16 / 112
第一章 おけつの危機を回避したい
十六話
しおりを挟む
放課後――寮の自室に戻って、おれと晴海は姉やんに連絡を取った。
『はーん。始まったわねえ』
会計とのやり取りを聞いて爆笑していた姉やんは、愛野くんが実行委員になったことを話すと、感慨深げに唸った。
『「ばらがく」は学祭を成功させるってのが、全ルート共通のタスクなんだけど。愛野くん自身がリーダーするのは、会計ルートだけなのよ。いやー、思い出深い。無理に実行委員にされたのに、クラス皆に反発されてさー、悪役モブにも妨害されちゃって! ウザかった会計が、次第によく見えてくる不思議だったわー』
「へえー、そうなんや」
頷いてから、「あれ?」てなる。
「もしかせんでも、その妨害してくる「悪役モブ」っておれのことやんな?」
『うん、そうよ』
「やっぱり……。でもおれ、なんも悪いことするつもりないで?」
基本的に、クラスで決まったことは、そのまま乗っかって楽しむタイプやもん。胸張って言うたら、「主体性無いもんね、シゲル」て、何気にディスられた。ひどい。
「てことは、お姉さん。今まで以上に、振る舞いに気ぃ付けた方がいいですね」
頭を撫でてくれながら、晴海が言う。
『ええ。シゲルにそのつもりが無くても、愛野くんに悪く取られちゃうかもだから。出来る限り、愛野くんには関わらないように。でも、協力的にハキハキ動いて! できる?』
「わかった!」
姉やんの喝に、おれは敬礼する。
それやったら出来る。おれ、行事ごととか企画はできひんけど、参加すんのは好きやから。クラスでやる展示品つくりも、夏休みだって皆勤賞やし!
「お前、好きやもんなあ。あーいうの」
「楽しいやんか。そういう晴海も、毎回一緒に出てたやろ?」
「誰かさんが、毎朝起こしに来たもんでー」
「何をっ」
びすびすと腕を突っつきあっとったら、姉やんが咳払いした。
『愛野くんにも注意が必要だけど。もう一人、注意するのは藤崎くんね。彼は、タイマン勝負で負けたことで、愛野くんに心酔しちゃってるの。愛野くんに不利になりそうなものには、常に目を光らせてる。ゲームでは頼りになったけど、敵だと厄介だわ』
「わかりました。……あの、お姉さん。ちょっと考えてたんですけど。この先の物語の展開を、細かく教えてもらう事ってできます? 具体的に何を避けたらええんか知っといたら、手が打ちやすいと思うんですけど」
晴海の提案に、目からうろこが落ちた。
確かに、そうやん! ゲームだって、攻略本見てやったほうがうまくいくんやし。姉やんに、全部教えといてもらったら、よっぽど安全やんか。
『悪いけど、それは出来ないわ』
「えー、なんでっ!?」
おれは、スマホにがばぁと身を乗り出した。晴海も怪訝そうにしとる。
「理由聞いてええすか?」
『これ系のネット小説でね。フラグ回避をしようとするとき、余り知りすぎていない方が上手くいくの。私が思うのに――フラグ回避をしていくごとに、物語は変わっていくでしょう? ってことは、話が変わるほど、元の知識は役に立たなくなるわ。「こう来たらこう」とか、「あれしたから、次はこうなるはず」とか、知識に拘ると、返って身動きできなくなるんだと思う』
「……なるほど。知っとるせいで、臨機応変に動けへんようになるってことか」
晴海は息を吐いた。
『そうそう。だから、大まかに「破滅の原因」だけ避けて、オリジナリティ出してった方がいいと思う。「高慢ちきが原因で死んだなら、いい子になる」、「家族に裏切られて死ぬなら、家を出る」くらいにね。シゲルの場合は』
「バカップルのふりして、愛野の行動を邪魔せず、化学教師から距離を取る、くらいがええっちゅうことですね」
姉やんの言葉を、晴海が引き継いだ。ようわからんけど、つまり……
「これからも、イベントがいつ何時くるか、わからんままなんやな……」
おれは、がっくりと肩を落とす。あれ怖いから、避けれるもんなら避けたかったぞ。
すると、晴海にガシッと肩を抱かれる。
「シゲル、大丈夫や。俺も一緒やからな。何が来ても、今日みたいに立ち向かおう!」
「晴海……!」
なんて心強いんや……! 肩に乗った手をギュッと握り返し、おれは笑う。
『じゃあ、そういうことで! 明日から、怒涛の日々だと思うけど、二人とも頑張って。さっき言ったこと、くれぐれも守ってね』
「わかった!」
姉やんに、おれらは元気よく頷いた。
しかし――
「おい、今井! どうしてサボるんだ!? ちゃんと参加してくれよっ!」
「サボってへんもん!」
困難は、予想を常に超えてくるんやなあ……。
『はーん。始まったわねえ』
会計とのやり取りを聞いて爆笑していた姉やんは、愛野くんが実行委員になったことを話すと、感慨深げに唸った。
『「ばらがく」は学祭を成功させるってのが、全ルート共通のタスクなんだけど。愛野くん自身がリーダーするのは、会計ルートだけなのよ。いやー、思い出深い。無理に実行委員にされたのに、クラス皆に反発されてさー、悪役モブにも妨害されちゃって! ウザかった会計が、次第によく見えてくる不思議だったわー』
「へえー、そうなんや」
頷いてから、「あれ?」てなる。
「もしかせんでも、その妨害してくる「悪役モブ」っておれのことやんな?」
『うん、そうよ』
「やっぱり……。でもおれ、なんも悪いことするつもりないで?」
基本的に、クラスで決まったことは、そのまま乗っかって楽しむタイプやもん。胸張って言うたら、「主体性無いもんね、シゲル」て、何気にディスられた。ひどい。
「てことは、お姉さん。今まで以上に、振る舞いに気ぃ付けた方がいいですね」
頭を撫でてくれながら、晴海が言う。
『ええ。シゲルにそのつもりが無くても、愛野くんに悪く取られちゃうかもだから。出来る限り、愛野くんには関わらないように。でも、協力的にハキハキ動いて! できる?』
「わかった!」
姉やんの喝に、おれは敬礼する。
それやったら出来る。おれ、行事ごととか企画はできひんけど、参加すんのは好きやから。クラスでやる展示品つくりも、夏休みだって皆勤賞やし!
