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第一章 おけつの危機を回避したい
十四話
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瞬発力というのは、危機感とおんなじもんなんやね。
「……あぁ?!」
「わー!」
愛野くんに凄まれた途端、自分がバッタになったかと思ったわ。
――カッターン!
いうて倒れる椅子の音を背に、おれは廊下を走って逃げた。
「ひぃぃ」
なんでいっつも、いきなり怒るん? おれ、ちょっと「状況がわからん」て言うただけやぞ。愛野くん、おれへの心象悪すぎや。
そんな嫌われることした? 正直、おれの方が、愛野くんを嫌う理由あると思うけどな!
人よけながら、闇雲に走っとったら、正面から誰かにぶつかった。
「った」
「ぎゃっ。すみません」
「あれ? お前ー」
たたらを踏んだおれの腕が、ぐいと引かれる。びっくりして顔を上げたら――会計やった。
ひゅ、と息を呑む。
「よく見たらー、天ちゃんに絡んでる奴じゃん?」
「え、あ、覚えて……」
しっかり覚えられとって、膝がガタガタ震えてまう。すると会計は、にやりと笑った。
「あは。天ちゃんを困らせそうだと思ったから、覚えてただけだからー。俺、お前みたいのタイプじゃないし」
「は」
何を言うてんの?
あと、思わせぶりな感じで、八重歯を見せてくるんは何? 甚だ意味がわからんけど、周りの人らは「はぅ……」て息漏らしとった。
「そんなんしません。離してください」
掴まれた腕をぶんぶん振る。くっ、離れへん……!
そしたら、ギャラリーから「レン様……! そんな奴に構わないで!」と悲痛な声が。
見れば、見覚えのある美少年達や。
会計は、冷笑を浮かべる。
「……本当かなぁ? 俺の周り、しつけー奴多いんだよね。俺にその気は無いってのに。勘違いして、好きな子イジメてくるしー」
「痛っ!?」
会計の手に、ギリッと力が込もった。めっちゃ痛くて、じわっと涙が滲む。
「レン様……! そこまで僕らを疎んじて……!」
「僕らはソイツと違うんです! 本当に貴方が好きで……!」
「うるさい」
「っふええん!」
冷たく言われて、美少年達はその場に泣き崩れた。周りはザワザワしつつも、遠巻きにみとる。
ふいに、高い香水の匂いが鼻先を掠め、耳元でボソッと囁かれた。
「見せしめに、お前をバラしちゃおうかな?」
ゾーッ、と怖気が走る。
――怖い!
たまらず、叫んだ。
「うわ~、いやや! 晴海ぃ~!」
わあっと泣き出したおれに、会計が「は?」って言う。
すると、
「シゲルー!」
ドドドド……と直進する猪みたいに、ギャラリーを跳ね除けて――晴海がこっちに向かってきた。
「はるみぃ!」
「シゲル!」
おれらは、ガシッと固く抱き合う。会計の手は、いつの間にか外れてた。
「一人で出て行ったらあかんやろ! 心配したんやで!」
「うええ、晴海~。こわかった~」
「ああ、泣くな泣くな……よしよし、遅なって悪かった」
頭を撫でられて、「ひーん」て泣き声が出る。助かった……。
晴海にしがみついて、肩を涙まみれにしとったら、声がかけられる。
「あの……聞いていい?」
昨日、「優姫くん」て呼ばれてた美少年やった。晴海が、硬い声で応じる。
「何ですか?」
「えーと……君たちは付き合ってるの?」
この状況で、聞くんがそれ? と思わんではなかった。ポカンとしとるおれに代わり、晴海が「はい」と答えた。
「あ……そうなんだ」
そう呟いた優姫くんは、不思議な顔で会計を見た。
なんちゅーか、どっかで見たことある。……そうや、母ちゃんや。父ちゃんが職場でチョコもろたって燥いでたとき――
「その由美子さんって、とっくに結婚してるじゃないね。モテてるつもりで、嫌になっちゃうよ」
母ちゃんに呆れ声で言われて、父ちゃんしおしおになっとったっけ。
優姫くんの視線に、会計は動揺を見せる。
「……へー。あんた、こいつで勃つの? 趣味悪。全然色気ないじゃん」
「はあ?!」
恥ずかしかったんか、こっちに飛び火させてきよった。
てか、色気ないて何やねん! 無いにきまってるやろ、男の子なんやから……!
言い返したろ思って、口を開いたとき――
「ひゃん!?」
ぐにっ、とおけつが掴まれた。晴海が、両手でぐにぐにと揉みしだいてくる。
周囲が「おおっ!」とどよめいて、おれは耳まで熱くなった。
「アホっ! 人前で何すんねん!」
肩を押し返そうとしたら、晴海に耳元で囁かれる。
「シゲル、チャンスやぞ。俺に調子あわせてくれ」
真剣な声に、はっとする。――フラグを回避するための、行動なんやな。そういうことやったら、頑張るで。おれは、小さく頷く。
と。
晴海は手を休めずに、会計を鼻で笑う。
「何やあんた。俺のデカブツに興味あんのか? 悪いけど、かわいい彼女専用や」
――どっ……!
晴海の啖呵に、周囲は湧きに湧いた。笑いのドミノ倒しみたいになって、遠くまで「ワハハ」の波が広がっていく。
優姫くんが、「な、なんて奴だ……」と低い声で呟いたんが聞こえた。
「晴海っ」
勇ましい横顔に、おれは胸が震えた。
お前、おれとおんなじ童貞やんか……! せやのに、男泣かせの会計相手に、この啖呵。これぞジャイアントキリング。
男の中の男や……!
「な……てめぇ……」
一方、会計は真っ青になって、ブチ切れとる。たぶん、そんなこと言われたことなかったんちゃう。
「ふざけんな。誰がてめぇなんぞ……!」
「それこそ、誰がてめぇなんぞじゃ。シゲルかて、俺専用や。なー、シゲル」
晴海が、おれにウインクする。よし、わかったで。おれも――!
「そうやで! おれのデカブツかて、晴海のおけつ専用なんやからな!」
おれは、晴海のおけつを両手で掴んだ。次の瞬間、額をチョップされる。
「違うねん!」
「なんでっ」
「……あぁ?!」
「わー!」
愛野くんに凄まれた途端、自分がバッタになったかと思ったわ。
――カッターン!
いうて倒れる椅子の音を背に、おれは廊下を走って逃げた。
「ひぃぃ」
なんでいっつも、いきなり怒るん? おれ、ちょっと「状況がわからん」て言うただけやぞ。愛野くん、おれへの心象悪すぎや。
そんな嫌われることした? 正直、おれの方が、愛野くんを嫌う理由あると思うけどな!
人よけながら、闇雲に走っとったら、正面から誰かにぶつかった。
「った」
「ぎゃっ。すみません」
「あれ? お前ー」
たたらを踏んだおれの腕が、ぐいと引かれる。びっくりして顔を上げたら――会計やった。
ひゅ、と息を呑む。
「よく見たらー、天ちゃんに絡んでる奴じゃん?」
「え、あ、覚えて……」
しっかり覚えられとって、膝がガタガタ震えてまう。すると会計は、にやりと笑った。
「あは。天ちゃんを困らせそうだと思ったから、覚えてただけだからー。俺、お前みたいのタイプじゃないし」
「は」
何を言うてんの?
あと、思わせぶりな感じで、八重歯を見せてくるんは何? 甚だ意味がわからんけど、周りの人らは「はぅ……」て息漏らしとった。
「そんなんしません。離してください」
掴まれた腕をぶんぶん振る。くっ、離れへん……!
そしたら、ギャラリーから「レン様……! そんな奴に構わないで!」と悲痛な声が。
見れば、見覚えのある美少年達や。
会計は、冷笑を浮かべる。
「……本当かなぁ? 俺の周り、しつけー奴多いんだよね。俺にその気は無いってのに。勘違いして、好きな子イジメてくるしー」
「痛っ!?」
会計の手に、ギリッと力が込もった。めっちゃ痛くて、じわっと涙が滲む。
「レン様……! そこまで僕らを疎んじて……!」
「僕らはソイツと違うんです! 本当に貴方が好きで……!」
「うるさい」
「っふええん!」
冷たく言われて、美少年達はその場に泣き崩れた。周りはザワザワしつつも、遠巻きにみとる。
ふいに、高い香水の匂いが鼻先を掠め、耳元でボソッと囁かれた。
「見せしめに、お前をバラしちゃおうかな?」
ゾーッ、と怖気が走る。
――怖い!
たまらず、叫んだ。
「うわ~、いやや! 晴海ぃ~!」
わあっと泣き出したおれに、会計が「は?」って言う。
すると、
「シゲルー!」
ドドドド……と直進する猪みたいに、ギャラリーを跳ね除けて――晴海がこっちに向かってきた。
「はるみぃ!」
「シゲル!」
おれらは、ガシッと固く抱き合う。会計の手は、いつの間にか外れてた。
「一人で出て行ったらあかんやろ! 心配したんやで!」
「うええ、晴海~。こわかった~」
「ああ、泣くな泣くな……よしよし、遅なって悪かった」
頭を撫でられて、「ひーん」て泣き声が出る。助かった……。
晴海にしがみついて、肩を涙まみれにしとったら、声がかけられる。
「あの……聞いていい?」
昨日、「優姫くん」て呼ばれてた美少年やった。晴海が、硬い声で応じる。
「何ですか?」
「えーと……君たちは付き合ってるの?」
この状況で、聞くんがそれ? と思わんではなかった。ポカンとしとるおれに代わり、晴海が「はい」と答えた。
「あ……そうなんだ」
そう呟いた優姫くんは、不思議な顔で会計を見た。
なんちゅーか、どっかで見たことある。……そうや、母ちゃんや。父ちゃんが職場でチョコもろたって燥いでたとき――
「その由美子さんって、とっくに結婚してるじゃないね。モテてるつもりで、嫌になっちゃうよ」
母ちゃんに呆れ声で言われて、父ちゃんしおしおになっとったっけ。
優姫くんの視線に、会計は動揺を見せる。
「……へー。あんた、こいつで勃つの? 趣味悪。全然色気ないじゃん」
「はあ?!」
恥ずかしかったんか、こっちに飛び火させてきよった。
てか、色気ないて何やねん! 無いにきまってるやろ、男の子なんやから……!
言い返したろ思って、口を開いたとき――
「ひゃん!?」
ぐにっ、とおけつが掴まれた。晴海が、両手でぐにぐにと揉みしだいてくる。
周囲が「おおっ!」とどよめいて、おれは耳まで熱くなった。
「アホっ! 人前で何すんねん!」
肩を押し返そうとしたら、晴海に耳元で囁かれる。
「シゲル、チャンスやぞ。俺に調子あわせてくれ」
真剣な声に、はっとする。――フラグを回避するための、行動なんやな。そういうことやったら、頑張るで。おれは、小さく頷く。
と。
晴海は手を休めずに、会計を鼻で笑う。
「何やあんた。俺のデカブツに興味あんのか? 悪いけど、かわいい彼女専用や」
――どっ……!
晴海の啖呵に、周囲は湧きに湧いた。笑いのドミノ倒しみたいになって、遠くまで「ワハハ」の波が広がっていく。
優姫くんが、「な、なんて奴だ……」と低い声で呟いたんが聞こえた。
「晴海っ」
勇ましい横顔に、おれは胸が震えた。
お前、おれとおんなじ童貞やんか……! せやのに、男泣かせの会計相手に、この啖呵。これぞジャイアントキリング。
男の中の男や……!
「な……てめぇ……」
一方、会計は真っ青になって、ブチ切れとる。たぶん、そんなこと言われたことなかったんちゃう。
「ふざけんな。誰がてめぇなんぞ……!」
「それこそ、誰がてめぇなんぞじゃ。シゲルかて、俺専用や。なー、シゲル」
晴海が、おれにウインクする。よし、わかったで。おれも――!
「そうやで! おれのデカブツかて、晴海のおけつ専用なんやからな!」
おれは、晴海のおけつを両手で掴んだ。次の瞬間、額をチョップされる。
「違うねん!」
「なんでっ」
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