68 / 112
第一章 おけつの危機を回避したい
六十八話
しおりを挟む
「ばーか、ばーか! 媚薬に頼るような奴、誰が好きになるか!」
「威勢がいいですね。そんな君が、劒谷くんの前で私のチンポをねだると思うと昂りますよ」
「ざっけんな死ね! レン以外ごめん……ああんっ、変なもん入れるなー!」
おれは、どっどっと激しく打つ鼓動に口を結んで――ひとつ所を凝視した。
――解毒剤や!
床に落ちたエプロンのポケットから覗く、白い袋。あれは紛れもなく、愛野くんが持ってった解毒剤や。まさか、こんな形で相まみえるとは……!
おれは、希望に胸がふくらむのを感じた。
まだ、間に合う。この解毒剤さえおけつに入れれば、壊れんですむ……!
「んぐ……」
とにかく、隠さないと。
ずりずり、と前に這って、エプロンドレスを身体の下に押し込んだ。
窺い見ると、榊原は気づいてへんようや。――それどころか、部屋を出て行こうとする。
「あっ、おい! どこに行くんだよ」
「ふふ、最後の仕上げがあるのでね。すぐに戻りますよ」
パタン、と音を立てて扉が閉まる。
絶好のチャンスに、おれは涙があふれた。
今のうちや……! 手を伸ばそうとして――腕が縛られとるんを思い出した。
「ああっ……?!」
戒められた手首を解こうと、慌てて腕を捩る。――痛ったい! 細い紐が、動かせば動かす程、肌に食い込んでくる。
取れへん。なんで、希望が見えたとこやのにぃ……!
半泣きでじたばたしとったら、愛野くんが「どうした!?」と叫んだ。
「イキそうなのか?!」
「ち、ちが……! 腕、解きたいねんっ」
「うでぇ?」
ベッドから訝しそうにおれを見下ろした愛野くんが、目をまん丸にする。
「今井! それ、結束バンドだよ!」
「え? 何それ」
けっそくばんど? 何でそんな驚いとるんやろって思てたら、愛野くんは顔を輝かせた。
「それ、簡単に壊せるぜ! 俺、知ってる」
「えっ、マジで!?」
おれは瞠目する。何でそんな知っとるん?
「おう! 引っ張っちゃダメだ。思いっきり、腰に叩きつけろ!」
「え……こ、こう?」
言われる通り、腕を持ち上げて――腰に叩きつける。と、おけつに力が入って、人参をギュって締め付けてまう。中がじんじんして、腕に力が入らへん。
「ひうっ」
思わず動きを止めると、愛野くんが檄を飛ばす。
「もう一回!」
「ううっ!」
――バシン! バシン!
おけつのジンジンするかゆみに耐えながら、何度も手首を叩きつける。――すると、数回繰り返したとき、バチン! と音がして手首が軽くなった。
おれは、目を見開く。
「あ……!? 外れた!」
「よっしゃあ!」
久々に、自由になった手首を擦る。ちょっと赤くなっとるけど、全然問題なく動かせるで。
解毒剤を手に取ったら、安堵で涙が滲んだ。これを、おけつに――
「今井! 俺の手も解いてくれっ!」
「あ……わかった!」
愛野くんが、鎖をガチャガチャ言わしながら叫んだ。
そうや。愛野くんも縛られとったんや。おれは、慌ててパンツを引き上げて、ベッドに駆け寄る。
「あ……!」
ベッドに横たわる愛野くんの姿を見て、おれは息を飲む。
――ひどい……!
愛野くんは、両手首をベルトの手錠でベッドに繋がれて、両脚はカエルみたいに縛られとった。女の子のパンツの隙間から、ピンク色のバイブが突き立っとるのが見えて、慌てて目を逸らす。
「とりあえず、腕だけ頼む。後はなんとかすっから」
「うん……!」
鼻を啜りながら、手首のベルトを解きにかかる。震える指に、愛野くんが「しっかりしろ!」と喝を入れる。
「ご、ごめん……」
「バッカだなー、平気だっての。悪いのは榊原じゃん!」
「愛野くん」
「だいたい、レンのはこんな粗チンじゃねえから!」
がははと笑われて、胸が詰まった。
愛野くんて、すごい。こんな目に遭ってんのに、なんて気持ちが強いんや。……おれも頑張らないとあかん!
