エンドロール〜BLゲームの悪役モブに設定された俺の好きな子の話〜

高穂もか

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第一章 おけつの危機を回避したい

四十八話 

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 ――ちゅん、ちゅん。
 
 雀のさえずりで目が覚めた。絶対寝られへんと思ってたけど、いつの間にか寝てたらしい。
 布団の中で、ごろんと寝返りをうつ。対面のベッドが空っぽなんに気付いて、おれは目をまん丸にした。
 
「あれ、晴海?」
 
 がば、と身を起こして、きょろきょろと部屋を見渡した。
 晴海がおらん!
 ふと、テーブルを見れば「ちょっと出てくるわ」との書き置きがある。
 
「出かけとるん……?」
 
 スマホで時間を確認したら、なんと八時半。ねぼすけの晴海がめずらしい。
 なんでやろ?
 
「……」
 
 脳裏によぎるんは、昨夜のことや。
 おれ、晴海に胸触られて、変な声出してしもたやん。その後、晴海はトイレにこもって、なかなか出てこおへんかった。
 湯冷めしてお腹壊したんかなあって、思ってたんやけど――
 
「なんか気まずいなあとか、思ったんかも……」
 
 声に出してみると、それしかない気がして、尚更落ち込む。
 よくよく考えてみれば――最近のおれはおかしい。
 晴海に、キスせえって迫ったり、優姫くんにやきもち妬いたりしてさ。
 挙げ句の果には、友達のスキンシップで感じてまう始末……!
 
「あうう」
 
 顔面から火を噴くとはこのことや!
 おれは、なんて恥ずかしい真似をしとるんやろう。
 晴海の彼女のフリをしてるうちに、ほんまに女の子になったつもりなんやろうか。
 
「……晴海は、おれのために一肌脱いで彼氏してくれてるんやから。これ以上、甘えたらあかんっ」
 
 いくら優しい晴海でも、呆れられてまう。
 両腕で我が身を抱えてみれば、骨っぽい男の体しとる。――そう。おれは、男の子や。
 自分が男の子やって思い出すんや、今井シゲル!
 
「よっしゃ……オナニーしよ!」
 
 ちんちん触って、己の”雄”を取り戻すで。 
 おあつらえ向きに、晴海も出かけてることやしな。
 
「そうと決まれば!」
 
 おれは、スエットの下とパンツをぽーんと脱ぎ捨てると、ベッドの下のおかずを漁った。
 やっぱ、定番の隠し場所よね。男同士、暗黙の了解をわかっとるから男子校はええ。実家で、姉やんとお母ちゃんに隠してたエロ本全部探し出されたん、地味にトラウマになっとるからな……
 独り言ちつつ、奥の方にあるエロ本に手を伸ばす。届かへん。前にしたときに、押し込んでしもたんやろか。
 差し込んだ腕を目いっぱい伸ばして、はっしと本を掴む。
 
「やった!」
 
 そのとき、ガチャリと音を立ててドアが開く。
 
「ただい、ま……?」
「へっ」
 
 小包を抱えた晴海が、共有スペースのドアんとこで、立ち尽くしとる。
 自分の生足の間から、驚き顔の晴海と目が合って――おれは、ハッとした。 
 
――しもたぁ! おれ、おけつ丸出しや……!
 
 恥ずかしさで、全身が一瞬にして燃え上がる。
 
「ふぎゃぁ~!!」
「す、すすすまん!」
 
 負けず劣らず、顔を真っ赤にした晴海が慌てて廊下に消えた。
 おれのアホアホー! なんで「すぐ帰ってくる」いう可能性を除外しとったんやー!
 身悶えしても、後の祭り。
 床に倒れ込んで、自分の間抜けさを呪うほかなかった。
 


 
 
 パンツとズボンを履いて、ドアに張り付くみたいにしゃがんどった晴海を部屋に呼び戻した。
 
「……」
「……」
 
 膝を突き合わしとるおれらの間に、きまずい沈黙が落ちる。
 そらそうやんな。
 出かけて帰ってきたら、友達がとんでもないところを見せつけてきたんやもん……。おれの方も「わあん」て叫んで、ふて寝したい気持ちやけど、見せられる苦痛ってもんが無かったら、この世に露出狂なんておらんはずやし。
 やから、人として最低限の礼儀! ――そう思って、がばりと頭を下げた。
 
「ごめんな、晴海!」
「えっ!?」
 
 晴海はぎょっと顔を上げた。
 
「あの、久々にシコろうと思って、おかず探してただけやねんっ。晴海に見苦しいもん見せつけようと、思っとったわけやなくて! とにかく、ごめん!」
「いやいや! 俺の方こそ取り込み中にすまんかった……それに、見苦しいやなんて、綺麗なピンクやったし」
「へっ?」
 
 後半早口すぎて聞き取れんくて、もっけとしとったら、晴海は「ゴホゴホ」と激しくせき込んだ。
 
「とにかく。共同生活やからな、こんなこともある。今後はノックを徹底しようや……」

 爽やかに晴海は笑う。おれは、優しさに目が潤む。

「晴海ぃ……ありがとう。おれもシコるとき、言うからな」
「ゴホッゲホッ」
「晴海!?」

 
 真っ赤な晴海にびびりつつ、背中をよしよしし続けて――ようやく、晴海の噎せ込みが治まった頃。
 おれは、はたと晴海の膝にある小包が気になった。

「晴海、その箱は?」
「おう、これか? お姉さんからの荷物や」
「姉やんの!?」

 目がまん丸になる。
 それって、つまり――解毒剤やんか!

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