41 / 112
第一章 おけつの危機を回避したい
四十一話
しおりを挟む
昼休み――
おれは竹っちと二人、屋上でランチタイムや。
ほら、竹っちの恋バナを聞くには、二人っきりやないとね。みんなには上手いこと誤魔化してやってきた屋上は、肌寒なって来たに関わらず、ちらほらと人がおる。会話の聞かれへん隅っこに陣取って、おれらは恋バナにいそしんだ。
「なるほど~。そのS・Yさんは、恋人を盗られてしもて傷ついてはるんやね」
「ああ。はっきり本人から、聞いたわけじゃねんだけど。そんで、俺も話し聞いてもらって、嬉しかったからさ。なんか出来ることねえかなーって」
「竹っちらしいねえ。色々話すん?」
「んー、まあまあ。いつも、また来たのかーって呆れてるっぽいけど……何だかんだ、お茶入れてくれたり、菓子出してくれたりする……」
何それ、めっちゃ歓待ムードやん! おれは、がばっと身を乗り出した。
「ええやんっ。それ、相手も喜んでくれてんちゃう?」
「いやいや! ぜってえ、面倒見られてるだけだって。きつく見えるけど、親切な人だからさぁ」
「へええ」
真っ赤っかな顔で、竹っちはブンブン手を振った。と、口で言いつつ――嬉しそうにはにかんどるんが、めっちゃ可愛い。長い付き合いやけど、知らんかった一面の発見やね。
しかしさ。
聞く限り、S・Yさん(あ、竹っちの好きな人。誰か聞いたら、イニシャルだけ教えてくれたんよ)も、竹っちにめっちゃ優しいと思うねんけどな~。
竹っち、どんな人か詳しくは言わへんねんけどさ。もらった情報を総合すると、S・Yさんはめっちゃモテてる人みたいやねん。
美形で優しくて、服装もきちんとしてて、眼鏡も似合うって……クールビューティ系の人なんかなぁ? おれが、もうちょい学園の人気者に詳しかったら、ピンと来るねんけど。
ともかく、そういう人気者の人やから、イマイチ自信が持てへんのやって。
「で……ちょっとでも見栄えするように、イメチェンとかしてみたわけよ」
「めっちゃええと思う! 竹っち、かっこよくなったもん」
「えー、そうかあ? サンキュ」
竹っちは照れかくしか、がふがふとお握りにかぶりついとる。おれは、微笑ましく思いながら、サンドイッチに齧りついた。
ええなあ、恋。上手くいってほしい――
「ところでさ、今井。有村、放ってきて良かったのか?」
「はぶっ!?」
突然、矛先がこっちに向いて、おれはサンドイッチを噴き出しかけた。
「は、晴海? なんでっ」
「いや、俺の話聞いてくれんのは嬉しいけどさ。あいつ、弁当だけ渡されて切なそうだったし。お前も、上手く出来たって喜んでたから、一緒に食いたかったんじゃねーかなぁって」
「はうう」
おれは、もごもごと呻く。
竹っちの言う通り……今日のサンドイッチは、おれにしては上手く出来た。晴海の反応は、正直めっちゃ気になってるねん。
でも、二人っきりでお弁当食べんの、どうしても恥ずかしかってんもん……! そんで、お弁当だけ押し付けて、逃げてきてしもたんや。
「ご、ごめん竹っち……」
「ははは、なに謝ってんだよ」
罪悪感が、ずしんと胸に乗っかる。竹っちのことをダシにしてしもたみたいで、申し訳ない。
しおしおと項垂れとったら、励ますように背中を叩かれた。
「昨日の事で、なんか揉めてんの? 俺も散々あおった責任あるし、良かったら話し聞くぞ」
「竹っち~」
うる、と目が潤む。優しいがな……。ちょうど、胸に抱えておくのも限界で、申し出がありがたかった。
おれは、お弁当箱を脇に置いて、竹っちの方に膝を進める。
「じ、実はな? 昨日のアレから、晴海と顔合わすんが恥ずかしくて」
「ほうほう」
「あ、嫌とちゃうねん! でも、なんかドキドキして、一緒におるのしんどくて。顔もすぐ熱々になるし。つい、変な態度とってまうねん……どうしたらええかなあ?」
助けを求めてじっと見つめると、竹っちは重々しく頷いた。そして、生温かい笑みを浮かべる。
「そのまま有村に言えば?」
「んも~! 真面目に聞いてえやっ」
わあんと叫んで、竹っちの肩をゆすぶる。と、竹っちは真っ赤な顔で、怒鳴った。
「この上なく聞いてるわ! つまり、有村のことが好きでドキドキしちゃうってことだろ?!」
「す……っ?! そ、そそそんなんちゃうもんっ」
「そーだろ! 付き合っといて、何照れてんだっつーのっ」
竹っちにビシリと指を突きつけられ、おれは狼狽える。
そ、それは――竹っちは、おれと晴海が付き合ってると思っとるから。でも、おれらはホンマは付き合って無くて。やから、竹っちの思っとるような理由ではないはずやねん。
「……うう」
でも、それやったら何なんやろ。なんで、こんなドキドキしてしまうんやろ……病気、とか?
胸を押さえとったら、竹っちはちょっと穏やかな調子になって、
「まあ、悪い事言わねーからさ。有村に気持ち伝えて見ろよ。急にお前に避けられたら、あいつも悲しいだろ?」
「そ、それは……!」
はっと目を見開く。確かに、その通りや。おれだって、晴海に避けられたら……想像だけでも悲しい。
けどさあ。
「晴海に言うて、「女々しいぞ!」って引かれへんかなあ?」
「今さら?! 大丈夫だよ。むしろ喜ぶから」
「で、でもぉ~……」
それでも、もだもだしとったら、竹っちが業を煮やしたように叫んだ。
「ええい、自信持てッ! 有村はなあ、お前のこと大好きなんだよ!」
「……ふえっ?!」
――晴海が、おれのことを……?!
ぱああっ、とほっぺが熱うなる。おれは、竹っちの腕に取りついた。
「ほ、ホンマに?! えっ、何で何でっ?!」
「そりゃ、俺の口からは何とも? 気になるなら本人から聞け」
「えーっ!」
「えー、じゃねえよっ。そうだ――今から聞きにいってこい! そんで、お前の悩みもぶちまけちまえ。なんなら、俺もS・Yに会いに行ってくるから。おあいこなっ」
竹っちは、おれの両肩を力強く叩いた。
そ、そんなあ……!
うーん。どうしよう……
お弁当箱を抱えて、とぼとぼ廊下を歩いた。
男らしい竹っちは、「じゃあ、俺は行ってくるから!」とごはんをかきこんで、S・Yさんに会いに行ってしもた。
潔い背中やった。それに比べて、おれの女々しいことと言えば。
「でも、勇気出えへんよう。晴海~……」
ううう、と呻いて、廊下を曲がったら。
「へー、そうなんですか。先輩も、親父さんの影響で」
「そうそう。もう、ずっとピッチャーやれって煩くてさ」
「はは。どこの家も、そんなもんなんすね」
晴海と、優姫くんがにこやかに談笑しとった。
えっ……?
おれは竹っちと二人、屋上でランチタイムや。
ほら、竹っちの恋バナを聞くには、二人っきりやないとね。みんなには上手いこと誤魔化してやってきた屋上は、肌寒なって来たに関わらず、ちらほらと人がおる。会話の聞かれへん隅っこに陣取って、おれらは恋バナにいそしんだ。
「なるほど~。そのS・Yさんは、恋人を盗られてしもて傷ついてはるんやね」
「ああ。はっきり本人から、聞いたわけじゃねんだけど。そんで、俺も話し聞いてもらって、嬉しかったからさ。なんか出来ることねえかなーって」
「竹っちらしいねえ。色々話すん?」
「んー、まあまあ。いつも、また来たのかーって呆れてるっぽいけど……何だかんだ、お茶入れてくれたり、菓子出してくれたりする……」
何それ、めっちゃ歓待ムードやん! おれは、がばっと身を乗り出した。
「ええやんっ。それ、相手も喜んでくれてんちゃう?」
「いやいや! ぜってえ、面倒見られてるだけだって。きつく見えるけど、親切な人だからさぁ」
「へええ」
真っ赤っかな顔で、竹っちはブンブン手を振った。と、口で言いつつ――嬉しそうにはにかんどるんが、めっちゃ可愛い。長い付き合いやけど、知らんかった一面の発見やね。
しかしさ。
聞く限り、S・Yさん(あ、竹っちの好きな人。誰か聞いたら、イニシャルだけ教えてくれたんよ)も、竹っちにめっちゃ優しいと思うねんけどな~。
竹っち、どんな人か詳しくは言わへんねんけどさ。もらった情報を総合すると、S・Yさんはめっちゃモテてる人みたいやねん。
美形で優しくて、服装もきちんとしてて、眼鏡も似合うって……クールビューティ系の人なんかなぁ? おれが、もうちょい学園の人気者に詳しかったら、ピンと来るねんけど。
ともかく、そういう人気者の人やから、イマイチ自信が持てへんのやって。
「で……ちょっとでも見栄えするように、イメチェンとかしてみたわけよ」
「めっちゃええと思う! 竹っち、かっこよくなったもん」
「えー、そうかあ? サンキュ」
竹っちは照れかくしか、がふがふとお握りにかぶりついとる。おれは、微笑ましく思いながら、サンドイッチに齧りついた。
ええなあ、恋。上手くいってほしい――
「ところでさ、今井。有村、放ってきて良かったのか?」
「はぶっ!?」
突然、矛先がこっちに向いて、おれはサンドイッチを噴き出しかけた。
「は、晴海? なんでっ」
「いや、俺の話聞いてくれんのは嬉しいけどさ。あいつ、弁当だけ渡されて切なそうだったし。お前も、上手く出来たって喜んでたから、一緒に食いたかったんじゃねーかなぁって」
「はうう」
おれは、もごもごと呻く。
竹っちの言う通り……今日のサンドイッチは、おれにしては上手く出来た。晴海の反応は、正直めっちゃ気になってるねん。
でも、二人っきりでお弁当食べんの、どうしても恥ずかしかってんもん……! そんで、お弁当だけ押し付けて、逃げてきてしもたんや。
「ご、ごめん竹っち……」
「ははは、なに謝ってんだよ」
罪悪感が、ずしんと胸に乗っかる。竹っちのことをダシにしてしもたみたいで、申し訳ない。
しおしおと項垂れとったら、励ますように背中を叩かれた。
「昨日の事で、なんか揉めてんの? 俺も散々あおった責任あるし、良かったら話し聞くぞ」
「竹っち~」
うる、と目が潤む。優しいがな……。ちょうど、胸に抱えておくのも限界で、申し出がありがたかった。
おれは、お弁当箱を脇に置いて、竹っちの方に膝を進める。
「じ、実はな? 昨日のアレから、晴海と顔合わすんが恥ずかしくて」
「ほうほう」
「あ、嫌とちゃうねん! でも、なんかドキドキして、一緒におるのしんどくて。顔もすぐ熱々になるし。つい、変な態度とってまうねん……どうしたらええかなあ?」
助けを求めてじっと見つめると、竹っちは重々しく頷いた。そして、生温かい笑みを浮かべる。
「そのまま有村に言えば?」
「んも~! 真面目に聞いてえやっ」
わあんと叫んで、竹っちの肩をゆすぶる。と、竹っちは真っ赤な顔で、怒鳴った。
「この上なく聞いてるわ! つまり、有村のことが好きでドキドキしちゃうってことだろ?!」
「す……っ?! そ、そそそんなんちゃうもんっ」
「そーだろ! 付き合っといて、何照れてんだっつーのっ」
竹っちにビシリと指を突きつけられ、おれは狼狽える。
そ、それは――竹っちは、おれと晴海が付き合ってると思っとるから。でも、おれらはホンマは付き合って無くて。やから、竹っちの思っとるような理由ではないはずやねん。
「……うう」
でも、それやったら何なんやろ。なんで、こんなドキドキしてしまうんやろ……病気、とか?
胸を押さえとったら、竹っちはちょっと穏やかな調子になって、
「まあ、悪い事言わねーからさ。有村に気持ち伝えて見ろよ。急にお前に避けられたら、あいつも悲しいだろ?」
「そ、それは……!」
はっと目を見開く。確かに、その通りや。おれだって、晴海に避けられたら……想像だけでも悲しい。
けどさあ。
「晴海に言うて、「女々しいぞ!」って引かれへんかなあ?」
「今さら?! 大丈夫だよ。むしろ喜ぶから」
「で、でもぉ~……」
それでも、もだもだしとったら、竹っちが業を煮やしたように叫んだ。
「ええい、自信持てッ! 有村はなあ、お前のこと大好きなんだよ!」
「……ふえっ?!」
――晴海が、おれのことを……?!
ぱああっ、とほっぺが熱うなる。おれは、竹っちの腕に取りついた。
「ほ、ホンマに?! えっ、何で何でっ?!」
「そりゃ、俺の口からは何とも? 気になるなら本人から聞け」
「えーっ!」
「えー、じゃねえよっ。そうだ――今から聞きにいってこい! そんで、お前の悩みもぶちまけちまえ。なんなら、俺もS・Yに会いに行ってくるから。おあいこなっ」
竹っちは、おれの両肩を力強く叩いた。
そ、そんなあ……!
うーん。どうしよう……
お弁当箱を抱えて、とぼとぼ廊下を歩いた。
男らしい竹っちは、「じゃあ、俺は行ってくるから!」とごはんをかきこんで、S・Yさんに会いに行ってしもた。
潔い背中やった。それに比べて、おれの女々しいことと言えば。
「でも、勇気出えへんよう。晴海~……」
ううう、と呻いて、廊下を曲がったら。
「へー、そうなんですか。先輩も、親父さんの影響で」
「そうそう。もう、ずっとピッチャーやれって煩くてさ」
「はは。どこの家も、そんなもんなんすね」
晴海と、優姫くんがにこやかに談笑しとった。
えっ……?
11
お気に入りに追加
170
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件
水野七緒
BL
ワケあってクラスメイトの女子と交際中の青野 行春(あおの ゆきはる)。そんな彼が、ある日あわや貞操の危機に。彼を襲ったのは星井夏樹(ほしい なつき)──まさかの、交際中のカノジョの「お兄さん」。だが、どうも様子がおかしくて──
※「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」の続編(サイドストーリー)です。
※前作を読まなくてもわかるように執筆するつもりですが、前作も読んでいただけると有り難いです。
※エンドは1種類の予定ですが、2種類になるかもしれません。
王道にはしたくないので
八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉
幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。
これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。
私の事を調べないで!
さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と
桜華の白龍としての姿をもつ
咲夜 バレないように過ごすが
転校生が来てから騒がしくなり
みんなが私の事を調べだして…
表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓
https://picrew.me/image_maker/625951
聖也と千尋の深い事情
フロイライン
BL
中学二年の奥田聖也と一条千尋はクラス替えで同じ組になる。
取り柄もなく凡庸な聖也と、イケメンで勉強もスポーツも出来て女子にモテモテの千尋という、まさに対照的な二人だったが、何故か気が合い、あっという間に仲良しになるが…
とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~
無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。
自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる