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第一章 おけつの危機を回避したい
四十一話
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昼休み――
おれは竹っちと二人、屋上でランチタイムや。
ほら、竹っちの恋バナを聞くには、二人っきりやないとね。みんなには上手いこと誤魔化してやってきた屋上は、肌寒なって来たに関わらず、ちらほらと人がおる。会話の聞かれへん隅っこに陣取って、おれらは恋バナにいそしんだ。
「なるほど~。そのS・Yさんは、恋人を盗られてしもて傷ついてはるんやね」
「ああ。はっきり本人から、聞いたわけじゃねんだけど。そんで、俺も話し聞いてもらって、嬉しかったからさ。なんか出来ることねえかなーって」
「竹っちらしいねえ。色々話すん?」
「んー、まあまあ。いつも、また来たのかーって呆れてるっぽいけど……何だかんだ、お茶入れてくれたり、菓子出してくれたりする……」
何それ、めっちゃ歓待ムードやん! おれは、がばっと身を乗り出した。
「ええやんっ。それ、相手も喜んでくれてんちゃう?」
「いやいや! ぜってえ、面倒見られてるだけだって。きつく見えるけど、親切な人だからさぁ」
「へええ」
真っ赤っかな顔で、竹っちはブンブン手を振った。と、口で言いつつ――嬉しそうにはにかんどるんが、めっちゃ可愛い。長い付き合いやけど、知らんかった一面の発見やね。
しかしさ。
聞く限り、S・Yさん(あ、竹っちの好きな人。誰か聞いたら、イニシャルだけ教えてくれたんよ)も、竹っちにめっちゃ優しいと思うねんけどな~。
竹っち、どんな人か詳しくは言わへんねんけどさ。もらった情報を総合すると、S・Yさんはめっちゃモテてる人みたいやねん。
美形で優しくて、服装もきちんとしてて、眼鏡も似合うって……クールビューティ系の人なんかなぁ? おれが、もうちょい学園の人気者に詳しかったら、ピンと来るねんけど。
ともかく、そういう人気者の人やから、イマイチ自信が持てへんのやって。
「で……ちょっとでも見栄えするように、イメチェンとかしてみたわけよ」
「めっちゃええと思う! 竹っち、かっこよくなったもん」
「えー、そうかあ? サンキュ」
竹っちは照れかくしか、がふがふとお握りにかぶりついとる。おれは、微笑ましく思いながら、サンドイッチに齧りついた。
ええなあ、恋。上手くいってほしい――
「ところでさ、今井。有村、放ってきて良かったのか?」
「はぶっ!?」
突然、矛先がこっちに向いて、おれはサンドイッチを噴き出しかけた。
「は、晴海? なんでっ」
「いや、俺の話聞いてくれんのは嬉しいけどさ。あいつ、弁当だけ渡されて切なそうだったし。お前も、上手く出来たって喜んでたから、一緒に食いたかったんじゃねーかなぁって」
「はうう」
おれは、もごもごと呻く。
竹っちの言う通り……今日のサンドイッチは、おれにしては上手く出来た。晴海の反応は、正直めっちゃ気になってるねん。
でも、二人っきりでお弁当食べんの、どうしても恥ずかしかってんもん……! そんで、お弁当だけ押し付けて、逃げてきてしもたんや。
「ご、ごめん竹っち……」
「ははは、なに謝ってんだよ」
罪悪感が、ずしんと胸に乗っかる。竹っちのことをダシにしてしもたみたいで、申し訳ない。
しおしおと項垂れとったら、励ますように背中を叩かれた。
「昨日の事で、なんか揉めてんの? 俺も散々あおった責任あるし、良かったら話し聞くぞ」
「竹っち~」
うる、と目が潤む。優しいがな……。ちょうど、胸に抱えておくのも限界で、申し出がありがたかった。
おれは、お弁当箱を脇に置いて、竹っちの方に膝を進める。
「じ、実はな? 昨日のアレから、晴海と顔合わすんが恥ずかしくて」
「ほうほう」
「あ、嫌とちゃうねん! でも、なんかドキドキして、一緒におるのしんどくて。顔もすぐ熱々になるし。つい、変な態度とってまうねん……どうしたらええかなあ?」
助けを求めてじっと見つめると、竹っちは重々しく頷いた。そして、生温かい笑みを浮かべる。
「そのまま有村に言えば?」
「んも~! 真面目に聞いてえやっ」
わあんと叫んで、竹っちの肩をゆすぶる。と、竹っちは真っ赤な顔で、怒鳴った。
「この上なく聞いてるわ! つまり、有村のことが好きでドキドキしちゃうってことだろ?!」
「す……っ?! そ、そそそんなんちゃうもんっ」
「そーだろ! 付き合っといて、何照れてんだっつーのっ」
竹っちにビシリと指を突きつけられ、おれは狼狽える。
そ、それは――竹っちは、おれと晴海が付き合ってると思っとるから。でも、おれらはホンマは付き合って無くて。やから、竹っちの思っとるような理由ではないはずやねん。
「……うう」
でも、それやったら何なんやろ。なんで、こんなドキドキしてしまうんやろ……病気、とか?
胸を押さえとったら、竹っちはちょっと穏やかな調子になって、
「まあ、悪い事言わねーからさ。有村に気持ち伝えて見ろよ。急にお前に避けられたら、あいつも悲しいだろ?」
「そ、それは……!」
はっと目を見開く。確かに、その通りや。おれだって、晴海に避けられたら……想像だけでも悲しい。
けどさあ。
「晴海に言うて、「女々しいぞ!」って引かれへんかなあ?」
「今さら?! 大丈夫だよ。むしろ喜ぶから」
「で、でもぉ~……」
それでも、もだもだしとったら、竹っちが業を煮やしたように叫んだ。
「ええい、自信持てッ! 有村はなあ、お前のこと大好きなんだよ!」
「……ふえっ?!」
――晴海が、おれのことを……?!
ぱああっ、とほっぺが熱うなる。おれは、竹っちの腕に取りついた。
「ほ、ホンマに?! えっ、何で何でっ?!」
「そりゃ、俺の口からは何とも? 気になるなら本人から聞け」
「えーっ!」
「えー、じゃねえよっ。そうだ――今から聞きにいってこい! そんで、お前の悩みもぶちまけちまえ。なんなら、俺もS・Yに会いに行ってくるから。おあいこなっ」
竹っちは、おれの両肩を力強く叩いた。
そ、そんなあ……!
うーん。どうしよう……
お弁当箱を抱えて、とぼとぼ廊下を歩いた。
男らしい竹っちは、「じゃあ、俺は行ってくるから!」とごはんをかきこんで、S・Yさんに会いに行ってしもた。
潔い背中やった。それに比べて、おれの女々しいことと言えば。
「でも、勇気出えへんよう。晴海~……」
ううう、と呻いて、廊下を曲がったら。
「へー、そうなんですか。先輩も、親父さんの影響で」
「そうそう。もう、ずっとピッチャーやれって煩くてさ」
「はは。どこの家も、そんなもんなんすね」
晴海と、優姫くんがにこやかに談笑しとった。
えっ……?
おれは竹っちと二人、屋上でランチタイムや。
ほら、竹っちの恋バナを聞くには、二人っきりやないとね。みんなには上手いこと誤魔化してやってきた屋上は、肌寒なって来たに関わらず、ちらほらと人がおる。会話の聞かれへん隅っこに陣取って、おれらは恋バナにいそしんだ。
「なるほど~。そのS・Yさんは、恋人を盗られてしもて傷ついてはるんやね」
「ああ。はっきり本人から、聞いたわけじゃねんだけど。そんで、俺も話し聞いてもらって、嬉しかったからさ。なんか出来ることねえかなーって」
「竹っちらしいねえ。色々話すん?」
「んー、まあまあ。いつも、また来たのかーって呆れてるっぽいけど……何だかんだ、お茶入れてくれたり、菓子出してくれたりする……」
何それ、めっちゃ歓待ムードやん! おれは、がばっと身を乗り出した。
「ええやんっ。それ、相手も喜んでくれてんちゃう?」
「いやいや! ぜってえ、面倒見られてるだけだって。きつく見えるけど、親切な人だからさぁ」
「へええ」
真っ赤っかな顔で、竹っちはブンブン手を振った。と、口で言いつつ――嬉しそうにはにかんどるんが、めっちゃ可愛い。長い付き合いやけど、知らんかった一面の発見やね。
しかしさ。
聞く限り、S・Yさん(あ、竹っちの好きな人。誰か聞いたら、イニシャルだけ教えてくれたんよ)も、竹っちにめっちゃ優しいと思うねんけどな~。
竹っち、どんな人か詳しくは言わへんねんけどさ。もらった情報を総合すると、S・Yさんはめっちゃモテてる人みたいやねん。
美形で優しくて、服装もきちんとしてて、眼鏡も似合うって……クールビューティ系の人なんかなぁ? おれが、もうちょい学園の人気者に詳しかったら、ピンと来るねんけど。
ともかく、そういう人気者の人やから、イマイチ自信が持てへんのやって。
「で……ちょっとでも見栄えするように、イメチェンとかしてみたわけよ」
「めっちゃええと思う! 竹っち、かっこよくなったもん」
「えー、そうかあ? サンキュ」
竹っちは照れかくしか、がふがふとお握りにかぶりついとる。おれは、微笑ましく思いながら、サンドイッチに齧りついた。
ええなあ、恋。上手くいってほしい――
「ところでさ、今井。有村、放ってきて良かったのか?」
「はぶっ!?」
突然、矛先がこっちに向いて、おれはサンドイッチを噴き出しかけた。
「は、晴海? なんでっ」
「いや、俺の話聞いてくれんのは嬉しいけどさ。あいつ、弁当だけ渡されて切なそうだったし。お前も、上手く出来たって喜んでたから、一緒に食いたかったんじゃねーかなぁって」
「はうう」
おれは、もごもごと呻く。
竹っちの言う通り……今日のサンドイッチは、おれにしては上手く出来た。晴海の反応は、正直めっちゃ気になってるねん。
でも、二人っきりでお弁当食べんの、どうしても恥ずかしかってんもん……! そんで、お弁当だけ押し付けて、逃げてきてしもたんや。
「ご、ごめん竹っち……」
「ははは、なに謝ってんだよ」
罪悪感が、ずしんと胸に乗っかる。竹っちのことをダシにしてしもたみたいで、申し訳ない。
しおしおと項垂れとったら、励ますように背中を叩かれた。
「昨日の事で、なんか揉めてんの? 俺も散々あおった責任あるし、良かったら話し聞くぞ」
「竹っち~」
うる、と目が潤む。優しいがな……。ちょうど、胸に抱えておくのも限界で、申し出がありがたかった。
おれは、お弁当箱を脇に置いて、竹っちの方に膝を進める。
「じ、実はな? 昨日のアレから、晴海と顔合わすんが恥ずかしくて」
「ほうほう」
「あ、嫌とちゃうねん! でも、なんかドキドキして、一緒におるのしんどくて。顔もすぐ熱々になるし。つい、変な態度とってまうねん……どうしたらええかなあ?」
助けを求めてじっと見つめると、竹っちは重々しく頷いた。そして、生温かい笑みを浮かべる。
「そのまま有村に言えば?」
「んも~! 真面目に聞いてえやっ」
わあんと叫んで、竹っちの肩をゆすぶる。と、竹っちは真っ赤な顔で、怒鳴った。
「この上なく聞いてるわ! つまり、有村のことが好きでドキドキしちゃうってことだろ?!」
「す……っ?! そ、そそそんなんちゃうもんっ」
「そーだろ! 付き合っといて、何照れてんだっつーのっ」
竹っちにビシリと指を突きつけられ、おれは狼狽える。
そ、それは――竹っちは、おれと晴海が付き合ってると思っとるから。でも、おれらはホンマは付き合って無くて。やから、竹っちの思っとるような理由ではないはずやねん。
「……うう」
でも、それやったら何なんやろ。なんで、こんなドキドキしてしまうんやろ……病気、とか?
胸を押さえとったら、竹っちはちょっと穏やかな調子になって、
「まあ、悪い事言わねーからさ。有村に気持ち伝えて見ろよ。急にお前に避けられたら、あいつも悲しいだろ?」
「そ、それは……!」
はっと目を見開く。確かに、その通りや。おれだって、晴海に避けられたら……想像だけでも悲しい。
けどさあ。
「晴海に言うて、「女々しいぞ!」って引かれへんかなあ?」
「今さら?! 大丈夫だよ。むしろ喜ぶから」
「で、でもぉ~……」
それでも、もだもだしとったら、竹っちが業を煮やしたように叫んだ。
「ええい、自信持てッ! 有村はなあ、お前のこと大好きなんだよ!」
「……ふえっ?!」
――晴海が、おれのことを……?!
ぱああっ、とほっぺが熱うなる。おれは、竹っちの腕に取りついた。
「ほ、ホンマに?! えっ、何で何でっ?!」
「そりゃ、俺の口からは何とも? 気になるなら本人から聞け」
「えーっ!」
「えー、じゃねえよっ。そうだ――今から聞きにいってこい! そんで、お前の悩みもぶちまけちまえ。なんなら、俺もS・Yに会いに行ってくるから。おあいこなっ」
竹っちは、おれの両肩を力強く叩いた。
そ、そんなあ……!
うーん。どうしよう……
お弁当箱を抱えて、とぼとぼ廊下を歩いた。
男らしい竹っちは、「じゃあ、俺は行ってくるから!」とごはんをかきこんで、S・Yさんに会いに行ってしもた。
潔い背中やった。それに比べて、おれの女々しいことと言えば。
「でも、勇気出えへんよう。晴海~……」
ううう、と呻いて、廊下を曲がったら。
「へー、そうなんですか。先輩も、親父さんの影響で」
「そうそう。もう、ずっとピッチャーやれって煩くてさ」
「はは。どこの家も、そんなもんなんすね」
晴海と、優姫くんがにこやかに談笑しとった。
えっ……?
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