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第一章 おけつの危機を回避したい
二十六話
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一夜明けて、日曜の朝――おれは、スーパーに来とった。
なんでか、休みもいつもと同じに起きてまうんよね。晴海はまだ寝てるから、その間に用事すましとこうと思って。
ガラ空きの店内で、カートをころころ転がした。
「りんごと、バナナと~」
朝も早よから、色とりどりの果物がみっちり棚にならんどる。いつも品出しおつかれさんです……って心の中で手を合わせつつ、新鮮な果物を籠にいれた。
「あとは、玉子とカマボコや~」
カートをころころ押して、生もの売り場に行こうとしたら、前からもカート押してくる人がおる。
一瞬、愛野くんかと思ってビビったけど、近づいてみたら別人やった。ホッとした。
「おはようございます~」
「……あ、おはようございます」
ほんで、通りすがりに挨拶したんやけど。相手の声に聞き覚えがある。
「優姫くん?」
「えっ」
ぎょっと振り返った顔を見て、確信する。でっかい眼鏡でわかりづらいけど、思った通りの優姫くんや。
嬉しくなって、へらへら近づいた。
「偶然やねえ。優姫くんも、朝ごはん買いに来たん?」
「ちょっ……ちょっと、大きい声で呼ばないで!」
口にバチン! て平手を食らう。「ふごぉ」って悶絶しとったら、腕をグイグイ引かれて、レジ前の休憩コーナーに連行された。
「どしたん? 優姫くん、生もの大丈夫?」
「乾き物しか買ってないから、平気。そっちは?」
「おれも、りんごとバナナやから」
指でオッケーポーズ作ったら、優姫くんはため息を吐いた。
「ごめん、動揺しちゃって。よく、僕ってわかったね」
「へ?」
「……僕、いつもと雰囲気ちがうでしょ?」
「ああ!」
そういうこと! おれは、ポンと手のひらをグーで叩いた。
「眼鏡でっかいけど、声でわかるよ。ほんで、よう見たら優姫くんやーって」
「本当? 眉毛も描いてないのに、恥ずかしいんだけど……」
「ほんまや! おでこツルツルや~」
「ばっ……やめてよね!」
「あでっ」
優姫くんは、顔を真っ赤にしておれの手を払いのけた。
き、機嫌の悪い猫みたいに、唸っとる。
おれは、ペコペコ頭を下げた。
「ごめん、優姫くん」
「ま、まあ、いいけど。……今井くんさ、休みなのに早いね。学祭の準備にでも行くの?」
「ふぐっ」
思わぬとこからボール飛んできて、脇腹にクリティカルヒットした気分。
学祭の準備……優姫くんの言う通り、ホンマは今日もあるねん。
でも、昨日の今日で、流石に行く気にならんくて。みんなして、おサボりの予定なん。
「なに、その反応?」
優姫くんが、首を傾げた。おれは誤魔化そうと、慌てて口を開く。
「あ、いや。なんでも……」
「何か揉めてるの? 一応、僕が先輩だし。話くらい聞こうか?」
「えっ」
「――なるほど。クラスのリーダーに嫌われて、君のグループがハブになっちゃったんだね?」
結局、おれは洗いざらい話した。
どうも胸が重たくて、誰かに聞いてほしかってん。
でも、みんなには話せへんことやし。
だって、なんか罪悪感があるやんか。みんなを巻き込んどるのに、弱音吐くの……
「おれが、実行委員の子に嫌われとるから……みんなまで、巻き込んでしもてん。初めての学祭で、楽しみに準備してたのに。おれ、どうしたらええかなぁって」
しょんぼりと肩を落とすと、優姫くんは「うーん」と唸った。
「そうだなあ。何もできないことは、無いとおもうよ。悔しいだろうけど、謝りに行ってさ。もう一度、仲間にいれて貰うとか……」
「ふむふむ」
「でもね? そうやって相手に折れることを――君の友達が、喜ぶかは分からないよ」
「!」
おれは、息を飲む。
「今井くんが、その子に嫌な目に合わされたから。みんな、損したって君の側にいるんでしょ? じゃあ、独断でその子に屈するのは、みんなの思いを裏切ることじゃない?」
「あ……!」
「君が、逆の立場だったらどう?」
「た、確かに……なんで? って思うかも。辛い思いして欲しくて、怒っとったんやないし。せめて、相談してほしい……」
「でしょ。まず、話し合ってごらん?」
優姫くんは、穏やかに言葉を結んだ。
おれは、目からウロコの気分やった。
そっか。おれ、罪悪感とか言うて。みんなの気持ち、ふいにするとこやったんか……
おれは、優姫くんの手を取る。
「ありがとう、優姫くん。おれ、みんなに気持ち言うてみる!」
「ふふ、頑張ってね」
優姫くんは、にっこりと笑って励ましてくれた。
部屋に戻ると、晴海はまだ眠っとった。
おれは、そーっと起こさんように近づいてく。
「……」
湿布貼ったほっぺは、昨日より腫れて痛々しい。痛み止め飲んでるからか、ぐっすり眠っとるみたいやけど……
「晴海……」
胸が、ギュッて痛い。
おれのためにって思うと、やっぱり辛くなる。
でも……優姫くんと話したことを思い出すんや。
晴海は、おれを守ってくれた。おれは、その気持ちを受け止めて、大切にしたい。
「ありがとう、晴海」
今日は、お昼におうどん炊くねん。やわらかくて栄養あるもん言うたら、やっぱこれやんね。
晴海、お出汁のいい匂いで起こしたるから、楽しみにするんやで。
そして、翌朝。
お天気は、心機一転にふさわしい、秋晴れ。
今日も今日とて、晴海と一緒に登校する。
「晴海、ほっぺ痛かったら言うてな?」
「はは、大丈夫やて」
シップも痛み止めも万全やで。そう言うたら、晴海は頭をポンポン撫でてくれた。
下駄箱にきたとき、肩を叩かれて振り返る。
「おっす!」
「おはよう、竹っち……?」
疑問形になったんは、しかたない。
「お前、竹っちか?」
「はん? 友達がわかんねーかよ?!」
いや、声でわかるけど、驚くくらい許してや。
だって、竹っち、トレードマークの眼鏡なくなってるやんか!
なんでか、休みもいつもと同じに起きてまうんよね。晴海はまだ寝てるから、その間に用事すましとこうと思って。
ガラ空きの店内で、カートをころころ転がした。
「りんごと、バナナと~」
朝も早よから、色とりどりの果物がみっちり棚にならんどる。いつも品出しおつかれさんです……って心の中で手を合わせつつ、新鮮な果物を籠にいれた。
「あとは、玉子とカマボコや~」
カートをころころ押して、生もの売り場に行こうとしたら、前からもカート押してくる人がおる。
一瞬、愛野くんかと思ってビビったけど、近づいてみたら別人やった。ホッとした。
「おはようございます~」
「……あ、おはようございます」
ほんで、通りすがりに挨拶したんやけど。相手の声に聞き覚えがある。
「優姫くん?」
「えっ」
ぎょっと振り返った顔を見て、確信する。でっかい眼鏡でわかりづらいけど、思った通りの優姫くんや。
嬉しくなって、へらへら近づいた。
「偶然やねえ。優姫くんも、朝ごはん買いに来たん?」
「ちょっ……ちょっと、大きい声で呼ばないで!」
口にバチン! て平手を食らう。「ふごぉ」って悶絶しとったら、腕をグイグイ引かれて、レジ前の休憩コーナーに連行された。
「どしたん? 優姫くん、生もの大丈夫?」
「乾き物しか買ってないから、平気。そっちは?」
「おれも、りんごとバナナやから」
指でオッケーポーズ作ったら、優姫くんはため息を吐いた。
「ごめん、動揺しちゃって。よく、僕ってわかったね」
「へ?」
「……僕、いつもと雰囲気ちがうでしょ?」
「ああ!」
そういうこと! おれは、ポンと手のひらをグーで叩いた。
「眼鏡でっかいけど、声でわかるよ。ほんで、よう見たら優姫くんやーって」
「本当? 眉毛も描いてないのに、恥ずかしいんだけど……」
「ほんまや! おでこツルツルや~」
「ばっ……やめてよね!」
「あでっ」
優姫くんは、顔を真っ赤にしておれの手を払いのけた。
き、機嫌の悪い猫みたいに、唸っとる。
おれは、ペコペコ頭を下げた。
「ごめん、優姫くん」
「ま、まあ、いいけど。……今井くんさ、休みなのに早いね。学祭の準備にでも行くの?」
「ふぐっ」
思わぬとこからボール飛んできて、脇腹にクリティカルヒットした気分。
学祭の準備……優姫くんの言う通り、ホンマは今日もあるねん。
でも、昨日の今日で、流石に行く気にならんくて。みんなして、おサボりの予定なん。
「なに、その反応?」
優姫くんが、首を傾げた。おれは誤魔化そうと、慌てて口を開く。
「あ、いや。なんでも……」
「何か揉めてるの? 一応、僕が先輩だし。話くらい聞こうか?」
「えっ」
「――なるほど。クラスのリーダーに嫌われて、君のグループがハブになっちゃったんだね?」
結局、おれは洗いざらい話した。
どうも胸が重たくて、誰かに聞いてほしかってん。
でも、みんなには話せへんことやし。
だって、なんか罪悪感があるやんか。みんなを巻き込んどるのに、弱音吐くの……
「おれが、実行委員の子に嫌われとるから……みんなまで、巻き込んでしもてん。初めての学祭で、楽しみに準備してたのに。おれ、どうしたらええかなぁって」
しょんぼりと肩を落とすと、優姫くんは「うーん」と唸った。
「そうだなあ。何もできないことは、無いとおもうよ。悔しいだろうけど、謝りに行ってさ。もう一度、仲間にいれて貰うとか……」
「ふむふむ」
「でもね? そうやって相手に折れることを――君の友達が、喜ぶかは分からないよ」
「!」
おれは、息を飲む。
「今井くんが、その子に嫌な目に合わされたから。みんな、損したって君の側にいるんでしょ? じゃあ、独断でその子に屈するのは、みんなの思いを裏切ることじゃない?」
「あ……!」
「君が、逆の立場だったらどう?」
「た、確かに……なんで? って思うかも。辛い思いして欲しくて、怒っとったんやないし。せめて、相談してほしい……」
「でしょ。まず、話し合ってごらん?」
優姫くんは、穏やかに言葉を結んだ。
おれは、目からウロコの気分やった。
そっか。おれ、罪悪感とか言うて。みんなの気持ち、ふいにするとこやったんか……
おれは、優姫くんの手を取る。
「ありがとう、優姫くん。おれ、みんなに気持ち言うてみる!」
「ふふ、頑張ってね」
優姫くんは、にっこりと笑って励ましてくれた。
部屋に戻ると、晴海はまだ眠っとった。
おれは、そーっと起こさんように近づいてく。
「……」
湿布貼ったほっぺは、昨日より腫れて痛々しい。痛み止め飲んでるからか、ぐっすり眠っとるみたいやけど……
「晴海……」
胸が、ギュッて痛い。
おれのためにって思うと、やっぱり辛くなる。
でも……優姫くんと話したことを思い出すんや。
晴海は、おれを守ってくれた。おれは、その気持ちを受け止めて、大切にしたい。
「ありがとう、晴海」
今日は、お昼におうどん炊くねん。やわらかくて栄養あるもん言うたら、やっぱこれやんね。
晴海、お出汁のいい匂いで起こしたるから、楽しみにするんやで。
そして、翌朝。
お天気は、心機一転にふさわしい、秋晴れ。
今日も今日とて、晴海と一緒に登校する。
「晴海、ほっぺ痛かったら言うてな?」
「はは、大丈夫やて」
シップも痛み止めも万全やで。そう言うたら、晴海は頭をポンポン撫でてくれた。
下駄箱にきたとき、肩を叩かれて振り返る。
「おっす!」
「おはよう、竹っち……?」
疑問形になったんは、しかたない。
「お前、竹っちか?」
「はん? 友達がわかんねーかよ?!」
いや、声でわかるけど、驚くくらい許してや。
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