気合を入れて、ベルトを解いた。固くて難儀したけど、なんとか両手を自由にする。
「やった!」
「サンキュ、今井!」
愛野くんと笑い合ったとき、背後でガチャリと音がする。
――榊原が、戻ってきた!
カツ、カツ、と靴音を響かせて、榊原が近づいてくる。
「何をしてるんですか? 今井くん」
「あ……あ……」
能面のような顔がこっちを見て、全身が恐怖で総毛だつ。
ぶるぶると膝が震えた。怖い。こわい……!
「今井、怯むな! 戦うんだ!」
「!」
上体を起こした愛野くんが、怒鳴る。
その声に背を押され、おれは「わあああ!」と叫んで駆け出した。――床に落ちてたナスビと、でっかい籠を拾う。
「えい!」
ナスビを投げつける。――ひらりと身をかわされ、避けられてまう。おれを捕まえようと、急接近してきた榊原に肝を潰しながら、籠をめちゃめちゃに振り回す。
「わあああ!」
「……全く。鬱陶しい」
鋭い裏拳で籠を叩き落される。
「ああっ!」
一瞬で、手首を捻り上げられてまう。このまま捕まったら、どんな目に遭わされるか……! パニックになって、おれはジタバタ暴れた。
「大人しくしなさい!」
「嫌や~!」
と――必死に振り上げた右足が、ずん! と榊原の股座を思い切り蹴り飛ばした。
榊原は、「ぐっ」と低く呻いて、その場に倒れ込む。
「あ……うわ……」
思わず内またになりつつ、後じさる。同じ男として申し訳ないけど、助かった……。
――おれも、やれば出来るんや……!
ほっと胸を撫でおろした、そのとき。
「あああああ!」
愛野くんの絶叫が、部屋に響いた。
「威勢がいいですね。そんな君が、劒谷くんの前で私のチンポをねだると思うと昂りますよ」
「ざっけんな死ね! レン以外ごめん……ああんっ、変なもん入れるなー!」
おれは、どっどっと激しく打つ鼓動に口を結んで――ひとつ所を凝視した。
――解毒剤や!
床に落ちたエプロンのポケットから覗く、白い袋。あれは紛れもなく、愛野くんが持ってった解毒剤や。まさか、こんな形で相まみえるとは……!
おれは、希望に胸がふくらむのを感じた。
まだ、間に合う。この解毒剤さえおけつに入れれば、壊れんですむ……!
「んぐ……」
とにかく、隠さないと。
ずりずり、と前に這って、エプロンドレスを身体の下に押し込んだ。
窺い見ると、榊原は気づいてへんようや。――それどころか、部屋を出て行こうとする。
「あっ、おい! どこに行くんだよ」
「ふふ、最後の仕上げがあるのでね。すぐに戻りますよ」
パタン、と音を立てて扉が閉まる。
絶好のチャンスに、おれは涙があふれた。
今のうちや……! 手を伸ばそうとして――腕が縛られとるんを思い出した。
「ああっ……?!」
戒められた手首を解こうと、慌てて腕を捩る。――痛ったい! 細い紐が、動かせば動かす程、肌に食い込んでくる。
取れへん。なんで、希望が見えたとこやのにぃ……!
半泣きでじたばたしとったら、愛野くんが「どうした!?」と叫んだ。
「イキそうなのか?!」
「ち、ちが……! 腕、解きたいねんっ」
「うでぇ?」
ベッドから訝しそうにおれを見下ろした愛野くんが、目をまん丸にする。
「今井! それ、結束バンドだよ!」
「え? 何それ」
けっそくばんど? 何でそんな驚いとるんやろって思てたら、愛野くんは顔を輝かせた。
「それ、簡単に壊せるぜ! 俺、知ってる」
「えっ、マジで!?」
おれは瞠目する。何でそんな知っとるん?
