55 / 112
第一章 おけつの危機を回避したい
五十五話
しおりを挟む
『何ですって!? 竹っちくんが化学教師と!?』
姉やんは、電話口で叫んだ。画面越しにもわかるほど、顔が青くなっとる。
負けず劣らず青ざめた顔で、晴海が問う。
「やっぱり、お姉さんの反応から見ても……これは、ゲームでは無かったことですよね?」
『ええ! 悪役モブの友達が化学教師に接触するなんて、ありえない。一体、何が起こってるのよ……?!』
今は、帰寮しておれらの部屋におる。竹っちは、上杉らが「鍋しようぜ」って、一緒にいてくれてるから、その間に姉やんに電話してるねん。
あの後、すぐに晴海に相談したんや。榊原と竹っちが抱き合ってたこと、竹っちから聞いてた”好きな人”の特徴と榊原が一致してること……そしたら、「兎も角すぐにお姉さんに言おう」ってことになって。
そんで、最近の竹っちの様子とか、色々全部話したんやけれど――
「姉やん、どうしよう。まさか竹っちが、榊原と仲良くなるなんて。あんなヤバい奴、竹っちに相応しくないよ……!」
竹っちは、真剣に恋してる。でも……榊原なんか、絶対あかんって!
『シゲル、気づかなかったの? 話し聞いてたんでしょ?』
「うっ……!」
ぐさ、と姉やんの言葉が胸に刺さる。確かに、ずっと話し聞いてたのに、なんで気づかへんかったんやろう。
すると晴海が、悔やむように言う。
「それやったら、俺もです。竹っちが、理科棟で誰かと会っとるん知ってたのに、わざと触れんようにしてました」
「ちゃうよ、晴海! おれの為やんか……!」
ぎょっとして、腕を掴む。晴海は、イベントが起こらへんようにって。おれを、榊原に近づけへんようにしてくれてたんやもん。
すると、姉やんが低く唸った。
『ごめん、ちょっと想定外で、動転しちゃって。恐らく、物語を歪ませたことによる、弊害だと思うけど……竹っちくんと化学教師を絡ませて、何がしたいの?』
姉やんは、頭をわしわしと掻きまわす。
「ちょっと待ってください。竹っちが、ゲームに巻き込まれたかもしれんってことですか?」
『可能性が高いわ。でも、その理由がわかんないの。くっ、また展開が読めなくなってきた……!』
「えっ、ちょっ。ゲームのこともやけど。竹っちの目を覚まさすのは、どうしたら」
会議が踊ってきたとき、ガチャリと戸が開いた。鈴木と竹っちが部屋に入ってくる。
「おーい、もうじき鍋煮えるぞって、上杉が」
「あっ、わあ! ありがとう」
「悪い、通話中だった? じゃ、来いよな」
二人は、そそくさと部屋を出ていった。……危なかった。聞かれてへんかったかな。
晴海と顔見合わせてたら、姉やんが目ん玉かっぴらいとる。
「どしたん、姉やん」
『あ……さ、さっきの茶髪の方、竹っちくん? 前と雰囲気違わない?』
「ああ、イメチェンしたんやで。好きな人が出来たから、お似合いになりたいって……」
しんみりと伝えると、姉やんは電流を食らったように震えた。
『そうか、わかったわ狙いが……! 竹っちくんは、「シゲル」なのよ!』
姉やんは叫んだ。
『そうよ、思い返せば、会計の時も、榊原の時も……竹っちくんは殆どのイベントに絡んでる。いつだって、運命の入れ替わりは可能だったのよ!』
晴海はぎょっとしてスマホを掴み上げる。
「どういうことですか!?」
『強制力のこと、覚えてる? 私は今まで、ゲームの強制力で、化学教師と無理に接触させられると思ってたのよ。でも、ゲームからすれば、会計ルートのイベントさえ起こせれば、なんでもよかったんだわ。だから、強制力で……竹っちくんを「シゲル」に仕立て上げたのよ』
「竹っちが……おれに?」
呆然と問い返す。まさか、そんなことがありえるん?
『竹っちくんは、シゲルのグループにいるでしょ。一緒になって愛野くんと反目し、会計や化学教師とも接触してる。「シゲル」の代理として、うってつけの人材だわ。……実は少しおかしいと思ってたの。最終のエロイベントに「シゲル」は装置として不可欠。なのに、ゲーム側からの動きが無さすぎるって。竹っちくんに標的が変わってたなら、説明がつく』
「しかし、そんな簡単にキャラクターの立ち位置が変わるもんなんですか?」
晴海が怪訝そうに首を捻る。
『キャラって言っても、モブだもの。さっきの竹っちくん、遠目に見てシゲルに似てなくもないし……スチルに出てくる「人参を突っ込まれた茶髪モブ」の絵面が守られるなら、アリなんじゃない?』
「そ、そんなずさんな……!」
おれは愕然とした。
そんなガバガバの設定で、おれはおけつを破壊される運命にあったんか? 人の尊厳を何と思ってるんや、と制作者に怒りが湧く。
ゲームからするとモブかもしれへんけど、おれにも竹っちにも、それぞれの人生があるんやから! このおけつがあかんから、あのおけつって、そんな簡単に考えんで欲しい。
悔しさを逃すように息を吐いて――ふと思い至り、叫んだ。
「姉やん! おれの代わりって言うたよな! じゃあ、竹っちが酷い目に遭わされるってこと?!」
『……シゲルの運命を肩代わりしたなら……そうなると思う』
「そんな……!」
竹っちが、おれのせいで――グラリ、と目の前の景色が揺らいだ。
と、力一杯肩を抱かれる。ハッとして顔をあげれば、晴海の怖いくらい真剣な横顔がある。
「お姉さん! 竹っちが助かる方法はないんですか」
力強い問いかけに、おれだけやなく姉やんも息を飲む。
そうや。
今は、まだショックを受けるところや無い。何ができるか、考えるんや! おれがフラグ回避したことで、巻き込んでしもた竹っち――おれが助けんで何とする!
肩に回された手を、ギュッと握りしめた。
「姉やん! おれ、竹っちを助けたい。どうしたらええ?!」
『シゲル……晴海くん。そうね、まだ終わったわけじゃないわ! とにかく、学祭が終わるまで、竹っちくんを一人にしないこと……竹っちくんが変態の手に落ちなきゃ、薬漬けにされようもないわ。それさえ防げば、イベントが起きることは不可能になるはず』
「わかった!」
おれと晴海は力強く頷く。
『でも、無茶しないで。物語を完遂するために、向こうも無茶してくるはずだから。くれぐれも、危険な目に遭わないように』
「うん、大丈夫。姉やん、ありがとう!」
激励に微笑んで、通話を切る。
晴海を振り返ると、二ッと頼もしい笑みを浮かべ――拳を差し出される。
「シゲル、大丈夫や。竹っちは必ず助かる」
「晴海……うん!」
おれも笑って、拳をぶつけた。
竹っち。必ず、助けるからな……!
姉やんは、電話口で叫んだ。画面越しにもわかるほど、顔が青くなっとる。
負けず劣らず青ざめた顔で、晴海が問う。
「やっぱり、お姉さんの反応から見ても……これは、ゲームでは無かったことですよね?」
『ええ! 悪役モブの友達が化学教師に接触するなんて、ありえない。一体、何が起こってるのよ……?!』
今は、帰寮しておれらの部屋におる。竹っちは、上杉らが「鍋しようぜ」って、一緒にいてくれてるから、その間に姉やんに電話してるねん。
あの後、すぐに晴海に相談したんや。榊原と竹っちが抱き合ってたこと、竹っちから聞いてた”好きな人”の特徴と榊原が一致してること……そしたら、「兎も角すぐにお姉さんに言おう」ってことになって。
そんで、最近の竹っちの様子とか、色々全部話したんやけれど――
「姉やん、どうしよう。まさか竹っちが、榊原と仲良くなるなんて。あんなヤバい奴、竹っちに相応しくないよ……!」
竹っちは、真剣に恋してる。でも……榊原なんか、絶対あかんって!
『シゲル、気づかなかったの? 話し聞いてたんでしょ?』
「うっ……!」
ぐさ、と姉やんの言葉が胸に刺さる。確かに、ずっと話し聞いてたのに、なんで気づかへんかったんやろう。
すると晴海が、悔やむように言う。
「それやったら、俺もです。竹っちが、理科棟で誰かと会っとるん知ってたのに、わざと触れんようにしてました」
「ちゃうよ、晴海! おれの為やんか……!」
ぎょっとして、腕を掴む。晴海は、イベントが起こらへんようにって。おれを、榊原に近づけへんようにしてくれてたんやもん。
すると、姉やんが低く唸った。
『ごめん、ちょっと想定外で、動転しちゃって。恐らく、物語を歪ませたことによる、弊害だと思うけど……竹っちくんと化学教師を絡ませて、何がしたいの?』
姉やんは、頭をわしわしと掻きまわす。
「ちょっと待ってください。竹っちが、ゲームに巻き込まれたかもしれんってことですか?」
『可能性が高いわ。でも、その理由がわかんないの。くっ、また展開が読めなくなってきた……!』
「えっ、ちょっ。ゲームのこともやけど。竹っちの目を覚まさすのは、どうしたら」
会議が踊ってきたとき、ガチャリと戸が開いた。鈴木と竹っちが部屋に入ってくる。
「おーい、もうじき鍋煮えるぞって、上杉が」
「あっ、わあ! ありがとう」
「悪い、通話中だった? じゃ、来いよな」
二人は、そそくさと部屋を出ていった。……危なかった。聞かれてへんかったかな。
晴海と顔見合わせてたら、姉やんが目ん玉かっぴらいとる。
「どしたん、姉やん」
『あ……さ、さっきの茶髪の方、竹っちくん? 前と雰囲気違わない?』
「ああ、イメチェンしたんやで。好きな人が出来たから、お似合いになりたいって……」
しんみりと伝えると、姉やんは電流を食らったように震えた。
『そうか、わかったわ狙いが……! 竹っちくんは、「シゲル」なのよ!』
姉やんは叫んだ。
『そうよ、思い返せば、会計の時も、榊原の時も……竹っちくんは殆どのイベントに絡んでる。いつだって、運命の入れ替わりは可能だったのよ!』
晴海はぎょっとしてスマホを掴み上げる。
「どういうことですか!?」
『強制力のこと、覚えてる? 私は今まで、ゲームの強制力で、化学教師と無理に接触させられると思ってたのよ。でも、ゲームからすれば、会計ルートのイベントさえ起こせれば、なんでもよかったんだわ。だから、強制力で……竹っちくんを「シゲル」に仕立て上げたのよ』
「竹っちが……おれに?」
呆然と問い返す。まさか、そんなことがありえるん?
『竹っちくんは、シゲルのグループにいるでしょ。一緒になって愛野くんと反目し、会計や化学教師とも接触してる。「シゲル」の代理として、うってつけの人材だわ。……実は少しおかしいと思ってたの。最終のエロイベントに「シゲル」は装置として不可欠。なのに、ゲーム側からの動きが無さすぎるって。竹っちくんに標的が変わってたなら、説明がつく』
「しかし、そんな簡単にキャラクターの立ち位置が変わるもんなんですか?」
晴海が怪訝そうに首を捻る。
『キャラって言っても、モブだもの。さっきの竹っちくん、遠目に見てシゲルに似てなくもないし……スチルに出てくる「人参を突っ込まれた茶髪モブ」の絵面が守られるなら、アリなんじゃない?』
「そ、そんなずさんな……!」
おれは愕然とした。
そんなガバガバの設定で、おれはおけつを破壊される運命にあったんか? 人の尊厳を何と思ってるんや、と制作者に怒りが湧く。
ゲームからするとモブかもしれへんけど、おれにも竹っちにも、それぞれの人生があるんやから! このおけつがあかんから、あのおけつって、そんな簡単に考えんで欲しい。
悔しさを逃すように息を吐いて――ふと思い至り、叫んだ。
「姉やん! おれの代わりって言うたよな! じゃあ、竹っちが酷い目に遭わされるってこと?!」
『……シゲルの運命を肩代わりしたなら……そうなると思う』
「そんな……!」
竹っちが、おれのせいで――グラリ、と目の前の景色が揺らいだ。
と、力一杯肩を抱かれる。ハッとして顔をあげれば、晴海の怖いくらい真剣な横顔がある。
「お姉さん! 竹っちが助かる方法はないんですか」
力強い問いかけに、おれだけやなく姉やんも息を飲む。
そうや。
今は、まだショックを受けるところや無い。何ができるか、考えるんや! おれがフラグ回避したことで、巻き込んでしもた竹っち――おれが助けんで何とする!
肩に回された手を、ギュッと握りしめた。
「姉やん! おれ、竹っちを助けたい。どうしたらええ?!」
『シゲル……晴海くん。そうね、まだ終わったわけじゃないわ! とにかく、学祭が終わるまで、竹っちくんを一人にしないこと……竹っちくんが変態の手に落ちなきゃ、薬漬けにされようもないわ。それさえ防げば、イベントが起きることは不可能になるはず』
「わかった!」
おれと晴海は力強く頷く。
『でも、無茶しないで。物語を完遂するために、向こうも無茶してくるはずだから。くれぐれも、危険な目に遭わないように』
「うん、大丈夫。姉やん、ありがとう!」
激励に微笑んで、通話を切る。
晴海を振り返ると、二ッと頼もしい笑みを浮かべ――拳を差し出される。
「シゲル、大丈夫や。竹っちは必ず助かる」
「晴海……うん!」
おれも笑って、拳をぶつけた。
竹っち。必ず、助けるからな……!
11
お気に入りに追加
170
あなたにおすすめの小説
男だけど女性Vtuberを演じていたら現実で、メス堕ちしてしまったお話
ボッチなお地蔵さん
BL
中村るいは、今勢いがあるVTuber事務所が2期生を募集しているというツイートを見てすぐに応募をする。無事、合格して気分が上がっている最中に送られてきた自分が使うアバターのイラストを見ると女性のアバターだった。自分は男なのに…
結局、その女性アバターでVTuberを始めるのだが、女性VTuberを演じていたら現実でも影響が出始めて…!?
エレベーターで一緒になった男の子がやけにモジモジしているので
こじらせた処女
BL
大学生になり、一人暮らしを始めた荒井は、今日も今日とて買い物を済ませて、下宿先のエレベーターを待っていた。そこに偶然居合わせた中学生になりたての男の子。やけにソワソワしていて、我慢しているというのは明白だった。
とてつもなく短いエレベーターの移動時間に繰り広げられる、激しいおしっこダンス。果たして彼は間に合うのだろうか…
王道学園なのに、王道じゃない!!
主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。
レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…
可愛い男の子が実はタチだった件について。
桜子あんこ
BL
イケメンで女にモテる男、裕也(ゆうや)と可愛くて男にモテる、凛(りん)が付き合い始め、裕也は自分が抱く側かと思っていた。
可愛いS攻め×快楽に弱い男前受け
幼なじみプレイ
夏目とろ
BL
「壱人、おまえ彼女いるじゃん」
【注意事項】
俺様×健気で幼なじみの浮気話とのリクエストをもとに書き上げた作品です。俺様キャラが浮気する話が苦手な方はご遠慮ください
【概要】
このお話は現在絶賛放置中のホームページで2010年から連載しているもの(その後、5年近く放置中)です。6話目の途中から放置していたので、そこから改めて連載していきたいと思います。そこまではサイトからの転載(コピペ)になりますので、ご注意を
更新情報は創作状況はツイッターでご確認ください。エブリスタ等の他の投稿サイトへも投稿しています
https://twitter.com/ToroNatsume
愛して、許して、一緒に堕ちて・オメガバース【完結】
華周夏
BL
Ωの身体を持ち、αの力も持っている『奏』生まれた時から研究所が彼の世界。ある『特殊な』能力を持つ。
そんな彼は何より賢く、美しかった。
財閥の御曹司とは名ばかりで、その特異な身体のため『ドクター』の庇護のもと、実験体のように扱われていた。
ある『仕事』のために寮つきの高校に編入する奏を待ち受けるものは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる