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第一章 おけつの危機を回避したい
二十九話
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「晴海。竹っち、どうしたんやろなあ?」
「ん?」
寮の部屋で、ショリショリりんごをすりながら尋ねた。晴海は、数学の課題から目を上げる。
「竹っち、最近ふらっとおらんようになるやん? どこいってんにゃろ」
今日の朝もな、「やることないなー」って言いつつ、早くに登校しとったんやけどさ。
「ちょっとトイレ」って行ったっきり、授業はじまるまで帰ってこんかったり。上杉らが言うには、お昼も別で食べたらしいし。放課後も、「用事ある」ってパーって帰ってしもたし……
指おりつつ、くどくど言うとったら、晴海が苦笑する。
「シゲル。竹っちも、男なんやから。一人になりたいときくらいあるやろ」
「そうやけど……竹っち、寂しがりやしさ。なんか、思いつめてたりせえへんかなぁ」
「大丈夫ちゃうか。あいつ、楽しそうな顔しとるし……」
そうかしら。
試しに、「どこか」から帰ってくるときの竹っちを思い浮かべる。……確かに、いっつもニコニコ笑顔で、「たっだいまー!」て帰ってきとったな。
おれはへらっとする。
「そうかも!」
「そうやろ?」
話聞いてもろて、スッとした!
安心したおれは、ハチミツりんごの器を差し出した。晴海はとたん、相好を崩す。
「ありがとう! ちょっと食い足らんなあ、と思っててん」
「ふふふ。そんなこったろー思った!」
晴海、普段めっちゃ食べるのに、きつねうどんだけやったもんな。お替りもしてたけど、わびしそうな顔してたん、幼馴染は見逃さへんねんで。
「口痛いの、大変やなあ。まだ大分痛い?」
「はは。もう、殆どええねんで。たまたま、今日の定食が激辛マーボやったから、遠慮しただけで」
「そうなん?!」
「おう。もう、顔も腫れひいとるやろ?」
晴海は顔を傾けると、湿布を捲ってほっぺを見せてくれる。……ほんまや。青タンなっとるけど、いつものほっぺになっとる。
「良かったあ。痛みは?」
「なんも。青タンは慣れっこやから」
「そっか。晴海、よう顔腫らしてたもんなぁ」
「うん」
晴海は片頬で笑う。
青くなったほっぺ見てたら、確かに懐かしい感じがした。
今でこそゲームばっかしとるけど、小学生のころ、晴海は空手やっててな。
かなり強かったし、お父さんが熱心な人やったから。いっつも顔と言わず、あっちこっち青タンだらけにしてたんや。
おれはその度、ひゃあひゃあ騒いで湿布を貼ってまわって……。あれ、おれ、成長してへんくない?
ゴフンと咳払いして、捲れた湿布をぺたっと貼りなおす。
「お風呂上りに貼りなおそな。おれ、貼ったげる」
「ありがとうなー」
「ううん。でも、もう怪我せんといてな?」
おれな、晴海が空手やめてから、青タン作らんようになって嬉しかった。晴海は悔しかったと思うし、そんなん口が裂けても言えへんけど……。
晴海はきょとんとして、「おう」って頷いてくれた。
「シゲルは心配性やなあ。昔っから、俺がちょっと怪我したら大騒ぎで」
「えっ。うるさい?」
ビクッとしたら、晴海はりんごを啜りながら、さらっと言う。
「いや? めっちゃ可愛いなーて思ってるけど」
「ふぁ」
完全に不意をつかれて、息を飲む。
一拍置いて、ボアーッて顔が熱くなって。おれは、慌てて晴海の肩をどつく。
「もう、何言うてんの!? そういうの、絡みにくいからやめて!」
「はあ?! こら、叩くんやない! 林檎こぼれるやろっ」
「ふん、知らんわい」
ふいっと明後日をむくと、「何やねん?」と不思議そうな声がする。おれは、カッカするほっぺを抑えてむくれた。
何やねんって、何やねん。おれ心配してんのに、晴海がからかうからやし、
「可愛いとか言われても、別に嬉しないっ」
晴海は、なんかわからんけど……昔っから、可愛いて言うてくる。
――おまえ、かわいいなあ! なまえ、なんていうん?
幼稚園ではじめて会ったときに、これやからね。どんなナンパ師やと思うで。
まあ、おれちっさかったし、女の子と間違ったんやと思うけどさぁ。
でも――もう背ぇ伸びて、声低なって。
可愛いとは程遠いんやから、からかわんといてほしい。
「せやかて、可愛いもん」
「……また言うっ」
キッと睨みつけたら、晴海は肩を竦めた。
「考えてもみぃ。俺んち、親父もお袋も鬼瓦やろ。「はるみ~」言うて、泣いてくれるお前がどんだけ可愛いことか……」
「え」
めっちゃ怖いお父さんお母さんと比べて、相対的に可愛い……ってこと?
じゃあ、おれ自体を、可愛いと思ってるわけやないのね。
……へーえ。
「さいですか! 良かったわ」
「ちょお! なんでもっと機嫌悪いねん」
「知らん。晴海のアホ」
アホの晴海はほっといて、風呂に入ることにした。
ええもん……髪の毛「は」綺麗らしいからな。
せいぜい、リンスでもしたらええんやろ。ふん!
「ん?」
寮の部屋で、ショリショリりんごをすりながら尋ねた。晴海は、数学の課題から目を上げる。
「竹っち、最近ふらっとおらんようになるやん? どこいってんにゃろ」
今日の朝もな、「やることないなー」って言いつつ、早くに登校しとったんやけどさ。
「ちょっとトイレ」って行ったっきり、授業はじまるまで帰ってこんかったり。上杉らが言うには、お昼も別で食べたらしいし。放課後も、「用事ある」ってパーって帰ってしもたし……
指おりつつ、くどくど言うとったら、晴海が苦笑する。
「シゲル。竹っちも、男なんやから。一人になりたいときくらいあるやろ」
「そうやけど……竹っち、寂しがりやしさ。なんか、思いつめてたりせえへんかなぁ」
「大丈夫ちゃうか。あいつ、楽しそうな顔しとるし……」
そうかしら。
試しに、「どこか」から帰ってくるときの竹っちを思い浮かべる。……確かに、いっつもニコニコ笑顔で、「たっだいまー!」て帰ってきとったな。
おれはへらっとする。
「そうかも!」
「そうやろ?」
話聞いてもろて、スッとした!
安心したおれは、ハチミツりんごの器を差し出した。晴海はとたん、相好を崩す。
「ありがとう! ちょっと食い足らんなあ、と思っててん」
「ふふふ。そんなこったろー思った!」
晴海、普段めっちゃ食べるのに、きつねうどんだけやったもんな。お替りもしてたけど、わびしそうな顔してたん、幼馴染は見逃さへんねんで。
「口痛いの、大変やなあ。まだ大分痛い?」
「はは。もう、殆どええねんで。たまたま、今日の定食が激辛マーボやったから、遠慮しただけで」
「そうなん?!」
「おう。もう、顔も腫れひいとるやろ?」
晴海は顔を傾けると、湿布を捲ってほっぺを見せてくれる。……ほんまや。青タンなっとるけど、いつものほっぺになっとる。
「良かったあ。痛みは?」
「なんも。青タンは慣れっこやから」
「そっか。晴海、よう顔腫らしてたもんなぁ」
「うん」
晴海は片頬で笑う。
青くなったほっぺ見てたら、確かに懐かしい感じがした。
今でこそゲームばっかしとるけど、小学生のころ、晴海は空手やっててな。
かなり強かったし、お父さんが熱心な人やったから。いっつも顔と言わず、あっちこっち青タンだらけにしてたんや。
おれはその度、ひゃあひゃあ騒いで湿布を貼ってまわって……。あれ、おれ、成長してへんくない?
ゴフンと咳払いして、捲れた湿布をぺたっと貼りなおす。
「お風呂上りに貼りなおそな。おれ、貼ったげる」
「ありがとうなー」
「ううん。でも、もう怪我せんといてな?」
おれな、晴海が空手やめてから、青タン作らんようになって嬉しかった。晴海は悔しかったと思うし、そんなん口が裂けても言えへんけど……。
晴海はきょとんとして、「おう」って頷いてくれた。
「シゲルは心配性やなあ。昔っから、俺がちょっと怪我したら大騒ぎで」
「えっ。うるさい?」
ビクッとしたら、晴海はりんごを啜りながら、さらっと言う。
「いや? めっちゃ可愛いなーて思ってるけど」
「ふぁ」
完全に不意をつかれて、息を飲む。
一拍置いて、ボアーッて顔が熱くなって。おれは、慌てて晴海の肩をどつく。
「もう、何言うてんの!? そういうの、絡みにくいからやめて!」
「はあ?! こら、叩くんやない! 林檎こぼれるやろっ」
「ふん、知らんわい」
ふいっと明後日をむくと、「何やねん?」と不思議そうな声がする。おれは、カッカするほっぺを抑えてむくれた。
何やねんって、何やねん。おれ心配してんのに、晴海がからかうからやし、
「可愛いとか言われても、別に嬉しないっ」
晴海は、なんかわからんけど……昔っから、可愛いて言うてくる。
――おまえ、かわいいなあ! なまえ、なんていうん?
幼稚園ではじめて会ったときに、これやからね。どんなナンパ師やと思うで。
まあ、おれちっさかったし、女の子と間違ったんやと思うけどさぁ。
でも――もう背ぇ伸びて、声低なって。
可愛いとは程遠いんやから、からかわんといてほしい。
「せやかて、可愛いもん」
「……また言うっ」
キッと睨みつけたら、晴海は肩を竦めた。
「考えてもみぃ。俺んち、親父もお袋も鬼瓦やろ。「はるみ~」言うて、泣いてくれるお前がどんだけ可愛いことか……」
「え」
めっちゃ怖いお父さんお母さんと比べて、相対的に可愛い……ってこと?
じゃあ、おれ自体を、可愛いと思ってるわけやないのね。
……へーえ。
「さいですか! 良かったわ」
「ちょお! なんでもっと機嫌悪いねん」
「知らん。晴海のアホ」
アホの晴海はほっといて、風呂に入ることにした。
ええもん……髪の毛「は」綺麗らしいからな。
せいぜい、リンスでもしたらええんやろ。ふん!
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