49 / 112
第一章 おけつの危機を回避したい
四十九話
しおりを挟む
そういえば、朝に届くよって姉やん言ってたっけ!
晴海、朝から寮監さんとこ行ってきてくれたんやなあ。
「ありがとーな、晴海」
「ええて。早速、開けてみるか?」
「うんっ」
晴海が小包の封を切ると、中にはもう一回り小さい箱が入っとった。開けてみると、細長い袋に入った筒状のもんが、十個くらい入っとる。
一つ持ってみた感じ、軽い。お高いポッキーか、シャーペンみたいな持ち心地や。
試しに一袋開けてみたら、中から白い棒状の筒が出てきた。――わりと長さがある。中指くらいの太さで、表面はつるつるなめらか。注射器みたいなピストンがついとるけど、先っちょに針はなくて、むしろまん丸い。
おれらは薬を眺めて、首を傾げる。
「……なんか、思ってたんとちゃうな。解毒薬って言うと、錠剤とか水薬とかやと」
「おう、俺も。たぶんやけど……このキャップとってピストン押したら、中から薬出てくるんちゃうか?」
「ほうほう。普通に飲んだらええんかな?」
「待て。注射の形やし。インフルエンザの薬みたいに鼻からいくんちゃうか」
「いやぁ、裂けちゃうて!」
ひとしきり、ああでもないこうでもないと言い合ってから、姉やんに電話することにした。超・夜型の姉やんが出てくれるか微妙やったけど、ワンコールで出てくれた。今まで、スプラトゥーンして起きてたんやって。
『あ、薬届いた? よかったわー!』
寝てへんせいか、姉やんは些かハイやった。
「うん、ありがとう。ほんで、悪いんやけどさ。これどういう使い方するもんなん? 鼻の穴から突っ込むん?」
『馬鹿ねぇ! んなわけないでしょうが』
恐る恐る聞いたら、軽く笑い飛ばされてホッとした。
「そうやんなっ。じゃあ、どうやって」
『それは、肛門にブスッと突っ込んで使うの』
「――肛門っ!?」
俺と晴海は、ぎょっとして叫んだ。姉やんは嬉しそうに説明を続ける。
『解毒剤つったでしょ? つまりそれ、ケツ穴に盛られた媚薬を中和する薬なのよね。だから、その筒の中に入ってる解毒ジェルを、直腸に注入する必要があるわけ。使い方は簡単、先端のキャップを外して、肛門にゆっくり挿入したらピストンを押し込むだけ――』
「ちょっ……この棒をおけつに入れんの?! 痛いんちゃうん?」
『何よ、そんくらい。人参とかチンポより、全然細いでしょうが』
「チ……!?」
あけすけな言葉に絶句しとったら、姉やんが画面に向かって指を突きつけてくる。
『言っとくけど、あの媚薬ローションは普通なら、精液でしか中和されないんだからね。精液をいれるまで疼き続けて、最終的には脳ミソがイカれちゃうんだから! わかる? 使われたが最後、チンポを突っ込まれるしか助かる道がないのよ?! それをこの天才な姉がいるおかげで、処女を失わずに済むんだから。もっと感謝しなさいよね』
「ひ……ひええ」
余りの恐ろしさに、青ざめる。榊原の奴、なんてもんを作り出しとるんや。悪魔や!
些か顔色を悪くした晴海が、スマホに向かって頭を深く下げる。
「お姉さん、本当にありがとうございます。このご恩は忘れません!」
「は、晴海……姉やん、おれのためにありがとうな。大好きやで」
真摯なお礼に、おれもハッとする。並んで、深々と頭を下げた。すると、姉やんは「ふへっ」と不思議な息を吐いた後、照れ臭そうに笑った。
『ま、まあ。晴海くんには、こちらこそありがとうだし? シゲル、あんたはね、詳しい使い方を箱の中に取説をいれたから。ちゃんと読んでおくこと』
「わかった!」
敬礼すると、姉やんは「もう寝るから」と言って、通話を切ってしもた。照れ屋さんやねんかなあ。また帰るとき、おいしいミカン持ってくから、楽しみにしとってな。
へらへらしながらスマホを抱いとったら、晴海が取り扱い説明書を読んでた。
「シゲル。これ、常温で保管しといてええみたいやで。保険として、お互いに一個ずつ持ち歩いとこか」
「あっ、そうやね。晴海も持っててくれるん?」
「お前が手ぶらのときも、あるかもやん。まあ、何もないのが一番なんやけどな。「備えあれば患いなし」言うし、一応持っといて損はないやろ。……とりあえず二本、持ち歩く分と。あとは、被服室にも隠しとくか」
「うん、そうする!」
一本受けとって、おれは鞄に入れることにした。ポケットにぎりぎり入らんこともないけど、何かの拍子に折れたりしたらあかんからね。
着々と、おけつ破壊の回避のために、準備ができてる気がして嬉しい。
「晴海、ありがとうな」
「何やねん、改まって。ええて」
ニッと笑った晴海に、肩を抱かれる。ふわっとほっぺが熱くなって、おれははにかんだ。
知らず俯くと、スマホのランプが点灯しとるんに気づいた。
「……あれ? スマホにメッセージ来とる。竹っちからや!」
おれは、自分のことで手いっぱいやったから。
大事なことを見過ごしてることに、気づかへんかった。
ほんまに、ちっとも。
晴海、朝から寮監さんとこ行ってきてくれたんやなあ。
「ありがとーな、晴海」
「ええて。早速、開けてみるか?」
「うんっ」
晴海が小包の封を切ると、中にはもう一回り小さい箱が入っとった。開けてみると、細長い袋に入った筒状のもんが、十個くらい入っとる。
一つ持ってみた感じ、軽い。お高いポッキーか、シャーペンみたいな持ち心地や。
試しに一袋開けてみたら、中から白い棒状の筒が出てきた。――わりと長さがある。中指くらいの太さで、表面はつるつるなめらか。注射器みたいなピストンがついとるけど、先っちょに針はなくて、むしろまん丸い。
おれらは薬を眺めて、首を傾げる。
「……なんか、思ってたんとちゃうな。解毒薬って言うと、錠剤とか水薬とかやと」
「おう、俺も。たぶんやけど……このキャップとってピストン押したら、中から薬出てくるんちゃうか?」
「ほうほう。普通に飲んだらええんかな?」
「待て。注射の形やし。インフルエンザの薬みたいに鼻からいくんちゃうか」
「いやぁ、裂けちゃうて!」
ひとしきり、ああでもないこうでもないと言い合ってから、姉やんに電話することにした。超・夜型の姉やんが出てくれるか微妙やったけど、ワンコールで出てくれた。今まで、スプラトゥーンして起きてたんやって。
『あ、薬届いた? よかったわー!』
寝てへんせいか、姉やんは些かハイやった。
「うん、ありがとう。ほんで、悪いんやけどさ。これどういう使い方するもんなん? 鼻の穴から突っ込むん?」
『馬鹿ねぇ! んなわけないでしょうが』
恐る恐る聞いたら、軽く笑い飛ばされてホッとした。
「そうやんなっ。じゃあ、どうやって」
『それは、肛門にブスッと突っ込んで使うの』
「――肛門っ!?」
俺と晴海は、ぎょっとして叫んだ。姉やんは嬉しそうに説明を続ける。
『解毒剤つったでしょ? つまりそれ、ケツ穴に盛られた媚薬を中和する薬なのよね。だから、その筒の中に入ってる解毒ジェルを、直腸に注入する必要があるわけ。使い方は簡単、先端のキャップを外して、肛門にゆっくり挿入したらピストンを押し込むだけ――』
「ちょっ……この棒をおけつに入れんの?! 痛いんちゃうん?」
『何よ、そんくらい。人参とかチンポより、全然細いでしょうが』
「チ……!?」
あけすけな言葉に絶句しとったら、姉やんが画面に向かって指を突きつけてくる。
『言っとくけど、あの媚薬ローションは普通なら、精液でしか中和されないんだからね。精液をいれるまで疼き続けて、最終的には脳ミソがイカれちゃうんだから! わかる? 使われたが最後、チンポを突っ込まれるしか助かる道がないのよ?! それをこの天才な姉がいるおかげで、処女を失わずに済むんだから。もっと感謝しなさいよね』
「ひ……ひええ」
余りの恐ろしさに、青ざめる。榊原の奴、なんてもんを作り出しとるんや。悪魔や!
些か顔色を悪くした晴海が、スマホに向かって頭を深く下げる。
「お姉さん、本当にありがとうございます。このご恩は忘れません!」
「は、晴海……姉やん、おれのためにありがとうな。大好きやで」
真摯なお礼に、おれもハッとする。並んで、深々と頭を下げた。すると、姉やんは「ふへっ」と不思議な息を吐いた後、照れ臭そうに笑った。
『ま、まあ。晴海くんには、こちらこそありがとうだし? シゲル、あんたはね、詳しい使い方を箱の中に取説をいれたから。ちゃんと読んでおくこと』
「わかった!」
敬礼すると、姉やんは「もう寝るから」と言って、通話を切ってしもた。照れ屋さんやねんかなあ。また帰るとき、おいしいミカン持ってくから、楽しみにしとってな。
へらへらしながらスマホを抱いとったら、晴海が取り扱い説明書を読んでた。
「シゲル。これ、常温で保管しといてええみたいやで。保険として、お互いに一個ずつ持ち歩いとこか」
「あっ、そうやね。晴海も持っててくれるん?」
「お前が手ぶらのときも、あるかもやん。まあ、何もないのが一番なんやけどな。「備えあれば患いなし」言うし、一応持っといて損はないやろ。……とりあえず二本、持ち歩く分と。あとは、被服室にも隠しとくか」
「うん、そうする!」
一本受けとって、おれは鞄に入れることにした。ポケットにぎりぎり入らんこともないけど、何かの拍子に折れたりしたらあかんからね。
着々と、おけつ破壊の回避のために、準備ができてる気がして嬉しい。
「晴海、ありがとうな」
「何やねん、改まって。ええて」
ニッと笑った晴海に、肩を抱かれる。ふわっとほっぺが熱くなって、おれははにかんだ。
知らず俯くと、スマホのランプが点灯しとるんに気づいた。
「……あれ? スマホにメッセージ来とる。竹っちからや!」
おれは、自分のことで手いっぱいやったから。
大事なことを見過ごしてることに、気づかへんかった。
ほんまに、ちっとも。
11
お気に入りに追加
170
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件
水野七緒
BL
ワケあってクラスメイトの女子と交際中の青野 行春(あおの ゆきはる)。そんな彼が、ある日あわや貞操の危機に。彼を襲ったのは星井夏樹(ほしい なつき)──まさかの、交際中のカノジョの「お兄さん」。だが、どうも様子がおかしくて──
※「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」の続編(サイドストーリー)です。
※前作を読まなくてもわかるように執筆するつもりですが、前作も読んでいただけると有り難いです。
※エンドは1種類の予定ですが、2種類になるかもしれません。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
私の事を調べないで!
さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と
桜華の白龍としての姿をもつ
咲夜 バレないように過ごすが
転校生が来てから騒がしくなり
みんなが私の事を調べだして…
表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓
https://picrew.me/image_maker/625951
聖也と千尋の深い事情
フロイライン
BL
中学二年の奥田聖也と一条千尋はクラス替えで同じ組になる。
取り柄もなく凡庸な聖也と、イケメンで勉強もスポーツも出来て女子にモテモテの千尋という、まさに対照的な二人だったが、何故か気が合い、あっという間に仲良しになるが…
とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~
無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。
自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる