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第一章 おけつの危機を回避したい
四十七話
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その日の夜――
晴海が風呂行った隙を見計らい、おれは竹っちに電話した。
「んもー、竹っちのおかげで恥ずかしかったで~」
『いやいや、後半はお前のドジだからなっ?』
あの後、さんざん皆に笑われたんやから。おれはわかるけど、何故か晴海がめっちゃからかわれててさ。「カンリ」て何のことやろね? 竹っちに聞いても「晴海に聞け」の一点張りでようわからん。
『まー悪かったって! 良いこと教えてやっから許せっ。――俺も、先輩から聞いたんだけどさ、学祭のジンクスって知ってっか?』
「うん、知らんよ。なにそれ?」
問い返すと、竹っちは「えへん」と咳払いした。
『学祭の夜に、すげぇ花火が上がるだろ? 好きな人と二人っきりで見たら、一生幸せになるんだってよ!』
「えーっ、素敵やん!」
思わず、その場で跳びあがる。ジンクスって、おれ大好きや。そういうのあると、皆がもっと盛り上がってさ。お祭りが、もっとワクワクドキドキになるんやもん。
竹っちも、受話器ごしにもテンションが上がっとった。
『なっ、いいだろ? お前、有村と一緒に見てくれば。あいつらには上手いこと言っとくからさ!』
「でえ!? は、晴海とおれが?」
『いいだろ、付き合ってんだから』
かああっとほっぺが熱くなる。
そんな、無理無理! ホンマに付き合ってるならともかく、おれと晴海は違うもん。
おれは慌てて、竹っちに話を振った。
「た、竹っちは? S・Yさん誘って行かへんの?」
『ばばば馬鹿、早いよ! そんなんしたら、あからさまに告白じゃねえか!』
キーンてなる耳を押さえて、「あ、そっか」て頷いた。そういうジンクスがあるって知ってて誘ったら、それでもう告白になってしまうんか。それは確かに、めっちゃ勇気いるな。
「ごめんよ、軽率に」
『い、いや。ただな……なんか、もうちょっと大事にいきたい気がすんだ。すまん』
「ううん! いい恋なんやなあ、竹っち……」
『やーめろ! 恥ずかしいからっ』
うふふと笑うと、竹っちはやいやいと喚く。でも、めっちゃ照れてんのがわかるから、全然怖くないで。
「ところで竹っち、今日ごはん行くんやろ? 時間は大丈夫やった?」
もう、夕飯どきにはちょっと遅いけど、長電話しててええんやろか。
『おう! 今から行くとこ。S・Yから「ちょっと遅くなる」って連絡が来ててさー。待ってたから、丁度良かったぜ』
「そっかあ。楽しんできてなっ」
『サンキュ!』
竹っちは、明るい声で通話を切った。
おれはスマホを胸にあてて、念を送る。竹っち、頑張るんやで――
ギュッ!
「ひゃあ!?」
突然、背後から抱きすくめられて悲鳴を上げる。びっくりして振り返ると――真っ黒な目と間近にかち合った。
「シゲル。なに喋ってたん?」
「は、晴海っ? いつからそこに?」
まだ乾かし切らへん髪が、ほっぺをくすぐる。石鹸の匂いを孕んだ体温にどぎまぎして、おれはしきりに体を揺すった。ほしたら、がっちりした両腕が、おれの胴体をギューって締め上げてくる。
「さっきやけど。……お前、最近ようスマホいらっとるよな? 何か隠しとるんけ?」
「えっ!? な、なな何もないけど……!」
「ほぉー? なんや怪しいなあ」
ギクッとすると、晴海が探るような目で見てくる。
うっ……バレる。バレたらあかん。視線をはぐらかすと、晴海がにやっとする。
「吐かへんのやったら、こうやぞ!」
「ぎゃー!?」
身体の前で交差した手が、わきわきと動き出した!
脇腹をこちょこちょとくすぐられて、「ひえええ!」と叫ぶ。
「やぁーめてーっ! おれ、くすぐったいの、無理やからー!」
「ほら、吐け! なに隠してるんや~?」
「いやぁ、あかんねんて~っ。ひぃぃあははは!」
晴海の固い指先が、お腹の上をイソギンチャクみたいに動いて、死ぬほどこちょばい。おれは、体をうなぎみたいに捩って、なんとか逃れようとする。――あかん! ぎゅうってされてるせいで、逃げることはおろか、座り込むことも出来ひん!
息も絶え絶えのおれを、晴海は爆笑しながら追い込んでくる。
「ゆるして、助けてえ~」
「ほな言うか?」
もう言いたい。――いや、竹っちの秘密や!
笑いすぎて泣いても言わへんぞ……! 指から逃れようと、思いっきり身を屈めた。――そのとき。
すりっ……と晴海の指が胸を滑ってった。
「ゃんっ」
「――!?」
ぴたり、と晴海が動きを止める。
おれは、自分の口から出た声に一瞬ポカンとして――ボン! と全身が燃え上がる。
なにさっきの高い声、めっちゃ恥ずかしい……!
体中の穴と言う穴から汗が噴き出る思いで、おれはおろおろと弁解する。
「あ、あはは。変な声出てしもた……」
「……」
無言の晴海に、怖くなる。
きもいと思ったんやろか。こわごわ振り返ろうとして――ぎゅうって息も出来ひんくらい抱きしめられる。
「あうっ……!」
「すまん」
絞り出したような声で謝られて、きょとんとする。振り返ろうとすると、やっぱり押しとどめられる。
「はるみ?」
「ちょ……腹痛いから、便所行ってくるわ」
「わ、わかった」
早口で言うと、晴海は前かがみになって便所に駆け込んでった。バタン! と戸が閉まったんを確認して、おれはへなへなと座り込む。
両手で胸を押さえて、「うう」と呻いた。
「おれ、欲求不満なんやろか……?」
乳首んとこ、晴海の指が掠めていったとき、びりってした。変な声出るし、足の間も……ちょっとむずむずするし。
――こりゃあかん。近いうちにオナニーしよ……。
おれは真っ赤な顔のまま、しょんぼりと決意した。
晴海が風呂行った隙を見計らい、おれは竹っちに電話した。
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『いやいや、後半はお前のドジだからなっ?』
あの後、さんざん皆に笑われたんやから。おれはわかるけど、何故か晴海がめっちゃからかわれててさ。「カンリ」て何のことやろね? 竹っちに聞いても「晴海に聞け」の一点張りでようわからん。
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「うん、知らんよ。なにそれ?」
問い返すと、竹っちは「えへん」と咳払いした。
『学祭の夜に、すげぇ花火が上がるだろ? 好きな人と二人っきりで見たら、一生幸せになるんだってよ!』
「えーっ、素敵やん!」
思わず、その場で跳びあがる。ジンクスって、おれ大好きや。そういうのあると、皆がもっと盛り上がってさ。お祭りが、もっとワクワクドキドキになるんやもん。
竹っちも、受話器ごしにもテンションが上がっとった。
『なっ、いいだろ? お前、有村と一緒に見てくれば。あいつらには上手いこと言っとくからさ!』
「でえ!? は、晴海とおれが?」
『いいだろ、付き合ってんだから』
かああっとほっぺが熱くなる。
そんな、無理無理! ホンマに付き合ってるならともかく、おれと晴海は違うもん。
おれは慌てて、竹っちに話を振った。
「た、竹っちは? S・Yさん誘って行かへんの?」
『ばばば馬鹿、早いよ! そんなんしたら、あからさまに告白じゃねえか!』
キーンてなる耳を押さえて、「あ、そっか」て頷いた。そういうジンクスがあるって知ってて誘ったら、それでもう告白になってしまうんか。それは確かに、めっちゃ勇気いるな。
「ごめんよ、軽率に」
『い、いや。ただな……なんか、もうちょっと大事にいきたい気がすんだ。すまん』
「ううん! いい恋なんやなあ、竹っち……」
『やーめろ! 恥ずかしいからっ』
うふふと笑うと、竹っちはやいやいと喚く。でも、めっちゃ照れてんのがわかるから、全然怖くないで。
「ところで竹っち、今日ごはん行くんやろ? 時間は大丈夫やった?」
もう、夕飯どきにはちょっと遅いけど、長電話しててええんやろか。
『おう! 今から行くとこ。S・Yから「ちょっと遅くなる」って連絡が来ててさー。待ってたから、丁度良かったぜ』
「そっかあ。楽しんできてなっ」
『サンキュ!』
竹っちは、明るい声で通話を切った。
おれはスマホを胸にあてて、念を送る。竹っち、頑張るんやで――
ギュッ!
「ひゃあ!?」
突然、背後から抱きすくめられて悲鳴を上げる。びっくりして振り返ると――真っ黒な目と間近にかち合った。
「シゲル。なに喋ってたん?」
「は、晴海っ? いつからそこに?」
まだ乾かし切らへん髪が、ほっぺをくすぐる。石鹸の匂いを孕んだ体温にどぎまぎして、おれはしきりに体を揺すった。ほしたら、がっちりした両腕が、おれの胴体をギューって締め上げてくる。
「さっきやけど。……お前、最近ようスマホいらっとるよな? 何か隠しとるんけ?」
「えっ!? な、なな何もないけど……!」
「ほぉー? なんや怪しいなあ」
ギクッとすると、晴海が探るような目で見てくる。
うっ……バレる。バレたらあかん。視線をはぐらかすと、晴海がにやっとする。
「吐かへんのやったら、こうやぞ!」
「ぎゃー!?」
身体の前で交差した手が、わきわきと動き出した!
脇腹をこちょこちょとくすぐられて、「ひえええ!」と叫ぶ。
「やぁーめてーっ! おれ、くすぐったいの、無理やからー!」
「ほら、吐け! なに隠してるんや~?」
「いやぁ、あかんねんて~っ。ひぃぃあははは!」
晴海の固い指先が、お腹の上をイソギンチャクみたいに動いて、死ぬほどこちょばい。おれは、体をうなぎみたいに捩って、なんとか逃れようとする。――あかん! ぎゅうってされてるせいで、逃げることはおろか、座り込むことも出来ひん!
息も絶え絶えのおれを、晴海は爆笑しながら追い込んでくる。
「ゆるして、助けてえ~」
「ほな言うか?」
もう言いたい。――いや、竹っちの秘密や!
笑いすぎて泣いても言わへんぞ……! 指から逃れようと、思いっきり身を屈めた。――そのとき。
すりっ……と晴海の指が胸を滑ってった。
「ゃんっ」
「――!?」
ぴたり、と晴海が動きを止める。
おれは、自分の口から出た声に一瞬ポカンとして――ボン! と全身が燃え上がる。
なにさっきの高い声、めっちゃ恥ずかしい……!
体中の穴と言う穴から汗が噴き出る思いで、おれはおろおろと弁解する。
「あ、あはは。変な声出てしもた……」
「……」
無言の晴海に、怖くなる。
きもいと思ったんやろか。こわごわ振り返ろうとして――ぎゅうって息も出来ひんくらい抱きしめられる。
「あうっ……!」
「すまん」
絞り出したような声で謝られて、きょとんとする。振り返ろうとすると、やっぱり押しとどめられる。
「はるみ?」
「ちょ……腹痛いから、便所行ってくるわ」
「わ、わかった」
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両手で胸を押さえて、「うう」と呻いた。
「おれ、欲求不満なんやろか……?」
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