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第一章 おけつの危機を回避したい

四十五話

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「お姉さん、嬉しそうやったなー」
「そうやねえ。姉やん、たまに意地悪やけど、心配性の人やから」
 
 繋いだ手を振りながら、おれは頷いた。
 なんやかんや、ずうっと心配かけとるからなあ。無事に学祭終わったら、また会いに行かなね。
 密かに決意しとったら、晴海が笑う。
 
「心配性になるんは、わかるで。こんだけ可愛い弟がおったら……」
「はあ!? もー、言うたらあかんて言うたのにっ」
「はっはっは」
 
 ふくれっ面で肩をぶつけても、晴海はニコニコしとる。
 
「晴海、ごきげん?」
「そらお前。光明が見えてきて嬉しいんや。シゲル、ほんまによう頑張ったなあ」
「晴海……!」
 
 穏やかに言われて、胸がじーんと熱くなる。
 それを言うなら、ここまで来れたんは晴海のおかげ。こんな風に、恋人のフリまでして守ってくれて、感謝ばっかりや。
 ずっと心配と面倒かけてたけど。学祭が終わったら、やっと元の生活に戻れるから……
 
 ――ズキッ。
 
「……あれ?」
「どうした、シゲル?」
「う、ううん。何も」
 
 なんか、胸が痛なった。どうしたんやろ……?
 奇妙に思いつつ校庭に出たところ、賑やかな声が聞こえてきた。
 
「隊長~! これ、ほんとに僕らで持ってくんですかあ? やめましょうよぉ、あんなとこ置いても薬臭くなるだけですよ!」
「そうは言っても、僕らの部屋以外ないじゃない。倉庫に置いちゃダメって決まりだし」
「でも三階まで持ってくなんて、腕が折れちゃいますっ」
 
 優姫くんと真柴くんが、言いあっとった。二人の間には、バットとかボールとか、野球用具の入った籠がいくつも置かれとる。
 
「何か揉めとるね」
「どしたんやろな?」
 
 近づいてくと、気づいた優姫くんが手を上げた。
 
「優姫くんと真柴くん、こんにちはぁ。どうしたん?」
「こんにちは。僕ら、野球同好会することになったでしょ? それで、用具を集めてきたところなの」
「ははあ。なかなかすごい量ですね」
 
 目を瞠る晴海に、真柴くんが両拳を振り上げた。
 
「そうなんですよっ。それなのに、隊長ってば二人で部室まで運ぼうって言うんですー! ゴリラ達呼べば早いのに」
「ごりら?」
 
 首を傾げると、優姫くんが頭痛を堪えるような顔をした。
 
「真柴。何でもかんでも、セフレに頼るのやめなってば」
「だって、楽なんですもん。友達と違って、こき使っても寝たらチャラですし」
 
 真柴くんは、むうってほっぺを膨らました。めっちゃ可愛いぶん、言うてることのギャップで脳みそバグりますわ。
 でも実際、ふたりで運ぶのは大変やろうなあ。
 あとちょっとで予鈴なりそうやけど、男としてほっとけませんで。――ちら、と晴海を振り返ると、二ッと笑って親指を立ててくる。
 
「いっちょ男見せるか」
「うん!」
 
 おれ、晴海のこういうとこ好きや。
 
 
 
 
「ありがとうね、二人とも。手伝ってもらっちゃって……」
「いえいえ。困ったときはお互い様ですわ」
 
 申し訳なさそうに言う優姫くんに、晴海が鷹揚に首を振った。おれも「そうやで!」と声を上げる。
 だって、四人で運んだら、はやく終わるもんな。
 優姫くんの隣を歩く真柴くんが、笑顔で振り返った。
 
「このご恩は忘れません。お二人も、同好会に遊びに来てくださいね!」
「ありがとー。おれめっちゃ下手くそやけど、大丈夫かな?」
「お前、三振王言われとるもんな」
「黙り!」
 
 晴海は、運動なんでもできるから羨ましい。肩をぶつけあっとったら、優姫くんと真柴くんが華やかな笑い声を立てる。
 
「今井くん、大丈夫ですよ! 僕も運動って言ったら、体育とセックスしかしませんけど。ガチ勢の隊長が、手取り足取り教えてくれますから」
「おお。優姫くんガチ勢なん?」
「なんたって、名前からして投手の申し子ですし。ねー、隊長」
「字面が違うってば。ふらふらしてると、足の上に落としちゃうよ」
 
 優姫くんはパッと目元を赤らめて、つんと前を向いてしもた。か、可愛い……。
 間抜けなだけのおれと大違い――って、なに言うてんのやろ! でっかい図体して恥ずかしい。
 なんとなく、晴海を見たら、ちょうど目が合ってどきっとする。
 
「どした。重いんか?」
「だ、大丈夫」
 
 こっち見てると思わへんだ。慌てて俯いて、荷物を運ぶのに集中するフリをする。
 理科棟の近くまで来て、優姫くんが校舎の植え込みの前に荷物を置く。
 
「ありがとう。あとは、お昼にメンバー皆で持って上がるから」
「えっ。まだ大丈夫やし、手伝うよ?」
 
 首を傾げたら、優姫くんは手を合わせてほほ笑む。
 
「チャイム鳴ったし、気持ちだけ貰っとくね。他のメンバーにも、責任もって運ばせないとだし」
「ああ。そっかあ」
「じゃあ、ここで失礼します」
 
 笑顔で手を振ってくれる二人に、手を振り返しながら、おれと晴海は立ち去った。

「ええことしたなぁ」
「そうやなあ」

 教室に戻ったら先生が来てて、そそくさと席につく。

「竹中もいないんだが。お前たち、何か知らないか?」
「えっ。すんません、知らないです」

 竹っち来てへんの? おれと晴海は顔を見合わせた。
 真面目な竹っちが遅刻なんて、珍しい。先生も不思議そうにしてる。
 なんか、あったんやろか?
 
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