「お前、好きやもんなあ。あーいうの」
「楽しいやんか。そういう晴海も、毎回一緒に出てたやろ?」
「誰かさんが、毎朝起こしに来たもんでー」
「何をっ」
びすびすと腕を突っつきあっとったら、姉やんが咳払いした。
『愛野くんにも注意が必要だけど。もう一人、注意するのは藤崎くんね。彼は、タイマン勝負で負けたことで、愛野くんに心酔しちゃってるの。愛野くんに不利になりそうなものには、常に目を光らせてる。ゲームでは頼りになったけど、敵だと厄介だわ』
「わかりました。……あの、お姉さん。ちょっと考えてたんですけど。この先の物語の展開を、細かく教えてもらう事ってできます? 具体的に何を避けたらええんか知っといたら、手が打ちやすいと思うんですけど」
晴海の提案に、目からうろこが落ちた。
確かに、そうやん! ゲームだって、攻略本見てやったほうがうまくいくんやし。姉やんに、全部教えといてもらったら、よっぽど安全やんか。
『悪いけど、それは出来ないわ』
「えー、なんでっ!?」
おれは、スマホにがばぁと身を乗り出した。晴海も怪訝そうにしとる。
「理由聞いてええすか?」
『これ系のネット小説でね。フラグ回避をしようとするとき、余り知りすぎていない方が上手くいくの。私が思うのに――フラグ回避をしていくごとに、物語は変わっていくでしょう? ってことは、話が変わるほど、元の知識は役に立たなくなるわ。「こう来たらこう」とか、「あれしたから、次はこうなるはず」とか、知識に拘ると、返って身動きできなくなるんだと思う』
「……なるほど。知っとるせいで、臨機応変に動けへんようになるってことか」
晴海は息を吐いた。
『そうそう。だから、大まかに「破滅の原因」だけ避けて、オリジナリティ出してった方がいいと思う。「高慢ちきが原因で死んだなら、いい子になる」、「家族に裏切られて死ぬなら、家を出る」くらいにね。シゲルの場合は』
「バカップルのふりして、愛野の行動を邪魔せず、化学教師から距離を取る、くらいがええっちゅうことですね」
姉やんの言葉を、晴海が引き継いだ。ようわからんけど、つまり……
「これからも、イベントがいつ何時くるか、わからんままなんやな……」
おれは、がっくりと肩を落とす。あれ怖いから、避けれるもんなら避けたかったぞ。
すると、晴海にガシッと肩を抱かれる。
「シゲル、大丈夫や。俺も一緒やからな。何が来ても、今日みたいに立ち向かおう!」
「晴海……!」
なんて心強いんや……! 肩に乗った手をギュッと握り返し、おれは笑う。
『じゃあ、そういうことで! 明日から、怒涛の日々だと思うけど、二人とも頑張って。さっき言ったこと、くれぐれも守ってね』
「わかった!」
姉やんに、おれらは元気よく頷いた。
しかし――
「おい、今井! どうしてサボるんだ!? ちゃんと参加してくれよっ!」
「サボってへんもん!」
困難は、予想を常に超えてくるんやなあ……。
11
お気に入りに追加
170
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件
水野七緒
BL
ワケあってクラスメイトの女子と交際中の青野 行春(あおの ゆきはる)。そんな彼が、ある日あわや貞操の危機に。彼を襲ったのは星井夏樹(ほしい なつき)──まさかの、交際中のカノジョの「お兄さん」。だが、どうも様子がおかしくて──
※「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」の続編(サイドストーリー)です。
※前作を読まなくてもわかるように執筆するつもりですが、前作も読んでいただけると有り難いです。
※エンドは1種類の予定ですが、2種類になるかもしれません。
私の事を調べないで!
さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と
桜華の白龍としての姿をもつ
咲夜 バレないように過ごすが
転校生が来てから騒がしくなり
みんなが私の事を調べだして…
表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓
https://picrew.me/image_maker/625951
人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない
タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。
対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──
聖也と千尋の深い事情
フロイライン
BL
中学二年の奥田聖也と一条千尋はクラス替えで同じ組になる。
取り柄もなく凡庸な聖也と、イケメンで勉強もスポーツも出来て女子にモテモテの千尋という、まさに対照的な二人だったが、何故か気が合い、あっという間に仲良しになるが…
とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~
無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。
自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる