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第一章 おけつの危機を回避したい
二十五話
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「ホント、ごめん!」
階段下の廊下におれらを連れてって、山田は両手をあわせた。歯切れのいい謝罪に、ポカンとしてまう。
「えっ、何で?」
「大橋がひでぇこと言ったらしいじゃん。「愛野を嵌めるために、俺達の絵を利用するな」とかなんとか……俺、びっくりしてよ。とにかく、お前らに謝んねーとと思って」
「山田……。俺らを信じてくれるんか?」
晴海が目を見開く。山田は心外だ、というように肩を竦めた。
「信じるも何も。誰が一番手伝いに来てくれてたか、わかんねーほど馬鹿じゃねえって」
「や、山田ぁ!」
おれらは感激して、山田に飛びついた。よかった、ちゃんと見てくれてる奴がおったんや……! みんながみんな、向こうを信じてしまったわけや無いってことが、めちゃくちゃ嬉しい。
「ありがとな、山田!」
「よせやい。……大橋のやつもさ、本当はわかってると思うんだよ。お前らがそんなんじゃないって。今はなんか、新しいツレに妙なテンションになっちまってるだけでさ。桃園は、大橋につられてるだけだろうし」
「そうか……」
「だからって、お前らに不義理していいわけじゃねえけど。俺、もっぺん話してみるつもりだから……あいつらのこと、もうちょっと信じてやってくれねぇかな」
山田の話しぶりは、懸命やった。親友の大橋と桃園のために、おれらに釈明しにきてくれたんやな。ええ奴やで。
おれらは、誰からともなく笑い合った。
「山田にそこまで言われたら、かなわんなあ」
晴海が、穏やかな声で言う。そしたら、上杉と鈴木も「そうだな」って頷いた。竹っちも、肩を竦める。
「あいつらにゃ、「おい!」って思わんでもねえけど。わかってくれんなら、それでいいよ」
「おれも。一緒にやってきたもんな」
「お前ら……! サンキューな!」
山田は、パッと顔を輝かせた。今夜、三人で話をしてみるから、結果を待ってて欲しいって。
教室に戻ってく山田に手を振って、おれらは帰った。
ほんで。
スーパーで食べ物を買い込んで、おれらの部屋で駄弁ることにしてん。
「ぶっちゃけ俺、ホッとしたよ」
ペヤングを啜りながら、竹っちが言う。上杉と鈴木も、相槌を打った。
「ああ。正味言うと、クラスの奴ら怖えーって思ったし」
「でも……わかってくれてる奴、他にもいるかもって思えてきた」
みんな、やっぱホッとしたんよな。和やかな雰囲気に、気がゆるむ。
「晴海、りんごすってみてん。食べれそう?」
「おっ! ありがとうな、シゲル」
器を渡したら、晴海は嬉しそうに食べ始めた。
晴海の家、りんごすったやつに蜂蜜かけたの、具合悪いときの定番やねんて。すりりんごって、あんま食うたことないねんけど、味は大丈夫やろか。じーっと見てたら「ヒュー!」て、口笛が。
「新妻シゲちゃん~」
「アーンしろ、アーン!」
「や、やめえや、もう!」
すかさず囃し立てられて、顔が真っ赤になった。せやのに、晴海は「羨ましいやろー?」ってしゃあしゃあとしとる。おればっか、恥ずかしくてずるいわ。
メシ食うて、喋っとったら一気に時間過ぎてった。お腹いっぱいになって、疲れが出たんか晴海がウトウトし始めて。みんな、「そろそろ帰るかー」って尻を上げた、そのとき。
――ドン、ドン!
勢いよく、部屋がノックされた。
「何や、何や」ってドアを開けたら、山田が立っとった。俯いて、なにやらただならぬ雰囲気や。
「山田?」
「今井……! あいつら、ありえねんだけど!」
ガシッ、とおれの肩を掴んで、山田は吠えた。
その目が真っ赤で、はっと息を飲む。めっちゃ怒ってるみたいやけど、泣いた後みたいに見えたから。
ともかく、部屋に入ってもらって、話を聞くことんなってん。
「山田、どうしたんや」
「……あいつらに、「絶対、勘違いだから謝ろう」って話したんだけどさあ。まるで聞く耳持たねえの。愛野に相当、参っちまってるみてー」
山田が言うには――大橋も桃園も「天使は悪い子じゃないし、人を嫌う子じゃない。天使が嫌ってるなら、今井たちに原因があるんじゃないか」って言うてたんやって。おれ、信頼なさすぎん……?
山田は悔しそうに、口をゆがめた。
「挙句の果てには、お前らの肩持つなら、グループから出てけって言われた」
「ええっ!?」
みんな、過激すぎるやり口に度肝を抜かれた。おれらだけならともかく、仲良しの山田にまで――?!
「そんな、ひどいやんか……!」
「だろ?! 俺らの友情は何だったんだって思うわ。ムカつくから、「じゃあいいです」って言って出てきてやったんだ!」
「そうだったのか……」
山田は、いっつもご機嫌な奴やねん。こんなに怒ってんの、初めて見たくらいやけど――怖いより、悲しくなった。
友達に気持ちが伝わらんくて……ほんまは泣きたい気分なんがわかるから。
みんな、沈痛な面持ちで黙ってしまう。
「……つうわけでさ、明日からお前らんとこ入れてくれん?」
山田は重い空気を払拭するような、明るい声でそう言った。おれらは、慌てて頷く。
「そ、そりゃ、もちろん!」
「ごめんな、俺らのために……」
「いいんだよ! あんな薄情者、俺の方から切ってやる」
山田の無理しとる顔をみて、おれは胸が痛くなった。
――天使が嫌うなら、今井たちに原因がある……。
……うすうす、感づいとったんやけど。
おれが、悪役モブで。
愛野くんに嫌われとるから――竹っちや、上杉と鈴木。山田も、悲しい思いしてるんやな。
「シゲル?」
「ううん……」
胸に、どっかり石を置かれた気分や。みんなに申し訳なくて、俯いた。
階段下の廊下におれらを連れてって、山田は両手をあわせた。歯切れのいい謝罪に、ポカンとしてまう。
「えっ、何で?」
「大橋がひでぇこと言ったらしいじゃん。「愛野を嵌めるために、俺達の絵を利用するな」とかなんとか……俺、びっくりしてよ。とにかく、お前らに謝んねーとと思って」
「山田……。俺らを信じてくれるんか?」
晴海が目を見開く。山田は心外だ、というように肩を竦めた。
「信じるも何も。誰が一番手伝いに来てくれてたか、わかんねーほど馬鹿じゃねえって」
「や、山田ぁ!」
おれらは感激して、山田に飛びついた。よかった、ちゃんと見てくれてる奴がおったんや……! みんながみんな、向こうを信じてしまったわけや無いってことが、めちゃくちゃ嬉しい。
「ありがとな、山田!」
「よせやい。……大橋のやつもさ、本当はわかってると思うんだよ。お前らがそんなんじゃないって。今はなんか、新しいツレに妙なテンションになっちまってるだけでさ。桃園は、大橋につられてるだけだろうし」
「そうか……」
「だからって、お前らに不義理していいわけじゃねえけど。俺、もっぺん話してみるつもりだから……あいつらのこと、もうちょっと信じてやってくれねぇかな」
山田の話しぶりは、懸命やった。親友の大橋と桃園のために、おれらに釈明しにきてくれたんやな。ええ奴やで。
おれらは、誰からともなく笑い合った。
「山田にそこまで言われたら、かなわんなあ」
晴海が、穏やかな声で言う。そしたら、上杉と鈴木も「そうだな」って頷いた。竹っちも、肩を竦める。
「あいつらにゃ、「おい!」って思わんでもねえけど。わかってくれんなら、それでいいよ」
「おれも。一緒にやってきたもんな」
「お前ら……! サンキューな!」
山田は、パッと顔を輝かせた。今夜、三人で話をしてみるから、結果を待ってて欲しいって。
教室に戻ってく山田に手を振って、おれらは帰った。
ほんで。
スーパーで食べ物を買い込んで、おれらの部屋で駄弁ることにしてん。
「ぶっちゃけ俺、ホッとしたよ」
ペヤングを啜りながら、竹っちが言う。上杉と鈴木も、相槌を打った。
「ああ。正味言うと、クラスの奴ら怖えーって思ったし」
「でも……わかってくれてる奴、他にもいるかもって思えてきた」
みんな、やっぱホッとしたんよな。和やかな雰囲気に、気がゆるむ。
「晴海、りんごすってみてん。食べれそう?」
「おっ! ありがとうな、シゲル」
器を渡したら、晴海は嬉しそうに食べ始めた。
晴海の家、りんごすったやつに蜂蜜かけたの、具合悪いときの定番やねんて。すりりんごって、あんま食うたことないねんけど、味は大丈夫やろか。じーっと見てたら「ヒュー!」て、口笛が。
「新妻シゲちゃん~」
「アーンしろ、アーン!」
「や、やめえや、もう!」
すかさず囃し立てられて、顔が真っ赤になった。せやのに、晴海は「羨ましいやろー?」ってしゃあしゃあとしとる。おればっか、恥ずかしくてずるいわ。
メシ食うて、喋っとったら一気に時間過ぎてった。お腹いっぱいになって、疲れが出たんか晴海がウトウトし始めて。みんな、「そろそろ帰るかー」って尻を上げた、そのとき。
――ドン、ドン!
勢いよく、部屋がノックされた。
「何や、何や」ってドアを開けたら、山田が立っとった。俯いて、なにやらただならぬ雰囲気や。
「山田?」
「今井……! あいつら、ありえねんだけど!」
ガシッ、とおれの肩を掴んで、山田は吠えた。
その目が真っ赤で、はっと息を飲む。めっちゃ怒ってるみたいやけど、泣いた後みたいに見えたから。
ともかく、部屋に入ってもらって、話を聞くことんなってん。
「山田、どうしたんや」
「……あいつらに、「絶対、勘違いだから謝ろう」って話したんだけどさあ。まるで聞く耳持たねえの。愛野に相当、参っちまってるみてー」
山田が言うには――大橋も桃園も「天使は悪い子じゃないし、人を嫌う子じゃない。天使が嫌ってるなら、今井たちに原因があるんじゃないか」って言うてたんやって。おれ、信頼なさすぎん……?
山田は悔しそうに、口をゆがめた。
「挙句の果てには、お前らの肩持つなら、グループから出てけって言われた」
「ええっ!?」
みんな、過激すぎるやり口に度肝を抜かれた。おれらだけならともかく、仲良しの山田にまで――?!
「そんな、ひどいやんか……!」
「だろ?! 俺らの友情は何だったんだって思うわ。ムカつくから、「じゃあいいです」って言って出てきてやったんだ!」
「そうだったのか……」
山田は、いっつもご機嫌な奴やねん。こんなに怒ってんの、初めて見たくらいやけど――怖いより、悲しくなった。
友達に気持ちが伝わらんくて……ほんまは泣きたい気分なんがわかるから。
みんな、沈痛な面持ちで黙ってしまう。
「……つうわけでさ、明日からお前らんとこ入れてくれん?」
山田は重い空気を払拭するような、明るい声でそう言った。おれらは、慌てて頷く。
「そ、そりゃ、もちろん!」
「ごめんな、俺らのために……」
「いいんだよ! あんな薄情者、俺の方から切ってやる」
山田の無理しとる顔をみて、おれは胸が痛くなった。
――天使が嫌うなら、今井たちに原因がある……。
……うすうす、感づいとったんやけど。
おれが、悪役モブで。
愛野くんに嫌われとるから――竹っちや、上杉と鈴木。山田も、悲しい思いしてるんやな。
「シゲル?」
「ううん……」
胸に、どっかり石を置かれた気分や。みんなに申し訳なくて、俯いた。
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