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第一章 おけつの危機を回避したい

十七話

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 驚きのはじまりは、朝のホームルームからやったんや。

「昨日言ってた、喫茶店のことだけど! 賛成のひと、手をあげてください!」

 教卓に、バンッと手を着いて愛野くんが号令した。
 あ。そもそもの話しな。
 うちのクラス、トリックアートの展示する予定でさ。夏休みも集まった甲斐で、あとは作品の仕上げするだけやってんな。
 でも昨日、愛野くんが「それじゃ弱いから、喫茶店にしよう!」って言いだして。ニ週間もないし、「流石に無理だろー!」って、クラス一同突っ込んだわけ。「無理」って説得したい委員長と、「諦めたくない」愛野くんで、会議が踊りに踊ってな。話し合いは、持ち越すことになってんけど……

「はい! 賛成!」
「俺もやりたい!」

 今朝になって、みんなの手があがるあがる。バブル期のタクシー乗り場みたいになっとって、度肝を抜かれたわ。

「よっし! 賛成多数で、喫茶店に決定! じゃあ、学園祭のコンセプトは『世界の秘境でティータイム』に決定な!」

 愛野くんが、小さな手を高らかに叩く。我先に続く藤崎。続々繋がる拍手の輪で、クラス中がパチパチ音に包まれた。

「ふええ……」

 たった一日で、何が起こったん?
 っと。
 前の席で、なんか書いてた晴海がノートを持ち上げる。見れば、でっかい字で「ばらがく、クソゲーすぎやろ」って書いてあって、噴き出しかけた。
 もう!





「愛野、ありがとう。俺達、喫茶店やりたかったけど、多数決で負けちゃってさ。出来て嬉しいよ!」
「あー俺、多数決って嫌いなんだ。数がすくねえからって、無視すんの違うと思うし。やっぱり、みんなが楽しめるのにしてぇじゃん!」
「すごいな、天使は。俺なんか、最初から諦めてたよ」
「何言ってんだよ、良太が頑張ってたから、俺が好きに出来るんだって!」
「天使……!」
 
 HAHAHA! と高らかに笑い合う、愛野くんとクラスメイト達。
 乗り遅れて、おれらは遠巻きに眺めとった。

「何かよ。昨日、藤崎と愛野がクラスメイトに聞き込みしたらしいぜ。そんで、喫茶店の案出してた奴らと意気投合して、こんな感じに」
「いや、そうはならんだろ」
「なってんだから、しょーがねえべ。俺ら、全然話し聞いてねーけどな」

 竹っちが、半笑いでコーヒーを啜る。おれは、その怒った肩をタップした。

「まあまあ。決まったからには、楽しもうや」
「今井はお気楽だな~。でもまあ、膨れてても仕方ないわよな」

 上杉が、後押ししてくれる。晴海も、拳をつくった。

「企画聞く限り、夏休み、頑張ったの無駄にはならんし。どうせやから、めっちゃええ店して、模擬店一位とったろうや」
「ははは……そうだな! まあ、どうせなら楽しむか」

 気の合う仲間がおると、無茶なことも「まあええか」ってなるよね。
 わははって笑いあって、おれらはさっさと長いもんに巻かれたんや。



 ほんで、早速大急ぎで、準備が始まった。
 学祭準備の為に設けられた、臨時授業の真っ最中。

「藤崎、おれら何か出来ることある?」
「……今井」

 愛野くんに、直で行くんは怖いから。副リーダーで指揮取っとる藤崎に、指示を仰ぎに行ったんよ。 

「してもらうことは、今のところないかな。何かしようにも、決まってないことが多すぎるから」
「そう? てか今、何決めてんの?」
「席の規模とか……また、細かいことが決まったら、ホームルームで言うから」

 竹っちの質問に、藤崎はさくっと答えて、愛野くんの方へ行ってしまった。で、愛野くんらは、元々喫茶店やりたかったメンバーと、メニューのことで話してるみたいやった。

「まあ、皆で話し合ってる時間もねえか……」
「あいつらが、そもそも乗り気だったし。色々やりてえことあんだろーし」

 鈴木と上杉も、顔を見合わせた。そうは言うても、ちょっと寂しそうな顔しとった。

「わっ」

 頭を、急にわしわしかき回される。顔上げたら、晴海が笑っとった。

「今、することないみたいやし。トリックアートの様子でも見に行こか。」
「……そうやな!」

 あっちも、もうじき完成やから。干したり、掃除したり、なんか色々出来ることあるかも。
 そういうわけで、トリックアート班のおる、美術室へ向かったん。




「うわーすごい! めっちゃ秘境やなー!」
「そうでしょ?」

 トリックアートは、ド迫力になっとった。夏休みにあらかた終わって、あとは仕上げだけていうてたのに。美術部員の筆て、魔法の杖か何かかしら。
 仕上げは、美術部員が威信にかけてやるとのことで。おれら、あんま出来ることなかったけど。いろいろ話しながら、お手伝いしてん。
……急な方針転換に、みんな気落ちしとるみたいやった。特に、リーダーの大橋はガックリきとるみたいで、今日は早退してしもたって。

「それは……なんて言うたらええか……」
「でも、みんなで頑張ってきたんだし。いい作品にしたいから、最後まで頑張るよ」

 副リーダーの桃園が、にっこり笑って刷毛を掲げた。おれらは、ジーンときて鼻を啜る。

「凄えよ、お前ら。俺達も手伝うぜ!」
「ありがとう!」


 そんで、お手伝いして、帰ってきたんやけど。
 ドア、がらがらーって開けた瞬間、仁王立ちの愛野くんが、睨んできてたわけ。

「どこ行ってたんだよ!」
「え、びじゅ――」
「なんで、サボるんだよ今井! ちゃんとしてくれよ!」
「へ?! さぼってへんもん!」

 言おうとした瞬間、手に持ってた綾鷹を指さされた。喉乾いたから、皆で飲んでたやつ。

「コンビニ行ってたんだろ?」
「いや、これは朝買ったやつやで」

 って、晴海がフォローしてくれたのを、聞いてか聞かずか。愛野くんは、目を潤ませた。え、ちょ。

「何でだよ……皆でやったほうが、楽しいじゃん! 俺が気に入らなくても、クラスのみんなの気持ち、考えてくれよ!」

 ひ、人の話、聞かへんねんけどー!

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