちゃんが、こっそりと肘をつついてくる。
 
「今ちゃん、ヤバかったね」
「しずかちゃん~。起こしてくれてありがとう」
「いいよー。でも、最近寝てること多いけど、大丈夫?」
 
 ちょっと心配そうに聞かれ、私は曖昧に笑って誤魔した。
 だって、弟の「ケツを治す薬」を作ってるなんて言えないしね。
 
 ――晴海くんから「検体」が送られてきてから、はや一週間。
 
 私は、解毒剤造りに精を出してきた。
 化学教師はマジモンの変態だけど、さすがはゲームの悪役って感じ。尻の穴に寄生する、精液が主食のスライムなんて何をどうして生み出したのやら。それでいて、突っ込んでる方には何の影響も無いんだから、攻めファースト仕様にも程があんだろと。
 化学的にも、腐女子的にも興味が尽きなくて。
 昼も夜も、大学の課題も忘れて研究して――ついに薬が完成したのが今朝のこと。
 
 ――いや~、自分の天才さが怖いわあ。
 
 この講義が終わったら、シゲルに電話してやろっと。
 私は、ルンルン気分でノートを取った。

 
 
■ある姉弟の回想……(続)
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