エンドロール〜BLゲームの悪役モブに設定された俺の好きな子の話〜

高穂もか

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第一章 おけつの危機を回避したい

六十話

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 理科棟に飛び込むと、俺は廊下を猛ダッシュする。
 静かや。――先を行く竹っちのもんらしい、パタパタと階段を上る足音だけが、天井に跳ね返って聞こえてくる。さっきまでとえらい違いで、人が全然おらん。
 そういや、理科棟には危険な薬品があるさかい、展示にも店にも使ったらあかん言うてたっけな。
 
「人気のなさは、悪事にはうってつけやな――!」
 
 階段を二段飛ばしで駆け上がり――二階の踊り場に差し掛かったとき、足音の気配が変わる。弾むような足取りから、駆け足に。竹っちの「すみません」って言う声がして。
 すぐに……ガララ、と引き戸の開く音が聞こえた。
 
 ――どっかに入った!
 
 階段を上り切り廊下に飛びだして、ぎょっとする。ゴリラや。歯を剥き出した凶悪な面構えのゴリラが、壁に凭れかかるように座り込んどる。近づいて見ると、そいつは背中がぱっくり開いとった。
 
「着ぐるみ? 何でこんなとこに……いや。今はそれより、竹っちを探さんと!」
 
 竹っちは、この階におるはずや。俺はゴリラを意識から外し、手前の教室から取っ手を掴んで開けていく。……一つ目、鍵かかっとる。二つ目、同じく。三つ目の引き戸を引くと――開いた!
 
「……!?」
 
 中は、真っ暗や。どうも、暗幕が引かれとるらしい。俺は壁を手探りして電気をつける。パチリ、という音と共に部屋が一気に明るくなった。
 誰もおらん。
 部屋ん中は、化学室らしいデカい机が並んで、シンと静まり返っとる。
 
 ――おいおい。ここやないんか? そうなりゃ、前の部屋のドアぶち破ってくしか……
 
 キョロキョロと周囲の気配を窺いつつ、部屋の奥へ進む。すると、黒板の横に古びたパーテーションがある。
 
「そうや!」
 
 のけてみると予想通り、『準備室』と札のかかった扉があった。
 しかも……その中で、人の動く気配がある。ぐっとドアに耳をつけると、声も聞こえてきた。
 
「……」
「……いてもたってもいらんなくて。会ってもらえるなんて嬉しくて……」
 
 竹っちの声や。
 俺は、確信を持ってドアノブを握った。声の感じからして、悲惨なことにはなってないようで安心する。
 待ってろ竹っち、すぐ助けるぞ。
 いつでも攻撃できるように気合を張り詰めて、俺はノブを捻った――
 

 
 
□□

 
 
 
「やっと着いた、理科棟……!」
 
 あんまり人が多くて、だいぶ遅くなったけど――竹っちと晴海は無事やろうか。不安な考えが頭によぎって、ぶんぶんと首を振る。
 
「悪いこと考えんな。大丈夫なはずや……!」
 
 玄関のガラス扉を押し開けて、駆け出そうとして――ドンッて誰かとぶつかった。
 
「わあっ」
「うおっ。――今井くん?」
 
 見れば、真柴くんや。ドアのすぐ横のトイレから出てきたとこを、ぶつかってしもたみたい。
 
「偶然ですね! 僕、今から――」
「ご、ごめん! 急ぐからっ」
 
 おれはぺこぺこと頭を下げると、走り出す。「あれ?」と驚く声を背に走る。ごめんよ……!
 榊原をやっつけるまで、止まれへん。
 
 ――竹っち、晴海、今行くで!
 
 二階まで階段を駆け上り、廊下に飛び出した。しんと静まり返った無人の廊下をダッシュして、一番奥の部屋を目指す。
 
「はあ、はあ……ゴホッ、おぇ」
 
 おれはゼイゼイと荒い息を吐き、扉に手をついた。
 もう、ちょっと走ったくらいでどんくさいなあ……! ヒューヒューいう喉を宥めつつ、引き戸の取手に勢いよく手をかけた。
 カラカラ――と軋む音を立て、ドアがあく。
 覗き込んだ部屋の中は、明るい。授業の時と違って暗幕が引いてあって、真昼やのに電気がついとるみたいやった。
 うう。暗いのも怖いけど、明るいんも不気味や。
 
「いや、しっかりせえ! おれのせいで二人は危険な目にあっとんのやぞ!」
 
 緊張で震えそうになる足を叱咤して、中に一歩踏み込んだ。
 
「竹っち~……晴海~……」
 
 黒板を手で伝うようにして移動する。きょろきょろと見回せば、でっかい机があるだけで誰もおらん。
 おかしいな。
 呼び出しの場所、ここじゃなかったんやろうか……? ここの「準備室」に変な薬あったから、てっきりここやと――
 
「あっ!」
 
 そうか、準備室や。
 よく見れば、黒板の横にある真新しいパーテーションが避けられて、ドアが丸見えになっとるやん。――ちょうど、誰かが入ってったかのようや。
 おれは、ごくりと生唾を飲む。
 ドアに近づいて、そっと中の様子を窺ってみた。
 
「……?」
 
 何も聞こえへん。訝しく思って、ドアノブにそっと手をかけたとき――中から、カタンと何か物音が聞こえた。
 どきん、と心臓が跳ねる。ドコドコドコと激しく鼓動する胸を押さえ、唇を噛んだ。
 やっぱり、ここや!
 
「竹っち、晴海――!」
 
 おれは、勢いよくドアを開け放った。
 
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