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第一章 おけつの危機を回避したい
四十四話
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『――で、愛野くんと和解出来たのね!? やったじゃない!』
「えへへ……」
スマホの画面越しに、姉やんがはしゃいだ声を上げる。
おれは、へらりと笑ってピースした。
授業中に、姉やんから電話がかかって来てな。休み時間に被服室で折り返して、こないだの報告をしとったんよ。……流石にキスするとか、せえへんとかの下りはボカしつつ、説明したけども!
『ところで、シゲルなんだかヘロヘロしてない? 晴海くんにしがみついて……具合悪いの?』
「ふえ!? だ、だいじょうぶやけどっ」
おれは、ぎょっとして目を見開いた。――無意識に、晴海の腕に掴まってたみたいや。慌てて体を離そうとすると、伸びてきた腕に逆に引き寄せられる。
「ひゃんっ」
「ええから、凭れとき。昨日、寝れてないんやろ?」
「あ、あわわ」
気遣われて、かあっとほっぺが熱くなる。
「あほ~、優しいこと言うな! 晴海のせいやんかっ」
「なに! なんでや?」
べしべし、と胸を叩いたら、晴海は首を傾げとる。
なんでやねんっ。
晴海がおれの「可愛いとこ」、延々喋るからやん。
しかも、なんなんよ。
「幼稚園の入園式で、園服についたてんとう虫を葉っぱに戻せんくて、泣いてたとこ」とか、「姉やんのくれた林檎飴食べれんくて、舌つって泣いてたとこ」とか、「中学の頃、おばあさんの道案内したら帰ってこれんくなって、泣いてたとこ」とか……ぜーんぶ間抜けなエピソードやん!
自分でも忘れてたような、アホな失敗をさんざん思い出さされて……恥ずかしくて眠られへんかったんやぞ!
「やっぱり、晴海はおれをからかっとるんやっ」
「話してくれ言うたのに。シゲちゃんはわがままやな~」
「もー、いいですっ。もう言うたらあかん!」
腹いせに、ぎゅーって腕を締め付けても、「痛い痛い」て笑っとる。
むむ、と唇を尖らせとったら、「ゲホゴホ!」とでっかい咳払いが聞こえてきた。
『仲がよろしくて、何よりだわ。……ところで、化学教師とはどんな感じ?』
姉やんの問いに、晴海は一転、真面目な顔になって。
「はい。それが、ちょっと心配なことがあるんですわ」
準備室に媚薬が復活しとったことと、それをおれが見たことが榊原に知られたことを話した。姉やんは、「ううん」と唸った。
『それは……何とも言い難いわね。媚薬が復活してるのは、単に「補充」かもしれないし』
「ほじゅう?」
『ほら、ゲームによくあるでしょ。剣で叩き割ったツボとかが、暫く経って回復してる現象。晴海くんなら、ピンと来ると思うけど』
「ああ、わかります」
晴海が、手を打って頷く。
『そういう事なら、単にゲーム内の補充システムが働いただけで、何かストーリーに変化が起きたわけじゃないと思うのね。でも一応、用心しましょう。シゲルが薬を見たのも知られてるし、媚薬のことはスルーの方向で』
「わかりました。盗んで目を付けられても、あきませんしね」
晴海は、神妙に頷いた。
『それに、薬自体にもう用はない。解毒薬が、ついに完成したわよっ』
「マジっすか!」
「姉やん、ほんま!?」
画面にがぶり寄ると、姉やんは得意げに胸を張った。
『安全だし、効果だってバッチリよ。明日の朝、寮に着くように送ったから受け取ってくれる?』
「うんっ。姉やん、ホンマにありがとう!」
『おほほほ!』
晴海とおれは、パチパチと拍手を送る。
すごいなあ、姉やん。さすが、昔から科学者さんになりたいて言うてたことはあるで!
『それで連絡したってわけ。でも、薬があるからって、油断はしないようにね!』
「わかった!」
びしっと敬礼する。
晴海は、「あの」と声を上げた。
「お姉さん、ちょっと聞いてええすか。これ今、会計ルートってどうなってます?」
『順調ね。……もう平気だと思うから、話しちゃうんだけど。愛野くんと「シゲル」が和解して、「シゲル」とその仲間たちが、学祭準備に復帰するってのは、ゲーム通りの流れよ。そして、それ以降「シゲル」と愛野くんとのイベントは無くなるわ』
「ええっ? ってことは――」
いやな予感に震えつつ尋ねると、姉やんは人差し指を立てた。
『そうよ。ケツ穴に人参を突っ込んで登場するまで、「シゲル」の出番はないの。「そーいやアイツ、どっか行ったなー」って感じでねー』
「ひどい! 散々もめたのに、雑すぎるて」
和解した思ったら、即おけつ破壊って何? わあわあ抗議したら、姉やんがふんと鼻を鳴らす。
『仕方ないじゃない? 代替可能のモブキャラの扱いなんて、そんなもんよ。ただでさえ、愛野くんは学祭準備に加え、会計とセックスしたり揉めたり、大忙しなんだから』
「そ、そうなんすか」
引き気味の晴海をよそに、姉やんは目を輝かせる。
『一応、恋愛ゲームだもの。会計の過去の事で、化学教師に揺さぶりかけられて、辛かったなあ……。そこで会計を信じれるかが、ハッピーとバッドの分かれ目なんだけど』
「姉やん、嬉しいと早口やなあ」
『うっさい! 話が逸れたけど。シゲルはもう、愛野くんと重要な絡みはないはずなの。だから――これまでどおり、「愛野くんと揉めない」、「化学教師と絡まない」を徹底していれば、きっと大丈夫』
「……!」
姉やんの言葉に、おれと晴海は顔を見合わせた。
「じゃあっ。これから先は、とにかく気をつけて用心しとったら――シゲルのケツは守られる言うことですか!」
『ええ! 何たって、シゲルは化学教師と組んでないもの。あと少しの辛抱よ!』
力強く、姉やんは頷いてくれた。おれは、感激で胸が震える。
「姉やん! 晴海~!」
「シゲル!」
衝動にまかせて晴海に飛びつくと、ギュー! て抱き返される。「うへへ」て笑いがこぼれて、とまらへん。
「シゲル、良かったなあ! あとちょっと、頑張ろう!」
「ありがとうなぁ……!」
晴海が喜び一杯の声で言う。じわーって涙が溢れて、おれはほっぺを広い肩に擦り付けた。
そこで、ポン! と姉やんが手を打ち鳴らす。
『勝ちが見えたところで、気を引き締めていくわよ!』
「おう!」
拳を高く掲げたおれらに、姉やんはカマボコみたいな目を向けた。
『バカップルのふりも頑張って。あ……もう、"ふり"じゃなかったりした?』
「ね、姉やん!」
おれらは、揃って赤面してしもた。
「えへへ……」
スマホの画面越しに、姉やんがはしゃいだ声を上げる。
おれは、へらりと笑ってピースした。
授業中に、姉やんから電話がかかって来てな。休み時間に被服室で折り返して、こないだの報告をしとったんよ。……流石にキスするとか、せえへんとかの下りはボカしつつ、説明したけども!
『ところで、シゲルなんだかヘロヘロしてない? 晴海くんにしがみついて……具合悪いの?』
「ふえ!? だ、だいじょうぶやけどっ」
おれは、ぎょっとして目を見開いた。――無意識に、晴海の腕に掴まってたみたいや。慌てて体を離そうとすると、伸びてきた腕に逆に引き寄せられる。
「ひゃんっ」
「ええから、凭れとき。昨日、寝れてないんやろ?」
「あ、あわわ」
気遣われて、かあっとほっぺが熱くなる。
「あほ~、優しいこと言うな! 晴海のせいやんかっ」
「なに! なんでや?」
べしべし、と胸を叩いたら、晴海は首を傾げとる。
なんでやねんっ。
晴海がおれの「可愛いとこ」、延々喋るからやん。
しかも、なんなんよ。
「幼稚園の入園式で、園服についたてんとう虫を葉っぱに戻せんくて、泣いてたとこ」とか、「姉やんのくれた林檎飴食べれんくて、舌つって泣いてたとこ」とか、「中学の頃、おばあさんの道案内したら帰ってこれんくなって、泣いてたとこ」とか……ぜーんぶ間抜けなエピソードやん!
自分でも忘れてたような、アホな失敗をさんざん思い出さされて……恥ずかしくて眠られへんかったんやぞ!
「やっぱり、晴海はおれをからかっとるんやっ」
「話してくれ言うたのに。シゲちゃんはわがままやな~」
「もー、いいですっ。もう言うたらあかん!」
腹いせに、ぎゅーって腕を締め付けても、「痛い痛い」て笑っとる。
むむ、と唇を尖らせとったら、「ゲホゴホ!」とでっかい咳払いが聞こえてきた。
『仲がよろしくて、何よりだわ。……ところで、化学教師とはどんな感じ?』
姉やんの問いに、晴海は一転、真面目な顔になって。
「はい。それが、ちょっと心配なことがあるんですわ」
準備室に媚薬が復活しとったことと、それをおれが見たことが榊原に知られたことを話した。姉やんは、「ううん」と唸った。
『それは……何とも言い難いわね。媚薬が復活してるのは、単に「補充」かもしれないし』
「ほじゅう?」
『ほら、ゲームによくあるでしょ。剣で叩き割ったツボとかが、暫く経って回復してる現象。晴海くんなら、ピンと来ると思うけど』
「ああ、わかります」
晴海が、手を打って頷く。
『そういう事なら、単にゲーム内の補充システムが働いただけで、何かストーリーに変化が起きたわけじゃないと思うのね。でも一応、用心しましょう。シゲルが薬を見たのも知られてるし、媚薬のことはスルーの方向で』
「わかりました。盗んで目を付けられても、あきませんしね」
晴海は、神妙に頷いた。
『それに、薬自体にもう用はない。解毒薬が、ついに完成したわよっ』
「マジっすか!」
「姉やん、ほんま!?」
画面にがぶり寄ると、姉やんは得意げに胸を張った。
『安全だし、効果だってバッチリよ。明日の朝、寮に着くように送ったから受け取ってくれる?』
「うんっ。姉やん、ホンマにありがとう!」
『おほほほ!』
晴海とおれは、パチパチと拍手を送る。
すごいなあ、姉やん。さすが、昔から科学者さんになりたいて言うてたことはあるで!
『それで連絡したってわけ。でも、薬があるからって、油断はしないようにね!』
「わかった!」
びしっと敬礼する。
晴海は、「あの」と声を上げた。
「お姉さん、ちょっと聞いてええすか。これ今、会計ルートってどうなってます?」
『順調ね。……もう平気だと思うから、話しちゃうんだけど。愛野くんと「シゲル」が和解して、「シゲル」とその仲間たちが、学祭準備に復帰するってのは、ゲーム通りの流れよ。そして、それ以降「シゲル」と愛野くんとのイベントは無くなるわ』
「ええっ? ってことは――」
いやな予感に震えつつ尋ねると、姉やんは人差し指を立てた。
『そうよ。ケツ穴に人参を突っ込んで登場するまで、「シゲル」の出番はないの。「そーいやアイツ、どっか行ったなー」って感じでねー』
「ひどい! 散々もめたのに、雑すぎるて」
和解した思ったら、即おけつ破壊って何? わあわあ抗議したら、姉やんがふんと鼻を鳴らす。
『仕方ないじゃない? 代替可能のモブキャラの扱いなんて、そんなもんよ。ただでさえ、愛野くんは学祭準備に加え、会計とセックスしたり揉めたり、大忙しなんだから』
「そ、そうなんすか」
引き気味の晴海をよそに、姉やんは目を輝かせる。
『一応、恋愛ゲームだもの。会計の過去の事で、化学教師に揺さぶりかけられて、辛かったなあ……。そこで会計を信じれるかが、ハッピーとバッドの分かれ目なんだけど』
「姉やん、嬉しいと早口やなあ」
『うっさい! 話が逸れたけど。シゲルはもう、愛野くんと重要な絡みはないはずなの。だから――これまでどおり、「愛野くんと揉めない」、「化学教師と絡まない」を徹底していれば、きっと大丈夫』
「……!」
姉やんの言葉に、おれと晴海は顔を見合わせた。
「じゃあっ。これから先は、とにかく気をつけて用心しとったら――シゲルのケツは守られる言うことですか!」
『ええ! 何たって、シゲルは化学教師と組んでないもの。あと少しの辛抱よ!』
力強く、姉やんは頷いてくれた。おれは、感激で胸が震える。
「姉やん! 晴海~!」
「シゲル!」
衝動にまかせて晴海に飛びつくと、ギュー! て抱き返される。「うへへ」て笑いがこぼれて、とまらへん。
「シゲル、良かったなあ! あとちょっと、頑張ろう!」
「ありがとうなぁ……!」
晴海が喜び一杯の声で言う。じわーって涙が溢れて、おれはほっぺを広い肩に擦り付けた。
そこで、ポン! と姉やんが手を打ち鳴らす。
『勝ちが見えたところで、気を引き締めていくわよ!』
「おう!」
拳を高く掲げたおれらに、姉やんはカマボコみたいな目を向けた。
『バカップルのふりも頑張って。あ……もう、"ふり"じゃなかったりした?』
「ね、姉やん!」
おれらは、揃って赤面してしもた。
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