「おう! 引っ張っちゃダメだ。思いっきり、腰に叩きつけろ!」
「え……こ、こう?」
言われる通り、腕を持ち上げて――腰に叩きつける。と、おけつに力が入って、人参をギュって締め付けてまう。中がじんじんして、腕に力が入らへん。
「ひうっ」
思わず動きを止めると、愛野くんが檄を飛ばす。
「もう一回!」
「ううっ!」
――バシン! バシン!
おけつのジンジンするかゆみに耐えながら、何度も手首を叩きつける。――すると、数回繰り返したとき、バチン! と音がして手首が軽くなった。
おれは、目を見開く。
「あ……!? 外れた!」
「よっしゃあ!」
久々に、自由になった手首を擦る。ちょっと赤くなっとるけど、全然問題なく動かせるで。
解毒剤を手に取ったら、安堵で涙が滲んだ。これを、おけつに――
「今井! 俺の手も解いてくれっ!」
「あ……わかった!」
愛野くんが、鎖をガチャガチャ言わしながら叫んだ。
そうや。愛野くんも縛られとったんや。おれは、慌ててパンツを引き上げて、ベッドに駆け寄る。
「あ……!」
ベッドに横たわる愛野くんの姿を見て、おれは息を飲む。
――ひどい……!
愛野くんは、両手首をベルトの手錠でベッドに繋がれて、両脚はカエルみたいに縛られとった。女の子のパンツの隙間から、ピンク色のバイブが突き立っとるのが見えて、慌てて目を逸らす。
「とりあえず、腕だけ頼む。後はなんとかすっから」
「うん……!」
鼻を啜りながら、手首のベルトを解きにかかる。震える指に、愛野くんが「しっかりしろ!」と喝を入れる。
「ご、ごめん……」
「バッカだなー、平気だっての。悪いのは榊原じゃん!」
「愛野くん」
「だいたい、レンのはこんな粗チンじゃねえから!」
がははと笑われて、胸が詰まった。
愛野くんて、すごい。こんな目に遭ってんのに、なんて気持ちが強いんや。……おれも頑張らないとあかん!
気合を入れて、ベルトを解いた。固くて難儀したけど、なんとか両手を自由にする。
「やった!」
「サンキュ、今井!」
愛野くんと笑い合ったとき、背後でガチャリと音がする。
――榊原が、戻ってきた!
カツ、カツ、と靴音を響かせて、榊原が近づいてくる。
「何をしてるんですか? 今井くん」
「あ……あ……」
能面のような顔がこっちを見て、全身が恐怖で総毛だつ。
ぶるぶると膝が震えた。怖い。こわい……!
「今井、怯むな! 戦うんだ!」
「!」
上体を起こした愛野くんが、怒鳴る。
その声に背を押され、おれは「わあああ!」と叫んで駆け出した。――床に落ちてたナスビと、でっかい籠を拾う。
「えい!」
ナスビを投げつける。――ひらりと身をかわされ、避けられてまう。おれを捕まえようと、急接近してきた榊原に肝を潰しながら、籠をめちゃめちゃに振り回す。
「わあああ!」
「……全く。鬱陶しい」
鋭い裏拳で籠を叩き落される。
「ああっ!」
一瞬で、手首を捻り上げられてまう。このまま捕まったら、どんな目に遭わされるか……! パニックになって、おれはジタバタ暴れた。
「大人しくしなさい!」
「嫌や~!」
と――必死に振り上げた右足が、ずん! と榊原の股座を思い切り蹴り飛ばした。
榊原は、「ぐっ」と低く呻いて、その場に倒れ込む。
「あ……うわ……」
思わず内またになりつつ、後じさる。同じ男として申し訳ないけど、助かった……。
――おれも、やれば出来るんや……!
ほっと胸を撫でおろした、そのとき。
「あああああ!」
愛野くんの絶叫が、部屋に響いた。
21
お気に入りに追加
171
あなたにおすすめの小説
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした
たっこ
BL
【加筆修正済】
7話完結の短編です。
中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。
二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。
「優、迎えに来たぞ」
でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。
とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~
無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。
自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
いとしの生徒会長さま
もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……!
しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる