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第一章 おけつの危機を回避したい
三十三話
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「わあっ、優姫くん!」
「元気そうで、何よりだね」
優姫くんは、ニッコリする。
見れば、優姫くんの周りには、いつかも見た美少年達もおる。彼らは目があうと「はーい」て笑って手ぇ振ってくれた。
思わず、へらへらと振り返す。
「優姫くん、ぐうぜん。こんなとこで、どしたん?」
「僕らは、ちょっとした巡回だよ」
「巡回? そりゃまた、なんで……」
首を傾げた晴海に、優姫くんは肩を竦めてみせた。立ち話も何やという事で、ぞろぞろ連れ立って歩き出す。
「僕らの仲間が、劔谷くんの根城の近くをうろつかないように。……沈静化したとは言っても、諦めきれてない子も多いからさ」
優姫くんの後ろで、「うんうん」と美少年達も頷いている。
晴海と、神妙に頷いた。
「そうですか……お疲れ様です」
「ありがとうね」
「優姫くん……!」
なんて、仲間想いなんやろう。自分も辛いのに、まず仲間のことを考えるなんて。
晴海は気づかわしげに、眉根をよせる。
「しかし。やっぱり、まだ諦めきれてない人もいますよね……」
「まあね……でも、大分落ち着いて来てるよ。彼と仲良いの、散々見てるし……」
優姫くんは、言葉の途中で黙り込んだ。どうしたんやろ? と思ったら。
美少年の一人が、言葉を引き継いだ。
「実は、昨日なんですけど。信じ難い出来事があって!」
彼が怒りながらいうには、こんな事があったらしい。
優姫くんらが、今日とおんなじに巡回してたら、親衛隊の子がこの辺うろうろしてたんやって。その子は、会計の元恋人のひとりやったから、会えばよりを戻してくれるって、諦めがつかんかったらしく。
「僕たちみんな、劒谷さんとは関係持ってたんで、気持ちはわかったんです。だからこそ、邪魔しちゃダメだよ? って宥めてたんですけど……そしたらですよ? 「お前ら、ここで何してんのー?」って本人が来ちゃいまして」
「おお。物まね上手いすね」
「こら、晴海っ」
「いえいえ、実は鉄板芸なんです――話戻しますけど。劒谷さんがすごく怒ってらしたので、隊長が「僕たちはお邪魔するつもりはない」って説明してくれたんですが。「信じられるか」「信じてください」の押し問答の末、今度は”例の彼”が出てきちゃって」
会計の腕に飛びついた愛野くんは、「レンは俺の恋人だ!」って宣言して。みんなに見せつけるように、キスしたらしい。どええ。
ほしたら、感動した会計が愛野くんとイチャイチャし始めたんやって。
美少年は、くりくりした目をカッと見開いて叫んだ。
「この鬼畜の振る舞いに、未練あった子は泣き出しちゃうし。酷いと思いませんかぁ!?」
「それは、辛いっすね……」
「何と言うたらええか」
辛い。辛すぎる。かたっぽ知り合いの話やから、尚更。おれと晴海は、言葉に詰まった。
そのときの様子を思い出したんか、他の美少年たちも沈痛な顔しとる。
と、優姫くんが咳払いした。
「こら、真柴。よく知らない子に印象操作しないの。茅ヶ崎も、おかげで吹っ切れたって言っていたでしょう」
「だって、隊長! 悔しいじゃないですか。僕らの前でズボンに手ェ突っ込んで、尻をまさぐってたんですよ、あの男!」
「まあ、劒谷くんだし。おっぱじめなかっただけ偉いって。それに……そういうスケベなとこに、僕らも助けられてたじゃない」
「ああ~。それを言われると弱いですぅ……!」
納得したげに頷き合う美少年たちに、おれと晴海は震撼した。
「すげえな……」
「はわ……」
最悪、人前でおっぱじめるんかい! 会計――あの男、恐ろしすぎるやろ。納得してるみんなも、度量深すぎんか?
先に気をとり直した晴海が、神妙な顔で言う。
「そりゃ、疲れたでしょうね。お疲れさんです」
「あはは。まあ、劔谷くんが本気だって、よくわかったよ。……幸い、彼のこと吹っ切れてるから。脱力してはいるけど、憎まずに済むってラクだよね」
ハッとする。
ニッコリ笑った顔は、スッキリして見えた。その笑顔に、怒っていた真柴くんも朗らかになって、握りこぶしを掲げる。
「まあ、隊長が言うなら、僕らも受け入れます。「暴れるだけ損です」って仲間たちに言い含めてるので、治安の面でもご安心を!」
「優姫くん。真柴くん。ありがとう……!」
優姫くん達は、朗らかに笑って去って行った。手を振りながら、おれは胸にこみ上げるものを感じていた。
「優姫くんたち、凄いなあ。すっごい腹立ったと思うのに……」
会計のことも愛野くんのことも憎まんと、仲間と励まし合って。
素敵やね……。
じーんとしていたら、晴海が穏やかに言うた。
「立派よなぁ。好きなやつが他の野郎のもんになるとか、俺やったら許せんわ」
「えっ?」
実感の籠った声に、びっくりして振り向く。
え、どしたん晴海……? 笑った横顔が、やけに大人みたいやん。
なんでそんな顔するん?
ちょっと胸がモヨっとして――晴海のおけつ、つねったらチョップされた。痛い。
「元気そうで、何よりだね」
優姫くんは、ニッコリする。
見れば、優姫くんの周りには、いつかも見た美少年達もおる。彼らは目があうと「はーい」て笑って手ぇ振ってくれた。
思わず、へらへらと振り返す。
「優姫くん、ぐうぜん。こんなとこで、どしたん?」
「僕らは、ちょっとした巡回だよ」
「巡回? そりゃまた、なんで……」
首を傾げた晴海に、優姫くんは肩を竦めてみせた。立ち話も何やという事で、ぞろぞろ連れ立って歩き出す。
「僕らの仲間が、劔谷くんの根城の近くをうろつかないように。……沈静化したとは言っても、諦めきれてない子も多いからさ」
優姫くんの後ろで、「うんうん」と美少年達も頷いている。
晴海と、神妙に頷いた。
「そうですか……お疲れ様です」
「ありがとうね」
「優姫くん……!」
なんて、仲間想いなんやろう。自分も辛いのに、まず仲間のことを考えるなんて。
晴海は気づかわしげに、眉根をよせる。
「しかし。やっぱり、まだ諦めきれてない人もいますよね……」
「まあね……でも、大分落ち着いて来てるよ。彼と仲良いの、散々見てるし……」
優姫くんは、言葉の途中で黙り込んだ。どうしたんやろ? と思ったら。
美少年の一人が、言葉を引き継いだ。
「実は、昨日なんですけど。信じ難い出来事があって!」
彼が怒りながらいうには、こんな事があったらしい。
優姫くんらが、今日とおんなじに巡回してたら、親衛隊の子がこの辺うろうろしてたんやって。その子は、会計の元恋人のひとりやったから、会えばよりを戻してくれるって、諦めがつかんかったらしく。
「僕たちみんな、劒谷さんとは関係持ってたんで、気持ちはわかったんです。だからこそ、邪魔しちゃダメだよ? って宥めてたんですけど……そしたらですよ? 「お前ら、ここで何してんのー?」って本人が来ちゃいまして」
「おお。物まね上手いすね」
「こら、晴海っ」
「いえいえ、実は鉄板芸なんです――話戻しますけど。劒谷さんがすごく怒ってらしたので、隊長が「僕たちはお邪魔するつもりはない」って説明してくれたんですが。「信じられるか」「信じてください」の押し問答の末、今度は”例の彼”が出てきちゃって」
会計の腕に飛びついた愛野くんは、「レンは俺の恋人だ!」って宣言して。みんなに見せつけるように、キスしたらしい。どええ。
ほしたら、感動した会計が愛野くんとイチャイチャし始めたんやって。
美少年は、くりくりした目をカッと見開いて叫んだ。
「この鬼畜の振る舞いに、未練あった子は泣き出しちゃうし。酷いと思いませんかぁ!?」
「それは、辛いっすね……」
「何と言うたらええか」
辛い。辛すぎる。かたっぽ知り合いの話やから、尚更。おれと晴海は、言葉に詰まった。
そのときの様子を思い出したんか、他の美少年たちも沈痛な顔しとる。
と、優姫くんが咳払いした。
「こら、真柴。よく知らない子に印象操作しないの。茅ヶ崎も、おかげで吹っ切れたって言っていたでしょう」
「だって、隊長! 悔しいじゃないですか。僕らの前でズボンに手ェ突っ込んで、尻をまさぐってたんですよ、あの男!」
「まあ、劒谷くんだし。おっぱじめなかっただけ偉いって。それに……そういうスケベなとこに、僕らも助けられてたじゃない」
「ああ~。それを言われると弱いですぅ……!」
納得したげに頷き合う美少年たちに、おれと晴海は震撼した。
「すげえな……」
「はわ……」
最悪、人前でおっぱじめるんかい! 会計――あの男、恐ろしすぎるやろ。納得してるみんなも、度量深すぎんか?
先に気をとり直した晴海が、神妙な顔で言う。
「そりゃ、疲れたでしょうね。お疲れさんです」
「あはは。まあ、劔谷くんが本気だって、よくわかったよ。……幸い、彼のこと吹っ切れてるから。脱力してはいるけど、憎まずに済むってラクだよね」
ハッとする。
ニッコリ笑った顔は、スッキリして見えた。その笑顔に、怒っていた真柴くんも朗らかになって、握りこぶしを掲げる。
「まあ、隊長が言うなら、僕らも受け入れます。「暴れるだけ損です」って仲間たちに言い含めてるので、治安の面でもご安心を!」
「優姫くん。真柴くん。ありがとう……!」
優姫くん達は、朗らかに笑って去って行った。手を振りながら、おれは胸にこみ上げるものを感じていた。
「優姫くんたち、凄いなあ。すっごい腹立ったと思うのに……」
会計のことも愛野くんのことも憎まんと、仲間と励まし合って。
素敵やね……。
じーんとしていたら、晴海が穏やかに言うた。
「立派よなぁ。好きなやつが他の野郎のもんになるとか、俺やったら許せんわ」
「えっ?」
実感の籠った声に、びっくりして振り向く。
え、どしたん晴海……? 笑った横顔が、やけに大人みたいやん。
なんでそんな顔するん?
ちょっと胸がモヨっとして――晴海のおけつ、つねったらチョップされた。痛い。
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